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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
七章 呉越同舟
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教国へ。始まりの街と神の膝

ガタゴトと、黒檀(こくたん)で造られた馬車が教国領の街の中を走る。

道を行き交う人々は道を譲り、その馬車に視線を奪われた。

馬車には所々に金の装飾が施されていて、鋭く太陽の光を反射する。そんな馬車を引くのは、馬ではなく麒麟(きりん)。ソレが周囲の視線を集める原因の一つでもあるのだろう


「やっぱり派手すぎたか」

「いえ、このくらいの方がいいんじゃないですか」


俺は住民の様子を覗き窓から見て、ため息をつく。

レイは誇らしげな様子だが、俺としては少し成金みたいではないかと思っている。

街に入る時にもそれで一悶着があった。時間が惜しくて『果てしない渓谷』を抜けてきたのだが、衛兵がそれを信じてくれなかったのだ。

ルーチェからの手紙を見せる事で事なきを得たものの、ヒヤヒヤしてしまった。そりゃ、見たこともない豪華な馬車が突然現れたらそうなるわな。


馬車の前には俺の守護者が、後ろにはレイの守護者が馬に乗って護衛をしている。


レイの守護者達の名前はそれぞれ、アン、イン、ユェー、シン、ハイとなっている。正直覚えられる気がしない。

技能は『身体能力強化』と各々が持っている武器に対応したモノを持っている。全員が魔法使いタイプでは無いので、魔法使い同士の親善試合にはクローフィとアクルに頑張ってもらう。

メラニーも魔法が使えるが、メイドなので親善試合には参加しない。


一悶着あった時に衛兵から教国の首都に行く道は聞いている。ルーチェからどの位で到着するか等は教えられているものの、詳しい道筋は実際に行ってみないと分からないものだ。

ついでにこの街の名前も聞いてみると、オリネートと言うらしい。それで、オリネートから首都に行くには3日掛かる。

ボチボチ行くことにしよう。



3日間の間、町に立ち寄りはしたものの、ついぞ村は見かけることは無かった。

その代わりと言ってはなんだが、ゴブリンやオークと言った魔物が多く見受けられた。下手な人数で村を作っても直ぐに潰れてしまうのだろう。


出てくる魔物もアッサリと処理でき、何事も無く首都に着いた。


「へぇー、立派なもんじゃないか」

「どうしてもシュヴァルツヴァルトと比べてしまいますね」

「物理法則無視のウチと比べたらダメだろ」


グラキエス教国、首都二ー(にー)

窓から見える街並みはベージュ1色で、優しい印象を受ける。建物は軒並み二階建て、偶に三階建ての建物も見る事が出来た。

通りは活気に満ちており、人々の喧騒が聞こえる。


人口が少ないのか直ぐに城に着いた。衛兵にはブリッツが対応したみたいだ。

何事か話し終わればブリッツが馬車にやってきた。メラニーが中から扉を開け、俺に報告を入れる。面倒臭いやり取りだが、人の目がある以上は必要な手順となってくる。


「陛下、馬車はここまでです」

「分かった。馬車はどうするんだ?」

馬丁(ばてい)厩舎(きゅうしゃ)へと案内してくださるようです」


俺の馬車は御者が居ないのにどうやって案内するのだろうか。

想像元は野生動物でも守護者として創造すれば意思疎通は可能になるからな。


先に馬車からメラニーとレイが降り、最後に俺が降りる。

今日はいつものシャツとベストの格好ではなく、黒のスーツ姿だ。礼服と言われて思い付いたのがコレしかなかったのだ。無駄に目立たないし、様子見には充分じゃないだろうか。


「お初にお目にかかります。私、グラキエス教国騎士団第一部隊隊長のブランドンと申します。シュヴァルツヴァルトよりいらしたエバノ様、レイ様でございましょうか」

「丁寧な対応感謝する。私がエバノで間違いない」

「私も間違いありません」


ブランドンは右頬に傷のあり、顔の彫りが深い。特にほうれい線が深いのが特徴だ。装備は革の鎧を着ているが(やわ)な感じは無く、分厚い革を何重にも重ねている様に見える。

彼の隣には中学生程の少年が控えていて麒麟を眺めていた。この少年が馬丁(ばてい)だろうな。


「ちゃんと伝えれば基本的に言うことは聞いてくれる。見るのは初めてだろうが別に喰われるなんて事はないさ」

「は、はいっ!!」


少年に声を掛けると良い返事が返ってくる。

若さっていいな。


ブランドンの案内で、シュヴァルツヴァルト一行は中庭を進む。

石造りの堅牢な城壁に両脇を囲まれた中庭では、数名の庭師がテキパキと作業を行っていた。俺達に気が付けば作業を止め、通り過ぎるまで頭を下げる。


「素晴らしいな、管理が行き届いている。人は勿論、庭もな」


俺の声が聞こえたのか、庭師達の腰の角度が更に低くなった気がする。

俺達は新参者だ。本心からの言葉ではあるが、多少は媚を売って印象を良くしておきたい。


「お褒めのお言葉、感謝致します。庭師達も鼻が高いでしょう」

「人を育てるという事は国を育てるという事だ。我々も見習わなければな」


庭を抜ければ、体育館を2つ並べたような大きさの正方形の広場が見えてきた。正面奥には、横に大きい扉があり、広場を囲う壁には規則的に窓が配置されている。

地面には、祈るように指を組んだ絵がモザイクアートで描かれていた。


「この広場では週に一度、市を行っております。明日、明後日と行われる予定の親善試合もココで行わさせて頂く予定です」

「分かった」


場内で市を開くのか・・・。

メリットとしては、警備が楽、城に愛着を持ちやすい、っていうところか。

デメリットも勿論あるのだろうが、いい案にも思える。


「広場から屋内に入るとすれば目の前の扉だけか・・・」

「侵入されても対処しやすいからではないですか?窓も高めの位置にあるみたいですし」


呟きをレイが拾う。広場を眺めていると分かってくる防衛の利点に、思わず下を巻いてしまう。

主の城を褒められてブランドンも何処か嬉しそうに見える。


「私のご案内はここまでとなります。お部屋までは下女に案内をさせます」

「よろしくお願い致します」


ブランドンの言葉で、扉の前に控えていた下女が頭を下げる。

服装は、ワンピースの丈を伸ばし、生地を厚くしたモノを着ていて、色は薄い赤色。動作こそテキパキとしているものの、上物な服を来た町娘と言った所だ。


広場に面している通路以外の窓は縦に長く造られていて、その設置数も多い。

建物の中という閉鎖空間でも、積極的に陽の光を取り入れようとしているのだろうな。


通路を歩いていると、何人かの下女と遭遇した。服は同じ物を色を変えて使っているらしい。薄い茶色に、クリーム色。思うに、色で階級や役割を分けている様だ。


俺達に宛てがわれた部屋は5つ。1つの部屋に二人入る計算になる。俺とレイの守護者から1人ずつが部屋の前で待機して護衛につくのだが、寝る必要の無いルーンフェンサーは1晩ずっと立ちっぱなしだ。守護者はブラック企業だった・・・?

立食パーティーまでの時間は自由行動となり、その時には下女を連れて行くように言われた。


部屋に入って一息つく。沈んでいくカーペットに、天蓋付きのベッド。部屋にはチリ一つおらず掃除が行き届いているのが分かる。


「ふぅ・・・さて、どうする?」

「街を見て回りたいですけど、明日からの予定を考えると休んでいた方がイイでしょうね」

「そうするか」


旅慣れてないし、気付いてないだけで疲れているかもしれない。ココはレイの言うように休んでおこう。



客間で休んでいると、ブリッツから念話が入った。


(主よ、ルーチェ様がいらしてます)

(入ってもらえ)


念話が切れると同時に扉がノックされる。ブリッツが扉を開ければ、そこに居たのはレクタングル教国の主にして座天使。ルーチェ・クルイローその人だった。まぁ、予め居るのは教えられてるんだが。


「二ーはどうですか?」

「活気があって良い雰囲気でしたよ」

「それは良かったです。レイ様はどうでしたか?」

「そうですね・・・あのお店が--」


挨拶もソコソコに首都の様子を聞いては嬉しそうにレイへと話しを振る。

・・・楽しそうなので俺は席を外そうか。決して、煩いとか思った訳ではない。


「申し訳ありません、少し厠へ行ってきます」


一声かけたものの、(つい)ぞ返事が返ってくることは無かった。

か、悲しくなんてないんだからね!!


「ブリッツ、少し付き合え」

「分かりました。ここはルーンフェンサーに任せてクローフィ様かアクルを同行させましょう」

「アクルは駄目だ。煩くなる」

「では、クローフィ様に連絡を」


アクルは空気が読めない事もないんだが、今客間で騒いでいる人達と似たような人種だからな。メラニーも彼女達の対応で忙しいだろうしお留守番だ。

ブリッツが念話をすれば、数秒でクローフィが部屋から出てきた。


「どちらまで行かれるのですか?」

「場内を少し回るだけだ」


足元を一時的にダンジョンの領域にして、何時もの服装に着替える。やっぱり着慣れたものが一番だな。


「行くぞ」


まずは中庭を目指して歩こうか。歩いているうちに下女にも出会うだろう。

これから探索をすると思えば何か楽しくなってきた。童心に返った気がする。

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