2つのリング
リアスは錦織と日本酒を数点持たせて教国付近に置いてきた。
手紙の返信として、事前に教えてくれたことに対する感謝と次はまとまった量の物品を贈らせてもらうという趣旨が書かれた紙を封筒に入れ、ロウに鴎の印を押したものを渡してある。
それで、1ヶ月の間に俺がする事は、貴族に通用する礼儀作法と言葉使いを身に付けることだ。
小説で見かけるような舞踏会等も行われる可能性を考えれば、最低限は踊れるようにしておかなければいけないだろう。
・ジャンル選択[陸]
・造形『人型』
・細部設定 技能『看破(ブースト+100)』『宮中作法(ブースト+100)』『気配察知』『剣術』『指導』『舞踏術(ブースト+100)』『水魔法』『火魔法』『回復魔法』『空間魔法』
消費MP479
・名称『メラニー』
・創造しますか?
《はい》《いいえ》
MP18,481(-479)→18,002
メラニーの創造コンセプトはメイドだ。
大きな目に薄ら笑いと、アイドルみたいな顔をしているがメイドである。メイドである。大切な事なので2回言った。
髪は茶髪のカールしたセミロングで、あくまで主観に過ぎないが、全体的に顔を見ると若干頭が悪そうに見える。
彼女には、メイド服を着てもらう。
紺と白を基調としたもので、春葉原に居そうな感じだ。袖は二の腕の途中まで、スカート丈も膝上までと、ロング派が見れば怒り出しそうな衣装になっている。
「陛下」
「どうした」
「会談に参加なされるのはよろしいのですが、皇后陛下にお話しを通されません事にはコトが進みません」
それもそうか。親族も参加出来るのだからレイを連れていかない理由にはならない。
それに、そろそろレイに結婚の申し込みをしたいと思ってたからいい機会だ。
レイが担当している『五階層』に降りてきた。
何故かは分からないが、ダンジョン内の空気が変わった気がする。階層は区切られているので当たり前と言われればそうだ。でも、何と言うか、違和感を感じる。
結局、違和感の正体が分からぬまま『五階層』を歩く。
広い草原には所々に灌木が生えており、左手には大きな川が見える。少し歩くとゴーレムが出迎えてくれ、ダンジョン内を案内してくれた。
普通なら立場は逆だが、ウチのダンジョンは少し特殊だからな。
ゴーレムに付いて歩けば、黒いレンガと赤い屋根に飾られた平安時代の様な宮殿が姿を見せた。
・甎
土と灌木のたきぎから生産出来るレンガ。
黒いレンガが気になって鑑定をしてみた。レイの領域でも鑑定は通るようだ。
途中で熱線を放つ牛野郎と遭遇したが、特に問題も起こらずに『六階層』に降りた。
「・・・レイ」
「珍しいですね、旦那様が来るなんて」
足元には水が張っているのに、自分の足が濡れる様な感覚は無い。話しを聞いていたにも関わらず戸惑ってしまう。
例の名前を呼べば、柱の影からレイが姿を現す。
「珍しいって・・・ココに来るのは初めてだ」
「そうでしたっけ?」
さて、どうやって話しを切り出したものか。
改まって話しをするというのは思っていたよりも難しいみたいだ。
「ん?どうかしましたか?」
レイが押し黙る俺に首をかしげながら尋ねてきた。
「いや、その〜、なんだ。少し話しがあってな」
「そういえば、リアスさんが来ていましたね。同盟についての手紙でも持っていらしたとか」
「まあ、大体あってる」
あ、ダメだ。このままだと話しが流れる。
ええい!勢いに任せて言ってしまえ!!
「レイ、俺と祝言を挙げてくれないか」
勢いに任せても、搾り出せたのはこれだけ。
しかも、最後の方には言ってて怖くなってしまって尻すぼみになっている。
全く、・・・情けない。自然と顔も俯き、今すぐにでも立ち去りたいという羞恥に襲われる。
返答を聞くのが嫌だ。しかし、無情にも時間は進むもので、レイは動き出す。
プロポーズの答えは言葉ではなく、行動で返ってきた。
包み込む様な抱擁。顔を上げれば、満開の笑顔が咲いていた。
「ずっと、お待ちしてたんですよ?」
「すまなかった」
「でも、見た目は私の方が歳上ですからね。少しは我慢も出来ます」
俺の外見は18歳頃だし、日本人は若く見られやすいというのもあるかも知れない。女性に年齢の話しをするのはタブーだと分かってはいるものの、本当の年齢は何歳なのかと一瞬考えてしまった。
邪念を払いながら、お姉さん風を吹かしているレイを俺からも抱きしめ、一旦、互いに距離をとる。
「婚約の証として指輪を用意したんだ。良かったら受け取ってほしい」
「着けたら一生外しませんから」
「あぁ、そうしてくれ・・・何か疲れた」
俺が用意した指輪は、決してお洒落なものでは無い。プラチナを主な素材として形を整えた指輪に、少し装飾を加えただけの単純なものだ。それでも笑顔で受け取ってくれる彼女。
ほんの少しの言葉でさえ、ソレが大切なものであるほど伝えるのは難しくなる。
それだけ俺にとってレイが重要な立ち位置に居る。そう思えるのは幸せだ。
たとえ、出会いがメチャクチャでも、知り合ってからの時間が短かろうと、大切な人に変わりはない。
「ありがとうな・・・愛してる」
「さて、明日は雨でも降らしますかね」
「・・・茶化さないでくれよ」
ソッポを向いて何事か操作し始めた彼女に、まだまだ時間が足りないかと考えた時だった。
「旦那様。私からも贈り物です」
レイがそう言って俺の方を向いた。彼女の手の中には俺が贈ったものとよく似た指輪が。
何かの操作をしていたのは、この為だったのかもしれない。
「お揃いですね」
・・・可愛すぎませんかね。
ホクホク顔で戻って入った俺は、メラニーの顔を見て本来の目標を思い出し、急いで『六階層』に引き返した。
「すまん。伝え忘れてた事があった」
「リアスさんの手紙ですよね。私も忘れてました」
どうやらレイも忘れていたみたいだ。レイは可笑しそうに笑いながら話しの先を促した。
「ルーチェの国で同盟についての話し合いがあるんだが、レイも付いてきて欲しいんだ」
「ええ、構いませんよ」
「それで、護衛は10人までらしい。半分は俺が出すから、残り5人をレイの方で用意してくれ」
「やはり人型ですか?」
「できれば」
俺が知っている限りでレイの守護者で人型と言えば、ゴーレムしか居ない。一見人に見えても、武器が本体だったり、流体金属だったりと、人の姿をしていないものが多い。
レイには悪いが新しく創って貰うことになるだろう。
「護衛同士、魔法使い同士での親善試合があるから互いに人型の方がいいだろう」
「分かりました」
「後はとやかく言うよりも手紙を見てもらった方がいいかな。確認しといてくれ」
自室に置いてある手紙を手元に取り寄せ、レイへと手渡す。
彼女は素早く流し読むと、口を開いた。
「・・・立食パーティーですか。旦那様の礼儀作法を直さなければいけませんね」
「それは既に手を打ってある。1ヶ月後は死ぬ気で練習させてもらうよ」
やっぱり直さないとダメか。メラニーにどれだけ絞られることやら。
まだ、練習をしてもいないのに胃が痛くなってくる。
「私が居た国では食事会の時は舞を踊ったものですけど、ココではどうなのでしょうか」
「この星での踊りなんで分からないが、多分やるんじゃないか」
「うーん・・・、練習が必要ですね」
俺にこの星の知識がなくても、守護者に付けた技能はココが基準になっている事を期待するしかないな。
□
メラニーの指導を受けて3日が経った。
指がつる、足がつる、は日常茶飯事になってきた。それなりに成果も出ているので我慢しているが、結構ツライ。
レイはその辺の教養は元からあったので、メラニーの指導も直ぐに終わりを告げた。
舞踏会に向けてダンスの練習では、足を踏まないかヒヤヒヤして逆に動きが悪くなる。
食事は、ナイフとフォークの扱い方を重点的に直された。音を立てる度に冷たい視線が飛んでくるのだ。嫌でも直る。
護衛として連れていくメンバーも決定した。
ブリッツ
ルーンフェンサー
クローフィ
アクル
メラニー
俺の方からはこの5人。
レイも人型の守護者を新しく創ったようで、ブリッツがチルアーマーと訓練している時に偶に見かける。ハルバード等の重武装の女性達というのは知っているが、めんどくさいので鑑定はしていない。
三日間の間に、教国からも手紙が届いた。
内容としては、レクタングルから届いたモノと殆ど同じものだった。
強国には、ルーチェとフェーデ以外にも天使が居るようで、その人物の特徴と共に、警戒するようにと書かれていた。天使の階級は、俺と同じ主天使とのこと。冗談などでは無く、しっかりとした文章で書かれていたので俺の方でも気を付けるようにしよう。
ダンジョンマスター等ではなく、人の身で「統治」、「支配」の権能を持っている。ソレを知って俺が最初に思ったのは、奴隷を侍られているというもの。だが、神のお膝元、ましてや天使がそんな事をするだろうか。そもそも、奴隷が居るかどうかすら知らないのだ。早合点は良くない。




