1章 その2
深春は、友里を見る度に何故だかドギマギしてしまう。綺麗な指で、長い髪をサラリとかきあげる仕草が素敵に思えた。友里が店員と思しき人に声をかけ、珈琲を注文する。
「ご依頼を伺う前に、こちらの紙を書いて頂いておりますので、よろしくお願いします。」
そう言って、紙を渡された。紙の中身はというと、依頼の種類や事件等が起きた時の日付、時間、概要などの項目があり、最後のところにどこで事務所の事を知ったか、というアンケートのような項目で締め括られていた。
深春は、項目を埋めていき、最後まで項目を埋め友里に渡した。友里は、紙を受け取る。
「ご記入ありがとうございます。今、天宮をお呼び致しますのでお待ち下さい。」
「はい。よろしくお願いします」
天宮という探偵は、どのような人物なのだろうか…深春は色々な想像をしてみる。シャーロック·ホームズの様なナイスミドルな探偵なのか、はたまた金田一耕助のような、一見すると切れ者には見えないが、実は…みたいな探偵なのか。想像は尽きないが、普通のおじさんが奥からひょっこり現れて依頼を受けるパターンだろうと、深春は思った。
友里は、小さな鞄から携帯電話を取り出しどこかへかけ始めた。例の探偵を呼ぶのだろうか。
『もしもし、有間です。天宮さんですか?今どちらにいますか?依頼人の方がいらっしゃっているので、よろしくお願いします。』
事件でも受けていたのだろうか…。深春は、そう考えながら、電話の声を聞いていた。
『えぇ、…え…今、シャガルドラグが倒せない?そんなの閃光榴弾を使えばすぐですよ。後で、手伝ってあげますから、早く来てください。依頼人の方がお待ちですから。では。』
友里は、ふぅ…と小さくため息をついて、電話を鞄にしまった。そして、鞄から小さなパソコンを取り出す。
「すみません森山さん。すぐ来ると思いますので、もうしばらくお待ち下さい。」
「は、はい…あの?探偵さんは事件か何かされていたんですか?」
「いえ。事件ではなく、自宅でゲームをしていたそうです。シャガルドラグが倒せないとか言ってましたね。」
「しゃ、しゃがる?」
「シャガルドラグです。結構な強敵です。」「……」
「森山さんは、ご存知ありませんか?モンスターブラスターズ。」
「い、いえ知っていますけど…あ、あの?プレイされているんですか?」
「ええ。付き合いで。これも仕事ですから」「は、はぁ」
自宅で、ゲームをしている探偵とはどのような探偵なのか、もしかしたら、やばい奴なのではないだろうかと深春は身震いをした。依頼を取り消そうか…とも考えた。
すると、外からバイクの音が聞こえ、カフェの前に止まった。例の探偵が来たのだろうか。緊張した面持ちで、扉に注目する。やがて、カランカランと鈴の音が聞こえて、男が入って来た。
「チース」
「おう。馨、今日は早いじゃねぇか」
「まあね。暇だったから…」
「ほーん。それはそうとよ、馨。可愛らしい女の子が来てるぜ」
「あん?女の子?」
マスターと仲良さげに話すこの男が、探偵なのだろうか。深春は男を眺めている。視線に気がついた男は、深春を見る。男と視線が合ってしまい深春は思わず隠れてしまった。




