事業計画
話しは進み、時間的にも最後の議題となった。
最後の議題は、各国の産業について。全ての国が利益を得られるように、伸ばす産業を被らせない為だそうだ。
「・・・えー、オーラルフットは農業。ノーマリーは林業と漁業。レクタングルは工業。ルーマンドは霊草。グラキエスは貿易業。今はこんな感じですね」
ルーチェが侍女から受け取った書類を見ながら各国が扱っているモノを言っていく。
これらに被らない様に自国でどの分野を育てていくのかを決めなくてはならない。もし被ってしまえば嫌がらせをされるのは目に見えている。
シュヴァルツヴァルトで一番伸びているのは農業。これではオーラルフットと被ってしまう。違うものを提案するとすれば、ギフトから報告があったポーションの類いたろう。
ただこれもルーマンドの霊草と被らないか心配ではある。
「すみません、霊草と言うのはどのようなものでしょうか」
「神の力を帯びるとされる薬草の事です。数が少ないのでそうそう取れるものではありませんけど、効果は折り紙つきですよ」
トゥイ殿からの返答に少し考える。
質の高いポーションを量産してしまうとルーマンドの利益を損なうし、質を低くすると今度はウチの信用を失う。難しい塩梅だな。
俺の手札はポーションしかない。コレをどうやって押し通すか・・・。
「私はポーションを作りたいと思っています。こう言ってはなんですが、効果の薄いポーションであればルーマンドの利益を損なう事は無い筈です。霊草は数が少ないとのことでしたので価格の方も高いと思います。その点で言えば差別化は可能であると判断します」
考えを述べた俺に対しての反応は様々。何か考え込んでいたり、自国の書類と睨めっこをしている。
その中で沈黙を破ったのはレクタングルのワイアット殿だった。
「ポーションの素材は森林で取れるモノが殆ど。採取中に命を落とす初心冒険者も少なくないと聞く」
「ノーマリーの砦からシュヴァルツまで、そう遠くない。ポーションが直ぐに届くのは兵からすると心強いだろうな」
ワイアット殿にアルト殿も続く。
レクタングル、ノーマリー。この2国が賛同してくれれば概ねは通るんじゃないか?
トハン帝国と接する2国にとって、耐久力、兵力は自分の命に繋がる。
「ポーション類はそれなりに高価で売買されています。理由はワイアット殿が仰ってくださいましたけど、どれ位の価格で販売を予定していますか?それと効力をどのくらいにするのかは聞いておきたいですね」
流石にトゥイ殿は突っ込んでくるな。
この質問は各国の代弁みたいだが、トゥイ殿が発言する事によって、ポーション関係は自分の管轄だぞ、と知らせる事が出来たわけだ。
霊草の価値は揺るぎないだろう。しかし、こういうやり取り1つ1つが大切になってくる。
「価格は既存する物よりも低くします。その分効力も落としますが、初心冒険者や一般市民でも手に入りやすくなれば利益は出てきます」
どうだ。これなら既存のポーション全ての利益を損なう事も無い。
正直、俺の頭ではコレが限界だぞ・・・。受け入れられない場合はマジでお手上げだ。
「きちんと差別化できているようですし私はいいと思いますよ。今後もっと産業を育てる必要はありますけどね」
同じ天使だからってずっと甘やかしてくれるわけじゃないよな。
ルーチェのことを何処か抜けてるな、と思ったのは1度や2度ではないが、国の代表になるだけの能力は持ち合わせている。
俺も自分から積極的に動いていかなければ。
「ラフラインからは魔物の素材だ。この辺では見ないような骨や皮を用意出来るだろうと思う」
ジャンナ殿は魔物の素材を出すようだ。
俺には魔物の素材なんて必要ないが、他国は違った。最初に声を出したのはワイアット殿。
「ラフラインにはどんな素材があるのか是非教えてもらいたいな」
「通常の武器では断ち切れない革や甲殻。血など、薬の材料になるものもある」
そんな魔物が居るのか。どうやって倒しているんだ?
俺の他にもその事が気になった人物がいたのか、討伐方法を質問していた。それに対してジャンナ殿は説明していく。
毒や罠、打撃系の武器を使って討伐することが殆んどの様だが、魔法や魔法剣を使う事もあるとのこと。魔法剣とは魔法の効果を限定的に発現させる剣の事で、腕のいい職人なら製作可能らしい。
「ダンジョンの魔物は討伐した魔物を回収しないから素材は溜まる一方だ。有効活用してくれるのならありがたい」
MPが回収できれば死体なんか要らないからな。
ダンジョンに居るのは守護者であって魔物ではないんだがな・・・。表現の仕方が気に入らない。まあ、だからって何か言う訳では無いけども。
ジャンナ殿の提案は上手くいきそうだな。彼女が魔物の名前を言う度にどんな魔物なのか質問が飛んでいく。全体的に生態系が違うんだろう。
ギャレット殿も上手くサポートしてくれているので、ジャンナ殿の事は放っておいてもいいだろう。
モフモフはしばらくお預けだな。そんな事の為に動いているほど暇ではなくなってしまったし。モフモフを蔑ろにしているわけでは無いのを分かってほしい。
「1つ、いいでしょうか」
最期にルーチェが話しを纏めるのかと思っていたが、そこにトゥイ殿が割り込んだ。
必死過ぎて忘れていた。人魚の保護の話しがまだだったな。
周囲は何事かと彼を注視した。トゥイ殿は後ろに控えている人魚に目配せするとユックリと瞼を落とした。
「『人魚の保護を引き続き頼む』」
透き通った声と重なる様に声を出したトゥイ殿は目を開けて周囲を一瞥した。
「異論が無い様ですので追加しますね。では、本日の会議はお開きとします」
すかさずルーチェが追加を決定し、流れる様に会議の終了を告げる。
結構あっさりと終わったな。周りの状況を見るに、かなり強力な能力だろう。視線を配れば、そこにはいつも通りの王と護衛達の姿があった。
瞬時に効果を発揮する催眠音声。対策もしにくく、阻止もしにくい。
俺に効かないのは幸いだった。守護者達は俺が創造したのが理由なのかは分からない、しかし、声に惑わされることは無かった。ダンジョンマスターが守護者に謀反を起こされては溜まったものじゃない。
正気を取り戻した人間から部屋を退出し、ルーチェ、トゥイ殿、俺が部屋に残った。
トゥイ殿は一息つくと俺達に頭を下げた。
「ご協力ありがとうございました」
「あの程度でしたら、いくらでも」
「そうですね。今回も私が技能を使っても良かったんですけど」
トゥイ殿はやっと肩の荷が下りたといった様子。彼は彼で戦っていたのだろう。
そんな彼も一礼すると部屋から出て行ったので、俺とルーチェだけになった。彼女には色々と聞きたい事がある。時間的に怪しまれない程度に話しをしたい。
「軽くですけど読んできました」
「そうですか・・・、どうでした?」
静かにそう聞いてくる彼女。
ここで聞かれているのは、『創世記』を読んでの感想なのか、それとも別の何かか。聞き方からすれば『創世記』の感想で間違いないと筈だ。しかし、それだけでは無いんじゃないかと考えてしまう。
ルーチェにとって主天使君はどんな存在なのだろう。ふと、そんな事を考えた。俺が主天使君を殺そうと殺さまいと、俺の判断に何かを言ってくることは無いと思う。
「書かれているのは全て史実ですか」
「全てではないけど、八割ほどは真実のはずです」
「・・・現在の主天使は2人。もう1人の彼は本来の主天使ではなく、湧き出たダンジョンマスターである俺を警戒している」
「合ってるわ」
そして訪れる沈黙。少しした後、ルーチェは俺に視線を向けた。
ソレを知って俺がどう動くのか、どうしたいのかを聞きたいのだろう。見つめて来る彼女に俺が返したのは、何とも無難な返事だ。
「とりあえず会ってみない事には何とも」
「彼はエバノ様を殺そうとしているかもしれませんよ」
ルーチェの言い分も最もだ。でも、俺は彼に期待をしているのかもしれない。
会議中に、レイや守護者が襲われることは無かった。問題があれば念話が届く。それが無かったということは、問題が起こらなかったということだ。
ただそれだけ。ただそれだけの事で彼に会ってみようと思った。
勝手なものだな。殺そうとしていた人物に会ってみたいと思うだなんて。でも、会ってから決めてもいいのではないか?
俺の決断が最善で無かったとしても、また立ち上がればいい。『人間は考える葦である』のだから。
「許可をくださるのならば、私が死ぬことはあり得ません。それに、話しをしてみたくなりました」
「そこまで言うのであれば許しますが・・・」
「では、あと1つお願いが」
何も返答が無かったのでそのまま口を開く。
「今日の深夜、広場の人払いをお願いします。彼も私が気になっているのなら接触してくるでしょう」
ルーチェが一つ頷いたのを見て会議室を出る。
主天使君は誘いに乗ってくれるかな?話しが出来る人物だといいな。




