3−1.最弱ウサギさん、お家に帰る
第3節.悪夢のグリモワール
いかにして悪夢の魔王は世界の秘密を知ったのか?
カルシャ・グリムは魔王として一神教と敵対した。新たな臣下、復活する者、因縁の相手との運命は絡み合い、カルシャは魔術なる技術を紐解いていく。
遺跡の底の底、さらに深く深く潜った先にある龍脈の地で、カルシャは何を見つけるのか。
秘密への好奇心はウサギをも殺す。
ギフト。
それは神が与えたとされる異能の力。
例えば炎を放ち、例えば身体を軽くするソレは、日常生活で活かす事のできるものもあれば、仕事で活躍するものもある。
まさに神の恩恵。
この世界において、ギフトの存在は普遍的であり不可欠なものだ。
人々は数多のギフトから限られた異能を授かり、様々な事に利用して発展を遂げてきた。
しかし、その速度は遅々たるもの。
ギフトと同じく、遥か昔から居たとされる異世界からの転生者、その知識が後押ししたとしても、大きな障害が存在したためだ。
魔物とその長、魔王である。
獣を軽く凌駕する力をもつ魔物は、こちらもまた遥か昔から存在し、人々を脅かしてきた。
堕ちたる人の成れの果てであると言われる魔物にもギフトは与えられており、人は簡単に殺されてしまう。
故に人々は、街を強固な城壁で囲い、都市国家として存続する事で生き延びてきた。
魔物を自らの手で滅ぼす事は、堕落を自浄し神の御元へ至る道であり、人の使命である。
人々は魔物に怯えながらも魔物を殺す。
生き残るため。
神の御元に参ずるため。
さあ、祈りの言葉を捧げよう。
“主よ、我らを導き給え”
一神教の司祭から語られる教義の一節。
最後の言葉は、神への祈りで締めくくられている。
…………。
笑わせるわよね。
事実かどうかは知らないけど、歪曲もいいとこだわ。
世界を創ったのはアデルカ・クロトという魔術師。
アトロポスなんて神は、少なくとも聞いたことがない。
下級司祭どもは金と欲に塗れ、支配階級はギフトどころか魔術を使う。
正直、得体がしれない。
神の奇跡なんて偽って、何を企んでいるのやら。
けど、売られたケンカは買うわ。
私個人なら逃げるだけだけど、廻りを巻き込むなら容赦しない。
悪夢の魔王を敵に回した事、後悔させてやるんだから。
*
尖鉄都市グリムソルガ。
魔王アーデカルシャ・グリムレクスの居城であるその都市は、深い樹海の奥に存在する。
樹海のモンスターたちはすでにその力を知っており、普段そこに近寄るものはない。
従って、戦闘音など訓練でしか聞くことがないのだが、今は状況が違った。
キィン!
甲高く、鋭い金属打音。
一つ二つではなく、幾重にも響くそれは、決して訓練用の模擬武器から出る音ではない。
「止まれっ!このっ!」
バトルマニアJKの転生者、剣崎エイリが刃を振るう。
横一閃を軽々と飛び越える敵対者、その影は漆黒。
着地と同時にエイリの背中を狙い、エイリは振り向きざまに刀を打ちつける。
僅かな鍔迫り合いで見えたのは、虚ろな瞳。
「ーーーーーーーー」
意志なきその貌には生気がない。
小柄な身体のどこにそんな力があるのか、下から持ち上げるようにエイリの刀を受けて微動だにしない。
その黒髪にはオオカミの耳。
硬質化した棘毛皮を纏い、両手に握るはミスリル製の御旗。
姿形こそアーデカルシャそっくりだが、実際はこちらがオリジナルであり、一度は死んだ臣下。
その華奢な豪腕でエイリを吹き飛ばす、その幼女。
「なんか言えば!?お姉様の前だよ?!」
エイリの呼びかけにも関心を示さず、代わりに鋭い槍の一撃が返される。
不死者として復活した筈のエリス・レッサカルシャ。
その身体は狂気とともに踊り、凶器を無造作に振り回す。
「あぁもう!言葉通じないですよぅ、お姉様ぁ!?」
エイリが舌を巻く。
戦闘技術は生前のまま。
戦闘経験はエイリよりも多く、上位者であるために地力もある。
さらに、容赦がない分を含め、エイリも攻めあぐねていた。
焦点合ってないような視線でそれほどまで強くなっている。
不死種としては完成。
だけど、心は不完全?
暴走する可能性は考えていたけど、準備もなにもない。
本当に唐突だったんだもの。
あぁ、もう。
なんでよ。
どうしてこうなった?
カルシャの自問自答。
その経緯は、カルシャたちがグリムソルガに帰還した頃まで遡る。
後書きウサギ小話
新しいお話には憑き物?編
「新節が始まるわね」
「新節か始まるとどうなるんすか?」
「知らないの?」
「死人がでる」
今回は誰か死ぬのか?!
棺!




