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虚界少女  作者: sara
虚界呼唤
12/102

鞠子

教室では、朝の自習が始まったばかり。


遠山凜と蕭珊雅の担任が、それぞれ二人の少女を連れて教壇へ上がり、遅れてやって来た新しい仲間をクラス全員に紹介した。


二人は黒板の下に自分の名前を書き上げた。遠山凜の文字は可愛らしい丸ゴシック体、一方の蕭珊雅は美しい書道風の筆跡で、まさに文学少女らしい雰囲気が漂っていた。


名前を書き終えると、二人のいる教室にはたちまち小さなざわめきが広がった。クラスメイトたちは興味津々の視線で彼女たちをじっと見つめる。遠山凜は小柄で愛らしく、笑顔には田舎娘らしい素朴さと照れくささが混じっていて、なんだかとても親しみやすい。


「わあ、遠山凜って言うんだね。すごく可愛いし、字も人柄と同じくらいキュートだな!」


「まるで可愛い子猫みたい! ぜひ友達になりたいな!」


凜のクラスの皆はこの可憐な少女に強い印象を抱き、その様子に凜の頬も少し赤くなった。


一方、蕭珊雅のクラスではまた違った光景が広がっていた。彼女の絶世の美貌は誰の目も引きつけたが、ただそこから放たれる冷ややかな気配が、なかなか近づくのをためらわせるのだ。


「彼女、蕭珊雅っていうのかな。めっちゃ美人だけど、なんかすごく冷たい感じ……」


「あの字、中国の書家・王羲之の『蘭亭序』を真似てるんじゃない? あの作品、中国じゃ天下第一の行書って言われてるし、しかも彼女、この学校にトップの成績で合格したんだってさ。」


「そんなすごい子、きっと付き合いにくいよね……」


クラスメイトたちのそんな会話を聞きながらも、蕭珊雅は無表情のまま教壇のそばに立っていた。


「えーっと……」二人の担任が同時に咳払いをすると、教室は一瞬で静まり返った。


「それでは朝の自習を始めます。新入生のみなさんは空いている席を見つけて座ってください。学級委員は前に出て監督をお願いします。」


「はい、先生。」と言葉を交わすと、二人の担任は教室を出ていった。遠山凜は教壇の下へ向かい、空いている席を探し始める。すると元気な女子たちが「遠山さん、ここよ!」と手招きしてくれた。そして凜はそのままその輪の中へと引き込まれていった。


蕭珊雅のクラスでも、何人かの生徒が彼女に近づこうとしたが、拒むような独特のオーラに阻まれて、誰も声をかけられずにいた。蕭珊雅は教壇の下の生徒たちをひと通り眺めると、教室には空席がたくさんあることに気づいた。彼女は以前、山内先生から謎の失踪事件について聞いたことがあり、その一件には生徒たちも巻き込まれているらしい。


最後に彼女は前方の窓際の隅の席を見つけ、一人で腰を下ろして本を読み始めた。


朝の自習が終わると短い休み時間になり、すぐに元気な女子たちが遠山凜の周りに集まって来た。


「遠山さん、どこから来たの?」


「スポーツ特待生なの? どんな種目でこの学校に入学したの?」


「その髪留め、すごくかわいいね。どこで買ったの?」などなど。


クラスメイトたちの質問に、遠山凜は少し戸惑いながらも、ひとつひとつ丁寧に答え、そのたびに真心のこもった優しい笑顔を見せた。


「遠山さん、笑うと本当に可愛いね!」その言葉を聞いて、遠山凜の胸は思わず張り、口を開いた。「そうかな。私、母さんが私の笑顔が大好きだって言ってくれるの。昔はよく笑って見せたんだけど、母さんは『どんなことがあっても、あなたの笑顔を見れば気持ちが明るくなる』って言ってくれたの。」


笑顔の女の子は運もいい――それは母が遠山凜に残してくれた大切な言葉だった。そして思い出の中の母の笑顔は、陽だまりのように明るく熱くて、誰の心の中の暗い雲も一瞬で吹き飛ばしてしまうような力があった。もしかしたら、その笑顔こそが母が遠山凜に贈った、いちばん大切な宝物なのかもしれない。


蕭珊雅のクラスでも、彼女に話しかけようとする生徒はいたが、どれもことごとく相手にされなかった。蕭珊雅は話しかけてくる女子生徒たちに短く返事をするだけで、またすぐに本に目を落としてしまった。彼女は人と多く話すのが好きではなく、意味のない挨拶に時間を費やすのも嫌いなので、ほどなくして誰も彼女を邪魔する者はいなくなった。


蕭珊雅はそれを察して席を立ち、まずはトイレへ行き、その後また教室に戻ることにした。


「そういえば、遠山さん」と、ちょっと大胆な女子生徒がふいに尋ねた。「好きな人、いるの?」、「喜…好きな…人?」、「つまり、一緒に遊んだり、お買い物に行ったり、好きなことを一緒にしたりする人のことよ。」そのあまりにも率直な問いに、遠山凜は一瞬言葉に詰まり、頬がぱっと赤くなった。けれども、頭の中にはどうしても蕭珊雅の清冽で気高い横顔が浮かんでしまう。


ちょうどそのとき、蕭珊雅が遠山凜の教室の前を通りかかり、その質問を耳にして、なぜか足が止まってしまった。


「遠山さん、顔が真っ赤だよ。やっぱり気になる人がいるんだね。この学校の人?」遠山凜が小さくうなずくと、蕭珊雅はその様子を見て、ふと何かを思い出した。遠山凜のような反応、どこかで見たことがあるような気がする。


つい先日、キャンパスで湾内先輩が遠山凜の手をそっと握って、「初めての出会い」なんて楽しそうに話していた姿――それに今朝のあのなんとも言えない仕草……同じようにどもり、同じように頬が紅潮している。


もしかして、凜が思い浮かべているのは、あの先輩?


「誰か教えてくれる?」、「そ…その…」遠山凜は少し口ごもった。


「まあまあ、みんな、もうすぐ授業よ。いつまでも追及しないで。一限は体育だから、グラウンドに集合よ。」遠山凜の困った様子に気づいた一人の少女が、まるで救い船のように、凜を取り囲む女子たちに声をかけた。


その少女の名は如月観鈴。黒縁の眼鏡に長い三つ編み、学校の風紀委員であり、遠山凜のクラスの学級委員でもある。


如月観鈴は両手を腰に当て、厳しく数人の女子生徒を睨みつけた。彼女たちも不満げだったが、観鈴の腕に巻かれた「風紀委員」のバッジを見ると、渋々引き下がるしかなかった。


「えー、どうしてそんなこと言うの。」


「行こう、授業に行くよ。」とぶつくさ言いながらも、遠山凜の周りに集まっていた女子たちは次々と教室を去っていった。


「ごめんね、あの子たち、学校で有名な“伝言係”なの。もし秘密を知られたら、翌日には校内の猫も犬もみんな知ってるわよ。」如月観鈴は去っていく女子たちの背中を見送りながら言った。


そのとき、授業の開始ベルが鳴り響いた。


如月観鈴は遠山凜の肩を軽く叩いて言った。「遠山さん、私たちもグラウンドに行きましょう。行きましょう。」そう言うと、観鈴は遠山凜とともに教室の後ろの扉から外へ出て、一直線にグラウンドへ向かった。遠山凜の背中を見送りながら、蕭珊雅の胸の奥がなぜかじんわりと痛んだ。


この感覚はどこから来るのだろう? なぜ「好きな人」と聞くだけで、彼女は鋭い痛みを感じてしまうのか? 彼女と遠山凜には、いったいどんな過去があるのだろう?


蕭珊雅は首を振って、その得体のしれない感情を振り払おうとした。こんなことは気にする必要はない。遠山凜が誰を好きになろうと、自分にはまったく関係のないことだ。


遠山凜が去ったあと、蕭珊雅はひとりで教室に戻り、最前列の席に腰を下ろした。


そのとき、教室の裏口からひそやかに、ちょっと変わった雰囲気の女子生徒が入ってきた。制服姿にキャップを被っている彼女は、屋外では強い日差しを避けるためにキャップをかぶっていたのに、室内に入っても帽子を取らず、さらに深くかぶり直して、目の前の準備をする蕭珊雅をじっと見つめていた。


教室に入ると、音を立てないようにそっと席を探して腰を下ろしたが、視線は依然として蕭珊雅から離れない。まるで見つかってしまうのを恐れているかのようだ。


席に着くと、彼女は胸元をそっと撫でながら、ゆっくりと言った。「よかった。まだ気づかれていないみたい。」


蕭珊雅のクラスの最初の授業は国語で、先生が教室に入って朝の授業を始めた……


午前の授業は長く退屈で、あっという間に昼食の時間になった。


遠山凜は午前のトレーニングを終え、朝に作ったお弁当を取り出して、蕭珊雅を探しに出かけることにした。彼女は知りたかった。自分と蕭珊雅の間に、いったいどんなことがあったのか? なぜ「好きな人」と聞くだけで、蕭珊雅の顔が勝手に頭に浮かんでしまうのか?


一番確実な方法は、蕭珊雅とできるだけ触れ合うこと。そうすれば、一緒に過ごすうちに、記憶の断片が少しずつ蘇ってくるかもしれない。


「今はお昼だし、蕭珊雅も食堂で食べてるはず。確か先輩が食堂の場所を……」スマホのメモアプリを開き、湾内先輩が教えてくれた情報を頼りに、食堂の場所を探した。


キャンパスの並木道には、学生たちが三々五々歩いている。遠山凜は食堂へ向かう途中、時折湾内先輩のメモを確認しながら進路を確かめた。ところが、ある角を曲がったとき、前方を歩く女子生徒に気づかず、二人は勢いよくぶつかってしまった。


「きゃっ!」遠山凜は突然転んでしまい、手に持っていたお弁当箱が弾け飛び、蓋が跳ねて、中身の精巧な料理が地面に散らばってしまった。


「あっ! ご…ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」衝突した女子生徒はようやく我に返り、床に散らばった料理を見て青ざめ、慌ててしゃがみ込んでバッグからビニール袋を取り出し、手際よく床の掃除を始めた。


彼女はかなり憔悴していて、薄い隈取りのある瞳はぼんやりと焦点を失い、心の中には深い悩みを抱えているようだった。右手には割れた腕時計をはめており、針はすでに止まっていて、時刻は十二時四十五分のままだった。


「同学、大丈夫?」遠山凜は彼女の狼狽ぶりを見て、思わず声をかけた。「何か困ったことでもあるの?」しかし、彼女は答えず、ただ黙って床の料理をきれいに片付け、ポケットから財布を取り出して一千円を遠山凜に差し出した。「本当にごめんなさい、お弁当を倒してしまって……これで食堂で何か買って食べて。残りはお詫びのつもりよ。」


「まあ、そんな……」遠山凜は急いで断ろうとしたが、その隙を逃さず、彼女は紙幣を遠山凜の制服のポケットにねじ込み、料理の入ったビニール袋を近くの生ごみ用のゴミ箱へポンと捨てると、何かから逃げるように俯きながら急ぎ足で立ち去ってしまった。


遠山凜は彼女の遠ざかる背中を見つめながら、ポケットに入れた千円をじっと眺めた。すると突然、目に鋭い光が射し込み、遠山凜がその方向へ目を向けると、地面に輝く徽章が一つ落ちていた。


遠山凜が拾い上げると、一面には「宮野鞠子」と刻まれ、もう一方には「宮野優子」という名前と、二つのQ版のアニメキャラクターが描かれている。


これは間違いなく、あの女子生徒が落としたものだ。


「彼女、宮野鞠子っていうのかな? それとも宮野優子?」遠山凜は彼女が去っていった方角を見つめながら、ゆっくりとつぶやいた。


街は真夏の太陽が照りつけ、一日で最も活気があり、熱気あふれる正午。宮野鞠子は街を走り抜けていた。頭のキャップと汗で濡れた服が、肌にじっとりとした粘つきをもたらしている。


しかし彼女はそんなことには構わず、バッグの中には妹の大好きな漫画の一冊が入っている。妹の宮野優子は難病を患い、長期にわたって病院で経過観察と治療を受けている。高額な医療費に家族は喘ぐ日々で、両親は手術費用を工面するために昼夜を問わず働き続けている。


鞠子は妹を思うあまり、時間さえあれば病院へ駆けつけては、外のニュースや大好きな漫画を届けている。だが受験勉強の忙しさゆえに、いつも妹のそばにいるわけにはいかない。優子も賢い子で、姉の勉強が最優先だとわかっているから、泣いたり騒いたりせず、鞠子の試験が終わるのをじっと待っている。鞠子は優子に約束した。「大学に合格できたら、毎日会いに来るよ」と。


その約束を果たすため、彼女はこの女子校を選んだ。優子の入院する病院まで車でわずか十分ほどの距離で、見舞いにもとても便利なのだ。


やがて彼女は一本の道路に差し掛かり、向かい側には優子のいる病院が見える。鞠子は横断歩道の端に立ち、信号の色をじっと見つめた。


やがて赤信号が青に変わり、しかし鞠子は動かない。横断歩道の脇でキョロキョロとあたりを見回し、何かを探しているような、あるいは何かを恐れているような様子だ。


青信号が点滅し始めると、時間がもうほとんどないと告げる。鞠子は胸をポンと叩いて自分を励まし、そのまま足を踏み出して横断歩道を渡り切った。


横断歩道を越えたあと、振り返って自分が今渡ったばかりの道路を眺めると、ようやく心が落ち着いた。


「よかった、また変な出来事に遭遇しなくて。」

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