第三十話 魅惑の花園
最近になって特に思う。イズミちょっと食べすぎじゃね?
今日もどんぶり飯三杯目、強豪野球部の合宿飯みたいなのを毎日食べている
一日に摂取する平均的な食事は米を八合、肉を三㎏。時にはチーズとお菓子も追加で
野菜を食べない分、野球部より酷い。しかも運動だってそのカロリーを完全に消費するほどの物ではなく… どうしよう、俺の妹が醜く下っ腹の出た餓鬼のような体型になってしまったら俺は愛せるのだろうか…?想像してみたらそれは全然大丈夫だったわ…めちゃくちゃ愛せてた…
ただ不摂生で太るというだけであれば努力して痩せるという選択肢もあるが…イズミくらいの年齢で肌の調子が悪くなるというのが相当面倒な話だ
他の人と比べて化粧をしない分、今は目に見えた変化が出ていないだけなんじゃないのか?と心配になってしまう
「……さっきから何見てるの?」
目に見えた変化というのは感じられない。毎日穴が開くくらいに見続けているイズミの機微な変化に気付かない訳がなく、だが変化に気付いてからでは遅い。お肌は待ってくれないのだ
「今日一緒に風呂に入ろう」
「え…いいけど…」
そうだ、イズミは体型こそ変わらないが着痩せしているだけなんじゃないのか?一緒に風呂に入ってジロジロ体を見るのは兄妹とはいえ気持ち悪いだろ、と今まで見ないようにしていたんだが…今日は少し注意して見てみよう
「……に、兄さん?///」
「・・・・・」
…うん、かなり引き締まっている。それも脂肪を筋肉に変換するのではなく燃焼しているためかウェストは60前後だろうか?よくもここまで人間の理想を形にしたような体型を維持できるものだ。これぞ神の与えたもうたギフト、美しい
頭を洗いながらも首周りの肉、影響の出そうな二の腕や顎周りの肉付きも確認する。なんだ脂肪なんか殆ど付いてないじゃないか…あれだけ食べているのに?本当に食った瞬間異次元に飛ばされているんじゃないのか…?
結局肌の質も良ければ髪の艶も申し分ない。明らかに人間の理を逸脱している。もう太るとか肌の調子とかの危惧ではなく単純に生物として怖くなってきた…なんだコイツ…
筋肉と脂肪の関連性についてはスポーツ選手のトレーニング方法や、自分自身インナーマッスルを鍛える時に学んだつもりだったが…確かに性差については調べた事が無かった。そこらへんは明日、プロフェッショナルの大田さんに聞いてみよう。
そうこうしているとイズミがまた布団に入って来た。そうか、別に風呂場で確認しなくても寝た後に確認すれば解決だった…おい、イズミ?なんか服着て無くない?
「イズミ、服着て無くない?」
「あっ…/// 兄さんが…その…好みの色とか…分からなくて…///」
「あ?」
「ひ…避妊具も…その…///」
「イズミ…? イズミもしかして…これから…」
「兄さんが……やっとその気になったんだって…♡」
「ぬおおおおおおおおおお!!!」
妹が淫魔になってしまった!狐にでも取り憑かれたんじゃないのか!?
覆いかぶさって来たイズミを組み伏せ体位を入れ替える
「落ち着け! どうしたんだ急に発情して!?」
「だって…兄さんがあんなにお風呂で誘惑してくるんだもの…///」
風呂場で…?俺はただ体を見て、体の肉付きを確認して…撫でまわした。いやそれ前戯じゃないか!!
確かに自分から風呂に誘っておき、体を撫でまわしたのだから『今夜お前を抱いてやる』と暗に言っている様なものだった。鈍感系主人公のラブコメを見ながら舌打ちをしていた過去の自分はどこに行ってしまったのか?あの作品の作者の方には謝りたい一心だ。目の前では妹がまだ頬を染めている
「俺はただイズミの身体を見て、触りたかっただけだ!!」
「いいわよ…私もそのつもりだから…///」
これは全面的に俺が悪い。だからどうか許してくれないだろうか
追い込まれた人間がどれだけ言葉を紡いだ所で言い訳にしかならない、空気は険悪になってしまい心に距離を生んでしまうだろう。男らしくなれ、俺。妹に素直に告白するんだ!
「今日は兄さん抱きません!! イズミとセンシティブなお付き合いは出来ません!!」
「でも兄さんもあんなに情熱的に…」
「致しません!! 抱かないので大人しく服を着てください!! あああああい!!!」
「ほら手上げて!!! 足も!!! はいっ!! 元通り!! 寝ろォーー!!!」
「・・・・・」
バカになったふりをしてどうにか服を着せる事には成功したがイズミはそこまでバカではないのが問題だ。明らかに俺のおかしな様子に気付いているだろう、これから納得のいく言い訳を考えなければ…
「…ZZZ」
寝てるわ、バカだわ俺の妹。いやもっとバカなのは俺なんだけども…聞き分けの良い妹で兄さん嬉しいよ。ただこの体の秘密はどうにかして解き明かさなければ…
~翌日~
「それで…メジャーを持って来させてどうしたんですか…?」
「大田さんにイズミと一緒に身体測定をしてほしい」
「…はぁ?」
「おかしいとは思わないか? あんなに食っててこんなにスタイルがいい事を。もしかしたら筋肉かもしれないと思ってるけど、手近な筋肉ウーマンが居ないものかと大田さんを呼んだ次第です」
「筋肉ウーマンとは失礼な…でも確かに昔から気になってたんです、神田さんの美の秘訣…分かりました、めちゃくちゃ恥ずかしいですけど協力します!!」
こうしてイズミと大田さんには別室で測りっこをしてきてもらいその数値を照らし合わせ、神の子であるイズミの体型と一般人大田さんの体型とを比べる事によって細かな違いを見つけていく事にした。
本当はイズミの計測は俺が担当するはずだったのだが、大田さんは俺に見られるのが恥ずかしい事と、俺は女子同士で測りっこという甘美なフレーズに抗う事が出来なかった為この様なシステムを取らせていただいた。わっほい
後生であると土下座をして音声だけでも収録してきてくれないか頼み込む。映像が無い事によって壁になった感がより増して、エロい雰囲気が一切無いリアリティが百合感をマシマシにしてくれる事だろう。侮蔑の表情で俺の事を見ていた大田さんだったが万札でシバいてやるとマイクを持って部屋に入っていった。
『えぇ~…おっ…きくないですか…? わっ、わっ、立体感がすごい…3Dだぁ…』
『さっさと測ってしまいましょう。脱がすわよ』
『えっ、ちょちょちょ/// ちょっと待ってください/// 見えちゃいますから///』
『なによ、レズじゃないから安心しなさいよ』
『そ、そういう問題じゃなっ…キャーーー///』
『あらごめんなさい。こぼれてしまったわね。これもうこのままでいいでしょ』
『ちょちょちょ/// つっ…冷たいしくすぐったい///』
後日この音声を聞いた如月大我さんに話を伺ったところ
『う~んそうですね、百合には避けて通れない属性がありまして…"長身強気攻め"への圧倒的信頼感、"遠慮がち小柄受け"が見せる恋愛なの?憧れなの?という表情…今回はその二つが同時に襲って来たんですよ。それでその後、僕がどうしていたか…ははっ…失礼、分かる訳ありませんよね?五㎞走ってたんですよ。気付いた時には…往復で十㎞、百合によって沸き上がる活力とはそういうものなんですよ』
と、きっしょい身振り手振りを交えながら語ってくれた。
「どうでしたか、具合は?」
「もう…何も話したくはないです…」
酷く落ち込んでいる大田さんの様子を見るに数値で見るとイズミの方が理想の体型に近かったのだろう。見ればわかる当たり前の事でも落ち込んでしまうのだから女性にとっては目に見える現実よりも突きつけられる数字の方がダメージはデカいのだろうか。俺も落ち込んでる大田さんよりも比較される数字の方が気になる
如月イズミ 172㎝ B91 W61 H85 62kg
大田まさみ 159cm B79 W63 H83 56kg
ん~…?案外大田さんのスタイルがいい事が誤算だ…身長と脂肪が多いイズミの方が六㎏重い、身長とバスト合わせて二十四という数値の差が有るものの、まさか大田さんの方が軽いとは思わなかった。腐ってもCAだった事が頷ける数値だ。
イズミは身長から計算した平均体重よりも軽いため瘦せ型だろう。大田さんも筋肉量がありながらも痩せ型。なんの参考にもならない、これではイズミが【筋肉質で骨太だろうが一般人の数倍の食事を毎日摂取しているにもかかわらず痩せている】というとんでもない矛盾しか生まれない。
「大田さんはなに、昔から体重とか変わってないの? ごはんいっぱい食べるの?」
「いえ、一般男性の食事よりも少なく、一般女性よりは少し多いくらいでしょうか…間食もしますし甘い物も食べます」
「にしては痩せすぎだよ君…もっと肉蓄えてるか全部筋肉になっててもらわなきゃ…比べがいが無いよ」
「ま、まぁ私の場合は運動をしっかりして、体型には気を付けるようにしていますからね///」
なんだか褒められた気になって照れているが、こちらとしては不必要な大田さんの情報を脳にインプットされただけになってしまったのだから謝って欲しいくらいだ
しかし結局謎なのはイズミの体型…いや、体質と言った方がいいか。ここまで来ると昔見た映画に出てきた宇宙人を思い出す。この地球に存在している人間の二割は顔の中にエイリアンが潜んでいて、食料や資源を経口摂取し、内臓部分に埋め込まれている転送装置を使い母星に輸送していたという内容だ。
そう考えると俺の遺伝子を欲しがった昨日の様子も頷ける。もしやイズミは外宇宙から地球の優秀な遺伝子を回収に来た美人型義体なのではないか?
この話を二人に話すと、ジョンとガトーショコラを食べた時に『この上に掛かってる粉ってホームレスのフケだって知ってた?』と言った時のジョンと同じ顔をしていた。その目で俺を見るな
結局得るものは少なく大田さんに金を払っただけとなってしまった。しかしあとで聞く百合音声が楽しみでならない、昨日からの頑張りに対する報酬としては妥当だろう
今日も今日とて晩御飯は肉、肉、肉。もう自分達で家畜を育てておいた方が安上がりなんじゃないかとも思ってしまう程だ。豚の角煮丼と煮卵、チャーシュー丼に温泉卵、牛丼には生卵とカロリー爆発飯をこれから食べようとしている。
そうだ…今この段階でイズミを抱きかかえてみよう、そうすれば食後にもう一度抱え上げた時に重心の変化で内臓のどこにあれだけの量が入っているのかが分かりやすいだろう
平気で抱えてこのままマラソンでも出来るそれくらいの軽さだ。この感覚を忘れないようにしなければ。そして食後、再びイズミを抱え上げると…変わらない?どこにも手ごたえは無く、間違いなく体重は変化していなかった。そんな事は有りえない、食事をしながら即時消化し吸収されている?
そんな胃液に胃が耐えられるはずはない、腸が正常であれば吸収が間に合う訳もない。今まで考えていた常識がすべて崩れ去った
その日も一緒に眠ったのだがいつもと何も変わらない、この謎はこのまま闇に葬られてしまうのだろうか…?俺はイズミの事なら何でも知りたいのに…そんな悔しさと愛おしさの混じった感情でイズミの髪を撫でると唐突に自分の中で一つのある答えが舞い降りた、そうか…謎は全て解けた!
翌朝イズミにうんこしている所を見せてくれと言ったら本気で殴られ、その日は口もきいてくれなかった




