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VRゲームで鳥をもふもふしたいだけ!  作者: 音夢


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30/72

28羽目:導きは唐突にやってくる

今日は2人の視点で書いてます

 【魔力転写術式エンチャント・インスクリプション】あの錬金術式のスキルではないが、基本ということは、レベルか条件で派生するものなのだろう。


 錬金術師は、ゲーム内では生産職と呼ばれるカテゴリーに属する。

 戦闘では火力もなく、サポートも中途半端。前線では、正直あまり頼りにされない。それでも私は、この職業が好きだった。

 まるで科学実験のように、万物の素材を組み合わせ、結果を導き出すその過程がたまらなく面白いから。


 ルーイが「箱あるをやる」と言ってくれたときは、本当に嬉しかった。

 でも、ルーイの性格を考えれば、生産職を選ばないことは分かっていた。案の定、どのゲームでも難易度が高いとされる盾タンクを選んだ。誰かを守るために、最前線に立つ職業。まぁ、半分以上は鳥だったけど、それでも彼女は勝手に体が動いて誰でも守りに行くのを知っている。


 ――だからこそ、私も変わらなきゃいけない。


 ただ生産しているだけじゃ、ルーイを支えきれない。

 オークリーダーとの戦いで、それを痛感した。

 レベル差があっても、私は何もできなかった。

 ルーイが本気で楽しめるように、そしてタンクとしての力を最大限に活かせるよう、私はもっとスキルを覚えるんだ。


 何度目だろうか、紙の上で暴れた術式の残骸を片付け、私は新しい紙を前に深呼吸して、魔力ペンを握り直した。


 思い出すんだ。

 お師匠様は魔力を流し込み、術式をレンズに定着させた。

 流れを確認して、均一に転写されているかを丁寧に見ていた。最後に、マナスライムの核で術式を封印する。


 私のはバランスが取れていない。頭では理解している。けれど、手が追いつかない。

 魔力の流れが少しでも乱れれば、術式は暴走し、紙はあっという間に破れてしまう。


「チッ……力任せにやっから紙がまた無駄になっちまっただろうが」


「今のはぁ、ちょっと右側に魔力が偏ってましたねぇ。でも、バランスは確実に良くなってきてますぅ。この調子ですよぉ」


 お師匠様の叱咤で張り詰めた空気が、マルクスさんの間延びした話し方でふっと緩む。


 ――ルーイの力になりたい。

 その想いを、魔力に乗せて。


 私はもう一度、術式を書き始めた。

 今度こそ、想いが形になるように。




 * * *


 森の朝は静かで、空気が澄んでいた。

 昨日と同じルートを辿りながら、2人で集めたものは同じ手順ですべて集めた。星鉄は岩肌に沿った鉱脈から削り出し、透明石英は水辺近くの岩場で採取できた。


 昨日の経験が活きているのか、作業は驚くほどスムーズだった。

 ちなみに、昨日みぃが持っていた星鉄や透明石英をどうやって見つけたのかというと――お師匠が、道具一式と一緒に、採取場所の地図とメモを全部セットで用意してくれていたのだ。優しさのハッピーセットかな?


 あまりにも早く終わってしまったので、少しバードウォッチングでもしようかと森を歩いていた。

 静かに佇む、屋久杉ほどの大きさもある大木を見上げていると、風もないのに蔦に生えた葉がゆるり、ふわりと揺れた。


 《森識鑑定鏡バイオスコープ》を装着して覗いてみる。


 【フェイリーフ】

 自然魔力に敏感で、風がない場所でも葉が揺れたり、音を立てたりする。妖精の通り道に生えており、精霊の気配を探るのに使われる。



 すると、葉の裏から、小さな光がふわりと舞い上がり、目の前に人差し指ほどの大きさの人型の光が現れた。


 わぁ、妖精だ。


 くるりと宙を舞うその姿は、全身が光っているので目線はわからない。けれど、こちらをじっと見つめているような仕草は、まるで心の奥を覗き込んでいるようだった。


「初めまして、妖精さん。うち、ルーイっていうんだ。これ、フェイリーフだよね?よかったら、少し分けてもらえないかな。あと、おすすめの食べ方とか教えてもらえたら嬉しいなぁ」


 妖精はしばらく沈黙したあと、ふわりと舞い、本人の体と同じサイズの葉を何枚か手のひらにそっと乗せてくれた。

 そして、空中で指をくるくると回すと、ポンっと一冊の本が現れる。


 表紙にはこう書かれていた。


 『愛情で煮込む妖精ごはん~彼の心も胃袋もいただきます♡~』


 妖精界にもこういうのあるんだ……?

 もしかして、あの注意「どんな種族でも、女性に年齢や彼氏の有無を聞くのは絶対NG」って、こういうシチュエーションでうっかり聞いちゃう人への警告だったのかも?


 この妖精さんも光っているので性別はわからないけど、デリカシーのない人がこの本のタイトルで「え、君、女の子なの?!彼氏どんな妖精?!」とか言いそうだな……。


「ありがとう!あ、ついでにこのグリモヴァインにも記憶させてもいい?でも、魔導書じゃないからダメかな?」


 妖精は首を横に振り、本を指さしてから両腕で頭の上に丸を作った。


 お、本ならなんでもいいんだ。良いこと聞いた!

 でも、ただ挟むだけじゃダメだからね。しっかり読み込んで、ちゃんと覚えよう。これハーブティーか、導き……魔法の設計図……ふむふむ。


 * * *


 ついに、安定して紙に書き出せるようになった!

 次のステップはレンズへの転写。けれど、ガラスは紙より魔力が定着しにくく、筆圧のバランスが崩れると術式が暴れ出す。


 今の転写術式(インスクリプション)の成功率は50%。

 クエストバーの進捗が止まっているということは、100%成功しないと達成にならないらしい。


 どうしたらバランスを安定させられるんだろう……。



 難航していたところで、ルーイが採取から戻ってきた。

 レンズの準備に取り掛かってから、練習を再開する。

 またレンズがダメになる。割れるたびに、心も削れていく。


「材料がもったいねぇから、外で頭冷やしてこい」


 お師匠様にそう言われ、外の空気を吸いに出ていると、しばらくして、ルーイがお茶を持ってやってきた。


 一口飲むと、シソのような爽やかな香りとハチミツの甘さが口いっぱいに広がり、凝り固まった体と頭がふわっとほぐれていく。


「これ、美味しい」


「さっき取ってきたんだ!フェイリーフで作ったハーブティーだよ。今のみぃに良いかもって思って!大分苦戦してるみたいだね?」


「うん、魔力が筆圧によって変わるんだけど……上手く均一にできなくて」


「それって漢字の書き取りみたいに、目安になるものとかあれば上手くいきそう?」


「……うん、あれば。今は一発描きみたいな感じだし」


「ふふっ、じゃ大丈夫。みぃなら絶対できるよ!」


 ルーイはそういって、私の肩に手を置いた。



 まさかガイドラインが出てくるとは思ってなかった。

 飲み終わった後に『精霊の導き』というバフが付いていて、レンズに向き直るとうっすらと模様が浮かんでいた。

 それをトレースするように転写したら成功した。


「ふん、ギリギリ合格ってとこだな。だが、これで満足してるようじゃダメだからな!まぁ、暇な時に腕くらい見てやるよ」


「……お師匠様!ありがとうございます!」


「ここに留まらねぇやつは弟子じゃねぇ!破門だ!俺ぁ、グラウスだ!覚えておけ!次におじいちゃんや師匠なんぞ言ったら錬金窯で煮込んでやるからな!邪魔だからこれ持ってさっさと失せろ!」


 お師匠様が名乗った。

 そして、視界の隅にピコンと表示が現れる。




 ――《依頼クエスト:『マリーからのお使い』をクリアしました》


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