23 突然の訪問と義姉の昇格?
食事を始めて数時間後。
俺は花娘が持ってきた黒板の前に立っていた。
「えー、お腹も膨れたことなので、現在の状況を整理でもするため会議をはじめまーす」
「「「「「はーい」」」」」
花娘と犬娘、そしてコボルドたちが返事する。
――いや、ちょっとまて?
「なんで俺が司会してるわけ? こういうのは集落の長の次にえらい義姉か、頭のいい花の賢者がやるべきじゃないのか?」
「無理。戦いで、指揮を取ることはできるけど、こういう場での話し合いは……苦手。こんなしゃべり方だから、会議するだけで結構時間かかる、し」
「わたくしはどちらかと言えば解説役なので、司会はおねがいしますわね」
さらっと、断る魔物娘コンビ。
ほかのコボルドたちは、どうぞ、ご自由にという視線を送っている。
嘘つけ、おまえら。ただたんに司会するのがめんどくさいだけだろ。
こっちとら、コミ障で人前に立つのは苦手なんだぞ。みんなの視線と期待という重圧でつらいんだぞ。
スベらないよう考えて言葉を選ぶのが大変なんだぞ。
本音を言えばこのまま退場したいけど、この空気で司会を降りるのがKYだから司会をしなくてはいけない。辛い。
NOとは言えない自分が嫌になる。
「はぁ、しょうがない……。司会はやるけど、補佐はしてくれよ。こういうのは手慣れてないから俺」
諦めながらいうと、犬娘と花娘が承諾して頷く。
少々溜口で進めるが、コミュ障の男子高校生を司会をするのは無理な話なので、妥協してくれ畜生ども。
「それじゃ、初めに……シャルロットとラウラ。取り調べをした二人に聞くが、今回の犯行のアダナギ教で間違いないんだな?」
「うん、あのジャーマインっていう男を尋問して、吐かせた。あの男、アダナギ教のトップのひとりみたいで、今回の首謀者なのは間違い、ない」
「わたくしも、その人の部隊にスキルを使って確かめましたわ。あの方々、この土地の資源と領土を奪うために、シャルロットさんたちの部族を襲わせて、怒りの矛先をこの森に支部を置く冒険者ギルドにぶつけ手筈だったようですわ」
「あいつら、私たちと冒険者ギルド、互いに争わせて、疲労したところで教会が、介入。どさくさに紛れて土地の権利を奪うのが、目的」
「戦争のための扇動して、漁夫の利を得る。大がかりな茶番劇ですわ」
たしかに、と俺は花娘に同意する。
この森を手中に収めるためだけに、手間のかかるシナリオを作る聖職者たちに呆れと苛立ちを覚える。
やっぱり、異世界の宗教は害悪だな。
今回のことで再確認できた。
「そいつらがまた襲ってくる可能性はあるのか?」
「わたくしの予想では当分は無いかと」
花娘に質問すると、彼女は即答で答えた。
「襲撃が失敗した今、シャルロットさんをはじめ先住民たちはアダナギ教を警戒する羽目になりました。襲撃が失敗したことがあちらにバレていれば、二度目は困難だと気づき、続けざまに侵攻する選択はしないでしょう。あちらがどれほどの権力があるかは不明ですがあまり表沙汰を起こしたくないのが組織というもの。すぐには襲ってはこないではずですわ」
「それに、ジャーマインっていう男いうには、利用価値がなくなった者は容赦なく切り捨てるのがアダナギ教のやり方みたい。作戦を失敗した挙句、大事な聖遺物を失ったから、もう戻れないって怯えて、いた。あいつを救出するために部隊を向かわせること、まず無い」
邪教の世界も世知辛いな。
同情はしないけど。
「ただ、問題があるとすれば、あの若い冒険者たちでしょうねぇ」
「あぁ、あいつらかぁ……」
襲撃事件に利用された青年少女の冒険者たちは、現在、花娘が集落の隅に作った牢屋に収監されている。
数時間前、俺と花娘を見た途端、いきなり襲ってきたので、犬娘が彼らを物理的に気絶させて牢屋にぶち込んだのだ。
まぁ、慕っていた人に利用された挙句、樹海の森で孤立、格下だと思っていた魔物が実は格上でしかも自分たちを取り囲み、さらに、その集団の中に人類の宿敵である魔族がいたのだ。
頭が追い付けないのも無理はない。というか俺だってこんな状況下で冷静な判断ができると断然できない。
とりあえず彼らが冷静になるまで、一晩、隔離するしかないのだが……。
「……アダナギ教に利用されとはいえ、私の村を襲った。その事実は変わら……ない。だけど……」
「同時に冒険者ギルドの人間であることにも変わりはありませんわ。もしも彼らを監禁していることが冒険者ギルドにバレれば面倒なことになるかと」
「そうなるとアダナギ教の思惑通りに、戦争に発展しかねない、か」
やっかいな種が残ったことに、俺たちは頭を抱える。
「……念のために聞くけど、あんたたちならあいつらをどうする?」
ほかのコボルドたちの意見を聞いてみると、
「殺して証拠隠滅が手っ取り早いんだがなぁ」
「俺たちの仲間を殺そうとしたとはいえ、騙されていたしのぉ」
「実際、軽傷者だけで死者は出てねーわけで」
「かといって、うちで保護するかどうか難しいもんだ」
「友好的なオーズさんと違って、あの子たちは魔物を狩るのが仕事だしね」
「魔族や人間の盗賊なら性処理道具とかにつかうけど、俺らには必要ないし」
「だな。だいたい人間とコボルドだと子供産めないわ」
「というか、あたし的にはあんな、雑魚と交わりたくない」
「弱い雄は興味ないもの」
と、コボルドたちは冒険者の青年少女たちに頭を悩ますがどこか辛辣だった。独善で自分たちの襲撃してきた冒険者たちに憤怒や悪意を抱いていないのは有り難いが、同情があまりないのが見て取れる。
はじめのころの犬娘もそうであったように、彼らもまた弱肉強食という信念をモットーに価値観を決めているため、すこし厳しいスタンスだ。
というか、コボルドは異種交配ができないのか。相手が強ければ異種であろうと交配するのが魔物の特性だとさきほど花娘から聞いていたが、実際、異種同士で子ができるかどうか種によっては違うようだ。
ただし、異性が強者であれば、子孫繫栄関係なく性的本能で発情してしまうのだとか。なにそれ、エロい。
って、脱線してる場合じゃなかった。
「どうしたもんかなぁ」
冒険者たちの処遇に俺たちが考える。
すると。
「ほっほほ、わしが留守にしている間、ずいぶん面白いことになっておるようじゃな」
後ろから老人の声が聞こえたので、後ろを振り向く――って、デカ!?
そこには俺よりも頭五つ分大きい巨大なコボルドのような犬の化物がいた。
見た目は老犬だが、ガタイがよく、白い長い毛と年老いた雰囲気が不気味な威圧感を放っている。
というか、いつの間に現れたこの化け物!?
スキルはオフにしたけど、オークは耳と鼻が敏感な生き物だから、気配を消してもすぐに感知するのに。
「お、長!?」
コボルドの誰かが叫んだ。
え? 長って?
もしかして、この化け犬がコボルドたちのリーダーで犬娘の祖父?
すぐさま、鑑定してみると、老犬の名は『ローニン』で種族はアルト・マウンテン・コボルド。レベルは91と犬娘を超えていた。
ステータスも、平均四桁以上でスキルも戦闘系が多くめっちゃ強い。とくに《自然一体》は厄介だ。
《自然一体》
【自身の存在を自然世界と同化】
【発動中、視覚以外他者から認識されず、またスキルによる感知・索敵を無効化する】
感知系のスキルを無効化、しかも、視認以外の方法で感知できないから、オークの耳と鼻による聴覚と嗅覚は役に立たない。
どうりで気づかないわけだ。
俺が一人納得している一方で、コボルドたちは犬娘の祖父が突然現れたことにはざわめき始め、花娘は冷静に現状を分析し、犬娘は驚嘆した目で自身の祖父を見ていた。
巨大な老犬はゆっくりと俺たちのところに歩み寄り、犬娘の前に止まる。
「シャルロットよ、わしの留守番中、長の代理をしてくれて感謝するぞ」
「……いえ、長の孫娘としての務めを果たしたまでの、こと」
低姿勢で言葉を交わす犬娘。彼女にとって祖父である長には頭が上がらないらしい。
しかし、まずい状況かもしれない。
忘れがちだが、俺たちが暮らしている土地は彼らにとって神聖な秘境。
それを勝手に住み着いて、開拓しまくってるから怒られるかもしれない。
と、そう思い身構えると、犬娘の祖父が優し気に俺に言う。
「よいよい。おぬしらのことは外で警備していた者たちから大方の事情は聞いておる」
そういって、犬娘の頭をなでると、俺と花娘の前に座り込む。
どうやら集落の外で警備しているコボルトたちのおかげで話し合いがスムーズにいきそうだ。
「さて、はじめましてかな。コボルトの村の長をしているローニン。シャルロットの祖父じゃ」
「あぁ、どうもオーズです」
「花の大賢者ことラウラですわ」
犬娘の祖父に改めてあいさつする。
ってか、その二つ名気にったのかお前?
「おっほほ、赤髪の魔族と花の大賢者っか。個性豊かじゃな。おぬしらのことはほかの者たちから聞いた。わしの孫娘が仲良くしてくれ感謝するぞ」
「お、長、あの、私……」
犬娘が犬娘の祖父に何か言いたげなご様子だが、集落の掟を破ってたことだろう。
ストイックな分、責任感を背負い込みすぎるのが彼女の悪い癖だ。
「まーまて。おぬしが言いたいことは分かる。あの場所のことであろう? それを踏まえたうえで先に話すことがある。まずはそれからじゃ」
犬娘が言いたいことを察した犬娘の祖父が言う。
その言葉に、犬娘は理解し、黙り込む。
「――さて、冒険者ギルドのことだが、心配はいらん。襲撃してきた冒険者たちの処遇についてはちょっとばかし考えがあるのでな」
「ん? どういうこと?」
「それについては、彼が説明してくれる」
「彼?」
「俺のことだ」
突然、犬娘の祖父の後ろから人影で出てきた。
一瞬魔法陣らしきものが出てて来たから転送系の魔法だろうか。
犬娘の祖父の背後から現れた存在に俺とコボルドが驚嘆し、犬娘だけが反応てその人影に料理で使ったナイフで切りかかろうとする。
とっさに、やめるように叫ぼうとするが、刃はその人影に食い込む前に小さな魔法の結界が彼女の一刀を止めた。
「おいおい、初対面に刃物を向けるなんぞ物騒だな。これがコボルド流の歓迎か?」
「――に、人間!?」
松明の光よって照らされた人影は中年のおっさんだった。
年齢は最低でもアラフォーくらいで、まるでマフィアのボスのような風貌だ。葉巻と拳銃がよく似合いそうだ。また、服装が貴族が来てそうなものだったからそうとう身分が高い人だろう。
コボルドたちがおっさんに警戒していると、犬娘の祖父が言う。
「シャルロットよ、刃を収めなさい。おぬしらもそう、かしこまるな。ちっとばかし顔が怖いが、貴様らの敵ではない」
「怖い顔は余計だ、ご老公。せめてダンディといってくれ」
顔をのことでぼやくおっさん。
ナイフを握っていた犬娘は犬娘の祖父の言うことを聞き入れ、ナイフを仕舞う。
「あのー、どちら様で?」
「おっと、自己紹介がまだだったな。初めましてだなコボルドの諸君と部外者のお二人さん。俺の名はゼクト。冒険者ギルドの支部長をやっているえらーい、おっさんだ」
俺が田恒ルト、ゼクトというおっさんは葉っぱの座布団に座り込み、手前にあった料理の残り物を手に付ける。
…………いや、またんかい。
なんで冒険者ギルドの支部長がここにいるわけ!
しかも単身で、俺たちが作った料理をうまそうに食ってるし。
「……長、なぜ、冒険ギルドのトップを連れてきた? しかも、長とは親しい感じが、する」
「親しいほどではないが、まぁ、ちょいっとばかし縁があってのぉ。こやつを連れてきたのは今回の集会に関わっておるのでな」
怪訝な目で質問する犬娘。
犬娘の祖父は苦笑したのち、間を開けて子たる。
「今回の長同士の集会による話し合いの結果、我らコボルドをはじめとするほか他種族の全部族は、冒険ギルドと協定を結ぶことになったのじゃ」
「簡潔に言えば、俺たち冒険者と仲良くなりましょうよ、ってことだ。おっ、この酒旨いな」
「「「「「…………はぁあああああああああああああッ!?」」」」」
二人の爆弾発言に驚嘆する俺たち。
収監している冒険者たちをどうにかしようとした話題がさらに斜め上をいく問題が起きてしまった。
さすがの俺も、理解が追い付けないぞ。
犬娘なんかフリーズして固まってるし。
花娘は花娘でなにやら考え込んでるし。
「長よ、なぜ、そんなことになったのです!」
「そうです! これまで争いの種を産まないよう人間たちとは極力干渉しないようにしてたのに!」
「第一、ほかの長達も納得するわけがない!」
「特に、人間嫌いのトロールと傲慢なリザードマンたちが賛同するとは思えません!」
ほかのコボルドたちが犬娘の祖父に問い詰める。
彼らにとって人間と交流を持つことに納得ができないでいた。
「まぁ、理由としてはおぬしらが体験したはずじゃがのぉ」
そんな彼らの問いかけに犬娘の祖父がもったいぶった言い方をする。
む、その様子だともしかして。
「……今回の襲撃事件と関わっているのか?」
「ぷっはぁ、そのとーり」
俺の言葉に、ラッパ飲みをしていた支部長のおっさん――支部長でいいか。
支部長が説明する。
「やつらの動向は俺ら冒険者ギルドをはじめ、各国の上層部が常にマークしててな。ほんで、奴らがこの土地の権利と資源を狙ってることを入手してよ。このままだと俺たちのシマが荒らされそうだから、犬のご老公に頼み事をしてもらったでなぁ。幸い、向こうもこちらとコンタクトとる予定だったおかげで話すがスムーズにすんだわけよ」
「ふぉっふぉ、冒険者ギルドとはこの大樹海での活動やワシらとの立場などについて、一度話し合って決めようと考えてたんじゃ。ほんでこやつを連れて今回の集会を開き、そこで、この土地を狙っている存在を教えてもらってのぉ」
「ほんで、話し合いの末、互いに協力してこの土地を守ることに決めたんってわけさ。その際、結構、骨が折れたがな。あーしんどかったー」
へー、俺たちが住処でのんびりして言える間に、そんなことがー。
と、呑気なこと思っていると、
「すいません、すこし質問してもよろしいでしょうか?」
さっきから黙っていた花娘が割って入る。
目線の先は支部長だ。
「アダナギ教の動向はつねに監視してたといいましたわよねぇ? だったら今回の襲撃も察知することも、防ぐことができたのはありませんか?」
「痛いところ突くじゃねーか花の賢者さま」
苦い物を食ったような表情で、ため息を漏らす支部長。
「それについてはこっちの不手際だ。奴――ジャーマインが正体を隠してたことは知ってたが、証拠はなかった。奴は相当念入りに事を運んでたみてぇだ。今回の事件を起こすまでトラブルや不審な動きを一切しねぇし。そればかりか周りから慕われていた。そんな野郎に、証拠もなく捕まえることはギルドでも無理だ」
それについては同意見だ。
犯罪者が裏で悪事を働こうが、物的証拠がなければ逮捕することができないのが現代社会の抜け穴。
ギルドがどれほどの組織なのかは知らないが、証拠の有無で行動が制限されるところは前世の社会と変わらないようだ。
「念のために信用できる冒険者に見張らせて置いてたんだが、どうやら俺が留守中にヘマをしたらしい。しかも、あの問題児どもを平然と使うとは……。あの屑神官、この時のためにあいつらに手駒にしてたってわけか。ただでさえ、扱いづらい連中だったのに。これじゃー俺のメンツがつぶれちゃうじゃねーかよ、こんちくしょうめぇ」
そういって、ゴクゴクと酒を飲み続ける支部長。
あの神父のせいで苛立つのも無理はないだろうが……
「他人の面倒ごと押し付けた癖に、自分は悪くないと言い訳してますわよ、この方」
「自分のことしか考えてないな、このおっさん」
「……うん、だめな大人」
花娘、俺、犬娘の順に呟く。
俺たちの言葉を無視しておっさんはさらに呟く。
「小娘どもはともかく、野郎どもは死んでほしたったぜ。証拠隠滅して消えてくれば面倒ごとが少なくすることができたのによぉ」
「ひどい、言い方ですわねぇ。あれでもあなたの部下みたいなものでしょうに」
「俺の部下に、あんなおっぱい離れしない俺様最強とほらを吹くクズはいなーい。いるとすれば、俺のためにせっせと働いてくれる蟻どもと将来有望な美少女ちゃんしかいないのよ」
「クズ野郎だな」
「真面目に働いている部下が、苦労してそう」
「ふっ、上の人間てやつはそんなもんさ」
開き直ったように残った料理をツマミとして食べる支部長。
この世界の冒険者たちが心配です。
ブラック企業に勤める社畜に対する憐憫のような感覚で。
「っでだ、話が変わるがおまえさんは魔王軍の者なのか?」
おっと、急に話題を俺のほうへ路線を変更してきた。
今更かよって話だけど。
「いいや。外にいる人から聞いていると思うけど、俺はこの森で捨てられた一匹狼ならぬ一匹豚。ここにいるシャルロット――義姉とラウラと一緒に森の奥で暮らしていた。ほかの魔族については知らないし、会ったこともない」
なぜ上こんな森に捨てられたのか未だに疑問だが、俺自身、俺の出自に興味がないため、あんまし考えてはいない。
むしろ、今をどう愉しく過ごせるのかが優先順位である。
「……ふむ、嘘ではなさそうだ。疑わって悪かったな」
一瞬、ギロりと俺を睨む支部長だったが、納得して俺から興味を無くしたように視線を変える。
視線の先は花娘だ。
「なら、こっちの娘さんに聞くが、おめー人間じゃねーな」
その言葉に俺と花娘は内心驚く。
ほぼ完ぺきに人間に擬態にしている彼女を見抜いたのだ。俺でさせ、初対面だったら人間だと勘違いするほどの完成度なのに。
しかも、見た感じ、鑑定系のスキルは使ってはいないようだ。
言い当てられた花娘はポーカーフェイスで言い返す。
「――おや。なぜそう思うのです?」
「見た目はエロっぽい美少女ちゃんだが、どこか厚化粧している感じがするんだよ。まるで人の皮をかぶったなにか、俺の直感が囁くんでねぇ」
「厚化粧とは失礼な。わたくしはつねにすっぴんで勝負してますわよ」
「ラウラ、ツッコムとこ、違う」
真顔で答える花娘に犬娘がツッコミを入れる。
まぁ、こいつが化粧しているとこなんていままで見たことないけど。元から素材がいいからという理由もあるが、化粧するよりも内面を磨くことにモットーにしているからなぁ。
ちなみに犬娘のほうはたまに化粧をすることがある。日中は狩りとか修行とかで体中汚れるから化粧やおしゃれはしないが、休日や夜なんかで趣味として楽しんでいるほうだ。
おもに、俺に夜這いを仕掛ける時に。
あのグラマーな体型でスケスケのネグリジェは反則だ。
危うく、一線を越えそうになった――って、そんなこと思い出してる場合じゃなかった。
「なぁ、ラウラ。このおっさんに正体を明かしても問題は無いだろう。今、隠してもメリットもないし。疑いの目を向けられたままだと後々面倒だぞ」
「むぅ、あなたさまがいうのあれば、仕方ありませんわね」
俺がそういうと、ラウラはしぶしぶ承諾する。
途端、先ほどまで魅惑な美少女が下半身から無数の触手を生やす異形の美少女へと変貌した。
その光景にぎょっと驚くコボルドたちと、犬娘の祖父。そして、支部長。
だが、犬娘の祖父と支部長は花娘に正体に気づいたのか納得した表情をする。
「こいつはたまげた。まさか、アルラウネっか?」
「えぇ、アルラウネのラウラ。改めましてこんばんわですわ」
花娘は微笑んで挨拶する。
この世界においてアルラウネは伝説の魔物だ。
魔物の長である犬娘の祖父に、魔物を狩る組織のトップならアルラウネの価値は分かっていて当然だろう。
「よもや伝説の魔物をこの目でみるとは……。あやつらが言葉を濁するわけじゃ」
「嬢ちゃんが正体を隠すのは当然だ。魔物狩りを生業とする組織の幹部が言うのもあれだが、安心しておけ。取って食おうとはおもわねぇよ。俺が仕留めるのは、外道か娼婦か酒場のママさんたちだけだ」
「うっふふ、その言葉、今は信じてあげますわ」
とか言ってるけど、そもそも花娘には嘘は通じない。
なにせ、あらゆる秘密を看破するスキルをアルラウネは持っているのだ。
下手に嘘をつけばすぐにばれる。
まぁ、支部長あちと花娘の様子からして、約束は守ってくれるみたいだから問題はないだろう。
「さて、いろいろ脱線したがこっからが本題だ。まずガキども処遇についてだが、ある計画に利用することにした」
「「「計画?」」」
支部長の言葉に俺と花娘と犬娘が首をかしげる。
計画とはいったい……?
「俺たち冒険者ギルドは北部方面前に冒険者ギルドを建設するため、新たな街を作ることを決定した」
「その街を作るための土地というのが、おぬしらが暮らしている場所じゃ」
……。
…………。
………………へ?
「「「――えぇえええええええええ!?」」」
二人の言葉に俺たち三人は驚く。
俺たちの拠点が街に!?
しかも冒険者ギルドのために作る街だから、当然、冒険者でもある人間も暮らすわけで!?
もしかして、俺、拠点から追い出されるわけ!?
「まぁ、驚くのも無理はねぇ。なぜ、お前らの土地に冒険者ギルドと街を作るのか。現代、このリーベルク大樹海での冒険者ギルドの立ち位置についてから話しておこう」
そういって、支部長は語り出す。
リーベルク大樹海に冒険者ギルドが建設された切っ掛けは十八年前。
当時、西の地方ではアダナギ教が支配する宗教国家とそれに同盟した各国家が、独裁国家である帝国と戦争をしていた。
戦時中、中立組織である冒険者ギルドは社会的な理由から、アダナギ教に協力して、傭兵という形で戦争に参加。最新技術による脅威の軍事力を所有する帝国が相手に苦戦を繰り広げたが、最上位の冒険者たちとアダナギ教が導入した“勇者たち”により勝利は後者に傾いた。
そして、アダナギ教が帝国に侵攻し帝国の王族を打ち取れは終戦。冒険者たちは多額の報奨金を手に入る予定だった。
――魔族と神話の魔王たちが戦場に現れるまでは。
「神話の魔王たち? それはどういう意味で――」
「言葉の通りだ。一千年前、神話の時代で大暴れ足した魔王たちが蘇ってアダナギ教とそいつらに加担した奴らを皆殺しにしやがった」
「なっ!?」
支部長の言葉に俺と犬娘たちが驚く。
魔王ってたしか、神話でもう滅んでいる存在だったはず。それが全員、蘇って俺の同族と一緒に戦場でヒャッハー!したのだ。荒唐無稽にもほどがある。
支部長はさらに語る。
突如として戦場に現れた魔族と魔王たち。
彼らは帝国に加担し、その圧倒的な武力で戦況はひっくり返した。
結果、アダナギ教をはじめとした国家や組織を壊滅状態にまで追い込まれ、冒険者ギルドも大勢の冒険者たちを失い、かなりの損失を出してしまった。
その後、第三の勢力によって連合と帝国との戦争は終結。
帝国は魔王の支配下に置かれ手出しできない状態になった。
で、ここからが冒険者ギルドとこの大樹海に拠点を置く理由だ。
まず、先の大戦により多くの資源と人員を失い経済が傾いた国々は資源確保のために、不可侵領域指定であったこの大樹海に冒険者ギルドを建設し、物流の中心部として運営することを決定。
これにより、損失した分を取り戻し、経済を回復させることができる――はずだった。
冒険者ギルドと拠点を建設するも多数の問題が起こった。
その問題点のひとつが人員不足である。
先の大戦で傭兵として参加していた熟練の冒険者たちが戦死もしくは重傷を負って引退したりと大勢の冒険者がギルドから去ってしまったのだ。
結果、残ったのは一部の熟練者と新人だけ。
圧倒的な人員不足を重く見た冒険者ギルドの上層部は即戦力として冒険者育成学校をはじめ、軍事学校さらに魔法学園など多くの卒業や主席をスカウト。
人員不足を補えると一時期安心したが即戦力といってもこの大樹海の魔物と互角に戦えるだけの実力や経験が浅く、戦力としてはあまり期待できなかった。
つまり、その即戦力の一部がこの集落で隔離されてる青年少女の冒険者たちのことだ。
おかげで国々に納品するための資源を確保するのが難しくなり、人経費も加算で経営が厳しい状態となっていたと――。
「つまり冒険者ギルドって、今、火の車?」
「そこまでじゃないが余裕がないのは確かだな。それに、今の冒険者のレベルだとこの樹海を探索できる奴は二桁しかいねぇ。各国に納品するだけの労働力が足らん。この樹海と渡り合えるほどのレベルに鍛え直すにしてもどうしても新しい狩場が必要になる。そこでご老公に頼んでいい土地を紹介してもらったら、テメェらが住処にしていた場所だったわけよ」
「なにせ、おぬしらが暮らしている場所は危険区域の手前。修行の場としても、資源確保としても条件に合った場所じゃしのぉ」
なーるほど。
そういう意図があったわけね。
ようするに、人員確保のための教習所を兼ねて収入源を確保するわけか。
効率を考えれば妥当な判断だ。
「――ですが、あの時はあなたたち先住民族にとって大事な秘境。勝手に住んでるわたくしたちが言うのもアレですが部外者のために使用していいのですの?」
「花の大賢者さまの言う通り。あの土地は先祖が大事にしていた場所じゃ。集会で口論になったが、ただ放置するだけなのは子孫としてどうなのかなっというわけで。整備もせず風化させるだけならいっそのこと誰かのために使ったほうが先祖やかの王も喜ぶじゃろということで結論したわけじゃ」
「だが、すぐに実行するわけじゃねーぞ。冒険者の拠点として使うからには寝食ができるかどうか確かめなくてはいけねぇ。そのために実験として現役の冒険者が並みに生活ができるかどうか試すわけさ」
「その、現役の冒険者……もしかして……」
「てめぇらが牢屋にぶちこんだ、ガキどもだ」
え、あいつらを?
一様鑑定してステータスを確認したけど、たしかに一般の人間より強いがあのエリアの難易度を考えれば、まだまだレベル不足なんだけど。
「本来なら規則違反などで奴隷落ちになるかもしれないが、実験体として使えば処罰を軽くする予定だ。じゃないと、後ろ盾でやる権力者どもがうるせいからな」
「世知辛いうえに甘いですわね。彼らが実験体として正し判断ができるのかどうか怪しい所ですわよ」
「あれでもいちよう期待の新人だからな。自分の眼でみて物事を理解できなきゃ、冒険者はやってはいけねぇ。むろん、ベテランの冒険者も追加で派遣する予定だ」
支部長もあいつらをすべて任せるつもりは無いだろう。
とことん、信頼されてないなあいつら。
しかし、どちらにしろ、俺たちのが住んでいる場所がほかの人たちも住む予定なわけで――。
「つまるところ俺たち追い出されるわけ?」
「本音を言えば、こちらとしてはそれが都合がいいんだがなぁ」
俺がそういうと、支部長が言葉を濁らせた。
「外の奴らから聞いた話だと、おまえら、その土地で好き勝手に開拓しまくってるんだってな? しかも、内容から近代都市並みの街並みだとか」
近代都市というか明治時代の文明開化レベルというべきか。
違いがあるとすれば街中でゴーレムが徘徊しているくらいだろう。
「あのアルラウネが知恵と技術で開拓した土地だ。俺たち凡人には手を出しようがねぇ。かといって、そんな魅力的な土地をあきらめるのは権力者としてみすみす見逃せねぇーのが人間さまだ」
「ならば、手筈通りにか?」
「あぁ。こいつらにも協力してもらうしかないな」
こそこそと支部長と犬娘の祖父が話す。
なんか面倒くさそうな予感がする……。
「話の内容がなんとなく察しますが、要するにわたくしたちはいつもどうり暮らしてもいいってわけですか? 厄介者付きで」
「そうなるってことだ」
いやいやいやっ!?
なにサラっと面倒ごと押し付けようとしてるわけ!?
こっちはコミ症なの!
対人恐怖症じゃないけど、あんな予備DQN共を近くに置きたくないんだけど!
丁重かつ冷静に断らなくては。
「いっとくけど、俺、魔族だぞ。オークだぞ。人間の敵で、女の天敵の。そんな危ない奴の懐を生かせて大丈夫なのか?」
「ガキどもはビビるだろうが、そこは俺が説得しておく。実際、俺にも魔族の悪友がいてなぁ。必ずしも魔族がただの下種の極みじゃないことは十分承知してる。――この際だ、あいつらに魔族に対して認識を改めさせたほうがいいかもしれん」
ニヤリと黒い笑みを浮かべる支部長。
鬼畜だなこのおっさん。
というか魔族の親友いるのか。
「んで、最後に儂が説明するが、土地を与える代わりに、拠点――というより街じゃな。おぬしらの十五年の努力による賜物でそーなったわけだし。その街で出た利益の四割が各先住民に分配、そして、街の責任者……儂らでいうところの長を儂ら先住民の誰か一人が代表者として選抜されることになる」
と、居住を前提に話を進める犬娘の祖父。
あかん。もう口出しできる空気じゃない。
KYになりたくないので、あきらめモードで話を聞きながら犬娘の祖父に質問する
「それで、その代表者は誰に?」
「これじゃ」
そういって犬娘の祖父は犬娘に指さす。
「……え、私?」
突然指名された犬娘が呆ける。
俺と花娘とほかのコボルトたちもキョトンとする。
「言っておくが、儂が孫可愛さにおぬしを推薦したわけではないぞ。他の長たちとの議論で決めたことじゃ」
「長全員!? でも、なぜ、私が選べれたのか、理解できない。……ほかにも優れた者も、いるのに……」
「去年、他部族との対抗戦で優勝したであろう? 相手は長たちの自慢の孫娘たちで全員が魔人型だというのに、未進化でありながら全員返り討ちにしたことが長達の中で強く印象に残ってたみたいでのぉ。それが決め手となったかもしれん」
対抗戦?
確か数年前、そんなことやって優勝したと本人から聞いたことがある。
「危険区域近くの拠点の責任者となると生半可な実力者はダメだ。圧倒的な強さとカリスマ性、そして責任感が必要になる。今回の襲撃で、おぬしは儂の代わりに仲間たちをうまく指揮し、敵を鎮圧させた。それは長としての素質は十分あることは明白じゃ」
「だけど、私だけの功績じゃない。オーズや、ラウラがいたから、できた、こと。まだまだ未熟者の私は新たな長になるなんて、とても……」
「……シャルロットよ」
犬娘の祖父は己の巨体を縮こませせ、犬娘の目線で語る。
「おぬしそこまで自身に厳しくするのか、儂には分かる。同年代の者たちは二段階目の進化をしているのに二十五年もたっても進化もできず、母親がたどり着いた武の極致にもたどり着いてはおらん。だが、新たなことに挑戦することはおぬしの糧となることもある」
「…………」
「それと、頑なに儂らのことを心配するな。儂の孫娘だからと言って、責任感を背負う必要はなし、なによりおぬしの役目は儂らを守ることではない。我らの掟を、文明を、学び、考え、生かし、新たな世代に伝えること。それがこの土地で生きる者たちの大切な役目じゃないのかのぉ」
「…………」
チラリと、こちらに視線を移す犬娘。
その眼には「どうすればいい?」というばかりの想いが込められていた。
故に俺は何も語らない。
これは犬娘が決め無くてはいけない選択。
部外者である俺が彼女の意思を委ねるのはお門違いだ。
隣にいた花娘も同様に口を閉ざしている。
犬娘は沈黙して目を閉じて考え込む。
その時間は三分も掛からなかったが、彼女にとっては数時間ほど長い物だっただろうか。
目を開けたのその瞳に、一つの覚悟が宿っていた。
「……わかった。コボルドの長の孫娘、シャルロット。新たな土地で長になること、我、宣言する」
「うむ、その言葉、コボルドの長として聞き入れたり」
その言葉に犬娘の祖父は頷く。
一瞬だが嬉しそうに口角が上がったように見えた。
「よし、そうときまれば無礼講だ! 酒とつまみもってこーい!」
「「「「「やっほー! 二次会だぁああー!」」」」」
さっきまで黙っていた外野が支部長を筆頭に騒ぎ出す。
というかノリいいなお前ら。
その人、お前らを襲撃した上司みたいな人なんだど……。
――けどまぁ、我が義姉がある意味で俺たちの街の長になったんだ。
称賛するのは当たり前だろう。
俺的には重要そうな役目を押し付けられた感じがするが、もしものときは俺と花娘でサポートでもしておこう。
あの義姉、一人で何でもしようとする悪い癖があるし。




