新生
早朝、三森歌月はベッドから目を覚ました。
彼女は目を開けたまま、じっと天井を見つめ、しばらくぼんやりと立ち尽くしていた。
天城由美が亡くなってからすでに七日が経っていた。まだ少し腫れている自分の目をこすりながら、ゆっくりと体を起こした。
あの日、診察室で由美の冷たくなっていく身体を抱きしめた瞬間から、彼女の心には大きな穴が空いたような気がしていた。
この七日間、彼女はほとんど食事を取らず、眠りも浅く、息をするたびにこれまで以上に重苦しさを感じていた。
彼女は頭を下げ、ベッドサイドテーブルに視線を落とした。そこには一枚の集合写真が置かれていた。ショッピングモールのフォトブースで撮った、彼女と由美のものだ。写真の中の天城由美は、彼女が無理やり可愛らしい猫耳ヘッドバンドをかぶせられていた。表情はどこか困ったように見えるけれど、口元には優しい笑みが浮かんでいる。
今、写真の中の人はまだ笑っているのに、自分はもうあの誰よりも親しみ深い「歌月」という呼び声を聞くことはできないのだ。
三森歌月はスマホを手に取った。画面が明るくなり、日付が表示される。今日は休日だ。自分の勤める病院の院長が彼女の事情を聞き、気分転換のために特別に数日の長期休暇を許可してくれたのだ。
そして今日が、その長期休暇の最後の日だった。
三森歌月は無表情のまま立ち上がり、服を着て、軽く薄化粧を施し、髪を適当に整えると、バッグを手に取ってそのまま玄関へと向かった。
通りの両側には、いつの間にか桜が静かに咲き始めていた。
早咲きの花期はすでに過ぎ去り、代わりに華やかな遅咲きの桜が満開になっていた。彼女はもう何度も歩き慣れた道を、いつものように進んでいく。見慣れた交差点を抜け、二人でよく訪れたショッピングモールを迂回し、ついに、彼女たちの半生を彩った病院の前に立った。
聖マーガレット病院。
ここは由美が奮闘した場所であり、彼女が最期の命を捧げた場所、そして彼女との最後の別れを告げた場所でもある。
彼女は病院の入り口に立ち、何度も出入りした自動ガラス扉を見つめ、一瞬足を止めた。七日前の別れはあまりにも急で、あまりにも悲惨だった。
伝えきれなかった言葉がたくさんあった。過去への諦めや、別れの言葉。それらは今、ただ重く胸の中に沈んでいるだけだ。
歌月は深呼吸を一つして、それでも中へと足を踏み入れた。
彼女は慣れた足取りでロビーを通り抜けてナースステーションを迂回し、廊下の突き当たりにある天城由美が生前使っていたオフィスへと向かった。
ドアはわずかに開いていた。
彼女はそっとドアを押した。中は誰もおらず、予想通りひっそりとしていた。机の上にはうっすらと埃が積もっている。
窓辺では、由美が育てていた数本の花が依然として元気に咲き誇っていた。まるで主人の息吹を引き継ぐかのように、陽に向かって生きている。
彼女がぼんやりと立ち尽くしていると、突然外からドアが勢いよく開けられた。
「歌月さん?」緒方花音が清掃道具一式を手に持って驚いた顔で立っていた。「どうしてここに?」
「私は……」三森歌月は我を失っていた様子を隠そうとして、小さな声で答えた。「由美先生に会いに来たの。」
緒方花音は一瞬黙り込み、体を横にずらして歌月を通すと、自分も道具箱を持って部屋に入り、そっとドアを閉めた。
彼女は何も聞かず、ただ小さな掃除道具箱を置き、中から精巧な小さな散水器を取り出して、花々に水をかけ始めた。
その後、彼女は清潔な布を取り出し、水で湿らせて、机の上の薄い埃を丁寧に拭き始めた。
その真剣な姿を見て、三森歌月は思わず尋ねた。「ずっと由美先生のオフィスを掃除してるの?毎日来てるの?」
緒方花音は手を止め、頷いた。「院長に申請しました。毎日一度は片付けに来ています。」
「天城先生のオフィスは、院長が永久保存すると宣言しました。」彼女は俯きながら額縁を拭き続けた。「このまま荒れ果てるのを見ていられませんから。」
緒方花音の真摯な姿を見ているうちに、一週間空っぽだった三森歌月の心に、ふと温もりが戻ってきた。
彼女は気づいた。自分の目頭がほんのり熱くなっていることに。しかし、それはもう以前のように抑えきれない切なさではなく、穏やかな温もりに変わっていた。
彼女は前に出て、緒方花音の道具箱から別の布を取り出し、言った。「一緒に拭くよ。」
「え?でも……」
「二人なら早いし、あなたは患者さんの世話もあるでしょう。」
こうして、同じようにあの人のことを懐かしむ二人の女性は、この小さな診察室で、無言のうちにオフィスの隅々まで掃除を始めた。一人は本棚を拭き、もう一人はカルテを整理する。
ほどなくして、二人の努力によってオフィスは以前の清潔さを取り戻した。埃は払い落とされ、太陽の光が再び机を照らしていた。
帰り際、三森歌月はやはり我慢できず、見慣れた窓辺に立ち尽くした。ここは由美が生前一番好きだった場所だ。
緒方花音がそっと彼女のそばに寄り添い、彼女の視線を追って窓の外を見た。彼女は小さな声で言った。「歌月さん、誰かが言ってたわ。人は誰でも他人の記憶の中に光を残すって。私たちが天城先生を覚えている限り、彼女は決して去っていないのよ。」
この言葉は、宮野鞠子という患者の家族から聞いたものだ。天城先生が亡くなってからの七日間、彼女も三森歌月と同じように放心状態で、仕事さえも手につかなかった。ある日、また天城先生のことを思い出して、病院の廊下で一人泣いていたときのことだ。
宮野鞠子が彼女を見つけ、この言葉を教えてくれた。少女が何を経験したのかは分からないが、彼女もまた何かを失ったのだろうと緒方花音は思った。
三森歌月はそれを聞いて、自分よりずっと若いこの少女に視線を向けた。生死や別れを経験したことで、彼女自身も随分と成長したように感じられた。
歌月はようやくこの七日間で初めて微笑んだ。「そうね。私たちが覚えている限り、彼女はずっとそこにいるわ。」
緒方花音と三森歌月は一緒にオフィスを出た。二人が去った直後、廊下の向こう側から足音が聞こえてきた。
真島美佳子が、新しく入職したばかりの研修医二人を連れて、天城由美のオフィスの前にやってきた。彼女は足を止め、厳かな表情でドアを見つめた。
「ここが、」彼女は好奇心に満ちた顔の二人の研修医に説明した。「天城由美先生のオフィスです。彼女が生前働いていた場所であり、私たち全員への贈り物でもあります。」
「彼女はいつも言っていました。」真島の声には深い懐かしさが滲んでいた。「医者の役割とは、病気を治すことだけではなく、人の心を守ることでもあるのだと。」
真島は師匠である天城由美の思い出を丁寧に語った。奇跡を起こした話もあれば、学生を厳しく指導した話もあった。二人の研修医は一心に耳を傾け、まるで遠い伝説を聞いているようだった。真島が話し終えると、二人の研修医は診察室を畏敬の念で見つめ、憧れの気持ちを抱いた。
真島は彼女たちの輝くような表情を見て、かつて自分も同じように夢に満ちていた時代を垣間見た。
彼女は二人を連れてさらに先へと進み、こう告げた。「将来どんなことがあっても、医者の原点を忘れず、迷わないでほしい。」
二人の研修医は力強く頷き、その信念を心の奥深くに刻み込んだ。
その後、真島は二人を病院のロビーに新しく設置された「天城賞」の展示パネルの前に連れた。今のところパネルは空っぽで、一番上には天城由美先生の写真と略歴が掲示されているだけだ。
「毎年の天城賞は、『医者の心』という四文字を本当に理解した医者に授与されます。」真島は説明した。
一人の研修医が空っぽのパネルを見て不思議そうに尋ねた。「では、この賞はいつから授与されるんですか?」
真島はパネルに貼られた師匠の写真を見つめながら言った。「毎年の天城賞は、天城先生の誕生日から選考が始まります。」
二人の研修医は未来の受賞者のために空いているスペースを見つめ、まるで自分の写真がそこに掲示されるのを想像しているようだった。
真島は二人の期待に気づき、こう言った。「この場所は、もしかしたらあなたたちの誰かのものになるかもしれない。でも忘れないでほしい。栄誉は終わりではなく、受け継ぐための始まりなのだから。」
二人の研修医は互いに微笑み合い、同時に口を開いた。「はい、頑張ります。」
「それは良かった。」真島は安堵の笑みを浮かべ、天城由美の写真を見つめながら心の中でつぶやいた。「天城先生、あなたの功績がまた二人の若い医者を励ましましたよ。」
真島はそう言うと、二人の若い芽を連れて次の場所へと向かった。
受け継ぎは、すでに静かに始まっていた。
三森歌月は病院を出て、東京の上野公園へと向かった。
ここでは桜が満開だった。早咲きの花期は完全に過ぎ去り、遅咲きの桜が静かに咲き始め、早咲きよりもさらに華やかに広がっていた。ピンクと白の花びらが暖かな春風に揺られ、まるでピンク色の海のようだ。
三森歌月は顔を上げ、空を覆うほどの花の海を見つめた。彼女はゆっくりとポケットから、天城由美と撮った写真を取り出した。
「由美、見て。また桜が咲いたわ。」三森歌月は写真に向かって言った。
写真の中の天城由美は相変わらず優しい笑顔で、まるで彼女のささやきに応えているようだった。
風が吹き、歌月の手の中の薄い写真をそっと持ち上げた。三森歌月がうまく掴み損ねると、写真は風に乗って遠くへと飛んでいった。
「あ!」
写真は風に舞い、くるくると回りながら、やがて花見を楽しむ若い夫婦の足元に静かに落ちた。
その妊婦の夫が腰をかがめて写真を拾い上げ、写っている顔を見た瞬間、思わず小さくつぶやいた。「あれ?これ、天城先生の写真じゃないですか?」
三森歌月が急いで近づき、慌てて言った。「すみません、私の写真です。」
その夫婦は写真を見て、悲しげな表情を浮かべた女性を見つめ、すぐに気づいた。写真の中で天城由美の隣にいるのが、まさに目の前の女性だということを。彼らは優しく写真を彼女に返した。
「天城先生のご友人ですか?」妊娠中の妻が静かに尋ねた。
「ええ。」三森歌月は写真をそっと撫で、慎重にポケットにしまった。「彼女は私にとって最も大切な人でもありました。」
「あなたたちも由美さんをご存知ですか?」三森歌月が尋ねた。
「私たちは病院の入り口で天城先生と出会いました。」夫の谷村智也が振り返った。「当時、お腹の子供を産むかどうか悩んでいたんです。いくつかの理由があって、とても迷っていました。」
「そのとき、」妻の小野友里が続けた。「天城先生が通りかかって、私たちを丁寧に説得してくれました。命の意味は感じることと期待することだと教えてくれて、この子を必ず連れて世界を見せてあげるべきだと。彼女の言葉で、私たちは親になる決意を固めました。」
三森歌月は話を聞きながら、目頭がじんわりと赤くなった。
「由美はいつもそうでした。どんな小さな命も、どんな弱い命も、すべてを宝物のように優しく見つめていました。なのに、彼女自身は……」三森歌月は少し声を詰まらせ、それ以上は言いたくないようだった。
感情が高まると、そのカップルも思わず悲しみに包まれた。
妻の小野友里はすでに大きく膨らんだお腹をそっと撫でながら、小さな声で言った。「天城先生は言いました。新しい命は未来の光だと。その希望を信じることを教えてくれました。」
「だから、」彼女は夫と顔を見合わせて微笑みながら言った。「智也と私は、この子の名前を谷村由美にしようと決めました。」
三森歌月は一瞬、言葉を失った。
小野友里は微笑みながら続けた。「性別はまだ分かりませんが、なんとなく女の子で、健康で優しい子になるような気がしています。天城先生の優しさと慈愛を受け継いで、彼女のように他の人を照らせる子になってほしいです。」
谷村智也も傍らで力強く頷いた。「天城先生のような人になってほしいです。」
三森歌月は小野友里が育む新しい命の腹部を見つめ、とうとう涙がこぼれた。しかし、口元にはかすかな微笑みが浮かんでいた。
「由美はきっと喜ぶでしょうね。」
「あの、」小野友里は三森歌月の手を引いて誘った。「私たちは毎年ここに桜を見に来ます。そのうち子供も連れてきます。ぜひあなたも一緒に、桜が咲く季節に彼女を偲んでください。」
「もちろんです。楽しみにしています。」
その後、谷村智也と小野友里は三森歌月に別れを告げ、ゆっくりと桜並木の奥へと消えていった。再び春風が吹き、桜の花びらがさらさらと舞い落ち、まるで優しい雨が降っているようだった。
三森歌月は二人の遠ざかる背中を見つめ、そして遥か彼方に広がる花の雨を見つめた。そのピンクと白の光の中に、彼女は多年後に自分が同じ桜の木の下で、親友を想いながら佇んでいる姿を幻のように見ていた。
そのとき、遠くから元気に駆け寄ってくる小さな女の子がいた。彼女は三森歌月の前に駆け寄り、顔を上げて、かわいらしい声で言った。
「お姉ちゃん、こんにちは。谷村由美って言うの。」
その子の笑顔は春の水のように澄んでいて、そのぱっちりとした瞳は、写真の中の天城由美と驚くほど似ていた。
三森歌月はそれが由美ではないことを知っていた。
でも、本当に由美ではないのだろうか?




