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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十章 後悔噬臍
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半端者に救済を

 氷漬けの人々に見守られながら氷漬けの船へと向かう。


 「あの船はこの星に来た時の船か?」

 「そう。中は空間が拡張されてて見た目以上に広い」


 空間拡張か。便利そうな能力だな。

 ただでさえ巨大船と言える大きさなのに、更に空間拡張されているのならそれはかなりの大きさになっている筈だ。

 というか氷漬けだから入れないと思うんだが。


 「船の内部に行った事が?」

 「表層にしか氷は無い」

 「それなら入れないと思うんだけどな」

 「別の道がある」


 ここでも別の道か。俺達は本来のルートを通っているだろうから、侵入者対策で幾つか道を用意しているんだろう。

 守る側からしたら1つに絞った方が楽だと思うんだけどな。俺も幾つかのルートがあるから人の事は言えないが。


 DMOを内部から攻撃していたダンジョンマスターはどうなったのか等を話しながら、巨大船の前までやって来た。彼はどうやら俺達が向かう場所に滞在しているらしい。無事でなによりだ。

 そして、俺達が向かっている場所。巨大船の内部なんだが、ここでは『四階層』と言わせてもらう。


 『四階層』に行くのは割と簡単だった。池に入ったり、樹に沈まなくても大丈夫なのはありがたい。

 仕組みとしては、俺のダンジョンのエレベーターに近い。決められたモノを持っていれば起動するというやつだ。

 彼女の『四階層』に行くための条件。それは、彼女ダンジョンマスターの持ち物を持っていること。今回は、彼女のローブのすそを掴んでの移動になる。


 「そろそろ名前を教えてくれないか?」

 「モワティエ」

 「エバノだ、よろしく頼むよ」

 「よろしく」


 今更感ただよう挨拶をすませば、いよいよ『四階層』だ。

 俺達の足元に方陣が拡がり、視界は白で埋まる。


 気が付けば、街の中に居た。

 船の中に街?そう思って視線を巡らせれば、確かに遠くの方に壁が見える。

 天井スレスレには透明な幾数の四角柱や三角柱が浮き、街に光を差し込む。船底には土がひかれ、簡単な道路や店が並ぶ。これもダンジョンならではだな。


 船中を彼女について歩けば、俺達の後ろに子供たちが付いてくる。

 彼等は左手に30cm程の木を持ち、右手に持った刃物で木を削っている。実際にやられなければ分からないと思うが、かなり怖い。


 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ―――


 「モワティエ、どうにかしてくれ」


 立ち止まろうが、彼等に視線を向けようが鳴り続ける、木が削れる音。

 侵入者対策としてはバッチリだな。現に俺に効いてる。精神的ダメージががが。

 俺の様子を見ていた子供たちは笑い声を強くした。


 「大切なお客様だから大人しくしてて。この人は大丈夫」


 俺の前を歩いていた彼女は、後ろを振り返って子供たちに近づくと、彼等の身長に視線を合わして優しく語りかけた。

 モワティエが一声かければ、子供たちは笑いながら散って行った。よかったよかった。これで謎の緊張感を抱かずに済む。


 「1人じゃないんだな、何か安心したよ」

 「あれは竜の子供たち」


 彼等が竜の子供?普通に人間の姿じゃないか。

 人化出来るとは聞いてたけどこういう意味だろうか。流石にソレは無いと思いたいが。


 「神は自分の姿を真似て生き物を創った。竜の子供が人間の子供と変わらなくて人化出来るのはそういう理由」

 「何年ぐらいで成人するんだ?この場合は成竜か」

 「子供の姿で居るのは大体10年ぐらい。そこから竜の役割を教わる」


 10年か。随分と短いんだな。小学4年生ぐらいで成人とは驚きだ。

 まぁ、人間とは種からして違うんだけども。


 「教わるってのは誰に?」

 「ここに居る全ての竜から。竜の役割は暴力と破壊。そらを護るのは重要な役目、手を抜く事は許されない」

 「大人しそうにしてたじゃないか」

 「あそこに居たのは偶々休みだった竜。彼等は普段は大人しいけど怒こったら手が付けられない」


 怒ると手が付けられないのはアサルトにも当てはまるのだろうか。アイツは俺の技能で創った竜だ。純粋な竜とはまた違う。


 種族間の役割分担については『創世記』にも載っていた気がする。


 魂と時間

 繁殖と自然

 暴力と破壊 竜

 知性と理性

 生命と自由

 想像と創造

 平和と食事

 この世の理 妖精


 コレで1つ埋まった。妖精が「この世の理」だったというのも何処かで出てきた気がする。

 他は何だろうか。

 残念ながら9つしか書かれてないので、ダンジョンマスターが省かれているのだと思われる。「想像と創造」はドワーフっぽい。


 「エバノ。彼が例のダンジョンマスター」


 考え込んでいると、彼女が声を掛けてきた。その視線を辿ると、俺の時をはるかに超える数の子供を引き連れた男性がやって来た。

 ドブ色の髪をした、ほっそりとした顔の彼は困り顔でこちらに話しかけてきた。


 「君は知らない顔だね。それよりも君、いい加減子供たちを引かせてくれないだろうか」


 君、君って分かりにくい話し方をするな。モワティエの名前を知らないのだろうか?

 彼女の方を見てみれば、彼女も俺の方を見ていた。


 「名前は?」

 「言って無い」


 だろうな。モワティエが素直に言うとは思えない。彼女の中で何か線引きがあるんじゃなかろうか。

 俺とモワティエの声が聞こえていないのか、彼は勝手に話し始めた。


 「私の名前はデピエミックというんだが、君たちの名前を教えてくれないかな?」

 「あんたがデピエミックか。DMOを内部から攻撃してたんじゃないのか?」

 「不死者のダンジョンに潰されからね。私の出番はもう終わりだよ」


 名前を聞かれたが、気になる事があったのでスルー。モワティエからも聞いているのだが、彼女は話しを少し端折はしょる所がある。急いでいる時にはありがたいんだけどな。


 こんな所で何してるのかを聞くと、DMOに逆に潰された後らしい。俺はてっきりDMOの主要ダンジョンを潰し終えたから居るのかと思っていた。

 それよりも不死者のダンジョンか。ジャンルが[死]で統一されたダンジョンかな?弱点かは知らないけど、『光魔法』で殲滅できそう。ある意味楽なダンジョンじゃないか。対策がしやすい分やられる理由も少ない筈だ。


 「それじゃあDMOは今どうなってるんだ。幾つかダンジョンを潰したらしいけど、結局ここに向かっているのなら意味が無いじゃないか」

 「それは私も分かっている。今は彼女が足止めをしてくれているよ」


 彼女、モワティエか。・・・そうか、足止めをしてくれているのなら一旦は大丈夫だろう。

 ここに来てから守護者らしい守護者を見ていないから少し心配な部分もあるものの、一応は落ち着けそうだな。

 少ない戦力で足止めが出来る程度には弱っているってことだ。


 「DMOの規模、足止めをしている場所、こちらの戦力を教えてくれ」

 「今の所、動いているのを確認してのは4つのダンジョン。その内の3つが攻めてきてる。戦ってるのは場所はココとは別のダンジョン。私の守護者と彼のが戦っている」

 「そうか、ありがとう」


 まだもうしばらくは放っておいても大丈夫そうなので、今日は疲れを癒す事にしよう。

 現在攻めてきているのダンジョンは、蛇、水獣、怪鳥の3つ。それにプラスで不死者のダンジョンが動いているらしい。3つのダンジョンを2つのダンジョンで凌ぐのは難しい。主にモワティエが頑張っているのではないだろうか。


 デピエミックのダンジョンも1回は潰されてるしな。彼のダンジョンも本当は強いのは何となく分かる。一点特化のダンジョンは強い分、不得意な分野に責められると後は数で潰すしかなくなるだろうし、相手が悪かったと言われればそこまでだ。

 本人があんなに不思議なテンションなのも彼のダンジョンの強みである。ダンジョンは、マスター無くしては出来ない。ダンジョンマスターの性格に守護者やダンジョンは引きずられ、それらを合算してダンジョンの強さが決まる。

 自分のダンジョンが潰されても明るく振舞える彼には敬意を表したい。彼自身については、適切な距離を持って接していこうと思うが。


 「エバノだ。よろしく頼むよ、デピエミック」


 だから、最後まで名前を言わないというのはあり得ない。

 モワティエにも名前を言うように視線を向けると、渋々と言った様子で名前を言った。


 「・・・モワティエ」

 「そうかそうか。・・・・・・私は『水の牢獄』がダンジョンマスター、デピエミック」


 彼は顔を天に向けて、ユックリと言葉を紡ぎ出した。

 俺達へと戻された彼の顔は、憑き物が取れたかのようにスッキリとした顔をしていた。


 「『黒い森シュヴァルツヴァルト』のダンジョンマスター、エバノだ」

 「『塔の番人』。モワティエ」


 3人が名乗り終えた。気付けば子供たちに囲まれていた俺達は固く握手をし、この地を護る事を約束した。


 俺は神への恩返しのために。

 モワティエはこの地を護るために。

 デピエミックは配下の敵討ちのために。


 それぞれの理由を胸に、戦いの幕が上がる。

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