27 野獣が人間に変身たら必ずイケメンになるとは限らない
「ご注文通り通り、転移門の設置しておきましわよ」
「ご苦労さん、ラウラ」
俺、犬娘、祖父犬、ゼクトのおっさんはコボルドの集落から五百メートル離れた密林に到着した。
目の前には美少女の姿で凝った肩を鳴らす花娘。そして、彼女の後ろには魔法陣が描かれた巨大な石段が置かれていた。
その石段を目視したゼクトのおっさんは眉間にしわを寄せて、あきれた声で呟く。
「……まさか、数時間で転移門を作っちまうとは……。この規模だけでも国が半年かけて建設する代物だぞ」
転移門――ゲームでいうところの転送装置である。
冒険者たちを俺たちの拠点に連れて行くことになったのだが、コボルドの集落から拠点まで青年少女の足まで歩かせると最低でも一週間、最大で半月は掛かってしまう。
また、樹海には獰猛な魔物や食肉の植物、さらに不安定な天候から彼らを護衛しながら拠点に向かうのがはっきりってめんど――もとい危険だ。
花娘の回復薬と蘇生薬があるとはいえ、一様、冒険者ギルドからの預かり者である彼らに危害を与えると後でギルドと樹海の先住民たちの関係を悪化させかねない。
なので、冒険者たちを安全かつ即座に拠点に移すため、昨晩、俺と犬娘と花娘、そして祖父犬とゼクトのおっさんと話し合い、転移門で全員を一度に送り出すことに決めた。
「前々から拠点からの別の場所への移動手段を考え、拠点近くに一個だけ設置してたのが幸いでしたわ。あとは龍脈の地点となる場所にアイテムボックスに入れておいた転移門を設置し、拠点近くの転移門のチャンネルに接続すれば数時間で完成させるなんて容易こと」
「いや、容易いって賢者ちゃんよぉ……」
「まぁ、ウチのメカニックは優秀だからなぁ。あんまり気にしないほうがいいぞ」
「……それで、ラウラ……これ、ちゃんと動く?」
「ぎっしいしし、心配ご無用ですわシャルロット様。あなた様たちが来る前に私自らが実験体となって拠点に転移しましたので。計算上、一度に百人転送させても問題ありませんわ」
朝食を食べ終えた後、花娘は速攻で転移門の設置に取り掛かってくれた。
しかも、俺たちが来る前に転移門の試運転を済ましてくれたのは有り難い。
「あと、拠点近くに転移先を設置したとはいえ、拠点まで険しい道のりなので足の用意はしておきましたわ」
「足の用意?」
「おーい、連れてきたぞ」
花娘に聞こうとしたとき、コボルドの雄たちが歩いて来た。
また、彼らは手綱を握っており、手綱の先には例の冒険者他たちを拘束していた。
「ほら、さっさと歩け!」
「痛い! 痛い!」
「そんなに引っ張らないで!」
「あたいたちをどうするつもりだ!」
「私たちになんかあったら冒険者ギルドがだまってはいないわよ!」
「テメェら打ち首にして屋敷の外に晒すからなッ!」
囚人のように歩かされる冒険者たち。
威勢を張るが、不安と恐怖が見え隠れているのがわかる。
「お~面白いプレイしてるなぁおめぇら~」
「へっ、ギルド長……!?」
目の前にいたゼクトのおっさんに、冒険者たちは唖然とした。
おそらく、なぜいるのかという疑問と、ゼクトのおっさんが自分たちを助けに来たという安易な希望を抱いているのだろう。
もっとも――
「――この、バカちんどもがぁあああああああああああああああああ!!!!」
おっさんの凄まじい怒鳴り声に、安易な希望は打ち砕かれた。
血管が破裂するほどの憤怒の形相と、恫喝に冒険者たちは縮こまる。
……あっ、何人かチョビッたな。豚の鼻だからアンモニアの匂いがわかるぞ。
「テメェらの勝手な行動のせいで、危うく戦争勃発だぞ! 俺のギルドが潰れるところだったんだぞ! どうしてくれるんだ、あぁ?」
「いや、ギルド長! 俺たちはジャーマインさんに利用されて――」
先頭に立つ青年がおっさんを宥めようとするも、おっさんの強烈な蹴りが彼の顔面に炸裂する。
「げっふ!?」
「ひぃ!?」
「言いたいことがあるなら、三秒で答えろ、はい、い~ち」
――ボッワン!!
おっさんが一を唱えた瞬間、彼の手からテニスボール大の火の球が出現し、躊躇なく蹴りで倒れ伏していた青年に放った。
「ぎゃああああああ!?」
「撃った! 魔法を撃ちやがった!?」
「誰かぁぁ! 消火ぁぁああああああ!?」
「エリックが焼死しちゃう!?」
「というかギルド長! 二と三は!?」
「しらねぇなぁ、冒険者なら一だけ覚えておけばいんだ」
うわぁ、理不尽すぎる。
今回の襲撃事件で怒り心頭なのはわかっていたが、まさか火魔法使うほどとは。
威力からして本気で殺す気はないだろうけど、現代社会なら虐待の域を超えてるぞ。
コボルドたちがエリックと呼ばれる青年に砂と水魔法でぶっかけて消火してくれたが、おっさんはまだまだ怒り足りないらしく、掌から複数の魔法陣を展開している。
もしかして、男子全員に焼き入れるつもりか?
DQN野郎に同情はしないが、少女たちのほうは自称紳士としてすこし心配だ。
おっさんの性格上、女性を傷つけることはないだろうが、魔法を構えるヤクザを前にして女性陣の精神はガリガリ削れていた。
その証拠に数人の少女たちのスカートと太ももが濡れていし、アンモニア臭が強くなってきてる。
……さすがに止めるべきか。
こんな時、お漏らしプレイに期待するほど俺は変態じゃないし。
……ちょっと興奮はするけど。
「おーい、おっさーん。苛立つのは分かるが折檻はそこまでにしてくれ。話が進まないから」
おっさんの横まで歩き、制止させる。
「ちっ、しょうがねぇな~――ふん!」
「あっべし!?」
おっさんは魔法陣を消すと、気絶しているエリックを蹴り飛ばした。
……さっきから不運だな、この青年。
もしておっさんに恨みでも買ったのか?
俺がそう思っていると、ほかの冒険者たちが騒ぎ出した。
「ななななんでギルド長が化物たちと仲良くしてるんだ!?」
「まさかギルド長がギルドを裏切ってあいつらと繋がってたの!?」
「最低!」
「人類の裏切者!」
「もしかして、私たちあいつらの奴隷にされちゃうの!?」
「いやぁああああ!オークの性処理になんかなりたいないぃ!」
「いや、まって。ならあの横にいる少女と獣人は誰だ!?」
「どうして、オークのそばで平然としているわけ!?」
「うわ、きれぇ娘……」
「王都でもあんな美女みたことないぞ!」
「少女の服装からして貴族か富豪の娘かなにかか?」
「奴隷落ちにされるなら彼女たちのほうがいい」
「あの人はもしかして……」
おっさんから、俺、そして花娘と犬娘へと話題が上がる。
最初は怯えていたのに、花娘と犬娘に興味津々だ。
まぁ、中身はどうあれ容姿は美女と美少女だから色目で見てしまうのは無理が無いだろうが、おまえら今の立場分かってるのか?
俺が冒険者たちに声をかけようと近づくが――。
「「「「「ひっ!?」」」」」
俺が動いた途端、冒険者たちが怯えた顔で後退して距離を取った。
……ん? どうしたんだ?
「オーズ……彼らの安否を心配するならあんまり前にでないほうが……いい」
「シャルロット様の言う通り。あなた様の容姿だと恐怖を煽がせるだけですわ」
――あっ、そうだった。
犬娘と花娘の言葉に思い出した。
俺、人類の天敵だった。
冒険者たちが魔族である俺を怖がるのは無理もないだろう。
祖父犬と人間のおっさんと普通に会話してたから、俺がただのバケモンだということをうっかり忘れていた。
しかし、これは困った。
これからこいつらと同じ居住区で暮らすのだが、こうも怯えさせたままにするのは危険だ。
恐怖によるストレスで彼らが衰弱死させたらおっさんやギルドの先輩冒険者に怒られるかもしれないし、なにより発狂して俺を殺しに来るかもしれない。
距離を取って生活するにしても、顔合わせすることは何度もあるだろう。
監視とか、拠点での説明とか、護衛とかで。
コミュ障を理由に彼らの面倒は義姉と痴女に頼む――のは、無理だろうな。
義姉に却下されて、彼らと一緒に修行される未来が安易に想像できる。
はぁ、ボッチ生活をしたいが仕方がない。
当分の間、集団生活することは覚悟しておこう。俺が無害だと理解されたら思う存分ニート生活(渇望)をしよう。
そのためには、まず彼らを怖がらせないようにしないと。
だが、どうやって――ヒント探しにステータスを見ると、あるスキルが目に留まった。
これならば彼らと共存できる確率が高くなるはずだが――
「――正直、このスキルだけは使いたくなかったけど、背に腹は代えられないしなぁ」
ため息を吐き出し、選択したスキルを発動させた。
「――へん、しんッ」
刹那、俺の身体が光と複数の魔法陣に包まれ、俺の肉体が変化していく。
高かった視線が徐々に低くなり。
強靭な筋肉が縮小していき。
堅牢な皮膚が女性のような柔肌に変質し。
厳つい豚顔が人間の子供の者へと変形する。
そして、光と魔法陣が消えたとき、そこに化物の姿はなく、代わりに“人間の少年”がいた。
「「「「「えっ!?」」」」」
冒険者たちは一斉に目を丸め、驚嘆した。
そりゃそうだろう。なにせ、醜く恐ろしい化物が人間の少年になったのだから。
それも――
「これは驚いたのぉ」
「あぁ、まさか厳ついオークが可愛い美少女ちゃんに変身するとはなぁ」
「はははははは、誰が美少女ですかコノヤロー」
そう、男の娘。絹のような艶やかな赤い長髪が特徴の少女のような美少年である――ちっくしょうぉぉおおおおおおおお!!
俺は心の中で涙目に叫んだ。
なんでオークが《人化》スキルを使ったら可愛い男の娘になるッ!?
オークが人間に変身するなら最低でもデブな醜男か、最高でダンディな渋いおっさんになるのが定番だろうが!
どうして男の娘になる!?
あれか? 実年齢が十五歳だからか!?
それとも天命が男の娘を望んだからかッ!?
「そんな気を落とさないでくさいましな、あなた様。見た目が美少女なのに中身は美少年というビジュアルはわたくし的にはアリですわよ」
「うん……どんな姿でも、オーズはオーズ。立派な弟が、可愛い弟になっただけで義姉の愛は変わらない」
「ちょっと、黙ってくれませんか、マッド痴女さんに色ボケ義姉さま」
精神年齢が三十路で、前世がデブの俺にきつすぎるわ!
TS転生よりマシだが、それでも男の娘なったのは最悪であることに変わりはないんだよ。
オタク眼鏡の同人誌のアシスタントしたからわかる。
俺の容姿は間違いなく萌えな美少女(♂)だ。
もしも、オタク共に見られたら間違いなく『男の娘転生でござるぅううううう!』って発狂してお持ち帰りされかねないだろう。
そして、オタクの自室に連れてかれたら最後……想像しただけで、恐ろしぃ……!?
「おい、坊主。大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「も、問題ない……。日課の片頭痛だ」
いったん、落ち着け、俺。
男の娘になったのは遺憾だが、あくまで男の娘に変身しただけのこと。
正体はワイルドで紳士なオークでることに変わりはない。
息子だって華奢の身体になっても大砲サイズのままだ。
決して、ホモや痴女に逆レイプされるような子じゃない。
オークとしての誇りを持て、俺……!
「――さて、これで普通に話せるよな?」
身体が縮んだことでブカブカになった服をズリ落とさぬようベルトや袖まくりで整えながら、呆気る冒険者たちに俺は言葉をかけた。




