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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
八章 変法自強
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選ばれし主天使

 ルーチェから許可が下りた。俺は、それが一体何の許可かと聞かれれば、何でも出来る許可と答える。彼女が何の許可なのかハッキリと言わなかったのが悪いのであって、俺は悪くない。もちろん、限度が存在するのだが。

 主天使君が城内に居るのは、下女に話しを聞けば一発で分かった。今頃はルーチェから俺の話しを聞かされているんじゃないだろうか。

 深夜に話しをするように場を整えたものの、その間に相手が何もしないとは決まっていない。出来る事ならば今すぐにでもパパッと領域を広げるのだが、変に感づかれて不信感を持たせてしまうのは良くない。

 ダンジョンに確認したところ、領域外からの攻撃にはどうしても直ぐには対応できないと返事が来た。自動防御も無敵では無いのだ。矢を防ごうとしたら知覚から反応までに最低でも20mは要る様なので、それなりの大きさの領域を創造する必要がある。話し合いをするのに、あからさまに戦闘の準備をされているのは気分のいいものではない。よって、領域は最低限。俺の周囲5mまでにする。最初は2mとか言ってたんだが、怖くなったので範囲を伸ばした。

 そんな制限された俺を誰が護るのかだが、今回に限って護衛は付けないことにした。相手に話しをしようぜオーラを出すためだ。いざとなったら守護者呼べるしな。不意打ちが無い限り俺は安全である。


 結構早めに決まってしまったので、『10人の天使』の流し見をしていた部分を細かく見ていこう。

 まず、『10人の天使』とは、この星に居た10種族の天使である。

 以前、俺は10の種族の中でダンジョンマスターが異質だと感じた。そりゃあ、誰だっていきなり横文字が入ってくれば不審に思う。しかし『創世記』に本当にダンジョンマスターと書かれている訳ではない。俺の解釈でダンジョンマスターだと判断しただけだ。そう判断した部分がこれだ。


 「神より追放された私は人にあらず、人に姿を見られるたびに命を狙われるでしょう」

 「そんなことは起こりえない。貴方を殺そうとするものは7倍の復讐を受けるからだ」

 そして主は彼を見つけるものが誰も彼を殺せないように一つの証を贈られた。


 多少無理があるのは分かるがそうでないと説明できない部分が出て来るので、一応の仮定としては最有力候補だ。証を得た彼は子孫を残しているのは続きを読めば分かる。彼の子孫が北のダンジョンマスターでは無いかと疑っているのだが、残念ながら確証はない。


 次に、妖精とダンジョンマスターが姿を隠した事件について。この件は特に固有名称で書かれてはいない。

 簡単に纏めると、こうだ。


 人間が天にも届こうかというほどの高塔を建てようとした。しかし、それを見た神はそれまで一つであった人間の言葉を乱し、言葉が通じないようにした。


 もしかしたら誰かはどこかで聞いた事があるかもしれない。知らない人でもバベルの塔だと言えば何となくわかるんじゃないか?

 神に怒られたのは問題だが、本当の問題はその後だった。

 10の種族の内の1つ。竜が怒ったのである。どうして怒ったのかなんかは詳しく書いていないので分からないが、それはもう大変な有様だったようだ。

 言葉を乱された人間は散り散りとなり、別の大陸へと渡る者も居た。その中で、竜へと立ち向かう人間は全体から見ると少数であった。いつまでも竜を怒らせておくわけにもいかないので、人間と共に立ち上がったのがドワーフとホビットである。

 結果は想像できると思う。ドワーフとホビット、果敢にも戦った人間、そして竜はその数を減少させた。ここで減少と書いてあるのに、事件の以後にはそれなりに人間の数が居るので、少なからずダンジョンマスターが関わっていると予想がつく。シェルターの役割でもしていたのではないだろうか。

 そして事件後、妖精とダンジョンマスターは姿を消したというわけだ。妖精どこに出てきた?などと突っ込んではいけない。


 妖精は完全に姿を隠したようだが、ダンジョンマスターはそうでは無い。ダンジョンという記述があるので、表の世界に姿を見せなかっただけでこの星に居たのは間違いない。

 主天使の座が人間に渡ったのは、当時のダンジョンマスターが明け渡したからか?それとも神の意志?考えても頭が痛くなるばかりで答えは見えない。


 まぁ、今のところのまとめとしてはこんな感じだ。

 俺は主天使君を迎えに行くとしよう。


 □


 風が耳を撫でる中を歩く。辺りを見回しても人影は無い。主天使君はまだ来ていないようだ。

 領域を展開し、しばし彼を待つ。


 今日は月が綺麗だなと眺めていると、石畳を叩く音が聞こえた。視線を音の発生源へと向けると、そこには20代ほどの男性が立っていた。

 男性は金髪のロン毛で、出っ歯じゃないネズミの様な顔。服に縫われた金糸が月明りを反射してキラキラと輝く。指にはごつい指輪を幾つも嵌めてあり、正直重そうだ。

 覚悟はしていたが、俺が思っていたベクトルと違ってちょっと困惑している。厳しめのお兄さんを想像していたのに、成金野郎が出てくるもんだから凄い笑いたくなってくる。かぐわしき負け犬感というか、なんだ。権能に頼って来たのが丸わかりな雰囲気?とにかく俺はこう思った。


 ・・・こいつなら殺してもいいんじゃない?


 「貴方がエバノですか」

 「命までは取りはしない。大人しく主天使の座を降りてもらおう」


 思っただけであって実行に起こしてはいけない。あくまでも話し合いをするために呼んだのだから。

 こんな奴と同列だなんて死んだ方がマシだ。なんて思っていない。これっぽちもな。うん。神に誓えるか、と聞かれれば怪しいかもしれない。


 「それは断らせてもらいます。確かにダンジョンマスターが主天使であるのは他の天使の階級を見れば分かります。しかし、だからと言って主天使の座を明け渡すわけにはいきません」

 「ではどうしろと?」

 「もちろん、どちらが主天使に相応しいか決めるんですよ」


 なにやら彼には秘策があるみたいだな。

 そもそも勝負は既に終わってると思うんだ。お前はこの城の城主であり、智天使でもあるルーチェを『支配』しなかった。相対する俺は、ルーチェの説得に成功した。彼女の意見を聞き、許可を得た。許可を得ればこちらのもので、俺は天使間の問題の『統治』を行った事にはならないだろうか。

 そう考えるならば主天使として優れているのは俺であり、手をこまねいていた彼は劣化コピーとなる。まず、俺より階級が上のルーチェを『支配』なんぞ出来る筈がない。自身より上の天使には一部の技能が通用しないのはフェーデで確認しているからな。


 そして、力量だって・・・————


 「負けている筈がない」


 素早く領域を拡大させるとともに転移陣を設置。


 「な・・・っ!?」


 数瞬の間に現れたのは、シュヴァルツヴァルトの守護者達。

 広場を埋め尽くす鎧に彼の表情が凍る。伏兵なんかは連れてきていないようだな。まぁ、居ても居なくても結果は変わりはしないが。


 「さらばだ、主天使君だいりやく


 一糸乱れぬ鎧の列。進行先は主天使を名乗る人間。

 鎧が擦れる音が風音をかき消し、生命なき守護者達が剣を胸に進む。


 彼の眼には今の状況がどう見えているのだろうか。


 その夜。城内に居た者は男の叫び声が聞こえたようだが、誰一人として真実を語る者は居なかった。


 □


 言っておくが、俺は主天使君を殺したわけじゃない。勝手に悲鳴を上げて勝手に気絶しただけだ。

 ルーチェがいる手前、殺してしまうのはよろしくない。

 気絶した主天使についてはルーチェに任せた。一応は彼女の身内だしな。殺してもいいと言われたら殺すんだが。聞いた話しによると、彼は技能を使って一部の人間を支配していたらしい。被害者は女性が多かったのはお察し。今は法を裁きを待っているのだとか。

 主天使としては俺が上だと証明したつもりだが、技能に特に変化は起きていない。


 そして同盟についての話し合い、最終日。

 重要な話しは既に終わっているので、ここ2日で決めたことの確認をするだけだ。

 人魚の件については誰も疑う事なく話しが流れていった。アフターケアもバッチリのようで俺は恐ろしいよ。

 そうして、同盟についての会議は無事に終わりを迎えた。


 この街でやる事はもう無いかな?

 宝石を売ったお金の回収は既に回収した。手に持つとどうしても嵩張かさばってしまうので、メラニーの『空間魔法』で仕舞ってある。

 教会にいってみるか?神の像が置いてあるのなら見に行く価値はあると思うが今の時代的に言えば像は禁止されていたような気もする。

 ・・・・・・とりあえず疲れたし帰るか。領域を創っておけば直ぐにこれるからな。早く温泉でゆっくりしたい。


 長かったようで短いグラキエス教国での会談。緊張することが多くて寿命が削れる思いをしたものの、俺としてはそれなりに楽しかった。

 異星の建物を見るのは初めてだったし、仲間と旅をするというのは男心がくすぐられた。普通のチート転生者はこんな気持ちなんだろうか。

 最初から気軽に出歩ける立場じゃない。領域内なら好きに移動できるんだけどなぁ。

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