5章
五
「ふぅ…」
男は、老眼鏡をベッド脇にある机に置いて伸びをした。本の大賞を決める選考委員をしている彼は、候補に上がっていた作品に目を通していた。毎年、いくつも作品が送られてくるが、候補に上がるのはほんの四、五作品でさらにそこから選考していくのである。彼は、眉間を抑えて眼精疲労を癒そうとしていた。この作業をすると、時間を経つのが早く、あっという間に時計の針は正午を差していた。
彼は、昼食を取るために階段を降りて台所へと向かった。彼は、一人暮らしのために自分で食事を用意しなければならない。冷蔵庫から冷凍の炒飯を出して、皿に入れる。そして、電子レンジに入れて、二分待つ。
チン、と音が鳴ると台所中に炒飯の匂いが立ち込めてきた。彼は、スプーンと飲み物を準備し、席についた。
そして彼が、炒飯を食べようとしたその時、インターホンが鳴った。食べようとしていた時だったため、居留守をしてやり過ごそうとした。しかし、何度も何度もインターホンが鳴る。彼は席を立ち上がり、何度もしつこく鳴るインターホンにイライラしながら、玄関へ向かう。新聞の勧誘やセールスなら、怒鳴りつけてやろうと、扉の除き穴から外を覗いた。
だが、そこに居たのは一人の中年男性だった。彼は、訝しみながらも鍵を開けた。
「誰だね?君は?」
「卜部先生ですね?」
「私が卜部だが…」