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2−39.悪夢の魔王さま、偶像破壊を目論む

「ーーーあとはあの石像だけね」


勇者を滅ぼした余韻もなく、エストをにらみつける。


ここまでやっても無表情か。


エストは気になるが、エイリたちに目を向ける。


ビーストの力とエイリのギフトを持ってしても攻めあぐねているっぽい。


「勇者をも殺すか。では、さらなる神の奇跡を」


エストはさらに何かするらしい。


「させるか!《業火の射手(ブラストアーチ)》!」


焔を放つが、少し距離が遠すぎた。


エストの命令に従った石像が焔を阻んだのだ。


厄介だ。


石の塊のクセに、エイリたちに対抗するほど強く、魔王の焔よりも速い。


どれだけ手札を隠しているんだ、クソ司祭…!


「お嬢ちゃん、言葉遣いが汚いで!魔王さまなら品格保ちや」


うっさいわね!心の中での悪態くらい許しなさいよ!


「お姉様!アイツ…硬くて大っきいの!」


石像だからね。


何故かガシガシ動いて戦うけど。


「やっぱり勝てなかったよぅ…♡」


違うよ?!


露払いで倒せとは言ってないし、まだ負けてないよ?!


どうしたエイリちゃん!即落ちか?即落ち読み切りなのか!?


ちょっと錯乱しかけているカルシャに、ゲッコウがボソリと告げる。


「ーーーお嬢ちゃん、こう見えてエイリちゃん、かなりの淫乱なんやで」


 人人人人人人人人

<い・ん・ら・ん!>

 YYYYYYYY


今要らん、その情報!


というか、あまり聞きたくなかった!


少なくとも戦闘中に言う事じゃねぇぞ、この野郎!


「いや、だから言葉遣い…」


誰のせいだよ!!


くっ!こんな脳内漫才してる場合じゃなかった!


そんなこんなしている間に、何やらエストは石像と合体していた。


「?!!」


なんだよ、アレ。


聖人像の頭に腰まで埋まってやがる。


あの石像、確かドール=ドミニオンとか言ってたな。


合体したからエスト=ドミニオンとでも呼ぶか。


もはや司祭でも何でもなく、モンスターだろ、あれじゃ。


「これこそ神の与え給うた奇跡」


浸った顔しやがって。


やってる事は改造と変わらないだろうが。


「キメラ化の間違いじゃないの?やってること、魔王と同じじゃない」


流石に神様バカにされると怒るらしい。


「自壊して果てた大蛇などと同視するとは、度し難い」


ようやく無表情が崩れた。


が、その代償は大きかった。


「疾く滅びるが良い」


石像が羽ばたく。


「っ!散開しなさいっ!」


夜闇に紛れた風切り羽根。


もちろん尖った石片であるそれが、雨の如く降り注ぐ。


打撃音に炸裂音、庭園の残滓が悲鳴をあげる。


とにかく執拗にカルシャを狙うので、他の者はなんとか無事だ。


しかし反撃もままならない。


あれがギフトならば奪うなり対応もできそうなものだが、純粋な物理攻撃ときた。


避ける、避ける、弾く。


あたりが光のないシルカルト霊峰にーつまり石の剣山になった時、ようやく猛攻が止まった。


「ようやく弾切れかと思ったら、次は直接攻撃って訳ね!」


そう思った瞬間、石像が急激に大きくなる。


そればかりか剣を振り下ろしてくる。


あまりに素早くて、カルシャですらぎりぎりの回避だった。


「あぁ、クソ!《悪魔の仕立鎧(ブラックサーコート)》!」


自己改造を展開、カルシャの皮膚が変質し、鎧を巻き込んで強化外皮と翼が顕れる。


悪魔の翼膜による改造の成果だ。


これを纏う事により、防御力と俊敏性にブーストがかかる。


加速して槍を突き入れるが、流石に石像だけあり、ビクともしない。


「硬いな、もうっ!」


とりあえず温度だけは奪うが、果たして意味があるかどうか。


振り下ろされる剣を避け、横に流れる刃を受け流し、合間にギフトを展開する。


「《暴虐の嵐(テンペスト・パイル)》!」


風の杭は有効だが、それもクリーンヒットは難しい。


なんせ攻撃が速く、隙がないのだ。


「冒涜者よ、滅びるが良い!」


相変わらずエストは絶好調。


「我が手は神の名代。その慈悲深き御手によって、理想の地を現し給え」


祈りの言葉を連ねた瞬間、カルシャの動きが鈍る。


「?!」


また魔術か!


拘束が強まる。


重たい足が止まり、振り下ろされた剣をなんとか受け止めるが、腕も重たくなってきた。


ヤバイ。


このままじゃ潰される。


臣下には頼れない。


アイツらも拘束されている。


自分でなんとかしなきゃ。


けど……これじゃ、何も出来ない…!


ただ重圧を受けるだけのカルシャは、あと数秒も保たない。


このまま潰されてしまうのか。


そんな思考がよぎった時、天はカルシャに味方した。



ドオオオォォォオン!



石像の背中目掛けて、何かが落ちてきたのである。


その瞬間、魔術が解けて身体が軽くなる。


なんとか刃を脇にそらして距離を取ると、何が現れたのかはすぐにわかった。


「久しぶりね、ウサギの魔王」


それは因縁浅からぬ顔であり、殺したはずの顔であった。


「アンタ…生きてたのね」


カルシャには一瞥もくれることなく、空中で静止するその者。


かつてカルシャと戦い、引き分けた後に鉄砲水に流された女。


「復讐の聖女、ライナ・クロムウェルが戻ってきてあげたわよ、クソ司祭」


カルシャの天敵、ライナである。


だが、記憶にあるライナは人間であり、決して翼など携えてはいなかった。


今のライナには翼があり、纏う雰囲気も別人の様。


ただ、カルシャへの言葉を聞く限りは本人であり、その復讐心も変わりなさそうだ。


「このウサギを殺すのは私よ、エスト。…勝手に手ぇ出すんじゃねぇ」


「…嘆かわしい事だ。聖女である事を捨て、神の敵に回るなどという愚行。実に度し難い」


おや?


何やら小競り合いが始まったぞ?


ひょっとしてチャンスじゃね?


「はっ!笑わせるわね!このライナ・クロムウェルに勝てるとでも?」


「ますます度し難いな。神の恩義を忘れた訳ではあるまい?」


空飛ぶ聖剣聖女と石像司祭のバトルが始まった。


チャンス!


タイミング良く、視界の隅に別働隊を見つけた。


レイジとケイオスビーストである。


「でかした、レイジ!」


レイジの仕事は、長距離の足であるドラゴンを殺す事。


追っ手を撒くため、ターゲットを逃さないための措置だったが、結果的にいいタイミングで達成してくれた。


ジェスチャーから察するに、上手く仕留めたらしい。


ならば、この場は逃げるが勝ち。


そうと決まればさっさと逃げる。


「ーーー逃げるわよ、アンタたち!」


カルシャの良いところは、こういう割り切った決断である。


特別司祭を殺すのが目標だったが、こうなっては危ないだけ。


いのちをだいじに、なのである。


命令を聞くや否や、エイリもジラムもケイオスビーストの背中へ。


こういう時にビーストたちの耳が良いのは助かる。


レイジにもビーストを通じて伝わり、向こうでも騎乗。


「ーーー撤退!」


こうして魔王アーデカルシャの襲撃は幕を閉じ、庭園には盛大な小競り合いを続ける元聖女と特別司祭が残された。


「………お前が仕掛けてくるから、カルシャ・グリムに逃げられたじゃねぇか!」


「…嘆かわしい。自身の過ちを認めぬとは、実に見苦しいぞ」


キレる復讐者に動じぬ司祭。


ライナは大きな舌打ちを以て終止符とした。


「ーーーカルシャ・グリムも居なくなったし帰るわ。じゃーね、クソ司祭」


現れた時と同じく唐突に、ライナは翼を羽ばたかせて飛び去っていく。


それを見送るエストの瞳には、やはり何の感情もない。


「ーーー嘆かわしい。実に嘆かわしい」


模造聖遺骸・試作(ドール=ドミニオン)との合体を解除してエストが地上に降り立つと、戦闘の余波を受けなかった建物から出てきた法衣姿が声をかける。


「エスト司祭。どうやら貴殿の勇者は滅びてしまったようですな」


特別司祭ジノス・ギア。


法衣に包まれてもなお、不快な笑みが邪悪さを醸し出す。


「純度の低い奇跡ゆえに、魔王の種を枯らす力が不足していた」


終始無表情なエストとは主義主張もやり方も全く違うが、一神教の狂信的司祭である事だけは共通していた。


「提案なのですが、次はこの私に盤面を任せるというのはどうですかな?」


故に、エストはジノスを否定しない。


「それもまた神の思し召しなれば」


ただ神の決めた事だと受け入れるだけである。


「では、好きにやらせてもらうとしようか」



後書きウサギ小話

イメージカラーとは・・・編



「おい烏月ハネ」


「作者呼び捨てっすか」


「こちとら魔王さまだぞ。ひれ伏せ」


「・・・何でございましょうか?」


「エイリちゃん描く時は、ちゃんと髪の毛ピンクにしなさいよね」


「え、なんで色指定・・・?」


「なんでって、決まってるじゃない」


ピンクは淫乱!


官!

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