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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
九章 有言実行
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ダンジョンマスターの子ら

 数あるダンジョンマスターが主人公の小説を読んできたが、外の世界と手を取り合おうとした場合に、ダンジョンと言う危険極まりない場所に簡単に民間人が大勢集まる理由が分かった気がする。

 答えは、ダンジョンマスターだけでは何も出来ないからではないだろうか。


 さて、現実逃避も程々にしておこう。

 レイと話し会った結果、複合施設を作るのは確定となった。問題はソレを建設する場所であるだが、それにはまず現状を知っておいてもらいたい。


 シュヴァルツヴァルトは、『果てしない渓谷』から南に広がる『バーチャル大森林』の中にある。『バーチャル大森林』は北と南で二分されており、現在、我々は北に防壁を作って暮らしている。

 防壁は円形で、南に『大聖堂』と市街地。北に農地がある。ここまで聞けばある程度分かると思うのだが、シュヴァルツヴァルトはそれなりに小さい。これはアバビム戦の名残で、防衛線を長くしないように規模を縮小しているのだ。だからなんだ、といった感じではあるものの、これは後で問題となってくる。


 『果てしない渓谷』が北にあるので、道を工事するために人が集まった時は、時間短縮のために北に宿等の建物を建てておかねばならない。なので、現在有る農地を、リェースが統治する『四階層』に移動させておく必要がある。

 開いた地点に複合施設を建てるにしても、そんなに馬鹿でかい物を建てるつもりは無い。そうなると場所が余るのだが、空いた場所なんかには公園を作ればいいんじゃないかと思っている。

 まあ、それでも完璧に場所を埋める事は出来ない。正確にその場所を答えるならば、市街地と農地の間である。普通、街の中心地には城なんかが建っているのが常。しかし、シュヴァルツヴァルトを支える2つの城は水中と地中に埋まっている。

 空いたスペースに城を出そうとしても、2㎞もある建物を1つ出すだけで防壁内は一杯になってしまう。どちらかの城を外に出しても、その規模を縮小しなければならない。防壁を大きくするというのは却下だ。防衛用の守護者の数が足りない。


 敷地の問題。これがさっき言っていた問題なんだが、これは城を二階建てにすれば解決しそうだ。

 城を外に出すのも確定、と。


 これで複合施設を建てる場所は確定した。次は従業員だ。

 俺の現在のMPは 55,268 。マナフライによって幾らか増えている。レイは 232,192 。

 レイのMPの量がおかしいんだが・・・?俺の4倍以上ってどうよ。

 んで、2人のMPの総量は 287,460 。四捨五入すると、28万7千5百。デフォルトの『人型』の創造MPを 60 とすると、 4,791人分のMPとなるわけだ。物量作戦ここに究めり。

 俺だけでも 921人 分のMPは持っているので、どちらか片方の消費だけで間に合いそうだ。


 人数の確保は余裕で出来そうなので、複合施設に収める店舗を決めていこうと思う。

 レイが言うには、大規模な宿。もしくは、城の器官を一部譲渡した建物としたいようだ。俺が思っていた様なショッピングモールとはずいぶんズレているが、彼女の考えもよく分かる。

 商業施設を一手に集めてしまえば、どれだけ人が来て、国の収入はどれくらいかも一瞬で分かる。合理的な考えであるだろう。


 そうして2人の意見をまとめて出来たのが、この施設。


 「金酉宮きんちょうきゅう、です!!」


 レイが息巻いて席を立ち、俺に指を指して叫んだ。

 彼女は直ぐに恥ずかしくなったのか、咳払いを一つして椅子に座り直した。


 『金酉宮きんちょうきゅう』とは、レイが意見を出して決まった、複合施設の名前である。

 金酉きんちょうちょうは、干支えととりである。本来こんな読み方はしないので、当て字であるのは直ぐに分かる。

 とりは”とりこむ”ということで商売繁盛に縁起がいい、とはレイの言葉である。

 俺のネーミングセンスより良いのは一目瞭然いちもくりょうぜんなので、俺からは何も言わない。


 防壁内を改造しようにも、住人達に説明をしなければならないので、実際に動かすのは明日からとなる。

 これからの話し合いは、建物の内部についてへと変わる。

 どこにどの店を入れるのか。利便性と防衛面の両方の観点から考える。これには俺達だけで考えるにはどうしても頭が足りない。爵位持ちの守護者達も呼び寄せての会議だ。一気に会議室が手狭になり、椅子を増やしての話し会いになった。


 図らずしも守護者会議となってしまったのだが、これはこれでいいのだろう。


 「エバノ様?・・・聞いていますか?」

 「ん?・・・あぁ、すまないな、ギフト。少し考え事をしてた」


 グラキエスでの会議でもこんなことあったな、と既視感ぎしんかんを感じた。

 アレと比べると随分ずいぶんアットホームだけどな。

 思わず笑いが漏れ、守護者達からは変な物を見る目で、レイからは生暖かい目で見られた。


 えぇい!こっちを見るな!


 □


 市街地 噴水広場。ここでは俺の帰還という名目で宴が行われようとしていた。

 本当の目的は、明日行われる農地の移動と、複合施設に関する説明を行うことである。


 そして、噴水広場には簡易テーブルと大量の食材が並ぶ。それに誰も手を付けないのは、主催者の俺の言葉を待っているからである。

 俺の眼前には市街地に居る住人が全員集まっており、その視線は自然と俺に集まる。

 緊張しているのか、みぞおち辺りが引っ込むような嫌な感覚を感じつつ、何とか言葉を紡ぐ。


 「・・・ふぅ、・・・諸君!本日はよく集まってくれた!!集まってもらったのは他でもない!最近進めつつある、シュヴァルツヴァルトの政策についてだ!今!我が国は重大な節目を迎えようとしている!それを諸君らと迎えられるのは大変喜ばしいものである!!」

 

 間を空けて一息。

 大丈夫だ。上手く出来ている。俺なら出来る。

 心の中で自己暗示を掛けながら、視線を左右に向ける。守護者しかいない弊害へいがいはここにも表れていて、こういう時に表情があんまり変わらないのは怖い。


 「国をまとめていくには私だけの力では不可能である!!諸君らの力が必要である!詳細は『大聖堂』の前に立札を立てた!!それを読んでほしい!今日の宴は私から諸君へのささやかなプレゼントである!・・・誰一人欠ける事なく、シュヴァルツヴァルトの成長を見守ってくれ!!以上だ!」


 俺の演説が終わって一番最初に動いたのは誰だったのか。それは分からない。

 それでも、俺の口から言えるのは、唯々(ただただ)嬉しいということ。

 眼前で表情を変えずに話しを聞いていた住民全てが、子供から大人まで、誰一人として例外を出すことなく、一斉に片膝を地面につき、俺の意に従うと行動を持って示してくれたのだ。

 拍手や歓声など無い、静寂。だが、言葉など必要ないとばかりのその行動に俺は胸を打たれた。


 何か言わねば・・・。そう思ってはいるんだ。

 でも、言葉が出ない。圧倒されていた。

 それと同時に理解した。守護者達の命の重さ。それを背負うという事を。

 これがダンジョンマスター。主天使の権能、『支配』と『統治』を司るに相応しい力を持ち、神の望むがままに世界のバランスを取る。


 「楽にしてくれ」


 その言葉を出すのにどれだけの時間が過ぎたのだろうか。

 数瞬か、数秒か、数分か数時間か。

 とりあえず、かくして宴が始まった。



 宴が始まっても守護者は守護者。そこは変わらない。静かに杯をあおり、隣人と語らう。

 誰かが作ったのであろう魔法の明かりの元、宴は順調に進んでいた。


 俺はレイと席を外し、皆の姿がおぼろげに見える位置でベンチに座っていた。


 「いい演説でしたね」

 「俺の帰還という名目で呼んだはずだったんだけどな・・・、それを考えると演説の内容はズレまくりだよ」


 宙に視線を向ける俺の肩に手を回し、自分の膝の上に頭を誘導するレイ。

 彼女は「それでいいじゃないですか、貴方らしくて」、そう言って俺の顔を見て微笑んだ。

 その顔が愛おしくて、右手を伸ばして彼女の頬を撫でる。磁器の様に滑らかで、ほんのりと暖かかった。


 宴は静かに終わり、皆が協力して後片付が行われた。

創世記 9.5-9.7


神は世界の役割の一部を分け、土塊つちくれに吹き込んだ。

1つ、罪と罰。

1つ、魂と時間。

1つ、繁殖と自然。

1つ、暴力と破壊。

1つ、知性と理性。

1つ、生命と自由。

1つ、想像と創造。

1つ、平和と食事。

1つ、この世の理。

こうして生み出された9(ここの)つ土塊つちくれ

神の姿を模して土から生まれた土塊つちくれは始まりの地に満ち、10の種族として新たな地に集った。

これは新たな地への一歩目をしゅくするものであり、一つの星が蒼に染まった事への戒めである。


神は彼らを祝福して彼らに言われた

「人の血を流すものは、人に血を流される。

神が自分のかたちに人を造られたゆえに。

あなたがたは、生めよ、ふえよ、

地に群がり、地の上に増えよ」。


— パタン — 何処かで本を閉じる音が聞こえた。

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