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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第三部

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26 四柱の女神

 小さな孤児院では子供たちが目を輝かせて紙芝居を見つめていた。

 今日は人気の絵本『こぐま騎士』シリーズの新作が届けられた。しかもみんなで楽しめる紙芝居もついてくる。


「えー、こほん」


 事前に練習した先生は紙芝居を始めた。

 こぐま騎士ジジとお転婆姫ルカの冒険活劇は今回も絶好調。子供たちは楽しく笑っていた。


 シリーズは今回で6冊目である。

 はてさて噂の絵本作家さんは今は何をしているのやら。


 ゴーヴァン公爵領、中央都市モーガンの屋敷にて今は息子と過ごしていた。夫のクリスは今は仕事中で不在である。


「お母様!」


 今年8歳になるノエルは図書館を覗きこんだ。

 父譲りの容姿ですぐにクリスの子とわかる。

 太陽のように輝く黄金の髪、空の瞳。何よりも整った顔立ち、将来美しい殿方に成長することだろう。


「あら、ノエル」


 はしごを使い3冊を腕に持ちながらヴィヴィアは振り返った。


「何をやっているんですか!」


 大慌てでシエルが図書館に駆けつけた。

 1年前に正式に騎士となりノエルの護衛騎士となっていた。


「わわ、奥様。本くらい俺に言ってもいいのに」

「これくらいどうってことないわ」


 とんとんとはしごを降りるヴィヴィアにヴィクター卿は手を添えた。


「ヴィクター卿! あなたがいるならあなたが取ればいいでしょ?」

「そうは言いますが奥様は頑固ですから。大丈夫です。いざとなれば受け止めますから」


 いざとなられたら困るのだけど……


 頼もしいやら危なっかしいやら不安になる。


「もう、ケイトが産休に入ってなければこんなことはないのに」


 ノエルは頭をかかえた。

 ケイトの次に頼りになるノエル=アンジェはカリバー王立学園で授業を受けている。

 ノエル=アンジェは土魔術を使える為、薬草栽培と汚染土についての勉強をしていた。薬草栽培は薬草士のスキルアップの為、汚染土に感じては故郷のノートン復興に役立てるためである。

 だいぶあそこも土地が改善されてきている。先日届いたお茶もおいしかった。ヴィヴィアはふふと笑った。


「お母様」


 ノエルはじととヴィヴィアを睨んだ。ヴィヴィアはびくと震えた。


「お母様は今どういう状況ですか」

「えーと、妊婦さんです」


 ヴィヴィアは目を泳がせながら答えた。

 まだお腹は膨らんでいないものの1週間前に判明した。


「そうです! 今は色々気を遣わなければならないというのに」


 ノエルはぶちぶちと説教をする。

 10歳にも満たない子供だというのになかなかの迫力である。


「ね、ノエル。そんなに怒らないで。ほら、こんなにいい天気だわ。これはお庭でサンドイッチを食べるいい日取りだわ」


 ヴィヴィアは窓を見てノエルにお膳立てする。

 ノエルは母と外でサンドイッチを食べるのが好きなのだ。


「もう、こぐま騎士の宝島を朗読してください」


 自分で絵本を読めるようになっていたが、ノエルは母に絵本を読んでもらうのも好きだった。


「もちろんよ。さぁ、行きましょう」


 ヴィヴィアは手を差し伸べ、ノエルは唇を尖らせながらも手を握った。


 ◆◆◆


 夕暮れにはクリスが帰還した。

 1ヶ月の任務で不在だったが、ようやく帰ってきてヴィヴィアは安堵した。


 クリスはこの1ヶ月、メドラウトの案内で妖精の湖に行っていた。

 四柱の女神が生まれ、毒の魔女が生まれた湖へ。


 目的は二つの竜杯の処分である。

 奇跡を起こし願いを叶える竜杯は、同時に人の心を歪ませる。悪竜復活の原因になるかもしれない。

 人々の手に余るという判断だった。


 処分に反対したのは先代王と、一部の臣下たちである。歴史には残らないものの――黒い竜杯で幾度と国の危機を乗り超えた実績があり、手放すのは惜しいと考えていた。

 だが、その黒い竜杯の利用を重ねていき、コンスタン公爵家の血筋に悪竜の器が生まれたのも事実だ。もしかするとウルリカ王妃の精神不調も黒い竜杯の気が影響していたのではないかという専門家の意見もある。



 これからの時代、竜杯は必要ない。

 それで国が滅ぶならば、受け入れるべきだろう。

 当に滅んでいた国だったのだから。


 リチャード王の命令でクリスは二つの竜杯を妖精の湖に送り届けた。

 二つの竜杯が湖に落ちて沈んでいく。


 湖の底でゆらゆらと動くものを見た。それが人の手のように見えて、二つの竜杯を抱えて奥へと消えていった。


「大地の神が受け取ったわ」


 女の声がして顔を上げると四人の美女が並んでいた。すぐに四柱の女神だと気づいた。


 黄金の髪に空の瞳を持つ太陽の女神ソル。

 黒髪に紫の瞳を持つ雨の女神レイン。

 銀髪に赤の瞳を持つ風の女神ウィンディ。

 亜麻色の髪にエメラルドの瞳を持つ土の女神エアリア。


 特に土の女神に目を奪われた。

 面差しがヴィヴィアに似ていたからだろう。


「竜杯は大地の中に溶け込み、消えていきます。二度と人の手に渡ることはありません」

「再び求めることは許されません」


 クリスはこくりと頷いた。それを望んで竜杯を湖に捧げたのだ。


「大地の神が悪竜の呪いで汚染されたロトの地を癒すことを約束してくれました」


 時間はかかるが、100年後には人が生活しやすい環境が戻るだろう。

 大地の神は末の娘だった毒の魔女を心配していた。毒の魔女が大賢者を優先して自分の子を守り、その子供がクリスを選んだ。

 今まで傍観していたが、父の責任として竜杯の処分とロト地方の浄化を引き受けることを決めた。娘と孫へのせめてものはなむけとして。


「神々の慈悲に感謝します」


 クリスは頭を下げた。


「ほら! 良い男でしょ。私が特別な加護を与えたルヴァンにそっくり! 私の見立ては間違いではないわ」


 太陽の女神はひそひそ話を始めた。


「そう? 回帰前の話を聞いたら悪竜の術中にハマったおまぬけさんじゃない」


 批判的な意見を述べるのは風の女神。

 それにむっとする太陽の女神。


「あんたは見ていただけじゃない。さすがにあれは初見殺しよ。黒い竜杯の回帰なんて私たちでも感知出来なかったわ。それに、クリスはちゃんと自分のしてきたことから逃げなかったわ」


 睨み合うニ柱の神。見かねた雨の女神が二人をなだめた。


「まぁまぁ、リリアの子が選んだなら仕方ないでしょう。ちなみに私はルネをおすすめしたかったけど、あの子はこの男しか見てないから諦めたわ。リリアに似て頑固だし」

「ちょっと、それ初耳だけど。あ、だから雷獣を送りつけたりメドラウトを連れ回したり手厚いなと思ったらそんなことを企んでいたのね」


 むむと太陽の女神が乗り出す。だんだんひそひそ話は大きくなりクリスたちに聞こえる。


 土の女神は無表情でクリスを見つめた。睨みつけているようにも見えた。


「クリス・ゴーヴァン」


 彼女の口が開いた。ピンと空気が張り詰めていくのを感じた。


「浮気したら次こそお前の領地を枯れ果てさせます」


 それは娘を送り出す父の威厳にも見えてクリスは思わず笑った。


「それはありません」


 今度こそ守り抜く、大事にする。


 そう誓ったのだ。それを聞いて四柱の女神は満足して微笑み姿を消していく。

 雨の女神がちらっとメドラウトを見ていたように思うが、クリスは気づかなかった。


 帰還後にクリスから話を聞いてヴィヴィアは苦笑いした。

 女神様て結構ちかしい感じなのね。

 それはヴィヴィアが、リリアの娘だからだろう。


「それであなたは妊娠中だというのに高いところに登って、重いものを運んだと」


 話は女神からヴィヴィアの近況に移る。

 まずいとヴィヴィアは慌てて話題をそらす。


「それどころか夜遅くまで勉強して仕事もして絵本の続きを書いて……確かメイドの報告では夜2時はまだまだ灯りがついていたとか」


 ノエルが外堀を埋めていく。

 ヴィヴィアが不摂生をすればノエルは怒るが、自分の怒りでは効果ないと判断したらクリスに情報共有してしまう。

 回帰前のことで色々距離があると言っていたのにこういう時は協力関係を作るなんてずるい。


 ヴィヴィアは涙目でノエルを見つめた。ノエルはつんと横を向いた。


「ああ、僕はもう寝ないといけない時間だ。おやすみ、お父様、お母様」


 棒読みでノエルはそそくさと部屋から出ていく。

 残されたヴィヴィア、静かな笑みをたたえるクリス。


「さて、私たちも眠る時間ですね」


 クリスはヴィヴィアを抱き上げて奥の寝台へと歩く。


「待って、あなた。あと少しで絵本のオチを考えられるの」

「今日は私の久々の帰宅ですよ。私を優先してください」


 寝台で横たわらせてクリスはヴィヴィアの頬を撫でる。

 何年たっても美しいクリスの顔にどきどきしてしまう。

 30歳代になりますます大人の色気を漂わせてヴィヴィアの心臓に悪い。

 こんな状態で寝れるわけ――寝た。


 相変わらずクリスがそばにいると暖かくてぽかぽかして安心してしまう。

 ヴィヴィアの寝顔を見つめてクリスは目を細めた。


「おやすみ、ヴィヴィア」


 額にキスを落としてクリスも眠りに入る。

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