刻むは方陣
DMOの目的が月に行く事だと知り慌てる俺に、神は優しく微笑んだ。
「・・・既に手は打ってるわ」
神が言う一手。それは、この情報を持ってきたダンジョンマスターに内部からDMOを攻撃させ、組織の弱体化を図るというもの。
協力者は内通者だったという衝撃。
「協力者は『最古のダンジョン』に?」
「・・・そうなるわ」
そうか。それなら安心だ。
いずれ協力者とも会うことがあるのだろうか。
「進展があればまた呼びます」
「よろしくお願いします」
俺の身体は霧となって消えた。
□
自室で目が覚めた。
隠してあるだけあって陽の光が届く事が無いが、別にそれで困った事はない。
ダンジョンに起こされるからだが、今はいいだろう。
寝間着から普段着に切り替わる。いつも思うけどこれ便利だよな。
『大聖堂』の水場に飛ぶ。ステンドグラスから差し込む光はまだ白い。
懐中時計で時間を確認すれば、午前5時。早起きしたみたいだ。
顔を洗って水を1口飲む。
これで少しは目も覚めるだろう。
ダンジョンに頼んで温度調整をカット。たしかに、これから冬が来るのを思わせるような肌寒い日だった。
今度は浮島へ。
アサルトを呼び、その背に乗り込む。服は普段着から耐寒を重視したものへと変わる。
グローブを何度か閉じで開いてを繰り返し、感覚を確かめれば、空中飛行の始まりだ。
風切り音を近くで聞きながら、神に聞いたアブラムの事を考えていた。
ダンジョンマスターと同じく、神によって見放されたアブラム。
寿命で死ぬはずの彼はDMOで生きていた。それは何故か。
・・・寿命で死なない様にするにはダンジョンマスターになるか、『生命の樹』の果実を食べるかしかない。
今は『生命の樹』を俺が管理しているが、過去はどうであったのかは知らない。ダンジョンマスターはずっと居たのに主天使を任さなかった理由は?
竜に天使は居るのか。居るとしたら何天使か。
ルーチェに聞くのが1番手っ取り早いんだがな。それでも彼女が知っているとは限らない。
聞きに行って変に勘ぐられても迷惑だし、行くに行けない。
「アサルト、戻るぞ。・・・朝食だ」
時間も頭のキャパもいっぱいいっぱいだ。
ここはやるしかないか。
第三次守護者会議 with レイ をな。
「・・・というわけだ。諸君らに意見を求める」
朝食を取り終わり、場所は会議室。爵位持ちの守護者とレイが集まっている。
「神からの指示を待つしか無いのでは?」
「シュヴァルツヴァルトから割ける戦力はありませんわ」
「下手に動けば今度は我々が狙われるのではござらぬか?」
ブリッツ、マイン、スキアーは静観の構え。
ガブリエナとシュテルは経験が浅いので、発言することなく様子見。
「神には1度助けて頂いているのですから、私は何かしたいと思います」
「少数精鋭で身元がバレないようにすれば多少は動けますよね」
「そうですね。問題は誰が行くかでしょうけど」
レイ、クローフィ、ギフトは比較的肯定的だ。
軍隊規模の兵は動かせないが、少数精鋭なら少しは動ける。こんな感じの意見を出す彼女達。
これで3対3。残るはリェースとアクル。
彼女等の意見はと言うと、リェースは中立、アクルは静観。
静観4、支援3、中立3。
数で見れば静観が有利だ。だが、レイ、ギフト、クローフィという発言権があるメンバーが揃っている。
中立がどう分かれるかで決まるな。
「旦那様はどちらですか?」
守護者会議は勝手に決まるから楽でいいよな、と思ってたらまさかのレイからの指名が入った。
「最終的に決めるのは旦那様なんですから、意見を聞かないと」
「俺か?そうだな・・・、俺は支援派だ」
俺の一言に沸き立つ支援派の3人。何か仲がいいのな、お前ら。
俺は支援派だが、きちんと準備を行い、神の許可を貰うことが出来なければ支援に行くつもりは無い。
策はあるものの、神の認可が全てだ。
「マスター、神に許可を頂いて来てください」
ギフトよ、神とはそんなにポンポン会えるものでは無いと思うんだが。
流石に呼べば現れるような軽いフットワークをしているわけでは無いだろう。
「1度だけでいいのでよろしくお願いします」
1度だけと言われても困る。お前には1度でも、俺には負の遺産として継続ダメージが入ってくることになる。
「・・・・・・」
自然と会議室にいる全員の視線が俺へと突き刺さった。
神にどうにかして会いに行かないと先に進まないのは雰囲気で分かる。でも、俺だって黒歴史を作りたくないから行かない訳じゃないんだ。
俺が考えた策自体に致命的な欠陥があってだな・・・。
「旦那様?・・・お願いします」
「あッ、はい」
あれ?『束縛の魔眼』を使った覚えは無いんだけどな。
自分の身体が思うように動かない。ブリッツの仕業かな?ははは・・・
□
会議室から飛んで自室に到着。
自室のセキュリティをガッチガチに固め、半ばヤケクソ気味に言葉を紡ぐ。
「おお、主よ。主が私を見ていてくださり、貴方様のおん知恵を借りることが許されるのであれば、私の前にそのお姿を現しては頂けないでしょうか」
あぁ、こうして黒歴史は増えていくんだ。
穴を創ってでも隠れたい。ココは3階だから物理的に無理だが。
「呼びましたか」そもそも、神がそう簡単に姿を見せる「エバノ?」んだよ。アイツらは「おーい」所が分かっていない。
「・・・神よ、どうしていらっしゃるので?」
「呼ばれたので・・・・・・、神が普通に出て来てはダメですか?」
「めっ、滅相もないです!」
穴を創れない代わりに壁に手をついていると、何処からか聞き慣れた声が聞こえた。
最初は幻聴だと割り切って流していたが、流石に視界にチラチラと入られては流すものも流せない。そもそも、流す事自体が不敬だけれども。
それはさておき本題だ。
「『最古のダンジョン』に私共も加勢する事は出来ますか?」
「・・・行く分には構わないわ」
「分かりました。相談してからの決定になりますけど、あの様子では行くことになるかと思います」
神に礼を言い、会議室に戻る。
神から許可を貰い、俺とレイが支援派。中立の3人も作戦しだいでは、と支援よりに変わったことにより、まずは俺の作戦を話すこととなった。
「―—・・・以上が俺が考える、最小の人数で最大の力を発揮出来る方法だ」
「理には叶っていますけど・・・」
俺の案を聞いての守護者達の反応はあまり良くはない。
まぁ、案が案だからな。そうなるのも仕方ない。
「誰か他にないのか?無いなら俺の作戦で行くぞ」
「え〜、誰かないの!?」
アクルが喚いているが、今回も彼女には仕事がある。いつもよりは簡単なんだけどな。
なに、苦しいのは一瞬だよ。ハハハ。
「確かにそれが1番でしょうけど、エバノ様が出る必要はあるのでしょうか」
「代表が行かないとだめだろう?」
俺が提案した案の条件として、俺は必ず出なければならない。
他のダンジョンに行くのなら代表としても動ける上に、何かあっても現地で守護者を創ればいい。
レイも条件を満たしているのだが、彼女を送り出すのは俺が許さないので必然的に俺が出ることになる。
「それじゃぁ、解散。アクルは残ってくれ」
他に質問も無いようなのでこの場は解散。
アクルはお仕事があるので居残り、それ以外の守護者は会議室を後にした。
残ったのはレイとアクルだ。
「レイは何かあるのか?」
「ありがとうございます、旦那様」
「礼を言われるまでもない。俺が好きでやってる事だ」
静かにおじぎをするレイに、軽く手を振って応える。
レイが礼をするってか。・・・はい。
彼女は後で自分のダンジョンである『五階層』に来るように俺に言うと、部屋を後にした。
「んじゃ、俺が方陣を出すからそれをマントに写してくれ」
「自分で創ればいいのに・・・」
まぁ、そう言うなって。実験も兼ねてるんだから。
俺は俗に言う魔道具を創ろうとしてるわけだ。
魔道具を創る前に、ここで『方陣魔法』について少し説明させてもらおう。
『方陣魔法』とは、「MPを流せば方陣に描かれている魔法が発動する」方陣を描く魔法である。
便利な魔法なのは確かだが、欠点も存在する。
『方陣魔法』で『火魔法』の効果を出そうと思えば、『方陣魔法』の他に『火魔法』を持っていなければいけないのだ。この欠点は『火魔法』を持っている誰かの協力があれば解決するし、「補強」などの属性が無い効果であれば『方陣魔法』だけで事足りる。
「方陣」とは何か。その答えは魔法の式である。
MPを押し出して魔法を発動しているのだが、押し出したMPを魔法名通りに形成をするための式が「方陣」である。
普段は知らない内にやっているのを式にするには、それなりに技能熟練度が要る。ちなみに、俺は出来ない。
それでは作業を開始するとしよう。