31羽目:生まれて飛び出てふわりふわり
アルカナの核が割れて、突如――光があふれ出し、空気が震えた。
「やば、爆発する系だった?!」
思わず後ずさる。
「え、何してるの?!」
みぃも手を止め、目を見開いてこちらを見ている。
そして、光の中から声がした。
―― 『契約者、確認。記憶の封印、解除を開始しますか?』
「へ? 契約者?」
砕けたナッツから響いたその声は、どこか機械的でありながら、不思議と意志を感じさせた。床に転がった核の割れ目からは、淡く光る六角形の魔法陣が浮かび上がっている。
「ルーイ……何やったの……?」
みぃが、ジト目でこちらを見てくる。
「えっと……アルカナの核を盾でバキッとしたら、中がピカーッてなりましてね? あとは、まぁ……ご覧のとおり?」
「料理でなんで盾? どうしたら物理攻撃スキルが出てくるのよ……」
「いや、包丁じゃ割れなかったし……割る道具がなければ、力でいけるかなって……?」
……ただ、ナッツを取り出したかっただけなんです。
そして再び、魔法陣が問いかけてくる。
―― 『契約者、確認。記憶の封印、解除を開始しますか?』
「みぃ、これどうしたらいいかな……? クエストっぽいけど、YES・NOも出てこないし……」
「私もこういうの初めて見たわ。この魔法陣を解析したら、何かわかるのかも……」
みぃはそう言って、インベントリから余っていたスープを取り出して飲み干すと、床に座り込んだ。
ぶつぶつと呟き、指先で空中に術式を描いていくと、魔法陣が再び反応した。
――『記憶の封印、第一段階――解除完了。契約者、二名登録確認。次なる記憶の核を求め、封樹を巡行せよ』
「二人? 封樹? え、なにそれ??」
魔法陣の中心から、光の粒がふわりと舞い上がり、空中に地図のような幻影を描いた。その上には七つの点が浮かんでいる。
「解析してみたら、穴埋めパズルみたいになっていて、文字をはめてみたら『七つの封樹。各地に散らばる精霊王の記憶。全てを集めし時、閉ざされていた道が開かれる』って書いてあったの。契約者を入力する欄も出てきたから、二人の名前を入れたら解除されたみたい」
ゲームだし、変な契約じゃないなら安心かな……? まぁ、二人で遊べるならいいか。
「内容からして封印を解いていく感じかな? この七つの点が記憶の場所ってことだよね? でも、光ってるのが五個しかないのはなんでだろう?」
「こっちの黒いのはもう見つかってるってことじゃないかしら。こういうのって重ねると……ほら、ここ私たちが素材集めした森のあたりよ」
「すごっ、よく地図と重ねるってわかったね」
「ミステリーゲームの謎解きによくあるのよ。ただ、大体の場所はわかっても、どうやって実を見つけるか……これ、妖精にもらったんでしょ?」
二人で悩んでいると、地図の下に浮かぶ核がもぞもぞと動き出し、風とともに殻が舞い上がった。
「えぇ?!」
思わずみぃを庇って盾を構えた。けど、衝撃が続くことなく、風がやんだ。いつのまにか、割れた核から、緑の光に包まれた小さな妖精が浮かんでいた。
白と緑のポンチョのような服装を纏っている。相変わらず、顔は光っていて見えないけれど、透明な羽には風のような模様がある。森の妖精さんの仲間かな? とりあえず、アルカナの核から……生まれた? アル太郎? いや、アル子……?
すると、風が吹き抜け、風鈴のようなかすかな音が響いた。
――風……よぅせぃ、ヴェル……ディス、アエ……リオン
――よろ、し……く、ルーイ……みぃ
その儚い風の音は、風の妖精の名乗りだった。
「風の妖精さんなんだね。ヴェルディス=アエリオンかな。じゃあ、ヴェルさんだね! よろしく! とりあえず、お近づきの印に三人でお茶にしようか? ヴェルさん、甘いもの好き?」
ファーストコンタクトって大事。挨拶もだけど、同じ釜の飯を食べるとより仲良くなれる気がするんだよね。状況も整理したいし、空腹と水分ゲージが半分を切っている。先ほど作ったスコーンとアルカナジャムをインベントリから取り出して見せると二人。いや、一人と一妖精の表情がぱっと明るくなった。まぁ、ヴェルさんの顔は光ってるから見えないけど、なんとなくわかる。
フェイリーフで淹れた導きティーと一緒に、スコーンにたっぷりのジャムを塗って食べることにした。
みぃは食べ終えると、満足そうにお茶をすすった。ヴェルさんはまだ食べてるし、慌てなくてもいいか。自分の体と同じくらいのサイズのスコーンなのに、器用に割って食べている。てか、その小さい体のどこに入ってるんだろう。
「ヴェルさんはまだ食べてるから、あとでお話するとして。みぃの実験、今のところどう?」
「ある程度、成功しやすい素材はわかってきたかな。羊皮紙やガラスみたいに表面が平らなものは成功率が高いけど、加工してない鉱石や宝石はほぼ失敗。やっぱり平らじゃないと難しいみたい。見て、これ」
そう言って、みぃはインベントリからいくつか瓶を取り出す。それぞれの瓶の中には粉々になった鉱石の残骸が詰まっていた。
「加工済みの宝石や鉱石なら表面がガラスみたいなんだけど。高いし手に入りにくいのよね。そっちの実験はできそうにないのが残念」
ヴェルさんがスコーンを美味しそうに頬張る様子を見ながら、ふと思いついたことを口にしてみる。
「……この粉々になったやつ、水分で練って成形して、乾燥させてから焼いたら……平らな素材にできないかな?」
みぃはアゴに手を当てて、しばらく考え込む。
「陶器みたいにするってことね。それ、いけるかもしれない……やってみる」
さっそく、みぃは残骸と魔力水をボウルで混ぜ、泥団子のような塊をバットに広げていく。
乾燥は低温の魔導炉で……と思ったところで、ヴェルさんが口いっぱいにスコーンを含んだまま、みぃの服を引っ張り、自身を指さした。
「乾燥してくれるの? じゃあ、お願いしてもいい?」
うんうんと頷いたヴェルさんは、空中で指をくるくると回し、風の渦をバットに巻き起こす。
あっという間に素材が乾燥し、固まった。
そのまま、なぜか800℃まで上がる魔導炉に入れて素焼きする。焼き上がった後も、ヴェルさんが風で冷ましてくれた。陶器づくりなら二度焼きだけど、今回は実験だから一度の素焼きで十分。
みぃがスキルを唱えながら、結果を確認する。
「成功率、上がった……! でも、やっぱり少し表面のデコボコが影響して、成功率は半々ってところかしら。ただ、羊皮紙よりも効果はいいわ」
「表面のデコボコかぁ……そういえば、グラウスさんはマナスライムの核で蓋みたいなのしてたけど、逆にそれをフィルターみたいにして、上から書き込むってできないの?」
「その発想はなかったわ……。それ、試してみよう。うそ……成功率100%に跳ね上がったんだけど……!」
みぃが驚きの声を上げた瞬間、彼女の周囲に淡い光の粒が舞い上がった。
みぃ:「そういえば、この作品2万PV行ったみたいよ、ルーイのやらかしが2万回も……」
ルーイ:「ほぇー!それはめでたいね!って、やらかしてないわい!」
みぃ:「よくわからず核割ったの誰よ。爆発しなかったからよかったけどさぁ……」
ルーイ:「それに関しては、ごめんちゃい」
みぃ:「お祝いと私へのお詫びにリアルでスコーン2万個作ってね」
ルーイ:「工場か何かかな?そんな食べたら、ふと……。なんでもアリマセン。愛情タップリ籠めさせていただきますので!その紫の瓶はしまおうか?!」




