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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
八章 変法自強
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もう1人の主天使

 ダンジョンマスターとして初めて人間の死を目にしたのは、俺を殺そうとダンジョンにやって来た冒険者パーティーだったか。パーティーリーダーの名前はアルトゥーロ。熊みたいな男だった。

 今更こんなことを思い出したってどうにもならないのは自分でも分かっているし、思い出してどうするというのか。

 俺が楽しそうに見えるのなら、それは俺の深い部分に戦闘を望む様な戦闘狂じみた願望があるということだ。自分はそんな奴だと思いたくはないが、心のどこかで安堵している自分も居るような気がする。本当の自分を知れたのだ。喜ぶべき重要なイベントであった。

 もう1人の自分が居るからこそ、今ここに立てている。が俺を助けてくれたのだ。そう思うとどうしようも嬉しくなってくる。身体に熱がこもる様な感覚だ。

 調子は最高。まぁ、戦闘するわけでは無いのだが。


 目立つのを避けるために麒麟ではなく馬を使う。

 俺の乗馬スキルは『人馬一体』の恩恵によるところが大きい。『馬術』の技能が無くても乗れる事には乗れる。しかし、麒麟に乗れないのは不安だ。無様に落馬でもしたものなら、骨は容易く折れるだろう。

 こちらを心配そうに眺める麒麟の頭部を胸元に引き寄せて自分を落ち着かせようとしてみる。効果は無かった。それどころか、体内の熱量が増えた気がした。


 「殿下」

 「分かっている」


 最後に麒麟の口元を撫でてから馬に飛び乗る。

 ブリッツとメラニーは既に乗馬をすましており、ローブを羽織っていた。

 メラニーからローブを貰い、ユックリと歩を進ませる。馬丁ばていが俺達の姿を見た時から門番に挨拶に行っていたらしく、いかにも怪しげな恰好をしていても何も言われる事は無かった。

 門をくぐると、ローブに付けられたフードを被り、勢いよく馬を走らせる。俺達の先には住人が避けてできた道が伸びる。


 (ブルーダ及び守護者の回収後、速やかに城に帰る)

 (かしこまりました)


 ハヤブサ、フクロウのお陰で、ニーの地理は手に取る様に分かる。

 一切の迷いもなく道を幾つも曲がり、人気の少ない方へと走っていく。

 誰かに尾行されているような感覚は無く、順調そのものだ。


 (尾行は?)

 (ありません)

 (私も感じません)

 (・・・ブリッツ、メラニーは周囲警戒を)


 ブリッツ、メラニーにも確認を取らせて馬を下りる。

 着いた先は、街の中にありながら周囲の喧騒から離れた場所。治安もよろしいとは言えない。建物の隙間にはゴミが散乱し、浮浪者やネズミの姿も確認することが出来た。

 いつでも動けるように腰を落としながらブルーダに念話を入れる。周囲に幾つもある横道の1つから静かに姿を見せたブルーダ。肩にはフクロウとデクレアも見える。

 念には念をと、彼等を『束縛の魔眼』で拘束したのちに領域を広げて鑑定を掛ける。特に変な表示も無かったので転移陣を設置。そのまま帰還させた。


 (ギフト、一応見張っといてくれ)

 (分かりました)


 アバビムの吸血鬼の件があったので、俺も疑い深くなったみたいだ。常にとは無理だが、最悪の事態を予測するように心がけている。

 同盟なんかの話し合いの場でも深く読める様になりたいものだ。余裕がなくなると直ぐに機能停止してしまうからな。


 (帰るぞ)


 領域を消して馬に乗る。脇目も触れずに城へと走りだせば、ブリッツとメラニーが合流してひづめが地面を叩く音が増えた。

 しかし、その音も次第に小さくなってくる。城門へと続く唯一の街道。そこが人で溢れかえっていたために馬では進めなくなったのである。

祭りでもあるのか?親善試合は少し前に終わり、客は()けたと思っていたのだが。

 ブリッツが馬から降りて1人の人物に声を掛けた。


 「一体なんの騒ぎですか?」

 「お?あんたまだ聞いてねぇのか。なんでもな、神様から授かったていう任務から主天使様が返って来たんだとよ」

 「その主天使様はどちらに?ぜひご尊顔を拝見したいのですが」


 やり取りを聞きつつ、クローフィに念話を飛ばした。


 (グラキエスの主天使に神から仕事が出ているかルーチェに確認してくれ。それから警備の強化を。・・・まだ日が出ててるから難しいかもしれないが眷属を出してくれ)

 (申し訳ありません。麒麟や馬まではとても手が回りません)

 (城門付近に居るからそこは任せろ)

 (ご武運をお祈りしています)


 屋内であればクローフィの眷属であるコウモリは真価を発揮するんじゃないか。場内にコウモリが居る、という外見面でみれば微妙なところだが、そこにさえ目を瞑れば優秀な存在となる。

 麒麟や馬にも念話を飛ばして警戒させておく。


 (主よ、もう少しで主天使とやらがココを通るようです)

 (今の内に城内に入るぞ)


 戻ってくるのなら、ここはダンジョンマスターらしく待ちかまえてるとしよう。ルーチェが許すのなら城内を領域にしてボコってやるんだが。

 相手の事を何も知らないけど、っちゃってもいいよな?向こうはやる気だし。

 まだ熱が引いていないのか、ぶっ飛んだ思考になってしまっている。それが心地よく感じるのだから俺も末期かもしれない。


 (神からそのような事は聞いていないようです)

 (そうか、分かった。取り敢えずは様子見だな)


 主天使の姿が見えないうちに城内に入ってしまおう。人混みが邪魔とは言え、きちんと言葉で説明すれば道を譲ってくれる。

 自分から話しかけてしまえばローブの効果は切れてしまうが、こんなところで待っている方が危険だと判断した。城内は各国の騎士たちがつめている。その中を襲おうだなんて思うほど馬鹿ではあるまい。


 門番は俺達をすぐに城内に通してくれた。

 馬を馬丁ばていに預け、城壁沿いの見つかりにくそうな場所を領域化。転移陣を設置した。とりあえずこれでうまやに行き来出来る。


 まだ昼からの会議まで少し時間がある。欠席出来れば一番なんだが、俺のダンジョンのこれからが一瞬で決まると思えば休むわけにはいかない。

 そもそも俺がどうしてビクビクしなければならないのか。ルーチェが言っていたように『10人の天使』を読むか?そうすれば相手の不安も多少は理解できるはずだ。


 この星には言葉を有する10の種族がある。

 人間、獣人、亜人、人魚、森人エルフ山人ドワーフ小人ホビット、妖精、竜、ダンジョンマスターだ。ダンジョンマスターだけが異質に感じるな。残念ながら時間が無いので読み進めるが。

 10種族それぞれに1人ずつ天使が居た。しかし、ある事件のせいで2つの種族がその姿を消した。居なくなった2種族の代わりに、他の種族が2種族が就いていた天使の座を引き継いだ。


 姿を隠した2種族について書かれている文章を探すと、それが妖精とダンジョンマスターであると分かった。

 今の主天使は仮の主天使であり、元々ダンジョンマスターが主天使の座について居たわけだ。そうなると、妖精が権天使になるのかな?今はフェーデが就いている奴だな。

 で、主天使君が懸念しているのは、自分が殺されないかどうか。そりゃあ突然本物が現れたら驚くわな。俺は殺すつもりはないが、相手から手を出してくるのなら話しは別だ。


 今調べられるのはこのくらいだ。

 扉がノックされた。時間が来たのだろう。



 会議室に全員集まると、スムーズに昨日の話しが再開される。

 昨日の話しと言っても、トハン帝国と北のダンジョンへの対策は殆んど決まっていたので確認の様なものだ。


 「・・・では次の議題に行きましょうか。各国の魔物の被害はどうですか?帝国では異常気象が起こっていましたけど」

 「帝国側から順調に流れてきとるぞ・・・。冒険者や騎士を常駐させても小さい町は厳しい」

 「こちらは砦でほとんどを凌げている。まぁ、帝国と接している部分が少ないからな」


 俺の雨がレクタングルとノーマリーにも被害を及ぼしたようだ。

 『果てしない渓谷』のお陰でノーマリーは大丈夫そうだ。逆に、レクタングルは厳しそうだな。『果てしない渓谷』はノーマリー方面(南)に寄っているので、その分レクタングルが割を食ってる感じだ。

 昨日、地図を見た感じではルーマンドも帝国と接していたと思ったがトゥイ殿は何も言わないのだな。レクタングルの北西にあるルーマンドは、南西の一部が帝国と接している。レクタングルより距離があるものの、被害は受けている筈・・・。


 レクタングルにはグラキエス教国が兵を出すことで解決した。

 結局、最後までトゥイ殿は微笑みを絶やさなかった。言いたくない事があるのだろうか。・・・人魚の声で魔物を退しりぞけているのだとしたら言いたくないか。エルフ自体の技能熟練度が高いのだから自力で倒せそうな気もするんだがな。

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