21羽目:煽るのって難しいよね?
正面には突進するトッコーボア、背後には殺気をまとったオークリーダー。どちらを盾で防いでも、どちらかの攻撃を受けることは避けられない。
絶体絶命のピンチ。
さっきあんなことを言ったのに、作戦を実行する間もなく終わってしまうのか!?
大丈夫って言ったのにぃぃ! どうする、どうする――!!
「【ファイヤーボール】!」
みぃが羊皮紙を開くと、赤い光が紋章をなぞる。
オークリーダーの背中に燃え上がる炎の玉が当たり、バランスを崩したのか、走る速度が落ちた。
炎の玉のおかげで、わずかに早く猪が盾に衝突したのを右へ往なし、トッコーボアはどこかへと直進していき、すぐに背後へ向きを変え盾を構える。
しかし――もう拳が目の前に迫っていた。
でも、走るスピードが落ちたせいか、拳の勢いも弱まっている。
ナナメ下から狙いを定め、振り上げるように盾のフチを当て、軌道を逸らした。
背中から煙を立ち上らせながらも、肩で荒く息をするオークリーダーは、なおも大地を踏みしめていた。
強い……だが、負けるわけにはいかない!!
「グゥオオッ!」
威勢よく右腕を振りかぶるが左へ回避すると、勢い余ったオークリーダーが地面に倒れ込んだ。
「グオッ!」
短剣のダメージは低い――しかし、急所ならどうだ!
体は人間に近い構造ならば、急所もうちらと同じのはず。
昨日の会話が脳裏をよぎる。ならば、お前の弱点の一つは目でしょ!!
短剣を思い切り左目へと突き刺した。クリティカルエフェクトとともに、赤いポリゴンの飛沫が舞い、オークリーダーがのたうちまわったので手を離して距離を取る。
「グガアアアアアアアアア!!!」
よろめきながらも立ち上がると、短剣が刺さったままの左目から赤いポリゴンが滴った。
血走った右目が憎悪に燃え、こちらを睨みつけてくる。
ふいに、聞きなれたあの音が聞こえた。
ナイスタイミングだ、ならば仕上げと行こうじゃないか!
「やーい!お前のかーちゃん牡丹鍋!べろべろばー【挑発】!」
インベントリから回復薬を取り出し、口に入れ、盾を正面に構える。
「グゥオオオオオオオオアアアアァ!」
地面をめり込ませるほどの勢いで蹴り込み、突進するオークリーダー。猪らしく正面から来てくれてありがとう!
暗殺者はAGIが高いからね。ギルドでの記憶が脳裏をよぎる。
もう速さでは負けないよ。
【反転 AGI】
頭の中でつぶやく。思考操作によるスキル選択だ。
瞬間、VITに振り切っていたステータスがAGIへと反転し加算され、景色が変わる。
オークリーダーの動きが遅くなり、攻撃の軌道がはっきりと見えた。
ぐっと踏みしめ、地面を蹴る――
「グァゥ?!」
突如目の前に現れたことに驚き、オークリーダーが怯む。
その隙を逃さず、盾を下から上へ振りあげて殴る。また赤いポリゴンの飛沫が激しく弾け、下からの衝撃によって後ろにのけ反った。
「グゥオオオ……!」
続けて三段跳びの要領で腹を蹴り、さらに高く跳躍し、みぃに合図を送る。
「【ポーションボム】!」
背後でタイミングを図っていたみぃが瓶を投げ、弧を描くように飛んだポーションが、リーダーの膝裏に直撃して破裂する。衝撃に耐えられずよろけて、後ろに倒れ込んでいく。
どうだ!膝カックン爆弾成功!
さてリーダーくん、硬いもので頭をぶっ叩かれて、さらに地面に叩きつけられたらどうなると思う?
答えはね、とてつもなく、痛い!!
【反転 VIT】
これが!最後の一撃だああああ!!
【シールドチャージ】
盾にすべての力を込め、オークリーダーの頭へと叩きつけ、両腕から全身へと衝撃が走る。
リーダーが頭から地面へとめり込んだ瞬間、赤いポリゴンが激しく弾け飛ぶ。
同時に、盾を持つ自分の腕からも赤いポリゴンが散り、HPバーがみるみる黒に染まっていく。
口の中に入れていた回復薬の瓶を歯で砕くと、減っていたバーが徐々に元へと戻っていった。
盾をどかすと、そこには頭がポリゴンとなって散っていくオークリーダーの姿があった。
静寂を破るように16回目のファンファーレが頭上で鳴り響いた。
「「か、かったぁー!!!」」
勢いよく駆け寄って、思わず抱き合う。
そのまま力が抜けて、二人して地面にへたり込んだ。
終わった、でも……ファンファーレとピコンピコンが止まらないんですけど。
視界の隅で次々に浮かぶ通知。
どうやら、頑張った分だけちゃんと報われたらしい。
《Lv16に到達しました》
《Lv17に到達しました》
《Lv18に到達しました》
《Lv19に到達しました》
《Lv20に到達しました》
《スキル【急所突き】獲得》
《【落下耐性小】獲得》
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【急所突き】アクティブ
獲得条件:敵の弱点部位に対して、クリティカル攻撃を成功させる。
効果:対象の急所を狙って攻撃を行い、通常攻撃より高いクリティカル率と追加ダメージを与える。
【落下耐性小】パッシブ
獲得条件:落下ダメージによってHPが一定以下まで減少した状態で生存する。
効果:落下によるダメージ10%軽減する。
「汗もかいてないし、息は切れてないのに、マラソンの後みたいに、心臓がバクバクする感じだけして不思議……。てかなんかめっちゃレベル上がって、スキルとか取れたんだけど!」
「それねー、ゲームのいいところ。レベルアップおめ~、オークリーダーの推奨レベル30だもん、そりゃあがるよ。私もLv33に上がったわ。しかし、最後のあの回復薬の使い方と、戦術のぶっ飛び具合にびっくりだよ……。非戦闘職の私があれを倒せるとは思わなかったけど、ルーイのおかげだね、ありがと」
また褒められた!
「そう?ふへ、へ、うへっへへへ」
「笑い方きもっ、あとずっと思ってたけど、煽り方下手くそかな?」
きもくないもん!あとそれ言わないで!煽った事ないんだから仕方ないじゃないの!バンビーくんに煽り方講座でも開いてもらおうかな……?
トッコーボア1:「ぷぎぃ、ぷびびび(オレ、すぐぶつかった)」
トッコーボア2:「ぷぎぃー・・・(オレも―・・・)」
トッコーボア1、2:「ぷっ(あっ)」
トッコーボア3:「ブオオオオオ!ぴぎぃ?!(うおおおおお!おぉん?!)」
最後にはじかれた子は遠くの方でポリゴンになりましたとさ。
 




