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「閻羅様、閻羅様……!? 大丈夫ですか……?」


 ルンフェイは倒れた閻羅をそっと抱き起こした。

 胸に抱くようにしてかかえると、閻羅が慌てた。


「だ、大丈夫だ……それよりその……この、格好は……」


「お辛いのですよね? 私の腕でお休みください」


「いやあの……むぐっ……」


 包み込むようにして抱かれると、ルンフェイの胸に顔を埋めるような形になってしまい、閻羅は顔を赤らめた。


(いや、……むっ、胸が……っ。胸が当たっているのだが……っ!?)


 先ほど感じたこの柔らかい感触を、また堪能出来るとは思わなかったと閻羅は目を見開いた。


(柔らかい……。いい匂いがする……ルンフェイの匂いが……)


 しかしその心地よさに抗えず、閻羅はそっと瞳を閉じた。


 すりすりと胸にすり寄る閻羅を、ルンフェイは愛しげに見つめた。


 赤く染まった顔が可愛らしい。

 腕の中で大人しくなってしまったその姿に、ルンフェイは胸を高鳴らせた。


 聞こえてしまうかも知れないと思ったが、それはそれで構わなかった。


 想いを伝えてしまったなら、もう何も怖いことはなかった。


 むしろ、今まで何を躊躇っていたのかと不思議に思えるほどだった。

 今はこんなにも閻羅が愛しく、可愛らしくて仕方がない。

 甘えてくるなら好きなだけ甘やかしてあげたいし、たくさん撫でて、可愛がってあげたかった。


 この可愛らしい照れた顔が見られるなら、なんだってするとルンフェイは思った。


(本当に可愛らしいわ……)


 ルンフェイは、ほう、とため息を漏らした。


 もっと見たい。

 この可愛い顔を見るためにどうしたらいいだろうと色々考えていると、閻羅がルンフェイの胸の中で口を開いた。


「……ルンフェイ」


「はい?」


 胸元で口を動かされるのは少しくすぐったかった。

 ルンフェイは、それを紛らわすように閻羅の髪の毛を撫でた。


「あーんて、してくれたではないか……」


 さっきも言っていたことを閻羅は再び口にした。


「はい、しましたね」


 そんなにもう一度して欲しいのだろうかと、ルンフェイは口元をにまにまと緩ませた。

 それを見られまいと、いっそう強く閻羅を抱き込んだ。


(閻羅様……本当はずっとされたかったのでしょうか……?)


 この二ヶ月、閻羅はそんな素振りは一切見せなかった。

 しかし、もしかしたらあの不機嫌そうな顔の裏で、ずっとしてほしいと望んでいたのだろうか。


 そう思うとさらに閻羅が可愛く思えて、ルンフェイは閻羅の頭に自分の頬を寄せた。


 こんなに密着出来るのは恋人の特権だ。

 理由はどうであれ閻羅の恋人になれて良かった。


 ルンフェイはそう思った。

 そして、もっと早くこうすれば良かったと後悔した。

 二ヶ月も悶々と悩んで、こんな楽しいことを知らずにいたなんて損をした気分だ。


「あれをするのは……恋人同士だけなのだろう? だから、ルンフェイが私を恋人にしてくれたのだと、私はずっと思っていたのだが……」


「え?」


 ルンフェイは何を言われたのか分からず、思わず閻羅を離した。


「あれが告白だったのでは、無いのか……? だからその、明日また来てほしい……と、返しただろう? あれが……、私なりの返事だったのだ。……つまりその、喜んで、という意味だった」


 うつむいて照れながら告白する閻羅に、ルンフェイは目を丸くした。


 信じられないと思った。

 男性経験が無いルンフェイにだって分かる。

 食べ物を食べさせ合ったくらいでは、男女は付き合ったりなんてしない。


 しかし閻羅は、それが成されれば恋人同士なのだと本気で信じているのだ。

 だから初対面のルンフェイを恋人にして、たった半年で結婚までしようとしている。




 初めて会ったときに、閻羅はルンフェイにこう驚いた。

 私のことを知らないのかと。

 冥界中どこを探しても、閻魔大魔王の名を知らぬ者はいないだろう。

 そんなルンフェイに、同僚は常識知らずと頭を抱えていた。


 しかし、探せばいるものである。ルンフェイ以上の常識知らずが。

 それも、超が付くほどの箱入りが。


 そうでなければ、ここまでとんでもない勘違いをするだろうか。


 そのおかしさにルンフェイは笑ってしまった。

 赤面した閻羅が可愛くて、驚きに目をみはるその表情が隙だらけで。

 ルンフェイはもう一度、閻羅を胸に抱き込んだ。




 あの日、ぼんやりと冥府をさ迷った。

 疎外感に胸が疼き、帰り道が分からず途方に暮れていた。


 そうしてとぼとぼ歩いていると、それはそれは居丈高に話しかけられた。

 怖い人かと思ったが、一緒に食べてくれるのかと期待して付いていった。


 もう何日も食べていないと言いながら仕事をする姿が、なんだか見ていられなくて、ルンフェイは思わず弁当を差し出した。


 ルンフェイとお弁当を何度も何度も見比べて、そうして呆然とルンフェイを見ていた理由は、そう言うことだったのだ。


 ちょっと会話をしただけで、ちょっと食べさせてあげただけで、閻羅は恋人になろうと言われたのだと勘違いしてしまったのだ。




 それでも、この閻羅様の勘違いがなければ、ルンフェイはこうして閻羅を抱きしめることなどなかったのだ。


 本当に可愛らしい人だと、ルンフェイは心からそう思った。


「閻羅様」


「むぐ、……な、なんだ?」


 ルンフェイの胸の中で苦しそうにしながらも、閻羅は何とか口を動かした。


「また、お弁当をお持ちいたします」


 ルンフェイは腕の中の閻羅を見下ろしてそう言った。


「……だから明日も、明後日も、私を恋人にしてくださいね」


「………っ。……ああ、もちろんだ。そもそも、私はルンフェイと別れたつもりは無いからな。だから、そんなこと聞かれなくてもルンフェイは私の……」


 ルンフェイは早口で言葉を紡ぐ閻羅の唇に、そっと指を当てた。

 話していた閻羅は、途中で止められたことを訝しんで、ルンフェイを見上げた。


「閻羅様……、あんまり口を動かさないでくださいませ……。なんだか、くすぐったいのです……」


「…………………ッ!!!?」


 窘めるように口にするルンフェイの、薄く染まった頬と、今にも泣き出しそうな瞳に驚いて、閻羅は言葉を失った。


「はっ……私は、そんなつもりじゃ……!!?」


「……閻羅様、ダメです……っ、動かないで……」


「~~~~~~~~ッ!!!?」


 ルンフェイの涙に濡れた瞳に、色気を含んだその声に、閻羅は気を失った。

 真っ赤になって目を回す閻羅の姿に、ルンフェイの胸は高鳴った。


「閻羅様………」


 ルンフェイは宝物を抱き締めるように、閻羅を胸に抱き込んだ。


(なんて可愛らしいのでしょう……)


 最後に物凄く可愛い顔が見られたと、ルンフェイは胸がいっぱいになった。




 再び閻羅が目を覚ますまで、ルンフェイは閻羅を胸に抱きしめていた。

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