一ノ瀬蓮、スマート(?)に爆走す
今回は一ノ瀬蓮視点のエピソード再び!
天音ちゃんとのスマートなデート(?)を企み、完璧な学会テーマを引っ提げて所沢駅前店に乗り込んだ一ノ瀬。
「在庫率のことでエリア長から厳しいツッコミを受けてへこむ天音ちゃんを、俺が完璧に救って惚れさせてやるぜ!」と意気込む一ノ瀬ですが、相変わらず天音ちゃんの脳内では「私に花を持たせてくれる犯罪級イケメン……!」と特大の尊いフィルターが全開で誤作動を起こしていて——!?
絶妙にズレ続ける二人の学会準備の行方をお楽しみください!
俺は一ノ瀬蓮。
スマートな俺は、天音ちゃんの店舗の混み具合も、自店舗の混み具合も完全に把握している。すべては……恋のためだ!
しかも、悪魔課長で噂の神崎課長のお墨付きももらっている。
店舗が混まない時間を狙って、迷惑をかけないスマートなタイミングで、天音ちゃんに学会の話をしに行く。万が一、途中で患者さんが来ても、新人である橘がいれば十分に対応可能というわけだ。
前回の事前打ち合わせで、天音ちゃんはパタパタと焦りながらこう言っていた。
「わっ、私……クリニカルクエスチョンとか、いくら考えても必死で思いつかなくて……っ!」
ふっ……可憐なレディめ。
安心しろ。そんなことだろうと思って、この俺がすでに完璧な企画案を引っ提げてきてやったのさ!!
これを見せれば、神崎課長はもちろん、隣のエリアの陣内や、あの氷室涼香だって腰を抜かして舌を巻くこと間違いなしだ!
そうして意気揚々と所沢駅前店に乗り込んだ俺だったが——。
店に入るなり、天音ちゃんがそわそわと店舗の在庫を必死に絞り込んで整理している姿が目に入った。
(……それにしても、神楽坂エリア長め!)
この間、あんなに綺麗で完璧な店長セミナー用のデータを送ってやったというのに、あの鉄のエリア長め、直接評価しに来たときはこう言い放ったらしい。
「素晴らしい。二人ともよく出来ているが……強いて指摘するなら、まあ、在庫率がな」
——って、くっそ!!
どんだけ高望みしてんだあの眼鏡上司は!! ドチャクソに手放しで褒めちぎるところだろうが!!
なのに、そんな理不尽な(?)指摘を真摯に受け止めて、愚直に在庫整理を頑張っている天音ちゃん……。
どんだけ健気で可愛いんだ、ちくしょう……!
俺の姿に気づくと、天音ちゃんはパタパタと小走りで近づいてきて、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごっ、ごめんなさい一ノ瀬薬局長! やっぱり私、全然いいテーマ思いつかなくて……。こんな在庫回転率の改善なんて、日本薬局協会に出せるような大層なもの作れそうにないよ……ごめんね……!」
はっ……?
自分が怒られるかもしれないどころか、俺の足を引っ張っていると勘違いして、俺のことを気にし合って謝っている!?
なんなんだコイツは……天使かよ!!
ん? 待てよ。
ここで俺がスマートに完璧な解決案を出してやったら……。
……惚れちまうんじゃねーのか、俺に?
ニヤリと笑みを浮かべ、俺はめいっぱいキザな口調で言い放った。
「心配しなくていいよ、天音ちゃん。……君のために、俺がすべて考えてきたからさ」
その瞬間、天音ちゃんは完全に頭がショートしたような顔になった。
(はわわわ……もう……カッコよすぎるっ! 何言ってるのか全然頭に入ってこないよぅ……! エリア長からも厳しく指導されて大変だったのに、一ノ瀬先生まで眩しすぎて私のキャパがオーバーしちゃう!)
かろうじて、彼女は潤んだ瞳で聞き返してきた。
「あ、あの……どんな題名なの……っ?」
俺はこれ以上ないほどの羨望の眼差しを浴びながら、ビシッと胸を張って告げた。
「テーマは——『調剤支援ロボの導入と服薬アドヒアランスの向上、また疼痛管理薬のセットとレスキューとその課題』さ!!」
ドヤァ……!!
完璧だ。決まった……!
「えっ……ええっ!? それじゃあ、発表のメインテーマが全部一ノ瀬薬局長の話になっちゃうよ! 私なんか、ただの腰巾着になっちゃうよう……っ!」
あまりの可愛さに、俺は危うくブホッと吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「大丈夫だよ、天音ちゃん。結果を出すためのデータ集計や解析のサポートは、ぜひ君にお願いしたいんだ。実際に臨床の症例やストーリーを作るのは俺の役目だけど……実はさ、俺、こういう細かい計算や数字の処理は……ちょっと苦手でね」
……ふっ。男の見栄というやつさ。
実際のところ計算は余裕だ、ここで「俺が全部やる」と言うより、天音ちゃんに「頼りにしている」と伝えたほうが、彼女のモチベーションも上がるし、何より近くにいられるからな!
だが、俺のそんな優しい配慮(?)を受けた天音ちゃんの脳内では、まったく違う方向にエンジンが爆発していた。
(ヤバ……ヤバすぎるわ……っ! 尊すぎる……ッ!!
こんな超絶ハイスペックなイケメンエリートが、計算が苦手なわけないじゃない!!
私に少しでも自信をつけさせるために、あえて「苦手だから手伝って」って言って……私に花を持たせようとしてくれているの……!?
なんなのこの人……優しさと慈愛に満ちた、国家資格持ちの犯罪級イケメンなのかしら……ッ!!)
互いの思考回路が絶妙にねじれ、すれ違ったまま——。
私たちの熱くて甘い(?)学会準備は、こうして盛大にスタートしてしまったのだった。
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