1羽目:おすすめのゲーム
もふもふ
――カラン コロン
扉についたベルが音を立てたので、見ていたメニューから顔を上げる。待ち人がドアから入ってきて、店員さんと軽く言葉を交わしているのが見えた。
手を上げてここに居ることを示すと、彼女もこちらに気が付いたようで、軽く手を上げた。
「おっすー。おまたせした?」
親友もとい悪友の金守 澪だ。
「ういー。うちも来たばっかりだよー。外寒かったでしょ? 早く温かいもの頼もうよ!」
先ほどまで見ていたメニューを一緒に眺めて、コーヒーとケーキをそれぞれ注文する。
お互いの近況や他愛もない話を軽くしていると、程なくして香ばしい香りと共にケーキが運ばれてきた。湯気が立ち上るカップを手に取り、コーヒーに息を吹きかけてから口を付ける。
「あったまるぅ。この、ケーキも美味しいね!」
「だね」
しばらく味わった後に、澪が少しばかり真面目な顔になって口を開く。
「それで……瑠衣、足の調子はどう……?」
「んー? やっと体がバランスに慣れてきて、補助なしで、あちこち移動しやすくなったところ。階段とかややぎこちないけど、平らな道は歩きやすくなったよ!」
ジーンズの上、腰から両足に装着している器具、モビリティーウォーカーをコンコンとノックし、心配そうにこちらを伺う澪に笑いかける。
半年前、春の時期にしか見られない渡り鳥を見に、険しい山道を登っていたら、色々訳あって急斜面から落ちた。脊椎損傷した挙句、左下半身の単マヒとなり、アウトドアは生涯を通してドクターストップとなってしまった。
でも、器具を装着していれば、事故前のように歩くことができた。スポーツ向きの性能はまだ開発されていないので、あくまで日常生活だけならば不自由はない。数か月前に退院し、今もリハビリに励んでいる。
「日常生活は問題ないよ。野鳥を見に行けないのがちょっと寂しいけどねぇ。でも、花鳥園とか、鳥カフェとかあるし! 鳥成分はどこでも摂取可能!」
うち、羽鳥 瑠衣は名前にも鳥が入っているが、小学生の頃にセキセイインコを飼ってから、鳥の魅惑にハマってしまった。
猫派? 犬派? と聞かれたら迷わず鳥派! と舞いながら答えるほど、どっぷりと両足で沼に浸かってしまった。いや、沼に五体投地してるといっても過言ではない。
世界中の野鳥を見るためだけに、山や海に行くほどアイラヴバード。ブじゃなくてヴなのです。
「なんか瑠衣らしい発言でちょっと安心したわ」
「まぁ、うちの取柄は猪突猛進、全力疾走だからね!」
「それで急斜面から落ちてるんだから……鳥愛が行き過ぎて鳥葬されにいったのかと思ったんですけど? もうお忘れで? その脳みそはニワトリかなぁ? なら、チキンらしくブレーキかけてもらってよろしい? ちゃんと『ステイ』して」
「ぎゃふん、申し訳ごじゃいましぇん……」
鬼の形相で怒られているが、めちゃくちゃ心配してくれているから、怒っているんだよねぇ面目ない。
手術後、お見舞い可能になったと連絡したら、一時間後には病院に到着していたくらいだ。仕事中のはずなのに。
「外回りで暇だったから」って、気丈に振る舞っていたが、人事部なのに外回り? と空気を読まない突っ込みは入れなかった。汗かいていたから、走ってきたのに気が付いてたけど、部屋の前で息整えてから入ってくる、いわゆる天邪鬼な子だ。
外回りだ、仕事が暇だ、と理由をつけて頻繁にお見舞いに来たり。退院後も、近所に用事があったから、と家に差し入れや、食材を持ってきてくれたりもした。
最近では、リハビリ後の気分転換に、お茶に誘ってくれている。澪の家からは電車で片道一時間以上はかかるのに、いつもうちの家の方面にあるカフェを指定してくる。たまたま気になってたから行きたかったと。
「もう危ない事はしないよ。誰かさんがまた泣いちゃうからなぁ」
イタズラっぽくニヤニヤと笑いながら澪を見る。
「はぁ? 泣いてないし、まったく泣いてないし!」
むぅ、とした顔でムキになってもねぇ?
「でもさぁ、鳥抜きにしても山登りや海に潜るのは楽しかったから、もうできないんだなぁって思うと、空っぽな感じというか……ちょっぴり悲しい気持ちは拭えないかな」
少しばかり心の本音を漏らし、それを誤魔化すかのように冷めかけのコーヒーに口をつけた。先ほどよりも、苦く感じるのは冷めたからなのか。それとも、少し悲しそうな顔を見せた澪を見たからなのか。
澪は、鳥関連の物を見つけると、いつも教えてくれた。グッズを見かけたら、すぐ写真付きのメッセージを送ってくれたり、さりげなくプレゼントとしてカバンに忍び込ませたり。いつだって、うちを喜ばせようとしてくれた。
渡り鳥もそうだった。本当なら一緒に山登りをするはずだったけど、澪は仕事の都合でこれなくなり、その事に対して罪悪感を抱えているんだと思う。
一緒に居たら、あんな事故はおこらなかったかもしれないって。
まぁ、澪がいたら密猟者に突っ込んでいくなんてことはしなかったかもしれない。でも、あの時は勝手に体が動いちゃったしなぁ。時期外れの罠猟を確認してる人に突撃訪問したら、相手に突き飛ばされて、運悪く結構な勾配のある斜面から落ちたんだよね。
澪が居ても目の前でやらかしていた可能性もあるし、そうなると彼女にとってはトラウマ案件だったかもしれない。なら、逆に一人の方がよかった気もするんだよね。それを言うと、ものすごい泣いて怒るだろうから言わなかったが。
「でも、これを期に、新しい趣味を見つけるのもいいかなって思ってる! 今までやった事ない趣味とか挑戦してみたいし!」
パン、と軽く両手を打ち重い空気を一掃する。これも事実だしね、嘘はついていない鳥に誓ってもいい。
「あ、じゃ私のやってるフルダイブVRMMOゲームやらない? 鳥っぽいモンスターとかもいっぱいいるよ! 今、第三陣解放してるのよね」
「面白いゲームがあるって話してたね、めちゃくちゃ現実みたいだって。はっ!! つまり、そのリアルそっくりな感覚で鳥ちゅぁんをエンドレスもふもふスーハスーハーが大盛お替り自由でやれるってこと?!」
やや鼻息荒く、後半に行くにつれて早口になっていく。
「あ、う、うん……」
おい、おすすめしておいて何ドン引きしてるんだよチミは。
うちの鳥愛はこんなもんじゃないの知っているだろぅ?
「冗談はおいといて、なんてゲームだったっけ?」
「九割本気だったでしょ……まぁ、瑠衣らしいけど」
澪の表情が、先ほどよりも柔らかくなるのを見て、胸をなでおろした。
更新はまったりのんびりです、もふ。




