急救
手術実験室は明かりに満たされ、緊張感が張り詰めていた。
天城由美は再び真島美佳子の努力の成果を検査していたが、やがて最も重要な段階へと差し掛かった。
ところが、プレッシャーが大きすぎたのか、あるいは自分を証明したくて焦っていたのか――真島は高精度な操作中に、絶対にしてはならないミスを犯してしまった。
天城由美の視線が瞬く間に冷たく凍りつき、彼女はこの種の過ちは重大な医療事故につながりかねないことを悟った。
するとAIも鋭い警報音を発し、「患者の生命徴候に異常が認められます! ただちに操作を中止してください!」と告げた。
天城由美は傍らへ歩み寄り、停止ボタンを押す。すると実体投影装置はたちまち電源を落とし、手術室は一気に暗転した。
「こんなミス、いったい何度やらせるつもりなの?」天城由美は必死で感情を抑えようとしたが、その声にはなお、極限まで抑えた怒りと失望が滲んでいた。
真島は確かに念入りに準備してきたと言っていたのに、その出来は前回よりもさらに悪かったのだ。
「ごめんなさい! 天城先生! 本当にわざとじゃないんです! ごめんなさい……」真島の目から涙が一気にこぼれ落ち、慌てて深々と頭を下げる。
「今さら謝ってどうするのよ!」天城由美はもう我慢できず、できそこないの弟子を前に、胸の中の苛立ちが一気に爆発した。
「手術台に出るのは結果だけよ! あなたの手がつながっているのは、生きた人間の命なのよ! ミスをしたら患者さんにどんなことが待ち構えているか分かってる? そんなの謝れば済む話じゃないの!」彼女は真島の前に立つと、大きな声で叱りつけた。「またこんな愚かなミスをしたら、あなたを私の弟子とは認めないわ!」その言葉は刃のように真島の心の防壁をことごとく打ち砕き、夢だった天城先生のもっとも誇れる弟子になるという希望も、自らの手で引き裂かれてしまった。
「私……私は……」真島は嗚咽しながら何かを言い訳しようとしたが、あまりの重圧と屈辱に耐えきれず、泣きながら実験室を飛び出し、廊下の先へ消えていった。
天城由美は去っていく背中を見送り、手術台にもたれて荒い息をつき、胸を激しく上下させた。彼女自身もかつて同じ過ちを犯したことがある。あのとき、周囲からの称賛に酔いしれて手術中にミスをし、患者の生命徴候が低下。一歩間違えば大惨事になりかねなかったのだ。
緊急処置によって何とか命は取り留めたものの、その経験は天城由美にとって拭い去れない悪夢となった。以来、どの手術に対しても、彼女はほとんど厳格ともいえる基準で己を律してきた。だからこそ、真島を責めているように見えて、実は昔の慎重さに欠けた自分自身を戒めているようなものだった。
気持ちが少し落ち着くと、天城由美は病院の廊下に立ち、真島の姿をあちこちで探した。本当は真島美嘉子という弟子のことは心から大切に思っていて、決して意地悪をしているわけではない。ただ、かつての自分の轍を踏ませたくないだけなのだ。
先ほど真島と口論したとき、鋭い言葉が思わず口を突いて出てしまったが、言い終えた途端に言い過ぎたことに気づき、今は悔しさで胸がいっぱいだった。
そのとき、看護師長が急ぎ足でやって来て呼び止めた。「天城先生! 緊急手術がありますので、すぐにご参加ください! 患者の状態が非常に深刻です。すぐ私と一緒にF区上層の手術室へお越しください!」
天城由美は捜索の足をぴたりと止め、人の命を救うことは一刻を争うと心得ていたため、二の句を継ぐまもなく看護師長に続いて急いで救急ホールへ向かった。
看護師長は天城由美を手術室へと急がせながら、負傷者の状況を手短に説明した。「患者様の名は緒方花音さん。重度の交通事故に遭われました。」
「緒方花音」という名を耳にして、天城由美の表情が一瞬で変わった。自分が聞き間違えたのかとさえ思ったほどだ。
「患者さんは、緒方花音さんですか?」彼女はもう一度確かめた。
「はい、当院の実習看護師、緒方花音さんです。全身多発骨折で出血量も多く、失血性ショックを起こしています。さらに頭部への強い衝撃により、頭蓋内損傷も合併しており、現在は非常に危険な状態です。」
「まさか、本当に緒方花音さんなのか」と天城由美は思った。
あの優しく穏やかで、いつも笑顔で挨拶してくれた緒方花音。あと数日もすれば実習を終え、晴れて正規の看護師として働き始めるはずだったのに、今では交通事故に遭い、生死の境をさまよっている。
天城由美は突然足を止め、何かを考え込むように見えた。
看護師長がその異変に気づき、慌てて尋ねた。「どうされましたか?」
「緊急医療チームを即時召集しなさい!」天城由美は命じた。
緊急医療チームとは、聖マーガレット病院特設の組織で、難治例の救急対応を専門に担う。メンバーは二班編成で、院内最高峰の医師や看護師など医療人材が揃い、両班とも天城由美と院長が直接選抜。二十四時間待機体制を維持するために交代勤務を行っている。
看護師長は一瞬戸惑ったが、すぐに反応し、通信機器を通じて特別医療チームの招集を始めた。
天城由美は緒方花音の状況が一刻を争うことをよく理解しており、さっき真島に対して抱いた申し訳ない気持ちも、今はひとまず脇へ追いやった。
ほどなくして特別医療チームのメンバーは迅速に集合し、天城由美は彼らを率いて急いで上方手術室へと向かった。道中、看護師長から伝えられた傷病状をもとに、彼女は手術計画を次々と練り上げていく。緒方花音は全身の複数箇所に骨折を抱え、内臓にも深刻な損傷を負っている。この手術の難易度は想像に難くない。
F区上層の手術室に到着すると、天城由美は準備室で素早く無菌手術衣に身を変え、手袋をはめて、術前の準備を万全に整えた。
すべての準備を終えると、彼女は手術台の前に立ち、早速執刀を開始した。一つひとつの動作が正確で切れ味よく、特別医療チームのメンバーも彼女にきっちりと連携する。
手術室内では医師たちが一分一秒を争いながら緒方花音の救命に全力を尽くしていた。一方、手術室外では青木紗綾が焦燥感にかられ、熱くなった鉄板の上で躍り跳ねる蟻のように落ち着かず、手術の結果を切望していた。
彼女は胸に手を当てて十字を切り、心の中でひたすら神に祈り、何度も何度も緒方花音が無事でいてくれること、一刻も早く自分のそばに戻ってきてくれることを願った。
しかし、一分ごとの待ち時間はまるで拷問のようで、彼女は祈りのペースをどんどん速めることで、ただならぬ不安に駆られる心をなんとか落ち着かせようとした。
彼女のいとこの都竹美緒が病院へ駆けつけ、焦りに焦った紗綾の姿をひと目見て、そっと近づいた。紗綾が誰かが来たのに気づき、顔を上げると都竹美緒が見えた。途端に頼れる存在を見つけたかのように、彼女は勢いよく美緒の腕の中に飛び込み、涙交じりにしどろもどろに訴えた。「いとこ、私の友達が、あの子が……」
言葉を最後まで言い切る前に彼女は嗚咽が止まらず、もう何も言えず、ただひたすらの啜り泣きだけが響いた。
「紗綾、焦らないで」と都竹美緒は紗綾の背中を優しく撫で、穏やかに慰めた。
紗綾の気持ちが少し落ち着くのを見計らい、美緒は続けた。「現場には行ってきたわ――あのトラック、花音さんにぶつかる前に一度ブレーキをかけていて、それで横転したのよ。だから最初の衝突速度はそれほど高くないし、医師たちが全力で治療してくれるから、花音さんはきっと大丈夫よ。」
「じゃあ運転手は? 見つかったの?」青木紗綾が尋ねた。
「不思議なことに、運転手はまだ見つかっていないの。罪を恐れて逃走した可能性もあるから、警察がすでに調査を進めているわ。」
「ワンワン!」
澄んだ犬の鳴き声が聞こえ、黒い小さな犬が廊下の角からひょいと現れ、尻尾を高く振り立てて、一直線に紗綾の足元へ駆け寄ってきた。
「黒ちゃん、どうして来たの?」
「その子、現場で君の隣にいた犬じゃない? どうしてここにいるの?」都竹美緒が尋ねた。
「この子、途中で出会ったの。花音を見つけるのを助けてくれたのよ。黒ちゃんって私が名付けたの。」
自分の名を聞いて、黒ちゃんは顔を上げ、尻尾を楽しそうに振った。青木紗綾はすかさず彼を抱き上げると、黒ちゃんは舌で紗綾の頬をぺろりと舐め、ちょっとくすぐったい感じがした。
「まあまあ、黒ちゃん、ふざけないで」
都竹美緒は、紗綾と黒ちゃんが仲よく遊んでいる様子を見て、ようやく胸を撫でおろした。彼女は紗綾に向き直って言った。「紗綾、あなたはここで黒ちゃんと待っていてね。私はもう一度事故現場を確認しに行かなくちゃ。あのトラックの走行経路がどうもおかしい気がしてならないの。あとでまた戻ってくるから」
「わかった、いとこ、先に行ってね」と青木紗綾は、いとこの几帳面な仕事ぶりをよく知っていたので、快く承諾した。黒ちゃんも都竹美緒に向かって小さく二度吠え、別れを告げた。
都竹美緒は立ち上がって病院の玄関へ向かい、ほんの数歩進んだところで振り返り、優しい声で念を押した。「心配しないで、緒方花音は必ず無事に君の元へ戻ってくるわ。今回の手術の執刀医は天才医師の天城由美よ。安心して、きっと成功するから。」
ところが、手術の進行は順調ではなかった。緒方花音の心臓が突然異常なリズムを刻み始め、モニター上の各種指標が一気に低下していく。
天城由美は眉をひそめ、冷静に「ただちに緊急処置を施しなさい」と命じた。
チームメンバーは素早く動き出し、手術室には一気に緊迫感が漂った。
天城由美は一分一秒を争いながら緊急処置に取り組むが、懸命に力を尽くしても、モニターに映る緒方花音の心電図はますます微弱になっていくばかりだった。
「このままでは、彼女は死んでしまう……」不安な思いが天城由美の頭の中を駆け巡った。いつも憧れの眼差しでこちらを見つめていたあの小さな看護師が、果たして自分の目の前で命を落とすことになってしまうのだろうか。
天城由美は必死で気持ちを落ち着かせようとし、歯を食いしばって低く告げた。「もう、あの方法しかないわ。」
この手術法は、よほどの非常事態でなければ決して使わない秘策だ。なぜなら、操作の難易度が極めて高いだけでなく、潜在的なリスクも非常に大きいからである。しかし、まさに生死を分けるこの局面では、もはやほかに選択肢がなかった。
天城由美は素早く気持ちを切り替え、一心不乱に手術に臨んだ。手術台上では、ひとつひとつの器具を正確に操り、動作は果断で落ち着いている。時が止まったかのように、手術室には器械が触れ合うかすかな音と、医療スタッフの緊張した呼吸だけが響いていた。
手術の進行は予想以上に困難を極め、一つひとつの工程が挑戦の連続だったが、天城由美は決して諦めず、着実に手術を一歩ずつ進め続けた。
ついに緊急処置が終わった。天城由美は疲労に顔をゆがめながら身を起こし、緒方花音の様子をじっと見据えて反応を観察し始めた。
モニター上の心電図は相変わらず微弱で、数回脈打ったあと、やがて一本の直線へと変わり、冷たい線が一つの命の終わりを告げるように見えた。天城由美の手が緩み、メスが床に落ちて澄んだ音を立てた。彼女は呆然と立ち尽くし、頭の中が真っ白になった。
緒方花音は、本当に亡くなってしまったのだろうか?
天城由美が絶望に沈んでいるそのとき、ふいに傍らの看護師が心電図を指さし、興奮気味に叫んだ。「見て!」
天城由美ははっと我に返り、急いでモニターへ目をやった。すると、静止していたはずの心電図に、生命の鼓動を示す線がわずかに震え始め、眠っていた心臓が再び目覚めているではないか。やがてその波動はますます鮮明になり、心電図は再び脈打ちはじめた!
天城由美の手術は成功した! 緒方花音は見事に蘇生したのだ!
とはいえ、まだ祝う暇はない。天城由美は余裕なく気持ちを切り替え、速やかに医療チームを指揮して後続の作業へと移った。




