處刑
鞠子が再び目を覚ますと、すでに病室のベッドの上に横たわっていた。ベッドのそばでは優子が看護師さんと一緒に、心配そうな表情で待っている。鞠子が目を覚ましたのを見て、優子は思わず彼女を抱きしめ、涙交じりの声で言った。「お姉ちゃん! あなたが病院に運ばれていくのを見ちゃったのよ! 昨日体を無理しちゃったんじゃない? もし何かあったら、私どうしたらいいのよ! 誰が最新号の『怪盗少女クロエ』を持ってきてくれるの!」
それを聞いて、鞠子は胸が温かくなり、優子をそっと抱き返して慰めた。「大丈夫よ、バカね。お姉ちゃん、これからもずっとマンガを持ってきてあげるから。」
「お姉ちゃん、頭になんか変な角が生えてるよ?」と優子が不思議そうに尋ねた。
「これ……」
鞠子はどう答えればいいのか迷っていると、そこにメガネをかけた主治医が入ってきて、状況を説明した。「宮野さん、前回の頭部打撲の後遺症で倒れてしまったようです。頭に生えているこの角状のものは、頭蓋骨内部で異変が起こり、それが皮膚を突き破って成長したものだと考えられます。これまで世界中で類似の症例が報告されていない上、無理に引き抜こうとすると脳出血のリスクが非常に高いため、当面は入院して経過観察を続けることをお勧めします。」
「お姉ちゃん、今なら可愛いユニコーンみたいだね」と優子は、鞠子を少しでも安心させようと、わざと子どもらしい言葉で茶化した。
しかし鞠子の胸の中は晴れない。美空を殺し、遠山凛にも蕭珊雅にも次々と殺意を抱いてしまった自分――もう心は人を喰う怪物へと変わってしまったのだろう。だからこそ、こんな奇妙な角が生えてしまったのだ。
優子は鞠子が反応しないのを見て、さらに近づき、両手で自分のあどけない顔を支えながら言った。「お姉ちゃん! じゃあ今から私たちは病院仲間だね! すごい嬉しい! これから毎日遊びに来られるよ! お姉ちゃんと一緒にしたいこと、話したいこと、いっぱいあるんだから!」
世間知らずの妹の笑顔を見つめながら、鞠子は優子の頭を撫でて、苦笑いを浮かべた。「あなたったら、病気になるのは決して良いことじゃないのよ。お姉ちゃん、勉強もしなくちゃいけないのに。」
「でも、お姉ちゃんには一緒にいてほしいんだもん!」と優子はぷっくりと唇を尖らせた。
「それでは、優子さん、面会時間は終わりましたよ。さあ、急いで病室に戻りましょう」と看護師さんが優子の手を引いた。
優子は看護師さんを見、また鞠子を見やり、まだ帰りたくないとでもいうような切なげな眼差しを向けた。
「優子、言ったでしょう? 自分の体をしっかり大事にして、医師や看護師さんの指示にきちんと従うことよ」と鞠子は少し顔を真剣にして優子に注意した。
「わかった、お姉ちゃん」と言って、優子は名残惜しそうにベッドを離れ、看護師さんに支えられながら病室を出ていった。
時刻は昼近くになり、鞠子は病室のベッドに横たわっていた。頭には厚い包帯が巻かれ、奇妙な角をしっかりと覆っている。
手には一冊のマンガ本。これは優子が鞠子に貸してくれたもので、一人で退屈しないようにと持ってきてくれたのだ。表紙にはすでに深い折りジワがつき、何度も繰り返しめくられた跡が見て取れる。
鞠子は今、一心にそのマンガを読みふけっていた。進学のためにこれまでマンガなど読んだことがなかった彼女にとって、これは初めての試みだった。
ほどなくしてマンガは読み終え、鞠子は少し物足りなさを感じていた。
「続きの展開はどうなってるんだろう?」
「宮野さんですか?」と病室のドアの向こうから声が聞こえた。鞠子がそちらを見ると、そこにはメイド服を身にまとった背の高い女性が立っていた。白いショートヘア、片方の瞳は深紅、もう片方は青い。
右手には傘を差し、左手にはバッグを提げている。
「病院の室内なのに、なぜ傘を差しているのだろう?」と鞠子は内心首を傾げつつ、それでも彼女を招き入れた。
メイドは言われるままに入ろうとし、まず左手のバッグを床に置き、入りやすいよう右手の傘を少し閉じてから、中に入ってすぐに傘を広げ直し、床のバッグを手にして鞠子のベッドのそばへとやって来た。
鞠子は、そのメイドの傘の先端がずっと太陽の方を向いていることに気づいた。
「暑いんですか? ここ、クーラーが効いてないとか?」
「いえ、私の肌はとても弱くて、長時間日光に当たると火傷してしまうんです」とメイドは答えた。
鞠子が彼女の肌を眺めてみると、雪のように白く、しかも瑞々しく、まさに吹けば飛ぶような可憐さだった。
メイドはバッグから数冊のライトノベルを取り出し、鞠子のベッドサイドテーブルの上にそっと並べた。
「これは……?」と鞠子が問うと、「こちらはコロティア様からのお持ち物です。入院されたと聞いて、ぜひお届けくださるようにと私に仰せつかったのです」とメイドは表情一つ変えず、ただ命令を果たすかのように答えた。
「コロティア様? それは誰ですか?」
「本をお渡ししましたので、失礼いたします、宮野さん」とメイドは鞠子の質問には答えず、軽く一礼して鞠子の部屋を去っていった。
「本当に変わった方だわ」と鞠子は思った。
とはいえ、この学校で友達はほとんどいない。少し縁があると言えるのは遠山凛、蕭珊雅、そしてついさっき知り合った原田曈くらいだ。彼女を殴った女生徒たちの話では、原田曈は洋館に住むお嬢さまらしい。もしかすると、ライトノベルを届けてくれたのも、今知り合ったばかりの原田曈なのかもしれない。それに、メイドを雇えるのは彼女の家くらいだろう。
鞠子はそのライトノベルを手に取り、ぱらぱらとめくってみた。作品のテーマは多彩で、表紙には精緻なイラストが描かれ、鞠子は思わず見入ってしまった。
「ライトノベルって、こんな感じなんだ……」と鞠子はつぶやいた。大学の文学部を目指すため、これまで一度も触れたことのなかったジャンルだが、今となっては独特の魅力を感じていた。
「宮野さん、活動の時間ですよ」と看護師が鞠子のそばに来て、外に出て運動するよう促した。しかし鞠子は夢中で読んでいて、その声が耳に入らない。
「宮野さん?」と看護師がもう一度呼びかけると、ようやく我に返った鞠子は本を閉じ、少し照れたように笑って言った。「ごめんなさい、気がつかなくて。」
「大丈夫ですよ。私の発音がちょっと標準的じゃなくて、聞き取りにくかったのかもしれません」と看護師は東南アジア出身で、もともと日本語の発音が少し曖昧だったため、気にしていなかった。
鞠子はライトノベルを丁寧に枕元に置き、看護師に続いて病室を出た。
看護師の付き添いのもと、鞠子は病院の地下にある庭園へと移動し、散策を始めた。花が咲き誇る花壇のそばで、看護師は鞠子を隣のベンチへと導き、「宮野さん、ここで少し休憩しましょう。日光をたくさん浴びるのは体にいいんですよ」と言った。
鞠子と看護師は花壇のベンチに腰掛け、看護師は鞠子の腕をそっと抱き、もしめまいがして再び倒れてもすぐに引き起こせるよう、細心の注意を払っていた。
そのとき、看護師は鞠子の右手に巻かれた時計に目を留めた。ガラスの文字盤は割れ、針も止まったままになっている。
「宮野さん、この時計、倒れたときに壊れてしまったんですか?」と看護師が心配そうに尋ねた。
「これは友人のものなんです。彼女が行方不明になって、これが唯一の形見なんです」と鞠子は小さく答えたが、どこか避けているような響きがあった。
看護師は鞠子の様子に違和感を覚え、友人の失踪に心を痛めているのかもしれないと察した。彼女は鞠子の背中を優しく撫でながら言った。「不明失踪事件のことですね、宮野さん?」
鞠子は黙ってうなずき、看護師は鞠子の右手をそっと握り、壊れた時計を見つめながら続けた。「友人の失踪は確かに忘れられない出来事ですが、いつまでも過去にとらわれていては明日へと進めません。私たちにできるのは、思いを胸に抱きつつ、前に進み続けることだけかもしれませんね。」
「いつかこの時計を修理して、新しい未来を贈ってあげてください」と看護師は鞠子に微笑みかけ、その顔には温かな光が満ちていた。
鞠子の胸は静かに揺さぶられた。彼女は壊れたクォーツ時計を眺め、何かを思うように考えていた。看護師は自分を慰めてくれているのだと理解していたが、実は自分が友人を死に追いやった張本人であること、王から呪いの黄印を授かり、美空と互いに殺し合いをして彼女を亡くしたこと――そんな現実を知れば、どれほど生き延びたいと願っても、もう時間は限られている。王の試練は失敗し、黄印も残りわずか、命は今日という日に尽きてしまうのかもしれない。
突然、あたりが静まり返った。鞠子が周囲を見やると、看護師も遠くで散歩していた患者たちも、すべて透明な存在へと姿を変えている。鞠子は悟った。自分は虚界へと引き込まれてしまったのだ。
天空からは、紫髪の女性の嘆きの声が響いた。
「残念だわ、私の可愛い鞠子。王があなたに与えた最後のチャンスも、結局つかみ損ねてしまったのね。お姉さんはあなたが大好きだけど、仕方なく自らの手で処刑することになるわ」
言い終わると、虚界の空に巨大な裂け目が現れ、中から全身が白く、頭に黒い鋭い角を生やした恐ろしい怪物がゆっくりと這い出してきた。
鞠子はこのような奇怪な生物を目にしたことはなかった。彼女は庭のベンチから転げ落ち、ゆっくりと後方に下がっていく。一方で怪物は着実に迫り、蝕刻の姫は背中の触手を鋭い棘へと変えて、瞬時に鞠子めがけて襲いかかる。鞠子は一回転してその攻撃を回避した。
王から授かった短剣を抜き、最後の抵抗を試みるが、怪物の前ではその力はあまりにも微々たるものにすぎない。蝕刻の姫の一撃で短剣は弾き飛ばされ、彼女は地面に激しく打ち付けられて眩暈に襲われ、頭部打撲の後遺症が再発した。なんとか体を起こそうとするが、めまいのせいでまた倒れてしまう。
絶望的なそのとき、病院への再診に向かっていた遠山凛の手の甲にある印が突如輝き始めた! 指示の光線が病院へと伸びていく。遠山凛は急ぎ足で病院へと走り出した。
光線は彼女を病院裏手の路地へと導き、印が裂け目を開けると、遠山凛は迷うことなく飛び込んだ!
一方、近くの商店街にあるカフェでは、優雅に紅茶を飲んでいた蕭珊雅の手の甲の印も同時に光り出した! 蕭珊雅はカップを置き、くるりと振り返って店を出た。
カフェの数十メートル先、角を曲がって路地へと入った彼女は、古びた魔法の書をとり出した。「お手伝いしてちょうだい」と呟くと、魔法の書は彼女の周りで高速回転を始め、五秒後には彼女の姿がその場から消えてしまった。
ちょうどそのころ、アルバイトに向かっていた原田曈が路地のそばを通りかかり、蕭珊雅が消えた場所を見つけた。空気がわずかに歪み、やがてまた静けさに戻った。
「おかしいな? 魔法の気配が漂ってるぞ」と原田曈は不思議そうに辺りを見渡した。
虚界では、蝕刻の姫が二本の触手を伸ばし、鞠子をがっちりと絡めとり、そのうち一本を鋭い棘へと変えて、心臓を貫こうと狙っている!
鞠子は恐怖に震え、全身から冷や汗が噴き出す。しかしもう何をしても無駄だ。ただ目を閉じて、自らの処刑を受け入れるしかない。
そのとき、天空から途方もない巨大な氷のハンマーが落下し、蝕刻の姫を正確に地中へと叩き落とした! 鞠子は衝撃波で空中へと跳ね飛ばされた。
遠くでは、蕭珊雅の姿が立ち尽くし、裂け目から這い出てくる怪物を憎しみに満ちた眼差しで睨んでいる。彼女は蝕刻の姫のような怪物には、一切の躊躇なく牙を剥くのだ。
鞠子の身体は空中で無力に舞い上がり、遠山凛がすばやく駆けつけ、自らの体で彼女を受け止め、聖剣を地面に突き立てて緩衝し、地面に深い溝を刻んだ。
「宮野さん! どうしてこんなところにいるの?」と遠山凛は腕の中の人を見て、驚きの声を上げた。
「私は……私は……」と虚界の空間に現れた遠山凛と蕭珊雅を目にして、鞠子は一瞬、何を言えばいいのかわからなくなった。
そのとき、鞠子の掌から金色の砂がサラリとこぼれ落ちた。遠山凛が慌てて彼女の右手を見ると、黄色い印はもう消えかけているのが明らかだった。




