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第7話

私はタロの所へ嫁入りすることになった。タロのお母さんは『夢前の』と言うらしいが、お義母さんに狐の嫁入りの作法を習った。私の家事の壊滅振りに呆れていたけど、「あやかしも手伝うてくれるし、息子は家事も得意じゃから、何とかなるじゃろ」と放置された。タロはどこから用意したのか、ウェディングドレスを調達してくれた。幼い頃に私が「これが着たい!」と言ったやつによく似たドレスだった。サイズもぴったり。


「いいの?『女化の』見てたけど、狐って白無垢の神前式が普通なんじゃないの?」

「そうじゃが、智花はこれが着たいのじゃろう?わしは人間風の婚礼衣装でも構わんと思っておる。」

「ありがとう!」

「ただ、衣装はどうあれ、わしらは神の御使いじゃから誓いは神前式じゃ。智花が小さい頃憧れていた『病める時も健やかなるときも』も『誓いの口付け』もない。それは二人の時にしてやるから、我慢せいよ。」

「うん。」


タロと結婚できるなら、そんな細かいことにはこだわらない。


「あ、でもお化粧品は現代風が良いな。」


ウェディングドレスに、白塗りはちょっと。


「ならば、どらっぐすとあで買うてくるか。」

「狐のお金ってどこから出てるの?」


木の葉のお金ではないと思うけど。


「わしらが、神様に奉仕し、人々の願いを聞き届けると、俸給が出るのじゃ。神がどう金を都合しているかは知らん。もうずっと昔からそういう仕来りじゃ。」

「狐はずっと増え続けるの?」


寿命がないのに、子孫が増えたら、あっという間に人口(狐口?)は飽和すると思うんだけど。


「いや。稲荷明神の使いとして1000年仕えると次の代に後を譲って、神代の国で暮らすことになるのじゃ。それに狐の嫁が生涯に産む子供は1匹だけじゃ。いずれ減ることはあっても増えることはない。」

「へえ。」


じゃあ、私もタロとの子供は1人しか生めないんだね。ちょっと残念。


「智花。かわいい智花。褥でたんと愛でてやるから、わしのやや子を産んでおくれ。」


ぽぽっと頬を染めた。え、えっちしようね、ってことだよね。否はないけど、普通に照れます。タロのお嫁さんになるんだなあ…


「そういえば誓いと恋心が無くなる呪いって誰がかけたの?」

「隣町の女狐じゃそうじゃ。わしに惚れておるらしい。式には呼ばんし、早々会うこともあるまい。」

「ふうん…」


思い出せて、間にあったから良かったものの、酷いことをする。もし誓いと恋心を奪われたままだったら、こんな濃ゆい愛情知らぬまま一生を過ごすことになってたかもしれないなんて悲しすぎる。



***

結婚式の日、私はウェディングドレスを纏い、しっとりと化粧をして町内を一周した。プリンセスラインにロングトレーンの、真珠とレースがたっぷり縫い込んである素敵なドレス。ながーいレースのヴェールで顔を隠し、狐たちに囲まれながら。パラパラと祝福するかのように晴天から輝く雨粒が落ちてきた。結婚式の会場では、タキシードを身に纏ったタロが待っていて、二人で誓いのさかずきを交わした。杯はいいんだけれど、タロは極端にお酒に弱いらしく、一口飲んだだけで真っ赤になっていた。くらくらするらしく、私の膝枕に頭を乗せてダウン。祝いにきた狐たちは笑って、飲めや歌えやの大騒ぎ。


「おう、おう。『森野の』!むしゃぶりつきたくなるような身体の嫁さんだな。おめえさん意外と色好みか?」


酔った狐が絡んできた。


「智花が相手ならどんな体つきでも構わぬよ。わしは智花に惚れ切っておるからの。」


酒で真っ赤な顔でタロが返した。私もお面をしていたタロがどんな顔をしていても構わないと思っていたけれど、タロも私の容姿がどう変わっても変わらず愛してくれると決めてくれていたようだ。


「ははは。惚気かい?いいねえ、可愛いかみさん貰ったやつは。」


タロに絡んだのは『下北の』と呼ばれる狐で、タロより年上だが、決まった伴侶がまだできないらしい。心底羨ましがっている様子だ。


「外来風の婚礼衣装も中々素敵ですわね。わたくしもそうすれば良かったかしら?」


ちらりと羨むのは結婚したばかりの『女化の』。


「白無垢も素敵でしたよ。よくお似合いでした。特に、神前の結婚式には合ってますし。」

「ふふふ。そうかしら?」


『女化の』が嬉しそうにはにかんだ。こちらは新婚で幸せいっぱいらしい。傍らには人間の旦那さんが寄り添っている。中々の男前で凛々しい旦那さんで、『女化の』とはお似合いである。『女化の』は綺麗な留め袖姿である。因みに私もお義母様である、『夢前の』に着物の着付けを習っている。こちらでは礼装は基本着物らしいから。着るのが難しいのでしんどいです。この前着物にブーツを合わせたら、微妙な顔をされた。「現代アレンジで着物を着よう」という試みは最近流行ってるんですよ?

祝いの席は続き、新婚初夜は、流石に酔いの覚めたタロにたっぷり可愛がられた。「愛い、愛い」と夢中で身体を貪られた。


「のう、智花?」

「うん?」


タロの腕枕でうとうとしていると話しかけられた。


「そちの両親に手紙を書かぬか?何も言わずに嫁にもろうてしまったので、心配していることじゃろう。現代の日本では智花はまだ『未成年』らしいし。」

「うん。じゃあ、明日書いておく…」


私はすやぁ…と夢の世界に旅立った。


【お父さん、お母さんへ。

お二人ともお元気ですか?私を探して捜索届けなんて出していたらどうしよう…とちょっと冷や汗をかいています。

急に消えちゃってごめんね。私、泉智花は嫁に行きました。諸事情にて、もう二度と家に戻ることは出来なさそうですが、元気に暮らしてるので心配しないでください。

覚えてるかな?私が幼稚園生くらいの頃、毎日『タロがね…』って話してたの。私はタロのお嫁さんになりました。幸せいっぱいです。タロは稲荷明神の御使いの一人(一匹?)で、私はそのお嫁さんになったのだ!信じられないって?ふふん。あなたたちの娘を信じなさい。お父さんとお母さんの老後のお世話を見られないのだけが心残りだけれど、タロが『智花を貰う代わりに運を残した』と言っていたので、宝くじでも引いてみてください。

あと、できれば美代子にも『智花は森野君と結婚してうまくやっている』と伝えてください。それで通じるはずだから。あと『結婚式に呼んであげられなくてごめんね。』とも伝えておいてください。

私はお父さんや、お母さんや、美代子のことを草葉の陰から見守っています。

……と締めくくったら、タロに『智花よ、それは死者の表現じゃ。』と叱られてしまいました。智花生きてる。チョー生き生きしてるから心配しないで。

お父さんもお母さんも美代子も元気でね。

智花より。】


お香を焚き染めた綺麗な便箋に私特有のちょっと丸文字っぽい文字で手紙を書いた。私は筆不精な方なので、あんまり長い手紙は書けなかったけれど、私が元気なことだけは伝わったと思う。手紙はタロが届けてくれた。

これからおはようからおやすみまでずっとタロと一緒だと思うと、私は幸せすぎて死んじゃいそうだ。お父さんにも、お母さんにも、美代子にも、土屋君にも、愛華さんにも、お隣の狐さんにも、世界中のありとあらゆる存在に幸あれ!


***

余談だが土屋君と愛華さんの顔にあった酷い吹き出物はゆっくりと減っていったそうな。

「智花が許しておるのに、わしが祟り続けておっても仕方あるまい。」

とタロは笑っていた。




最後までお付き合いいただきありがとうございました。

テンプレ美味しかったですか?私は大好物なんです。狐ラブ。

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