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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
九章 有言実行
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いらっしゃいませ!

 アマンダ殿は、金茶色の髪をしていた。

 コロコロと変わる表情は、話し相手を退屈させない。笑った時に出来るえくぼは、更に彼女の魅力を増しているかのようだ。


 簡単な挨拶が終われば、移動が再開される。

 アルト殿とアマンダ殿が馬で俺の所までやって来たのもあり、俺も馬で移動した方がいいかと思い至った。そうだな。アマンダ殿には麒麟きりんに乗って貰おうか。

 自分が知らない事には興味を持つようだしいい経験になるだろう。アルト殿がヤンチャだと言っていたのも、あながち間違いじゃなかったな。


 「すいません、少し待ってもらっても?」

 「ああ、構わんよ」


 『三階層』から来るには少し時間が掛かるからな。

 アマンダ殿は不服そうな表情をしているが、待つだけの価値はあると思うぞ。


 時間で言えば2、3分だろうか。遠目にも、麒麟と馬の影が見えた。

 それを見て騎士や冒険者は警戒を強めたのだが、彼女はそうでは無かったようだ。

 麒麟が到着すれば、俺が思った通りの反応をしてくれる。


 「馬、ですか?」

 「似たようなものですよ。どうです、乗ってみませんか?」

 「え・・・、」


 突然の提案に戸惑ってアルト殿へ視線を向ける彼女。

 凄い乗りたそうな雰囲気をしているのに、周囲の目を気にしているのだろうか。まぁ、立場もあるし、服装も適したものじゃないしな。無理にとは言わんさ。


 「折角だ、乗せてもらいなさい」


 アルト殿も娘には甘い様で、許可自体は直ぐに出た。出たのだが、問題がある。

 さっきも言ったが、彼女の今の服装は乗馬に適したものでは無い。簡易的なドレスというか、丈が長いワンピースを着ている。

 つまりは、誰かが一緒に乗って手綱たづなを取らなければいけないという訳だ。いくら麒麟の安全運転に自信があっても、万が一があってはならないからである。そうなると、立場的に一緒に乗れるのは人が限られてくる。


 「結局は俺だよな・・・」

 「何か仰いましたか?」

 「いえ、何でもありませんよ」


 そして現在。アルト殿の強い押しによって、俺の前にはアマンダ殿が居るのである。どうしてこうなったんだろうか。考えれば理由は直ぐに幾らかは出て来るのだが、そのどれもが碌な理由では無い。

 一番有力なのは、政略結婚である。ヴェーデに結婚の条件を言ったはずなんだがアルト殿にまで届いてるのか?分かっててやってるのかもしれんが。


 「あー、アマンダ殿。あまり動ないでいただきたい」

 「も、申し訳ありません。でももう少しだけ」


 そして問題のアマンダ殿は、麒麟に興味津々なのか中々落ち着いてくれない。

 政略結婚の線で考えて、なるべく気にしないようにしているものの、俺も男であるのを尚更に感じる結果に終わった。流石王族とでもいうか、動くたびにいい匂いがだな。ゲフンゲフン。


 素数を数えていると、『金酉宮きんちょうきゅう』に到着した。中ではレイが従業員を引き連れて準備を整えている。

 東側から回って来たので、今目の前にあるのは商業館になる。北は旅館、西には銭湯がある。

 商業館は、荷運びの為に馬車も通れるようにしてあるので、いい宣伝になるだろう。


 一歩足を踏み込めば、漂ってくる食欲を刺激する香ばしい匂い。

 『城』で調理を担当するマーゲンの指導の元、厳しい訓練の末に完成された『金酉宮きんちょうきゅう』調理班。1か月の間に『調理術』を取得し、出来る限り熟練度を伸ばしたその腕前は、舌の肥えた俺達をも満足させてくれるほどだ。

 思わず、後ろの集団からも感嘆の声が聞こえる。


 フフフ・・・、これで終わりじゃないぞ?


 「「「いらっしゃいませ!」」」


 出迎えるは、商業館以外の従業員、200人。

 入口の右と左とに分かれ、一糸乱れぬ動きで頭を下げる。これは日本では結構見受けられるかもしれない。


 従業員は皆、それなりに綺麗な顔をしているが、目を引くのはそれだけではない。従業員に配られている制服がその容姿を引き立てているのだ。

 まず、幾つかのスリットの入ったスカートが男性の視線を引き寄せる。正気に戻って下から上に視線を戻せば、そこには違和感なく強調された、女性特有の膨らみが出迎える。

 黒い布地から時折覗く磁器の様な脚。腰から上は吸い付くような、肌に密着した作りになっている。それによって腰のくびれが現れ、胸を強調していた。


 この星の住人からすれば、娼婦が客引きの為に着ているような服を着ている従業員というのは初めて見るだろう。だが、彼女らは決して下品ではない。その空気を生み出しているのは、さきほど見せられた、揃った礼。

 少しづつ、この場は支配されていった。


 「エバノ殿、・・・これは」


 後ろで冒険者たちが従業員を見て騒いでいるなか、アルト殿が重々しく口を開いた。


 「よくぞ短時間でここまでしてくれた」

 「ハハハ、勿体ない言葉ありがとうございます。アルト殿。私も妻も鼻が高いです」


 よかった。アルト殿がここまで言ってくれるとは思わなかったが、後ろの様子を聞く限りでは大成功だな。

 これまでの苦労も報われるってものだ。


 次に客を出迎えるのは、シュヴァルツヴァルトで採れた野菜や肉などだ。

 『氷魔法』、『方陣魔法』が使える守護者を動員して造った、魔力と涙の結晶である。これは比喩ではなくて、本当に頑張ってくれた。・・・アクルが。

 レイが主導で動いていたので、強く反発出来なかったらしい。食材を冷やすという案を出したのは俺なんだが、何か申し訳なく思ってしまった。


 「エバノ様、アレは何という野菜でしょうか」

 「白菜ですね。シャキシャキしてて美味しいですよ」


 そうか。この星の人達は見たことない物ばかりか。

 料理として出されるとそんなに気にならないけど、元の食材を見ると何コレってなることあると思うんだよな。これもそんなもんだろ。


 ん?・・・まてよ?


 「アルト殿。オーラルフットであのような食材を見たことはありますか?」

 「いや、ないな」


 アマンダ殿が言うには、この時の俺とアルト殿は黒い笑みを浮かべていたらしい。

 俺も多少は成長してるんだな。


 これでポーションに頼る必要は無くなったんじゃないか?いや、ポーションが不要になったわけじゃないんだが。ポーションもあれから改良を重ねて使い物になるようにしたからな。売れないと困る。


 次は、シュヴァルツヴァルトが進めていくと言った、安価なポーションだ。

 薄めすぎると結局量を使ってしまう問題は解決してある。簡単に言えば、リジェネ効果を付けることで安価でも十分な効果を発揮させたのだ。リジェネとは持続回復の事だ。ゲームなんかでは時折目にすることもあるだろう。

 治るまでに時間は掛かるが、最終的にはそれなりに効果を発揮する仕上がりになっている。値段も一般的な物より安くなってるので、手に取り易いと思う。

 これに関しては実際に使ってもらわないと分からないからな。そのうち広まっていくと思う。


 そして、服屋。

 レイの方で『裁縫』やらの技能を付けられた、万能型生産職の守護者が頭を張って指導していたのは知っている。マーゲンが『調理術』を教えたのと似たような感じだ。

 その守護者は、『裁縫』以外にも技能が豊富に揃ってたので、商業館の責任者も兼任しているんじゃなかろうか。

 ここでもアマンダ殿がはしゃいでいたのだけは伝えておく。


 他にも紹介したい施設は幾つかあるのだが、それはまたの機会にしよう。

 そろそろ商業館も終わり、旅館へと続く通路に入る。馬車は公園に置いてもらい、徒歩で旅館に行く事になる。

 商業館で挨拶をした、旅館で働く守護者は走ってここまで戻らなければならないので大変だ。


 「アルト殿、アマンダ殿と従者の方は城の方に案内させていただきます。他の施設に興味があるようでしたら後程、案内役を付けますので申し出て下さい」


 旅館はレイに任せ、俺は俺で客をもてなす。

 正直なところ、これからアルト殿と細かい打ち合わせをしなければならない。どうしても手紙だけでは伝わらない部分が出て来るので、それの修正も兼ねている。

 工事は明日からとなっていて、今日は旅の疲れを癒すために到着すれば休みにしている。その間にアルト殿と話しのすり合わせをする訳だ。

 申し訳ないが、アマンダ殿の相手は明日になる。まぁ、明日は明日で忙しいのだが。

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