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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
九章 有言実行
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ゆっくりしていってね!

シュヴァルツヴァルト、エバノ殿へ。

国民に、王位をスタージュに任せる事を正式に発表した。多少の騒ぎはあったが、スタージュなら上手くやってくれることだろう。

『果てしない渓谷』に迂回路を造る事も合わせて伝えたのだが、そちらは余り上手くいっていない。

 商人だけでも送ろうとしたのだ。だが、アイツら梃子てこでも動かんつもりらしい。私がどうにかするので準備を整えて待っていてほしい。

 時間は掛かるだろうが出来る限りの事はやるつもりだ。


 それと娼館についてだが・・・————

 シュヴァルツヴァルトの南の防壁の前に何台もの馬車が停まった。遂に人がやって来たのだ。

 ダンジョンからの知らせを聞いて急いで確認してみれば、そこには人の群れが見えた。


 「凄い数だな・・・」


 一つづつ律儀に数えてみれば、馬車の数は10。事前に手紙は貰っていたが、実際に見ればその数の多さが分かる。

 それぞの馬車の周囲には騎士やら冒険者がついており、彼らの表情から物々しい雰囲気がこちらまで伝わってくる。

 そりゃ、ダンジョンに人を寄こすんだからこの位の警戒はするか。考えてみれば、アルト殿もよく娘を俺に預けようと思ったよな。


 考えている間に馬車の列は進み、続々と防壁の中へと消えていく。

 うーん、『金酉宮きんちょうきゅう』が北にあるのは少し不便だな。今そう思うだけで将来は北にあってよかったと思うはずだが。

 うまやも作らなければ・・・。客が来てから改善点に気付くなんて遅すぎる。取りあえずバレる前に立てちまうか。場所は『大聖堂』の前で。北に移動してもらう予定なので、仮置き出来る場所があればいいだろう。

 よし、俺もお出迎えしに行くかな。


 『城』から『大聖堂』に飛び、あたかも『大聖堂』から出てきたかのように振舞う。

 ココにいる人たちは俺の顔を知らないだろう。ここで優しいダンジョンマスターだと伝えられたらいいんだがな。


 「よく来てくれた!長旅で疲れているだろうがもう少しだ!ここからは私が案内させてもらう!!」


 さあ!俺とレイが頑張って創った街を堪能してくれ!!

 折角作った厩は使われる事無く忘れ去れた模様。


 □


 1か月前、ノーマリー王国で1つの御触れがなされた。

 それは騎士団で知らされ――

 それは冒険者ギルドで張り出され――

 それは商人の耳に届き――

 そして、多くの国民を驚かせた。



 『第一王子、スタージュを王位に据えると共に、初めての仕事を与える。これまで私を信じてきた国民たちよ。どうか息子を支えてやってほしい。諸君らの力があれば、どんなに難しいことであろうとも成し遂げられると信じている』


 ノーマリー王国 国王アルトが放った、世代交代を告げる声。国民は新王に期待し、かつての王に感謝の念を抱いた。

 そして国民は、新たな仕事とは何かを考える。今だ若い王を育てるためのものか。国民に新たな働き口を与えるためのモノか。どちらにしろ、誰もが金の臭いを嗅ぎ取っていた。

 それ故に、仕事の詳細を聞いた時の混乱も少なからず起きていた。


 『ノーマリー王国、グラキエス教国、シュヴァルツヴァルト。三国により、『果てしない渓谷』に迂回路を造る』

  詳細は以下の通り

・工事期間中はシュヴァルツヴァルト国内での滞在

・工事期間は未定

・食事は業務に就いている全ての者に平等に与えられる

・労働時間は日に7時間。昼に1時間の休憩を挟む

・報酬は大金貨20枚、前金で大金貨10枚

・一陣として騎士、冒険者を派遣し、二陣に志願者を派遣する

・工事が終了したあかつきには、参加した全ての志願者の名前を記念碑として残す


 家を持つ一般的な平民が、普通に一年を過ごした場合の金額は日本円でおおよそ12万円ほど。これを大金貨に変換すると6.8枚。大金貨30枚は、4年と半年近くになる。

 ひよっこの騎士の隊長でも、2年は何もしなくても過ごせる金額。

 大盤振る舞いとも言えるこの額に貧民層は大層喜んだ。しかし、シュヴァルツヴァルトを知っている、もしくは噂を聞いた事がある人間はそう簡単に動かない。いや、動けないの方が正しい。

 かつて繁栄した国がダンジョンによって滅ぼされた話しは有名だ。ましてや、そのダンジョンの主のお膝元。そう簡単に決められる話しではなかった。それは騎士も、冒険者も、商人も同じだ。

 だが、これは国の事業だ。異を唱えようなら何をされたか分かったものではない。


 そうした中、続報が届いた。

 なんと、前国王のアルト、彼の娘であるアマンダも一陣として参加するというではないか。

 それで金のない騎士は渋々(しぶしぶ)に参加を表明し、国が後ろについているならと、余裕のある商人は積極的に行動を始めた。

 冒険者は中々動かなかったのだが、見えない所で国からの圧力が掛かり、否応なしに参加する者が出てきた。ある者は借金の返済と引き換えに、ギルドから派遣された女性に騙されて参加したりと理由は様々。その中でも特に注目を集めたのは、一つのクランの参加。今は亡きアルトゥーロのクランである。


 それぞれの思惑が入り乱れ、まさに混沌と化した一団は、シュヴァルツヴァルトへと向けて出発した。



 グラキエス教国でも多少の混乱はあったのだが、シュヴァルツヴァルトよりも『果てしない渓谷』の方が近いという事もあり、教国領最南端にあるオリネートからの工事が決まったために騒ぎは少なかった。

 迂回路が出来る前に、ノーマリーの奴らが噂のダンジョンが安全かどうか確認してくれるだろうという考えがあったのも否定しない。


 □


 一陣としてやって来た騎士、冒険者、商人は、まず防壁から覗く浮島に驚くことになった。

 神秘的な光景、物理法則を無視した、見た目重視の浮島。それは、やって来た人すべてに恐怖を与えていた。人間とは自分が知らない事には恐怖を覚えるものである。警戒を一段と高めた彼等だが、その中でも、恐怖を覚えていない人間も存在していた。

 たとえば、冒険者の1人。彼は趣味として絵を嗜んでいた。魔物が存在するこの星において、外の情報は金になる。彼はシュヴァルツヴァルトの絵を描いて二陣の人達を安心させてほしいと国から使命を受けていた。

 そして、ノーマリー王国の王族である彼等もまた、恐怖を感じてなどいない。1人はアルト。もう1人は、アルトの娘である、アマンダだ。アルトは年甲斐もなく騒ぎ、アマンダはこれから享受できるであろう怠惰な生活を夢見ていた。

 彼女はシュヴァルツヴァルトを下に見ていた。これはスタージュにも言える事であり、国民病と言っても差し支えないであろう。その幻想は直ぐに崩れ落ちる事になるのを、その時の彼女は知らなかった。


 「よく来てくれた!長旅で疲れているだろうがもう少しだ!ここからは私が案内させてもらう!!」


 エバノが挨拶を済ました時の周囲の感想は、「誰だコイツ」 コレで埋め尽くされていた。

 シュヴァルツヴァルトを初めて訪れる彼等にとって、エバノは急に現れた謎の人物であったが、偉い人なのだろうなと思わせる様な貫禄は少しついて来ていた。


 「エバノ殿は気合が入ってるな・・・、いい事だ」


 声しか聞こえないながらにも、エバノの強い意志を感じ取り、アルトは目を細めて笑う。

 そんな父の姿を見て、アマンダはエバノの姿を一目見ようと身体をよじる。見えない事が分かれば席に落ち着いたのだが、アルトは馬車を止めて外に出た。アマンダも父に続いて外に出ると、一言質問を投げた。


 「何をなさるのですか?」

 「なに、挨拶に行くだけだ」


 短いやり取りが終われば、アルトは馬にまたがり準備を整え始める。

 アマンダは数瞬考え込むしぐさを考えると、侍女の力を借りて、準備をしているアルトの馬の背に乗った。

 アルトがアマンダをヤンチャだと評する部分。その大半は、彼女の好奇心の大きさである。それが、何もしなければ、どこに出しても恥ずかしくないのだが、と彼が頭を悩ませる一因にもなっていた。


 「わたしも行きます」

 「ふぅ、・・・まぁ、いずれは顔を合わせるか」


 しかし彼は、そんな娘のヤンチャさを愛していた。

 馬は少しずつ速度を上げ、馬車の先頭を目指す。

 少しすれば先頭の場所が見え、エバノの背が見えてくる。エバノが馬に乗っていないために移動速度が遅いのもあるものの、アルトが娘の前で意地を張って馬を急かしたというのが正しい。


 ひづめの鳴る音を聞いてエバノが何事かと振り返れば、馬に乗ったアルトと、見ず知らずの女性が自分に走り寄ってくるではないか。腰を落として警戒態勢をとったが、それは杞憂に終わった。

 それはなぜか――—


 「あの空に浮いている島の上には行けないのでしょうか!!」

 「え、」

 「後で大聖堂に寄ってもいいですか!」

 「構いませんけど・・・、どちら様でしょうか」


 アマンダから質問攻めに会ったからである。

 恐る恐るアルト殿に視線を向ければ、ニヤニヤと口元をゆがめるのみ。まさかの説明もしてくれないパターンかと思い至り、急いで思考を巡らせて取り敢えずは、と名前を聞いてみる。

 名前を聞いたのだが、これはただ単にエバノが落ち着くための時間稼ぎだ。それに、現状を見れば、彼女が誰であるのかも察するのは容易。

 それがアマンダにも分かったのか、一旦距離を開け、姿勢を正して自己紹介をはじめた。


 「こほん、これは失礼しました。わたしはアマンダ・プリンケプス・ミニマ・ノーマリーと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 「ご丁寧にありがとうござます。そして、挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした。私は、エバノ・シュヴァルツヴァルト。ダンジョンマスターをさせていただいています」


 はたして、対面を果たした2人。

 この2人のやり取りを聞いていた人達は、いきなりのトップ同士の対面に鳥肌を立てて見守っていた。

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