四月二十二日(土・4)。正しくおもちを焼きましょう。
「………?」
なんだろう。詩乃梨さんの様子が、少しおかしい気がする。
詩乃梨さんは、こちらから十歩分ほど離れた位置にある、休憩所の入り口に立っていた。よほど急いで戻ってきてくれたのか、軽く息を切らして肩を上下させている。
はっはっと乱れた呼吸音が聞こえそう。だが、聞こえない。周囲の騒音が酷いからでもあるけど、何より、詩乃梨さんが一向にこちらへ近付いてこようとしないのが原因だ。
詩乃梨さんは、立ち尽くしていた。ただただ、こちらを眺め続けるのみ。
彼女の顔に浮かぶ表情には、特に何の感情も見出すことができない。
「琥太郎くん? どうしたの? 足でもつった?」
俺は自分でも気付かないうちに全身を硬直させていたらしく、綾音さんが心配げにこちらを覗き込んできた。
綾音さんの陰が俺の顔に落ちる。その時、俺の視線の先で立ち尽くしていた少女に変化があった。
詩乃梨さんは、震える手を己の胸にそっと当てて、俺と綾音さんを何度も見比べる。
見比べて、見比べて。最後に、俺と目が合って。
詩乃梨さんは、見る者の心をぎりぎりと締め付けるような、儚い笑みを浮かべた。
「………」
――俺は、全てを理解した。
瀕死の俺のために全速力で帰還してくれた詩乃梨さんが、目撃してしまった光景。
微笑み合い、楽しげに、親しげに語り合う男女。……日頃から自分に愛を囁いていたはずの男が、見知らぬ美女と、仲睦まじく過ごしている姿。
事実がどうであるかは問題では無い。彼女の眼には、俺と綾音さんがそう映ったはずだ。
詩乃梨さんは、とてもやきもち焼きで、寂しがり屋な女の子。そんな彼女が、前述の光景を目の当たりにして、何を想い、どう考えたのか。
俺の心変わりを疑ったか。美女への嫉妬を燃え上がらせたか。或いは、自分の身を哀れな道化と嗤ったか。
そのどれであるかは、俺にはわからない。もしかしたら、俺には想像も付かないような激しい感情が、彼女の頭の中をぐるぐると駆け巡ったのかも知れない。
だが、俺にはひとつだけ確信を持って言えることがある。
詩乃梨さんは。最終的に、俺のことを『信じる』と決めて。そして、己の中に渦巻いた数多の激情に、蓋をしてしまったのだ。
「琥太郎くん……? 何をそんな熱心に……」
俺が瞬きもせずに凝視している先へ、綾音さんは何の気なしに振り返った。
そして、綾音さんと詩乃梨さんの目がばっちりと合ってしまう。
綾音さんは、謎の空気に飲まれてうっと息を詰まらせて。詩乃梨さんは、先程見せていた儚げな笑みを幻のように消失させて、ちょっと強ばった無表情を浮かべていた。
詩乃梨さんは綾音さんに小さくぺこりとお辞儀をし、とっことっこと至極軽い足音を立ててこちらへ歩み寄ってくる。
「こたろーの、友達ですか?」
少し固い声音で問うてくる詩乃梨さんに、綾音さんはちょっと戸惑いながらぎこちない笑顔を浮かべた。
「え、あ、え、えっと、い、いや、私は、なんていうか、琥太郎くんとは友達……じゃないけど、知らない仲でもないかなー、くらいの者です」
「そですか。……こたろーの面倒見てくれて、ありがとうございました」
詩乃梨さんはほんの少しだけ『和らげた』表情で、太股の前に手を添えて深々とお辞儀をした。
綾音さんはそれに対して「とんでもない!」と超高速でぶんぶん手を横に振りまくる。
「いえいえいえいえ、私何も面倒見てませんから! むしろ私が面倒見てもらってましたから! どうでもいい世間話に長々と付き合って頂きましたからっ!」
「そですか。わかりました」
詩乃梨さんは、素直すぎるほど素直にこくりと頷く。綾音さんを見る瞳には、敵意や嫉妬の色は見えない。
良い子にしか思えない仕草を見て、綾音さんは謎のプレッシャーが勘違いであったという勘違いをしたらしく、頬を緩めてほっと胸を撫で下ろした。
「ごめんね、琥太郎くんと勝手に喋っちゃって。……えっと、あなたが琥太郎くんの、彼女さん――じゃなくて、まだ彼女じゃない彼女さん、で……いいんだよね?」
末尾の疑問符は俺に向けられたものだったが、詩乃梨さんはそれを拾って人形のように機械的な動きで首肯を返した。
「合ってます。わたしがこたろうの、そういうアレな相手です」
「え? あ、う、うん。やっぱりそっか。うん。え、えーっと、お名前は?」
「幸峰、詩乃梨です。……あなたの、名前は?」
「あ、は、はい。田名部綾音って言います。先週詩乃梨さんが来てくれた、『まほろば』っていう喫茶店に住んでます」
「……住んでる?」
詩乃梨さんはここでようやく、どこか無機質だった態度の中に『人間らしさ』を見せてくれた。
きょとんとした顔で反芻した詩乃梨さんに、綾音さんはうんうんと笑顔で頷いてみせた。
「そう、住んでるの。詩乃梨さん、だらしない格好したマスターに会ったでしょ? あのマスターの娘が、私。琥太郎くんとはお店でちょっと会ったことがあるくらいの関係でしかないから、詩乃梨さんは何も気にしなくていいからね?」
「気にする? なにをですか?」
詩乃梨さんは、首を傾げた。それは、人間らしさを完全に失った、本物の人形染みた仕草。
綾音さんは何かおかしいという思いを確かなものにしたらしく、笑顔を浮かべたまま完全に凍り付いてしまった。
見つめ合う、美少女と美女。フードコートの前を流れていく買い物客らが、ちょっと見かけないレアな組み合わせに思わず身を乗り出して覗き込み、しかし二人の間に流れる謎の冷気を感じて「うっ」と仰け反り、ちらちら目線を送りながらも足早に去って行く。
俺は、長いことお世話になった椅子に別れを告げることを決め、どっこいしょとおっさんくさい掛け声と共に立ち上がった。
綾音さんと詩乃梨さんが、同時に俺を振り仰ぐ。綾音さんはちょっぴり涙目になった微笑みで。そして詩乃梨さんは、人を観察する猫のように感情の読み取れない眼で。
俺は綾音さんに一歩下がってくれるようにジェスチャーし、意図を汲んでくれた彼女が退いたのと入れ替わりで、詩乃梨さんの正面に立った。
無機物めいていた詩乃梨さんの表情が、途端に人間臭さ満載の情けない顔に転化する。
「……こたろー……」
震える声で、小さく俺の名を呼ぶ詩乃梨さん。
俺は彼女の左右の頬に、己の両手をそっと添えた。
「詩乃梨さん、ちょっとだけ、眼、閉じて」
「……なんで?」
「これから、『大人のキス』をするから」
穏やかな声音による、あまりにも唐突すぎる爆弾発言。
綾音さんが「はぁっ!?」と普段の彼女らしからぬ素っ頓狂な悲鳴を上げるのとは逆に、詩乃梨さんはとても素直に頷いてそっと目を閉じた。
「こたろー」
詩乃梨さんは少しだけ顎を上げて、切なげな声で俺を求める。
俺は言葉で応えずに、ただ彼女の唇へ、己の唇をそっと押し当てた。
「……っ」
以前にも交わしたことのある、浅い、拙い、触れるだけの接吻。だが今回は、その先へ進む。
俺は、詩乃梨さんの頬に触れている親指を、目尻側へ撫でるように動かしてサインを送った。
詩乃梨さんは小さく吐息を漏らし、ほんの少しだけ、唇を開く。
その隙間へ、俺は自らの舌をゆっくりと差し入れた。
自分の口内に収まっていたそれが、外気に触れることなく、ダイレクトに詩乃梨さんの口内へと侵入を果たす。
詩乃梨さんの唇に至極弱々しい力で甘噛みされながら、俺の舌は、彼女の舌を求めて、彼女の体温と体液に満ちた世界を彷徨う。
やがて。俺は、求めていたものに触れた。
「……こ、ふぁ、ろ」
詩乃梨さんは全身をぴくりと震わせ、不安に満ちた声で俺の名を呼ぶ。
俺は詩乃梨さんの頬を親指で優しく何度も何度も撫で続け、彼女の身体から緊張が抜けるまで待った。
やがて、詩乃梨さんの安堵の鼻息が、俺の顔をそよ風のように凪いだ。
俺は詩乃梨さんの舌を、自らの舌で絡め取り、ぴちゃり、と卑猥な水音を立てさせた。
「―――――――――」
あたたかい。詩乃梨さんの舌と、俺の舌が、唾液の粘り気によって、完全にぴったりとひとつへ重なる。
ナマの、肉同士の、結合。
俺達はきっと、今、性行為をしている。
「………………………」
だが。残念ながら、今の俺が欲しているのは、そういうえっちな何某ではない。詩乃梨さんもまた、俺が何をしたいのかを、朧気ながらも理解してくれているようだった。
だから俺達は、どちらからともなく、舌をほどき、軽く挨拶めいた接吻を交わすのを最後に、唇も離した。
俺は詩乃梨さんから半歩ほど距離を取り、彼女の両頬を親指でぺちぺちと叩いて眼を開けるよう促す。
「詩乃梨さん、終わったよ」
「……………………………………うん」
詩乃梨さんは、ためらいがちに瞼を持ち上げていき、やがてとろんと蕩けた眼で俺を見つめた。
瞳は熱く潤んでいるが、頬を赤く染めたりはしていない。彼女はやはり、俺の意図をはっきりと理解してくれているようだ。
今の接吻は、性的な意味を含まない。ただただ、彼女の心へ、俺の心をダイレクトに届けるためだけの行為だった。
『俺が愛しているのはきみだけだから、きみはなにも心配しなくていい』。ただそれだけを伝えるための、言葉より強い力を持った行為。
俺の想いは、果たして、詩乃梨さんの心へと無事に届いてくれた。
「ねえ、詩乃梨さん」
俺は詩乃梨さんの頬から手を離し、自らの膝頭へと持っていって、やや身をかがめて詩乃梨さんと目線を合わせた。
さっきまでのは、言葉ではない台詞。けれどここからは、言葉にしなければならない台詞だ。
潤んだ瞳で俺をじっと見つめる詩乃梨さんに、優しく、ゆっくりと語りかける。
「詩乃梨さんは、やきもち、焼いちゃったんだよね?」
「………………うん。……こたろー、きれいな女の人と、すてきなカップルしてたから」
ステキなカップル。俺が綾音さんと釣り合う容姿だとは思えないが、詩乃梨さんは俺のことをイケメンと思ってくれているようだから、美男美女のお似合いな恋人同士にでも見えてしまったんだろう。
だから、やきもちを焼いた。それ自体は、別に構わない。俺だって、詩乃梨さんがどこぞのイケメンと親しげに会話してれば、かわいいやきもちなんかでは済まさずに、イケメンに対して果てしない憎悪とメラッとした殺意を燃え盛らせることだろう。イケメンはやはり撲滅すべきだと思いますね、ええ。でもそれやると俺も「こたろー、ばいばい」になっちゃうから、今は置いておくとして。
やきもち。それはいい。だが問題なのは、その気持ちを詩乃梨さんが押し殺そうとしてしまったことだ。
「詩乃梨さんはどうして、やきもちを焼いちゃったんだって、俺に言ってくれなかったの?」
俺の馬鹿みたいに愚直な問いを、しかし、詩乃梨さんはまったく馬鹿にせず。彼女は不安げに目線を逸らして、ばつの悪そうな顔をする。
「……そんなの、言えるわけ、ないじゃん……」
「それは、どうして?」
「……………………恥ずかしい、から? ……たぶん」
自分でも自分の気持ちがよくわかっていないのか、詩乃梨さんの声には全く自信が感じられない。
俺はそんな彼女を支えるように、自信に充ち満ちた声で告げた。
「恥ずかしくないよ。ちっとも、恥ずかしくない。自分が好きな相手が自分以外の人と仲良くしているのを見て、やきもち焼いちゃうのは、すごく自然で当たり前なことだよ」
「………………そう、かな?」
「そうだよ。絶対そう。そういう人間として当たり前の気持ちを『恥ずかしい』とか言っちゃうのは、トイレに行ったやつを『うんこまん』って呼んでバカにするようなものだね。じゃあそういうお前は一生トイレ行かねぇのかっつーのな」
「……ぷっ、なにそれ」
詩乃梨さんが、小さく吹き出して朗らかに笑う。
俺もそれに微笑みを返し、屈めていた身体を引き起こして腰に手を当て結論を述べる。
「やきもち、いいじゃん。どんどん焼いちゃえ。そういう素直な感情の動きを無理矢理自分の中に押し込めて、見て見ぬフリするのが癖になっちゃうと、そのうち心の中になーんもなくなっちゃうぞ?」
――それは。かつて、女々しくてくだらない醜悪なモノに蓋をしてしまった、俺自身のように。
なんて裏事情を知っているはずもないのに、詩乃梨さんは、俺の言葉の重みをじっくりと噛みしめるようにして至極真面目に頷いてくれた。
「わかった。これからやきもち焼いたら、こたろうにちゃんと言うね?」
「うん。そういうことで、よろしく頼むよ」
俺と詩乃梨さんは、晴れ晴れとした笑顔を交換し合った。
これにて、一件落着であーる! さーて、そろそろ買い物戻るかなー。
…………………………? あれ、何か忘れてるような……。
「……………………あ、やべっ」
綾音さんすっかり放置してたわ。やきもちがどうたらより前のディープキスの前あたりからすっかり放置プレイ中でござる。
俺はちょっと冷や汗を流しながら、己の斜め後ろへゆーっくりと振り返ってみた。
「……………………あれ、綾音さん? どしたの?」
綾音さんは、ちゃんとそこに居た。居たのだけれど、なんだかすっごい真っ赤っかなお顔でぼんやりと俺と詩乃梨さんを見つめている。意識もふわふわしちゃってるようで、俺の呼びかけに何の反応も示さない。
俺は詩乃梨さんに視線で『これどうしたの?』と尋ねてみた。しかし詩乃梨さんも理由がわからないようで、首をふるふると横に振る。
どうしたもんかと思いながらも、とりあえず綾音さんの目の前で手をひらひらと振ってみた。
すると、焦点の合っていなかった目が次第に俺の顔を映していく。
「…………………………こ……、こた、ろう、くん……?」
「はい、土井村琥太郎です。綾音さん、どうしたんですか? なんか唐突に風邪引いたみたいな雰囲気になってますけど」
「……………………どうした、じゃ、ないでしょー……。……えぇー……。ちょっと……。……えぇー、なにそれぇ……」
綾音さんは極々小さい音量で奇声を上げながら、沸騰した顔を押さえつけるみたいに、前髪をくしゃりと握った。
困惑することしきりな俺と、ちょこちょこ近寄ってきた怪訝顔の詩乃梨さんが見守る中、綾音さんはじわりと涙の滲む眼で床を睨みながらぼそぼそ呟く。
「…………………いいなぁー、ちくしょーめ……。いいなぁ……。やさしい彼氏……。……わたしも欲しいよぉ……」
………………………………。
……唐突なディープキスと謎の大団円にドン引きされる、とかよりはマシだけど、こんな猛烈にマジな雰囲気で『彼氏欲しい』とか言われても反応に困ってしまいます。綾音さんの男女交際について規制を緩めるよう、おっさんに進言しといた方がいいかもしれない。あんまり押さえつけすぎると、この子そのうち爆発してろくでもない男に引っかかりそう。
そんなことを思いながらひたすら観察していたら、綾音さんはなぜか恨みがましい眼でぎろりと俺を睨んできた。
「琥太郎くん、そういう感じの人だったんだね……。うわぁ……、はやく言ってよ、ほんと……」
「……はあ、なんか、すみませんでした。いきなりよくわかんない変態的な行為に突っ走ったせいで、綾音さんを混乱させてしまったようで」
「…………………ほんとだよ、もう……」
綾音さんはふて腐れたようにそう言って、極めて高い温度の溜息を盛大に漏らした。さらに、己の胸に手を当てて、何度も深呼吸を繰り返す。
そうしているうちに少しだけ顔の赤味が引いてきて、「ふぅっ!」と一際大きな息を吐いて深呼吸終了。そして気を取り直したように、詩乃梨さんへと微笑みかけた。
「詩乃梨ちゃん、でいいんだよね? ステキな恋人さんが居て、ほんとすっごい羨ましいです! おめでとうね!」
「……あ、ありがとう、ございま、す?」
詩乃梨さんは謎の気迫に押されて俺の陰へ隠れながら、それでもなんとか言葉を捻り出した。
綾音さんは詩乃梨さんのビビり具合を見て乾いた笑いを漏らし、次いで、笑顔なのに意気消沈してることがありありと見て取れる不思議な表情で俺を見つめた。
「琥太郎くんって、ほんっと、うちのお父さんそっくりなんだね」
「いやいきなり意味わからんこと言わんでください。今どっからそんな感想が飛び出てきたんですか」
綾音さんは俺の言葉を聞いているのかいないのか、ぱーにした右手を胸元へ軽く掲げて指を折りながら呟き始める。
「まず琥太郎くんって、なんとなくだらしない雰囲気があるでしょー? でもお金にだらしないわけじゃなくてー。女にだらしないわけでもなくてー。なんとなく『あー、私が護ってあげなくちゃなー』って思っちゃう感じのだらしなさでー。だらしない人って大抵暴力とセットなのに、そんな感じもしないでしょー?」
右手五本達成。俺が何を言ったらいいのかわからないでいるうちに、綾音さんは左手まで指を折り折り数えていく。
「心に決めた女の人にはすっごい一途で激甘で-。たぶん子供とか出来てもすっごい溺愛するんだろうなーって感じがありまくりでー。そしたらきっと娘とフリスビーとかやるんだろうなー。コーヒー大好きだから喫茶店とかも始めちゃいそうだなー。で、年齢が離れてるはずなのにウチのお父さんとすっごい息ぴったり。ほら、十本いったよ!」
綾音さんは実に嬉しそうに二つの拳を見せつけてきた。それに対して、俺は引きつった笑みを返すことしかできませんでした。
俺の胸中に吹き荒れる、『この子は一体何言ってんだろう?』というクエスチョンマークの嵐。今彼女が挙げたのは、俺とマスターの共通点ということでいいんだろうか。何個か違うの入ってた気がするけど。ていうか綾音さんの中の俺のイメージが独断と偏見に塗れまくってて衝撃的すぎたのでちょっと何言ったらいいのかわかんない。脳味噌フリーズ中である。
ひたすら棒立ちすることしかできない俺とは違って、俺の愛する少女は今の綾音さんの話にキラキラした瞳で食いついた。
「綾音。それ、わたし、わかる!」
「わかる? 詩乃梨ちゃんってばわかっちゃう!?」
「うん! すごくよくわかる! マスターのことはわからないけど!」
「そっかー! じゃあせっかくだし、ちょっと色々お話ししない? 今時間ある?」
「あるよ! 買い物あとでいいし!」
唐突に女の子同士がきゃっきゃうふふし始めました。どうなっとんねんこれマジで。
俺は目の前で展開される光景にまったくついて行けずに、遠足のバスに乗り遅れたような心境で一人寂しく佇むしかありませんでした。




