エバノの影響
ギャレット殿に国の事はアルト殿に聞いた方がいいと言われたので、今俺はアルト殿へと歩いて行っている。
ジャンナ殿には不安げな視線を向けられたが、ここからは俺では何も出来ない。彼女も王だ。半ば無理やり連れてきといてあれだが、チャンスを掴んでほしい。
「アルト殿、少しよろしいですか」
「ああ、何かね。何事か話していたみたいだが」
アルト殿の隣には、親族枠で連れてきている秘書が居るだけで周囲に人影はない。王子も騎士達と共に体を動かしに行っているのだろう。
「国内での経済の回し方をジャンナ殿と聞きに行っていたのですよ。私はそちら方面の知識を殆ど有していないものですから、どうしたのかと思いましてね」
「なるほど。それで、何故、私に」
「ギャレット殿に周辺国との関わりを大切にしろと言われたんです。それで、アルト殿にお話しを、と」
ギャレット殿はこんな風には言っていないが、言われたのをそのまま言うのも違うと思ったので、出来る限りそれらしいニュアンスで答えた。
「そういう事なら、持ちつ持たれつと言うし構わんよ。だが、コチラからも幾つかお願いがあってな」
「私に出来る範囲であれば尽力させてもらいます」
「なに、そんなに難しくはないはずだ。エバノ殿には娘を預かって欲しい」
ノーマリー王国、アルト殿には助けてもらってばかりだ。何か出来ないかとは思っていたのの、娘を預かって欲しいと言われるとは思ってもみなかった。
だか、何の為に娘を預けようとするんだ?タダで人質を貰うような話しだが。
「御息女を預かるのは構いませんが、どうしてまた」
「これから王位継承で騒がしくなるのでな」
「王位をスタージュ殿に譲られるのですか?」
「そのつもりだ。アイツはまだ甘い部分もあるものの、素質は私以上だと思っている」
物凄い大切な話しをサラッとするのはやめてほしいな。
それにしても、王子に甘い部分がある?ウチに食材タカリに来といて甘いって事は無いだろ。
まだまだ成長するという点では納得だが。
「次期継承者が決まっているのなら、そんなに荒れないと思うのですが」
「そんなに甘くはないんだよ。平和そうに見えても内心ではどう思っていることやら・・・」
「やっぱりそういうものですか」
やはり王族に裏の顔は付き物なのか。
俺の周りには守護者しか居ないから、俺の命令は絶対だ。子供が居たとしても争いは起きないだろう。というか、そもそも俺が寿命で死ぬことは無いし不毛だな。
「スタージュの次は長女が継承権を持っているのだが、なかなかにヤンチャでな。能力は高いのでエバノ殿に迷惑を掛けるような真似はしないと思うのだ」
「では、王位継承が終わるまで御息女を預かるという事で」
「よろしく頼む」
よし。約束は取り付けられた。
ヤンチャな娘と言ったって王族に名を連ねる者だ。きちんと教育はされているはず。それならば俺の所でだって面倒ぐらい見られると思う。
「話しを詰めていきたいところだが、そろそろ始まる様だな」
「また後でお伺いします」
アルト殿の言葉に周囲を見渡せば、ルーチェ、ワイアット殿、トゥイ殿の姿があった。話しに夢中で気付かなかったな。
各国の騎士団も準備を整え終えたみたいだ。
一旦話し合いの場から離れて、シュヴァルツヴァルトの守護者達に合流する。
「準備が整いましたので場所を移動します。案内を付けますので移動して下さい」
ルーチェが移動するように全員に促す。
俺はてっきりココで親善試合を行うと思い込んでいたが、親善試合は屋外の広場でやるみたいだ。
訓練場より広場の方が広いのは確かだ。しかし、広場の地面は石畳になっている。俺達は普段、ダンジョン内で訓練しているので石畳の床はホームグラウンドに等しい。
他の騎士はどうなのだろうか。戦い慣れていないとは思うが・・・。
俺達の案内役としてやって来たのは、何度かお世話になっている下女だった。
彼女の顔は緊張でガチガチだ。大丈夫か?
「また君か」
「旦那様、お知り合いですか?」
「以前、場内を案内してもらった人だ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「と、とんでもございません!お礼を言いたいのは私の方です!」
俺が軽く彼女について説明すると、レイが感謝の気持ちを口にした。
彼女もお礼を言いたいと言ってきたのだが、生憎、お礼を言われるような心当たりが無い。
クローフィを見ても首を横に振るので本当に分からない。
「広場に向かいながらお話しさせて頂きますね」
一旦場内に入り通路を歩く。
それから聞いた話しには驚かされた。
まず、「クローフィ様が助けて頂いた後・・・」から話しが始まったので、俺はちんぷんかんぷんだ。
話の流れを切るのもアレだし、そのまま話しを聞いていった。
クローフィに助けられた後、場内の兵士達がカルラ王妃と俺のやり取りに集まり出したので彼女も向かったようだ。
その帰りにルーチェと出会ってしまい、腫れた頬を指摘されて、どうしてそうなったのかを説明させられた。腫れた頬?ん?全く分からない俺を他所に話しは続く。
その結果、彼女に手を上げた下女は城を追い出され、俺を無事に案内した功績によって薄い赤色の服を渡されたらしい。
ここまで聞いてようやく話しの流れが分かった。随分と出世したじゃないか。見た感じだと下女の位は3つある。1番下から1番上まで登ったんだ、元から仕事が出来ないと二階級特進なんて言われないだろうし、努力が実ったんだろう。
下女の中にも派閥があるみたいで、裏では日夜戦いが行われている。
彼女が赤服になったお陰で派閥のパワーバランスも変わったらしい。俺には関係ないかな、と思っていたのだが、周りに変な勘違いをされてしまったと言われた。
少女に声を掛けたこと、イザコザから助ける為に護衛を割いたことで彼女に気があるのでは?と勘繰られている。
彼女には悪いが、そんな気持で声を掛けたわけでは無いと伝えてある。そこは了承してくれたので一安心だ。
そんなこんなで広場に通じる扉までやって来た。
何カ国かは既に広場に出ているものの、扉の奥から聞こえる音は広場にいる人数が出す音よりも大きく聞こえる。
少し不信感を感じながらも扉を潜れば、そこには多くの人間の姿があった。
「これは・・・」
「グラキエス教国、首都二ーにいる有力貴族や豪商の方々でございます。この場で上手く自国についてアピール出来れば繋がりを持てるかも知れませんね」
広場の壁にはビーチパラソルの様な大きな日傘が設置されており、給仕係なのか使用人達が忙しく動き回っている。
しかし、人を呼ぶとはいい考えだな。この機会を生かせれば国に人を呼び込める。
「では、こちらへどうぞ」
付いていくと、既に広場に入っていた王達が並んでいた。彼等に負けまいと胸を張り、四方からの視線を極力無視する。
俺の後ろから来ていたジャンナ殿も並べば、ルーチェが音頭を取って王達の挨拶が始まった。
俺とジャンナ殿は初顔だし自己紹介をさせて貰えるのは嬉しい。
「レクタングル王国のワイアットだ。この2日間、十分に楽しんで行ってくれ」
「ノーマリー王国、アルトだ。息子のスタージュも来ているが剣の腕は期待しないでくれ」
「ルーマンドのトゥイです。皆様の期待に添えれる様に頑張らさせて頂きます」
「オーラルフットのギャレットだ。生憎、我が国は強くないが楽しんでくれたまえ」
先に4国が簡単に挨拶を済ました。次は俺の番だ。
「シュヴァルツヴァルトのエバノと申します。私の自慢の騎士を見て頂ければ幸いです」
ダメだ。長く話せばボロが出そうになる。
早々に離脱させてもらおう。
「ラフラインのジャンナだ。貴方達を満足させられるような試合を約束しよう」
「最後になりました。グラキエス教国のルーチェです。2日間に渡って行われる親善試合。是非、楽しんで下さい」
ルーチェの総括によって観客達は湧き上がり、ボルテージは最高潮といったところ。
挨拶が終わったので、試合の邪魔にならないように用意されていた場所へと移動する。
試合は総当り形式で行われる。
1グループ6人が6つ、5人が1つ、計7グループだ。
集まった国の護衛の総数は70。今日の試合に参加するのが41。となれば、残りは29。
非戦闘員が居るので実際はもう少し少ないが、残りの29人は魔法使いという事になる。どこの国でも魔法使いは希少という事か。
魔法を使えるようになるには手順を踏まないといけないものの、そこまで難しいものでははずだ。謀反が起きた時に相手方の魔法使いが少ないと鎮圧しやすいとか、そういう理由なのかな?
「騎士の皆様方は御名前を呼ばれましたら係りの者の所にお集まり下さい」
広場には十分なスペースがあるので、試合は全てのグループが同時に行われる様だ。
守護者達の技能熟練度は以下の通りになる。
クローフィ
剣術[熟練度9.42]
幻術[熟練度10.00]☆
火魔法[熟練度10.00]☆
風魔法[熟練度9.35]
アクル
土魔法[熟練度6.71]
水魔法[熟練度6.82]
光魔法[熟練度4.11]
闇魔法[熟練度3.81]
方陣魔法[熟練度10.00]☆
ブリッツ
刀術[熟練度10.00]☆
幻術[熟練度10.00]☆
ルーンフェンサー
剣術[熟練度6.78]
火魔法[熟練度5.80]
水魔法[熟練度5.80]
風魔法[熟練度5.80]
土魔法[熟練度5.80]
技能もだいぶ育ってきている。簡単に負ける事はないだろう。
・・・アクルはルーンフェンサーに技能の伸びが負けてるけど、ちゃんと訓練してるのか?