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虚界少女  作者: sara
虚界呼唤
23/102

昏厥

医務室では、三原楓が鞠子の頭に巻かれた包帯を慎重にほどき、綿棒にヨードチンキを含ませて傷口を消毒していた。


ヨードチンキが傷に触れるたびに軽い痛みが走り、鞠子の意識も少しずつはっきりとし始めた。


「そうか、あなたが昨日、風紀委員の如月観鈴さんが報告書に書いていた、校外で暴力事件に遭った被害者なのね」 三原楓は消毒をしながら、静かにそう口にし、その声には深い同情が滲んでいた。「この傷も、あの子たちがつけたものでしょう?安心して。今の学校は校内暴力に対してゼロ・トレランスよ。手を上げたあの女生徒には、必ず厳重な処分を下すし、一緒にいたほかの二人の女生徒にも、警告と教育が行われるわ」


鞠子は俯いたまま、一言も発しなかった。美空の尊厳を守るためだからこそ、あの女生徒たちと衝突したのだということは自分自身が一番よくわかっていた。けれども、その美空を死なせてしまったのはほかでもない、自分自身だった。


「さあ、傷の消毒は終わったわ」三原楓は処置を終えると、眉をひそめた。「でも、まだ傷の中にある硬いものが何なのかわからないの。安全のために、できれば時間を見つけて病院でCT検査を受けた方がいいわね」


「わかりました、先生」と、鞠子は曖昧に答えた。


三原楓は鞠子が落としたキャップを拾い上げると、そっと鞠子の頭にかぶせてやり、親しげに少し帽の縁を押さえて傷口を隠してくれた。「これで大丈夫よ。もう帰っていいわ」


鞠子は頷き、立ち上がろうとした。


「あ、そうそう」と、三原楓が彼女を呼び止めて、にっこりと笑った。「あなたの怪我をしている友達にも、私のご挨拶をお伝えしておいてね」


鞠子は小さくうなずいたが、顔が急に赤くなった。あの黄色い印を隠すために咄嗟についた嘘を、三原楓は本当に信じてくれたのだ。


彼女は三原先生の心配そうな瞳をまともに見ることができず、ただ俯いたまま、足早に医務室を後にした。


「本当に馬鹿な子だわ……」鞠子が去った後、三原楓はその背中を見送りながら、微笑みながら言った。


宮野鞠子は三原楓の医務室をあとにした。時計を見ると、もう朝の一限が始まる寸前だ。急いで授業に向かわなければならない。


そのとき、突然チャイムが鳴り響き、鞠子は自分がまた遅刻してしまったことに気づいた。彼女はあえて歩みを緩め、教室へと続く廊下を進むと、焦げ茶色の髪の女生徒を見つけた。どうやら遅刻しているのは自分だけではなかったらしい。鞠子は仲間を見つけたような気持ちで、そっと近づいた。


「あなたも遅刻したの?」焦げ茶色の髪の女生徒が鞠子に声をかけた。


「ええ、ちょっといろいろあって」と、鞠子が答えた。


「じゃあ、一緒に行こうか。私、原田曈っていうの。よろしくね」


「宮野鞠子です。よろしくお願いします」


二人の少女が教室の後ろの扉までたどり着いたとき、竹内先生はすでに授業を始めており、教室内には彼女の講義の声が響き渡っていた。黒板にチョークが走る音が絶え間なく聞こえ、竹内先生は完全に授業に没頭しており、生徒たちも皆真剣にノートを取っている。教室のどこにも、後ろの出入り口の様子は気づかれていなかった。


二人の少女はチャンスとばかりに身をかがめ、そっと教室の後方へと移動した。後ろの方の席には、一人の女生徒の隣に二つの空席があり、そこに座っていたのは蕭珊雅だった。彼女の拒絶的な雰囲気のおかげで、他人は誰も彼女の隣には座ろうとしないのだろう。だが、この二つの空席こそ、鞠子と原田曈にとってまさに理想的な場所だった。


「私たち、まるで心の怪盗団みたいだね」と、原田曈が笑った。


「私はロビン・フッドくらいしか知らないけど」と、鞠子が応えた。


宮野鞠子は漫画もゲームもあまり見ないらしいと知り、原田曈は苦笑いを浮かべた。


やがて二人の少女は蕭珊雅の隣の席に到着し、タイミングを見計らってそっと腰を下ろした。ちょうどノートを取っていた蕭珊雅は、その物音に思わず驚き、筆記中の文字がうっかり曲がってしまった。隣を見やると、そこには原田曈と宮野鞠子の姿があった。


彼女たちはいつの間にか自分のそばに来ていたのだ。


“二人とも!”蕭珊雅は少し怒ったように言った。


「シーッ!」鞠子と曈は即座に静かにするジェスチャーをして、蕭珊雅に黙るよう合図を送った。蕭珊雅は仕方なく渋々従い、再びノートを取ることに集中した。


授業はさらに進み、やがてクラスでの対話の時間がやって来た。竹内先生が指名して質問に答えるよう促す。


「それでは、この問題は、全学年トップの成績で本校に入学した蕭珊雅さんにお答えいただきましょう」


先生の言葉が終わると同時に、クラス全員の視線が一斉に蕭珊雅に注がれた。


蕭珊雅は立ち上がり、この問題など彼女にとっては朝飯前だ。すでに頭の中に入りきっている。ところが、いざ口を開こうとした瞬間、突然の窒息感が襲ってきた!


彼女の喘息が、何の前触れもなく発作を起こしたのだ!その窒息感は、見えない手で喉を締め付けられているかのようなものだった。胸を軽く叩いてみても何の効果もなく、濃い血の匂いが鼻腔を襲い、彼女は慌てて口を手で覆い、授業中に血を吐かないよう必死に耐えた。


彼女は何も言わず、クラスメイトたちの視線を背に、足早に教室を出て行った。


「蕭珊雅さん!」竹内先生が去っていく蕭珊雅に声をかけた。


宮野鞠子はすぐさま立ち上がり、蕭珊雅の消えた方向へと追いかけるように駆け出した。「先生、私が様子を見てきます!」と叫んだ。


「お願いね!」


鞠子は足早に教室を出て行き、廊下には蕭珊雅の荒い息遣いと抑えた咳が響いていた。


彼女はその音を頼りに廊下の端にある女子トイレへとたどり着き、洗面台の脇で大きく息を切らしている蕭珊雅を見つけた。彼女の顔色は血の気を失い、呼吸は荒く重く、全身から力が抜けきって、今にも倒れてしまいそうなほど弱々しかった。


鞠子は彼女の背後に立ち、胸の奥では悲しみと憐れみが込み上げる一方で、目つきは鋭く引き締まった。今は授業の真っ最中、トイレには誰もいない。しかも蕭珊雅は今の状態では、まったく抵抗する力もない。


自分はこの機会に、王から与えられた試練を完遂できるはずだ!


そんな考えが頭をよぎった途端、彼女の手には冷たい光を放つ匕首が握られていた。どうやらこれは「王」が彼女に力を貸している証だ。


鞠子は匕首を握りしめ、足音を忍ばせて静かに蕭珊雅の背後に近づいていった。その姿は、まるで暗殺任務に就いた忍者のようだった。


彼女が無防備な蕭珊雅の背中に匕首を振り下ろそうとした瞬間、額に鋭い激痛が走った!温かい液体が一滴、清潔なタイルの床にポトリと落ちた。


血だ。


鞠子が頭に手をやると、そこには何か突起がある。以前の黒い硬い物体が皮膚を突き破って再び出血したのだ。どうやらこの硬い異物は、殺意が強まれば強まるほど、ますます隆起していくらしい。


その直後、激しい眩暈と吐き気が全身を襲った!目の前が真っ暗になり、世界がぐるぐると回り出す。きっと、先日不良の女生徒たちに頭を殴られたときの後遺症に違いない!


「ガチャン!」


鞍上耐えきれず、鞠子の手から匕首が滑り落ち、澄んだ音を立てて床に転がった。王の力によって生まれたその刃は、地面に触れた瞬間、まるで『西遊記』に登場する鎮元子の“土に埋めるとすぐに消えてしまう人参果”のように、跡形もなく消え去った。


蕭珊雅は背後の物音に気づき、不快感を押し殺して振り返った。すると、宮野鞠子が両目を閉じたまま、床にぐったりと倒れているのが見えた。


彼女は唇を拭い、急いで鞠子のそばへと駆け寄り、そっと体を揺らした。


“おい!大丈夫?おい!”


そのころ、原田瞳もトイレに到着していた。


“蕭珊雅さん、彼女どうしちゃったんですか?”


“わからないわ。振り向いたら、もうこんなふうになってたの”


“きっと、前の頭を打ったときの後遺症が出たのね」と、蕭珊雅はかなり落ち着きを取り戻し、冷静に言った。


“私が彼女を医務室まで運んであげるわ。蕭珊雅さんは先に戻ってちょうだいね”原田瞳はそう言うと、素早く鞠子を背負い、医務室へと急いだ。


医務室では、三原楓が生徒たちへのフォローアップチェックに備え、カルテを整理していた。彼女はカルテ棚から宮野鞠子のカルテを取り上げた。


“宮野さんは、病院で検査を受けたのかしら?”三原楓はカルテを前に呟いた。


「バタン!」医務室のドアが勢いよく開き、三原楓が振り返ると、一人の女生徒がもう一人の女生徒を背負って飛び込んできた。よく見ると、それは先ほど心配していた宮野鞠子だった。


“宮野さん!またどうしたの?”三原楓は心配そうに尋ねた。


“突然倒れちゃったから、連れてきたの”


“早く寝かせて!”


三原楓は原田瞳の背後から鞠子を抱え上げ、医務室のベッドに安置した。


“ありがとう、原田さん。あとは私に任せて。早く授業に戻ってね”


“わかりました、三原先生にお任せします!”原田瞳はそう言って、医務室を後にした。


三原楓は鞠子のベッドに戻ると、宮野鞠子の頭に一本の角が生えているのに気づいた。以前の検査で見つかった硬い異物が、なぜか今では角へと変わってしまっていたのだ。


三原楓はその角にそっと触れて言った。「おかしいわね。前回調べたときはこんな角はなかったのに。もしかして、宮野さんが突然倒れたのって、これと関係あるのかしら?」


この奇妙な症状をこれまで見たことがなかったため、三原楓自身も安易な判断は避け、急いで病院に連絡して対応を依頼した。


病院の救急外来では、医療スタッフが鞠子を担架に乗せ、緊急で検査室へと運んでいた。その頃、宮野優子は定期健診を終え、看護師に支えられて病室へと向かっていた。彼女はふと、数人の医療スタッフが一人の女生徒を救急室へと急いで運んでいるのを見た。よく見ると、それは自分の姉である宮野鞠子だった。


“お姉ちゃん!あれ、うちのお姉ちゃんよ!どうしちゃったの?昨日、私と一緒にいてくれたせいで、体を疲れさせちゃったんじゃないの!”優子の感情は一気に高ぶり、昨夜、無理やり姉を泊まらせたことへの罪悪感が湧き上がった。


彼女は看護師の手を振り払い、姉のいる方へと駆け出そうとしたが、看護師にしっかりとつかまれた。「優子、あなたはまだ体が弱いのよ。興奮しちゃダメ。医療スタッフが治療を終えるのを待って、その後でお姉ちゃんを見舞いましょう、いい?」優子は心ならずも、看護師の言葉に納得した。姉がいちばん気にしているのは自分の体調なのだから、これ以上心配をかけるわけにはいかない。


感極まった涙をぬぐい、看護師に支えられながら、病室へと向かった。

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