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その後 2

相手はリーベルス侯爵家で働いていたメイドだった。人気のない階段の踊り場でヒューゴーとケイトの2人は向かい合っていた。


「酷い!ヒューゴーは悪くないわ。ヒューゴーが歩み寄っているのに拒絶する婚約者が悪いのよ。」


「ありがとうケイト。そう言ってくれるのは君だけだ。あの女、優しくしてやってるのにニコリともしないんだから。」


「私なら、そんなことしないのに。」


ケイトはヒューゴーを抱きしめ頭を撫でた。


「僕の理解者は君だけだ。」


ヒューゴーはケイトを抱きしめる力を強める。ヒューゴーは知らなかった。アスティアラは毎日寝る前に頰を指で押し上げ、笑顔を作る訓練をしていた。ヒューゴーの前で実践しようとするが毎回ピクリとも表情筋は動かない。


しかしヒューゴーはアスティアラが何の努力もせず、家格が下の自分を見下して馬鹿にしているから拒絶しているのだと思っていた。


「ヒューゴー…。」


「ケイト。」


2人の唇が重なる…その直前、足音が聴こえてきて2人は慌てて体を離す。


「ヒューゴー様、ご相談に乗っていただきありがとうございました。」


「ああ。またいつでも相談してくれ。」


ヒューゴーは身分を鼻にかけたりせず、使用人達と気さくに話すことから相談事も受けていた。だからこう言えば2人が恋人同士だと疑われる可能性は下がる。


2人は禁断の恋をしている自分に陶酔していた。身分差の恋なら誰でも良かった。ヒューゴーは自分の好みの女だったらケイト以外でも良かったし、ケイトだってヒューゴーでなくともその弟でも良かった。


「私なら、ヒューゴーを愛してあげられるのに。」


ケイトは去り際にそう呟いた。



******



結婚前夜、ヒューゴーは使用人達が寝る建物へと来ていた。その建物の裏にはケイトが待っていた。


「ヒューゴー、話って何?」


「ケイトも知っているだろうが俺は明日結婚する。」


ケイトは目を伏せた。この恋愛は悲恋で終わるか、ケイトが側室になるかぐらいしか選択肢がなかった。身分の問題で側室すらなれないかもしれない。


ヒューゴーは名門侯爵家の当主リーベルス侯爵になるのだから。


「知っているわ。幸せにね。」


ケイトは涙を気づかれないように拭うとその場を後にしようとした。


「ケイト、君とだよ。」


「ヒューゴー!私を選んでくれるのね!!」


ケイトはヒューゴーに抱きついた。2人は先のことなど考えず、今を生きるのに夢中な若者だった。婚約破棄も結婚式前の逃亡も。たとえどんなに非常識だとしても自分達の愛があれば関係ないと本気で思っていた。


残された家族や捨てられる婚約者なんて気にも留めなかった。次の日式場となるオウァルト邸まで周りを騙すためヒューゴーは行った。そして置き手紙だけ残すとそのままケイトの元に行き逃亡した。


逃亡した先はケイトの実家だった。ケイトは平民で家も裕福とは言い難かった。そのため働き手が欲しく、ヒューゴーのような貴族の子息はあまり歓迎されなかった。


2人の結婚は幸せなものではなかった。


「使用人がするような事を…僕がするのか?」


着替えも誰かにやってもらっていたヒューゴーは服を脱ぐ事すらままならなかった。


「愛があればいいって言ったじゃないか!!」


「愛だけ享受して仕事はしないつもりだったの?」


ケイトはこの時点でヒューゴーに冷め始めていた。邸の中で見たヒューゴーはあんなに魅力的だったのに実家であるボロ小屋の中で見るヒューゴーは魅力的に見えなかった。ただの貴族の坊ちゃん(役立たず)だった。


ヒューゴーの魅力は使用人達が飾り立ててやっと成り立つものだったのだとケイトは気付いた。


(私、ヒューゴーを愛しているはずなのに。)


かっこいいからでもなく貴族だからでもなく、ヒューゴーという人間が好きだったはずなのにケイトはもうわからなくなっていた。


2人は喧嘩ばかりするようになった。愛し合っていた頃の面影など残っていなかった。


「気さくなのも飾らない性格だったのも、皆から好かれる好青年を演じる自分に酔ってたからだったんでしょ!!」


「君が誘惑して来たんだろ!権力狙いだったんだろ!!この売女!毒婦!」


「権力狙い!?狙ってたなら侯爵夫人になってたわよ!」


たしかにあの時までは愛していたのだ。ケイトはヒューゴーの婚約者からヒューゴーを奪い取ってまで。ヒューゴーは婚約者と地位を捨ててまで。


結局は禁断の恋を真実の愛と信じる事自分達に陶酔していただけなのだ。ヒューゴーは平民になる事を甘く見すぎていたし、ケイトは元貴族を旦那にする事を甘く見すぎていた。


2人の結婚生活は長くは続かなかった。日々のストレスで憔悴しきっていたのか流行病でケイトは呆気なく亡くなってしまい、ケイトの家族から疎まれていたヒューゴーはケイトが亡くなると直ぐに追い出されてしまった。


ヒューゴーはケイトの死に涙を見せることはなかったし、棺に縋り付くようなこともしなかった。もしヒューゴーがケイトを愛していた頃なら嘆き悲しみ食事も喉を通らなかっただろう。もしかしたら後追いをしたかも知れない。


ヒューゴーが追い出された後の行方は誰も知らないが、ケイトとの結婚生活の中でヒューゴーは一人でも生活出来るだけの力をつける努力をしなかった。元貴族のヒューゴーが生きていくのは不可能に近いだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 後日談も読めて満足です。これで本当の完結と言うことでしょうか。 最初は愛梨の登場含めてよくあるテンプレを利用した話かなと思っていたのですが、少しずつ、ズレみたいなものが…
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