18話
「なんなのなんなのなんなのよっ!!!??」
中岸佳代は戸惑いながらも暴れ狂っていた。
ソレもその筈…彼女の中であってはいけない裏切りに遭ったのだから仕方の無いことだ。
毎日あんなにお世話してあんなに尽くして来たのに…
こんな裏切りがあっていいのか?
いや、良い訳が無い!
毎日朝ご飯作ってあげて、帰ってきたら晩ご飯作ってあげて、根暗なアイツに辛抱強く話しかけて来たって言うのにその結果がこんなのとかありえない…!!
いつまでも過去の事をネチネチと引きずって、男なら許す寛容さを持っても良いものではないのか?
「そもそもなんなのよあの女!!」
そうだ、あの女はなんなんだ!
立樹が彼女を作って私を追い出そうとしてくる可能性は頭の片隅では考えていた。
でもあの童貞は彼女なんて作れる度胸も甲斐性も行動力もない。
そう、何もない。
彼女なんて出来る可能性は限りなく低い。
でも世の中絶対なんて無い。
有り得ないなんて事はないのだ。
立樹に彼女が出来る可能性は微粒子レベルであっても一応は存在するのだ。
でも奇跡が起こる可能性は彼女が出来るまでくらいが精々だろう。
立樹が捕まえられる女なんて結局は立樹と同レベルのブスに決まってる。
豚か馬みたいな顔と体のドブスが関の山だ。
だからそのドブスから立樹を寝取ってやれば話は終わり。
簡単な事だ、そう思ってたのに…どうしてあんな可愛い系の美女がくっついて来てるんだ。
おかしいだろ?
趣味悪すぎだろ?あの女…。
でも私には多くの男と寝てきた実績がある。
私の技の前にはいかなヘタレであっても骨抜きになる。
あんなメスガキに私が負けるわけが無いんだ。
その多くの男から飽きられた結果が今の自分であると言う事実を頭の奥に押しやり、彼女は意識的に楽観的な可能性に縋る。
わかっているのだ、本当は。
あの女は若かった、見た感じ20代前半の新社会人、彼女からしてメスガキと言わしめる程度には若い。
立樹は男だ。
自分みたいな三十路前の女より二十歳前半の方を選ぶのは当然。
自分に勝ち目など無いのだと。
しかし彼女は気付いていない。
気付かない。
年齢の問題ではない。
野村立樹という人間に取って中岸佳代は最悪の相性なのだ。
上手くいく、いかないの問題ではなく、そもそもいく筈がないのだ。
野村立樹に取って中岸佳代はある種の恐怖の対象であり、唯一無二の性欲阻害者なのだ。
立樹は克服したと思い込んでいるがそんな訳はない、克服しているなら心の病にかかったりしない。
幼馴染彼女と教師の爛れた関係。
それは学生時代の純粋な彼の心に大きなトラウマを植え付けそれは現代にいたるまで機能している。
彼に取って年齢等は些事であり、中岸佳代だけは絶対にありえないのだ。
しかしそんな事は彼女には関係ない。
それこそ些事である。
そもそもにおいて立樹がトラウマを抱える程自分は怖がられている…なんて彼女は想像すらしていない。
普段の立樹の態度も悪いのだ。
もう克服した、昔の事だ、今更だ!
興味ない。
そんな態度を取り続けた結果、佳代はああ、そうなんだ、と錯覚してしまっている。
どの道彼女は変わらない、変われない。
屑教師に騙され援交とパパ活で渡り歩き気付けば重度の人間不信に陥った彼女はもう立樹以外を信用出来ない体になってしまった。
幼少の頃から一緒にいて、最後まで自分を裏切らなかった立樹は彼女の中で紛れもない希望となっていた。
だからこそ許せない。
あんな何処の馬の骨とも知れない女と関係を持ち、家まで連れて来る程に関係を構築した事が…その裏切り行為が…。
「くそ…やっぱりあの女の家に?ダメダメダメ…」
もし、立樹があの女と関係を持ってしまったら私はここにいれなくなる。
私の価値が無くなってしまう…。
あの時引き止めるべきだったんだ…
でも足が動いてくれない…
家から出て遠くに行ったらまたアイツ等に見つかるかも知れない…
私の事を捨てたくせに見つかったらまた利用されて最後はボロ雑巾みたいに捨てられる…。
そんなの嫌だ…
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
私はどうすればいい?
どうするのが正解なの…?
ねぇ…おしえてよ…
たっちん……
彼女の頭の中には幼い頃のあどけない笑顔を向ける野村立樹の姿があった。
もうそんなモノは何処にもいない。
そんなモノは彼女自身が壊してしまったのだから…




