13羽目:ハンドル握ると性格変わる人
使い込まれた鎧を纏い、堂々と部屋へ入ってきたのは――ちょび髭がトレードマークの、ちょびさん。
え?まさかのちょびさん!?
「皆の者、待たせてすまなかった。オレが本日の講習を担当する騎士団職員、ガルヴァンだ。時折、新世界人の案内もしているので、すでに顔を合わせたことがある者もいるかもしれんな」
ガルさんは静かに周囲を見渡しながら、少し笑みを浮かべる。そして、力強く続けた。
「まずは、騎士団ギルドへの入団、おめでとう!本日の講習では、まず団長からの挨拶を受けその後、騎士団の基本的な仕組みについて説明していく。心して聞いてくれ」
新世界人担当はシフト的なので変わったりするのね、それじゃあの時にちょび……じゃないや、ガルさんに当たったのは、ラッキーだったのかもしれない。先生も知っている人だとより心強いよね、しかも面倒見のいい人だってわかってるし!
ガルさんが教卓の台座に、クリスタルのような物を差し込むと、淡い光を放ちながらホログラムが浮かび上がった。映し出されたのは、銀髪で額に切り傷のある渋い雰囲気を纏う男、騎士団ギルドのトップ、ブルムハルト騎士団長だ。
団長からの祝辞を受けた後、ガルさんは騎士団システムについて、詳しく説明を始めた。
騎士団への貢献度は、依頼やクエストをこなすことで積み上げられる。皆、最初は剣士としてスタートするが、カードのランクやレベルを上げると、上位職業への転職も後にできるようだ。
試験に合格すれば上位職への昇格が可能で、その道は騎士や聖騎士など、さまざまな選択肢があるらしい。
さらに、貢献度の高いクエストは、上位職にしか受けられないとのこと。つまり、ただレベルを上げて強くなるだけでなく、自身の職業の道を極めることで、より重要な任務にも挑めるようになるのか。
「さて、システムについて分からない事があれば、いつでも気軽にオレやギルド職員に尋ねてくれ。これより課外実習に移るので10分後、裏庭に防具一式をつけた状態で集合してくれ」
ついに体を動かすチャーンス!新世界人案内の時は、動かないカカシ相手だったからね、何をやるのか楽しみだー!
バンビー君は、すでに防具を付け終えていたので、自分も急いでインベントリから取り出して装着する。
盾ヨシ!短剣ヨシ!防具オールヨシ!
裏庭に全員が集まると、ガルさんの課外実習の説明が始まった。
「剣の扱いは新世界人の時に、ある程度慣れているはずなので、今回は盾のガード技術とヘイト管理を重点的に指導する。防具一式には木製のバックラーが支給されていると思うが、盾の構え方はどの種類でも共通だ。
利き腕とは逆の手に盾を装備し、剣は利き腕で握る。重心を低くし、体の中心あたりで盾を構えるようにするのが基本だ。
敵の注意を引きつけたい場合は、【挑発】スキルを使うことで、ターゲットを取れる。
今回は実戦形式で訓練するため、捕えてきたスライムを相手にしてもらう。スライム系は、低レベルのモンスターではあるが、物理攻撃を無効化する特性を持っていて、盾の扱いを学ぶには最適な相手だ」
ガルさんが見本として、大声で相手の気を引き【挑発】スキルを発動すると、箱の中に収められていたスライムが、勢いよく飛び出してきた。
視界に映るスライムの名前には、赤くなった角のついた牛マークが表示され、敵視されていることが一目でわかる。
スライムは一直線に突進してくるが、ガルさんはそれをしっかりと盾で受け止め、少し前へ押し返して距離を確保すると、名前の横にあった闘牛マークが消えた。
「こんな感じで今日は練習していく。スライム系は視覚認識が乏しいので、十分な距離をとれば敵視はすぐに解除されるぞ」
その説明の直後、1人の生徒が手を挙げて質問する。
「物理が効かないスライムはどうやって倒すんですか?」
ガルさんは軽く頷き、説明を続ける。
「スライム系を倒すには、魔法攻撃で内部のコアごと破壊する必要がある。
コアは薄く透けて見えるんだが――あの白いゼリー状の物体がそれだ。正面から近づくと、コアを隠すように移動させてしまい、コアが破壊されるまではダメージも体内へと吸収されてしまう。だから今回は盾を使った防御の練習に集中するだけでいい」
そしてガルさんが周囲を見渡し、「では、順番にやってもらう。まずは――」と指を向ける。
指名されたのはバンビーくんだった。バンビーくんは無言で立ち上がり、前へと進む。……しかし、そのぎこちない動き。緊張で体が固まっているんじゃないか? 大丈夫だろうか?
バンビーくんは静かに息を吸い込み、盾をしっかりと握りしめる。
――その瞬間、何かが切り替わった。
「オラァァァ!!かかってこいよゼリー野郎がよぉぉぉ!【挑発】!」
さっきまでの気弱な雰囲気はどこへやら、まるで別人のように声を張り上げ、スライムへと罵倒という名の挑発を浴びせる。
普段は遠慮がちで控えめなバンビーくんだが、盾を握った途端、まるで本能が目覚めたかのように戦意を前面に押し出す。バンビーくんはハンドルじゃなくて、盾を握ると性格が変わるのかぁ。
ルーイ:「すごい挑発だったね、他にもバリエーションあるの?」
バンビーくん:「ぷるぷる野郎が、恐怖でプルプル震えさせてやる!もありました」
ルーイ:「それは何かちょっとかわいい気がする」
バンビーくん:「か、わいい・・・?」




