16羽目:たすけてー!〇〇えもーん!
今日は七夕ッピ!お願いごとは書きましたッピ?
騎士団ギルドを出て、ファウストの転送クリスタルに手をかざして登録を終え、西門へ向かう道すがら――
「ルーイくん、質問です」
「はい、なんでしょうか、みぃ先生!」
「あなたのレベルは、今いくつでしょうか?」
パーティーを組んでいるのだから、わざわざ聞かなくても見えているはずなのに……。わかっていますとも、ええ。みぃがLv32で、うちが……。
「伸びしろの塊、Lv1です!」
誇らしげに人差し指を突き出す。
「そんなに堂々と言うことじゃないと思うの……」
ついさっき剣士に登録して講習を終えたばかりで、まともにモンスターを倒して経験値を稼ぐ間もなく、クエストが発生したからね。
「やっぱりLv1じゃ、ブルンヴァルトまで行けない?」
「これから何個か森を通るんだけど、町の手前にも森があってね。そこを抜けるのに、念のためLv15くらいは欲しいのよ」
「本当に泥船だった!どうしよう、助けてみぃえもーん!」
「仕方ないなぁ、ルー太くんは。どら焼き100個でいいよ?」
「ふとr……ごめんなさい!何でもないです!何も言ってません!」
みぃは満面の笑みを浮かべながら、インベントリから瓶を取り出す。だが、その目は笑っていない。
しかもその液体、ボコボコと泡を立てながら、怪しく紫色に輝いているのだけど?ラベル隠してたけどドクロマーク見えてたよ!絶対1発アウトな液体ですよね?!
「冗談はさておき。第三陣勢だけキャンペーンで、しばらく経験値増加されてるから、進みながらLvを上げれば、森の手前で目標到達すると思うよ」
……本気で飲ませようとしてたよね?押し返すのに、地味に力入れたんだけど?
でも、とりあえずクエストを続行できそうで安心した。
「そういえば、みぃは寝る時間大丈夫?明日が休みとはいえ、家まで来てるし疲れてるんじゃない?夜更かしになりそうだし、うち1人でレベル上げて、後日クエストの続きでもいいよ?」
「休みの前日は夜更かし必須でしょ?途中に村があるからそこで切りよくログアウトしよう。ほら、行くよ!……やっと一緒にゲームできるんだから、まだ寝られるわけないじゃないの」
行くよ、という言葉と同時にみぃは振り返る。
そのせいで、後半の言葉が聞こえなかった。
「え?なんて言った?」
「馬車馬の如くレベル上げるわよ、って言ったの」
ヒヒーン、この子、鬼畜だよぉ!
ファウストの北門を抜け、舗装された道を進む。草原が広がるのも束の間、やがて木々が増え、森の中へと足を踏み入れた。
「スライム発見!べろべろばー!【挑発】フン!」
スライムが赤いポリゴンとなって散った瞬間、ファンファーレが頭上に鳴り響く。
《Lv2に到達しました》
「発見と同時に、流れるようにコア抜いたわね……そしてLv2、おめでとう」
「やったー!この調子でガンガン上げていくぞー!」
次の村までかなり遠いかと思いきや、意外と近場だった。これでもゲーム内時間だと、1日分は進んだことになっているららしい。ゲーム内時間はリアル時間とは異なり、「デュアルタイム・システム」 によって、独自の時間の流れが構築されているが、やっぱ不思議な感覚に陥る。
体感時間はさておき、道中はスライム狩りだけでLv5まで上がった。さらに、ゴブリン、アイビーラビッツ、そして愛しのエッグケッコーも出現し始めた。講習で習ったように盾で攻撃を受け止めながら、隙を見て剣を突き刺し、難なく撃破。最終的には Lv10 まで上げることができた。
エッグケッコーのドロップはケッコー肉と卵ばかりで、米さえ手に入れば親子丼が完成するな……?と、妙な想像がよぎる。羽毛でも落としてくれたら枕とか作れたりするのかなぁ?
一方、アイビーラビッツはウサギ系モンスターなので、肉や毛を期待したのだが、ドロップするのは植物のツルだった。君、ウサギのカテゴリーじゃなくて植物寄りだったの?と、思わずツッコミを入れたくなる。
「ねえ、箱あるってさ、モンスターごとに急所みたいなのってあるの?」
戦ってるときにやたらダメージが跳ね上がる瞬間があって、クリティカルエフェクトも出ていたから気になった。
「あるよ。人型のモンスターなら首が多いし、ドラゴン系だと顔とかしっぽとかね。まあ、首がないやつもいるけど、大体は生き物の急所と言われるところが弱点になってることが多いかな」
首がないって……アイルランドの……デュラハンとかみたいなやつ?どうやって倒すのそれ……。でもそれを言うなら、あの球体みたいなエッグケッコーとか、もふもふスリッパみたいな、アイビーラビッツの首もどこにあるんだろう……?
ファウストを出たときはまだ太陽が高かったが、今はすっかり赤く染まる夕焼けの時間だ。そしてリアルの時刻は、深夜1時に差し掛かろうとしている。
「残念だけど、リアルも遅いし夜はモンスターのレベルが上がるから、今日はここまでね」
「思ったよりレベル上げできたから嬉しいよー!ありがとう!
みぃも倒すの手伝ってくれたけど、レベルが低い所だとつまらなかったんじゃない?お礼まだ何もできない分うちのドロップ品、全部持ってってよ」
「馬車馬の如くレベルを上げるって言ったでしょ?これから色々揃えなきゃいけないんだから、ドロップも自分で取っておきなさい。1日1割の貸しでいいよ」
それ、一生借金地獄で黒服のお兄さんが、家に乗り込んでくる未来しか見えませんねぇ……。
ド〇〇も~ん!便利な道具で助けてよぉ~!!
明後日の方向に向けて心の中で叫んでいたら、みぃはさっさと村へ向かって歩き出してしまった。
「あぁ!みぃえもん!置いていかないで~!」
心も、実の声も虚しく、どこからもお助けロボットが現れることはなかった。
「はぁ~、めっちゃ遊んだ!こんなにしっかり遊んだの、初めてかもしれない」
明日は澪と一緒にレベル上げして、クエストの続きを進めて、他の鳥ちゃんたちもたくさん見つけたいし、ギルドのみんなとも遊びたいし……シーちゃんとも、もっと……はな……。
ヘッドギアを外しながら、やりたいことを思い浮かべていたら、いつの間にかすぅっと寝息を立てて意識が遠のいていた。
ルーイ:「お助けロボットはダメだったけど、彦星様と織姫様なら・・・!」(カキカキ)
みぃ:(何を短冊に書いたんだろ?)チラッ
『鳥にもふもふされたまま、お星さまになれますように byルーイ』
みぃ:「ハァ・・・」




