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虚界少女  作者: sara
虚界呼唤
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黄印

梨子の案内のおかげで、遠山凛は教学楼の場所を無事見つけた。途中は決して順調とは言えなかったが、それでもどうにかたどり着いたのだ。


補足登録だったので、彼女は直接学部の担任教師のいる事務室へ手続きに向かわなければならなかった。


案内板に従い、教学楼の三階にあるその部屋を見つける。


そっとドアをノックすると、中からは何の音も返ってこない。遠山凛は静かに取っ手を回してみたが、鍵はかかっていなかった。


「お邪魔します……」


遠山凛は扉をそっと開け、慎重に声をかける。


ドアを開けて中へ入ると、室内は明るく、すべてがすっきりと整えられていた。窓際のソファには一人の少女が座っている。


その少女を一目見た瞬間、遠山凛の息が止まりそうになった。


彼女は驚くほどの美貌の持ち主だった。漆黒の長い髪が腰まで流れ落ち、肌は透き通るように白く、顔立ちひとつひとつがまるで精巧な彫刻のように整っている。


学校の黒い制服を身にまとい、ただ静かに座る姿は、どこか世間から隔絶されたような美しさを湛えていた。


遠山凛は彼女だと気づいた。昨日出会ったあの少女だ。あのときは背中しか見えず、正面の顔は見られなかったが、それでも後ろ姿だけで胸が高鳴ったほどだった。今、目の前のその顔はあまりにも美しく、凛は一瞬、言葉を失ってしまう。


ぼんやりしている間に、少女が口を開いた。


「何か用?」


たった数文字なのに、遠山凛には周囲の空気がぐっと冷えたように感じられた。


彼女を見上げると、瞳は淡々としていて、まるでこの世界の何もかもがどうでもいいといった様子だった。その冷たい視線と凍るような口調は、遠山凛の心に“孤独な北極星”というラベルを貼り付けた。輝いているけれど、遠くて近づけない――そんな印象を抱かせる存在だった。


「あの……私……」


ようやく勇気を振り絞って、遠山凛は口を開いた。


「あら、二人とももう来てくれたのね。」


背後から、眼鏡をかけた優しそうな若い女性教師が入ってきた。彼女は二人に向かって言った。


「こんにちは、山内順子です。山内先生と呼んでくださいね。」


山内先生は机の後ろに座り、二人の基本情報を確認し始める。


「遠山凛さん、体育特待生。体調不良で登録の期限を過ぎてしまいましたね。そして蕭珊雅さん、文学部。こちらも個人的な事情で数日遅れての到着です。」


遠山凛はそこで初めて、この氷の美女の名が蕭珊雅であることを知った。


個人情報保護のため、山内先生が蕭珊雅の情報をチェックしている間、遠山凛は外で待機することにした。


山内先生が情報を確認する間も、蕭珊雅は表情を変えず、顔には一切の感情が読み取れない。先生の質問に対しても、短い返答だけを繰り返していた。


「では次は遠山凛さんです。」


山内先生が蕭珊雅の基本情報を素早く終えると、外に待つ遠山凛に声をかけた。


「はい!」


遠山凛は即座に答え、ドアを開けて室内へ戻る。一方、蕭珊雅は扉のそばへ移動した。


ほどなくして山内先生も遠山凛の情報を確認し終え、扉のそばに立つ蕭珊雅を中に招き入れた。


「ところで最近、市内で原因不明の失踪事件が相次いでいます。夜間や人通りの少ない場所での発生が多いので、二人とも身の安全には十分気をつけてください。できれば人里離れた場所へは一人で行かないようにしましょう。」


山内先生は真剣な表情でこう続けた。


「蕭珊雅さん、あなたの元担任だった若山先生も、謎の失踪事件に巻き込まれてしまったのです。だから今日は私が代わりに登録手続きをしますね。」


「わかりました。私の住まいは学校からとても近く、自分でしっかりやっていきます。」


蕭珊雅が答えると、遠山凛もすぐに続いた。


「私の住まいも学校からほど近いですし、自分自身で気をつけて過ごします。」


「それでは、これで言うべきことはすべて終わりました。」


山内先生は立ち上がり、扉の方へ視線を向けた。


「慣例により、先輩がキャンパスを案内してくれるのですが、今日の担当はこの子です。」


ほどなくして、穏やかな笑顔と上品な雰囲気を漂わせるロングヘアの先輩が部屋へ入ってきた。


「山内先生、お二方、こんにちは。私は湾内梨子と申します。キャンパスの案内役を務めさせていただきます。」


湾内先輩の声は春風のように柔らかく、隣に立つ冷たい蕭珊雅とは対照的だった。


先輩は入ってくるなり遠山凛に気づき、すぐさま彼女の前に立って微笑んだ。


「こんにちは、可愛い後輩さん。さっき話した通り、また会えたわね。」


「こんにちは、先輩!また会えたんですね!」


長らく蕭珊雅の冷たい空気に圧倒されていた遠山凛にとって、湾内先輩の春の陽のような温もりはまさに救いだった。初対面の緊張さえ、たちどころに消し飛ばしてくれたのだ。


「湾内さん、こちらが遠山凛、こちらが蕭珊雅です。二人のキャンパス案内をお願いします。この件はあなたに任せますね。」


「了解です!これから二人を連れてキャンパス巡りを始めますよ。お二人、私のあとについてきてくださいね。出発進行です!」


湾内梨子はまるで旗を振るような仕草をして、一気に観光ガイドの気分に切り替えた。


熱意あふれる湾内先輩の案内のもと、三人はキャンパス散策の旅に出発した。


「この学校は明治時代に創立された、百年以上の歴史を持つんですよ。まずは校史館へご案内します。そこには貴重な歴史資料がたくさんありますから……」


先輩はすでに見学ルートをしっかりと計画しており、道中では各建物や名所を丁寧に紹介しながら、時折楽しいエピソードも交えてくれる。


遠山凛は歩きながら、隣の蕭珊雅をちらりと見やる。彼女は相変わらず淡々とした表情で、湾内の解説にもほとんど簡単な返事しかしなかった。


「もしかして、何か悩みがあるのかしら?」


遠山凛は思った。


そのとき、一行は遠山凛が迷ってしまった西洋建築の前へ差し掛かっていた。


「ここなら、凛さんもよくご存じでしょう?だって、私たちが初めて出会った場所ですもの。」


湾内先輩はそう言って遠山凛の手を引くと、頭を少し傾けてウインクをした。その突然の仕草に遠山凛は少しばかり戸惑い、さらに親しげに名前を呼ぶ先輩の言葉に、頬がぱっと赤らむ。


遠山凛の反応を見て満足げに手を下ろすと、湾内先輩は続けた。


「ここは本校の象徴的な建物で、百人近く収容できる大講堂がありますよ……」


遠山凛は気持ちを落ち着かせ、再び先輩の説明に耳を傾ける。


そのとき、彼女ははっとなった。


右手の掌に、いつの間にか奇妙な模様が浮かび上がっていたのだ。色は薄い黄色で、半透明の質感をしている。


「これは何だろう……?」


遠山凛は驚きながら自分の掌を見つめた。間違いなく、以前はこんなものはなかったはずだ。もしかして、さっき触れた変な植物でも付いたのだろうか?


「どうしたの、凛さん?」


湾内先輩が異変に気づき、心配そうに尋ねた。


「先輩、ちょっとトイレに行ってきます……」


遠山凛は思わず口走った。


「あら、トイレならすぐそばよ。」


湾内先輩は洗面所の方を指し示した。


洗面所へ行き、遠山凛は蛇口をひねって石鹸で掌を一生懸命こすった。しかし、どんなに力を入れても、その奇妙な模様はびくともしない。


「いったい、これはどういうことなの?」


がっかりしながら洗面所を出て、先輩の元へ戻った。


「随分かかったわね?」


湾内先輩が笑いながら尋ねた。


「先輩……」


遠山凛は掌を広げて見せた。


「この模様、どうやっても落ちないんです。すごく不思議なんですよ。」


湾内先輩は顔を近づけてじっくりと観察したが、首を傾げて答えた。


「模様?どこに模様があるの?凛さん、あなたの掌はきれいよ。何もついていないわ。」


「何もついていない?そんなわけないのに……」


「きっと、ここは景色が美しすぎて、可愛い凛さんがちょっと夢見心地になっちゃったのね。」


湾内先輩は遠山凛をフォローするように笑いながら言い、そのまま隣の蕭珊雅へ視線を向けた。


ずっと無関心に佇んでいた蕭珊雅は、凛の掌の模様を目にして、瞳をぎゅっと引き締めた。そして小さな声で呟いた。


「どうやら、彼女も『虚界の少女』のひとりみたいね。」


遠山凛は蕭珊雅の言葉を聞き取れなかったが、次の湾内先輩の一言が彼女の思考を遮った。


「さて、凛さんは体育特待生だから、次は体育館を見に行きましょう。蕭さん、他に見学したいところがないのなら、先に帰ってもらっても構いませんよ。」


蕭珊雅は黙ってうなずき、相変わらず冷ややかな表情のまま、軽く会釈をしてから一人で去っていった。


最新設備を備えた体育館を見学した後、遠山凛は先輩に別れを告げた。


このときすでに夕方で、太陽はもうすぐ西に沈みそうだった。彼女はバッグを背負い、ゆっくりと校門へ向かい、家に帰る準備をしていた。


校門に差し掛かったとき、遠山凛は思いがけず、見覚えのある姿を見つけた。


蕭珊雅だ。


彼女はまだ帰らず、校門のそばに静かに立っていた。


遠山凛は少し驚いた。誰かを待っているのだろうか?


「こんにちは、蕭珊雅さん。誰かを待っているんですか?」


遠山凛は探るように問いかけた。


「あなたを待っていたのよ。」


蕭珊雅が口を開いたが、その口調は相変わらず冷たかった。


「私を待っていたって?じゃあ、一緒に帰るつもりですか?」


遠山凛の胸はほんの少し温まったが、次の蕭珊雅の言葉に、またぞっと寒気が走った。


「あなたと一緒に帰るためじゃないわ。殺しに来たのよ。」


蕭珊雅は平然とした表情で、冷徹な言葉を吐き捨てた。

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