王族の末路
アバビムが死に、戦いは終わった。
「終わりましたね」
「・・・お疲れ様でした」
そう言って近づいてくるルーチェとフェーデに軽く手を振りながら、地面に腰を下ろす。
・・・疲れた。もう動きたく無い。
「旦那様、お疲れ様でした」
「あぁ、レイもな。本当に助かったよ」
天を仰いでいると、レイに声を掛けられた。
数の暴力で無理矢理押さえ込んだ感は否めなかったが、勝ちは勝ちだ。レイも十分立役者としての仕事を果たしてくれた。
因みに腹を捌かれたキメラだが、『再生』で回復している。
「ぶっつけ本番だったけど、上手く行ったな」
「俺はもうゴメンだ・・・、寿命が幾つあっても足んねぇよ」
リアスも頑張ってくれた。成り行きでの参加だったが、彼が居なければどうなっていたか分からない。
俺の守護者には後でハグでもしてやろう。アーマー系は硬いのでゴメンだが。
ミストーカー=デスは活躍の場が無かった。申し訳ない、俺の采配ミスだ。ミストだけにな。
ダンジョンマスターが居なくなればダンジョンは崩壊する。
・・・なんて事は無く、俺とレイのダンジョンの一部となった。俺の、と言わなかったのは、共有スペースとしてダンジョンが増えたからだ。
今までは階層で縄張りが決まっていて、お互いのダンジョンが操作出来ても限定的だった。しかし、新しく増えた領域は二人共が等しく操作出来るようだ。
アバビムのダンジョンをこれからどうするのかを街の代表者と話し合いたいが、代表者とか居るのか?俺のダンジョンも誰か代表者を立てておこう。
高級住宅街がある『三階層』に上がってきた。
アバビムが死んだのが分かっているのか、住民からの視線は痛かった。
来る際に子供と鉢あわせた交差点。そこには一人の男性が立っていた。男性の見た目の年齢は20代ほどだが、顔に見合わぬ貫禄を醸し出していた。
「私が有事の際には街の全権を握る様に言われています。・・・貴方がたは我々をどうしますか?」
男性の言葉はどこか投げやりで、諦めているかのような雰囲気だった。
レイに視線を向けると、俺に任せる、と手で合図を出したので俺の望みを告げる。
「このダンジョンの住人全てを、俺とレイのダンジョンで養う。異論は認めないぞ」
「え、それは・・・」
「そのままの意味だ。環境が変わるだろうが、頑張って慣れてくれ」
彼等には『大聖堂』の周囲に移動して貰おうかと思っている。
国を名乗る以上、国民は必要だ。守護者だけで賄おうとすると、どうしてもボロが出てくると思う。そんなわけで受け入れようと考えたのだ。
「移動する時には声を掛けるが、特に準備しておようなく事は無いからな」
「・・・分かりました」
納得いかないような顔をしているが、彼等とは時間を掛けて仲良くしていきたい。
その後は特に何もなくダンジョンを抜けた。
「リアス、お前はこの後どうするんだ?戦争の準備があるんだろ」
「教皇様によるが、明日には発つさ。・・・今日はもう動きたくない」
「ハハハ、同感だ」
リアスが拠点にしている国は帝国との戦争ムードだったはずだ。俺はまだ同盟国に入っていないが、何か出来ることは無いだろうか。
「国に戻るんなら麒麟を貸してやろうか?走るより速いと思うが」
「エバノ様、その必要はありませんよ」
ルーチェが口を出してきた。何かあるのか?
「『果てしなく渓谷』を横断すれば教国なんてすぐですから」
「ルーチェ様、簡単に言いますがソレは難しいのではないでしょうか」
「?貴方自身が領域を広げていたじゃないですか。パパッと行けないんですか?パパッと」
「あー、・・・行けますね」
そうだよ。『人宮一体』だけが移動方法じゃなかった。
エスカレーターみたいに地面を動かせば楽に移動出来るじゃないか。
早速パパッとダンジョンに戻った。
アクルが面白い程に悲鳴を上げていたのに笑ってしまったのはしょうがないと思うんだ。
□
ダンジョンにはノーマリー王国からの来客が来ていた。
交代の騎士が来たのかと思っていたが、それにしては数が多い。極小数だが、その中に見知った顔もあった。
「クレイドル殿、コレは何事か」
「エバノ様!申し訳ありません、私が付いていながら・・・」
「何があった」
ノーマリー王国にも帝国に動きアリの報告が入った。王国最西端、帝国と接する砦にも常備兵として一定数の騎士が居るが、王国は念のために兵の増加を派遣した。
「それで、その兵が何故ここに居る」
「第一王子様が初陣として軍の指揮を握っていらっしゃているのですが、兵糧の節約だと仰って森を突っ切ると・・・」
「兵糧の節約・・・本気で言ってるのか?冗談なら笑ってやるが」
「誠に申し訳ありませんでしたッ!」
兵糧の節約。確かに、戦争では大切な事だ。
まぁ、それもやり方によるが。
頭を下げるクレイドル殿の頭を上げさせ、詳しく事情を聞く。
教皇様方には先にダンジョンに入ってもらおう。
「で、兵糧をどうやって節約するんだ?近隣の街から徴収するのが普通だと思うが」
「それが・・・エバノ様が食事を創り出せると何処かから聞いた様でして」
「王子とやらは何処に居る。俺が話しをつけた方がいいだろ」
「王子は後尾の方でで進軍しておりまして・・・」
「まだ来てないのか」
それならまだまだ兵も増えるのか。
今で何人だ?・・・950。あぁ、ダンジョンありがとう。
(カモメ様、王子らしき身なりの人物を視認しましたわ)
(分かった)
嗚呼、どうしてこうも立て続けに問題が起こるんだ。
MPはあるが、この数に恵んでやる程お人好しでもない。そもそも事前に連絡を寄越すのが筋ってものだろうに。
・・・取り敢えず、少しでもいいから休もう。
玉座に座って休んでいると、いつの間にか寝てしまっていたようだ。「王子が来る」と、ダンジョンに起こしてもらった。
身なりを整えて待つこと数分。『謁見の間』の扉が開いた。
「エバノ様、突然訪問して誠に申し訳ありません」
入ってきたのたのは、十代後半の男とクレイドルだ。クレイドルがまた謝ってくるのを手で制し、王子とやらを観察する。
十代後半の男は金髪の長髪で、スラッとした体型をしている。どこか見下したような態度は、高貴な生まれからだろうか。
左腰には装飾過多とも思えるような鞘に、金の柄を持つ剣。鎧は一見何も無いように見えるが、所々にヴェルジェンド鉱石を使っている。良いものを使っているじゃないか。
名前 : スタージュ ・ プリンケプス ・ ミニマ ・ ノーマリー
種族 : ヒト
・証
ノーマリー王国 第一王子
ノーマリー王国 第一位王位継承権保持者
・技能
威圧[熟練度2.63]
剣術[熟練度6.42]
指揮[熟練度2.11]
指導[熟練度0.03]
名前が長い。
年の割に技能は強いが、それだけって気がするな。
王子様を見ているが、彼から話し始める様な気配はしない。
早く喋って俺を休ませてくれ・・・。ほら、クレイドルもアタフタしてるじゃないか。
立場上、俺から話す事も出来ないので完全に相手待ちだ。
しばらく膠着状態が続いたが、思わぬ所で助け船がやって来た。
「失礼します。・・・あら、スタージュ殿も居ましたか」
「ルーチェ様、勝手に名前を呼ばないで頂きたかったですね。俺としては先に彼に名乗って欲しかったのですが」
俺が王子如きに先に名乗れば、ダンジョンは王国よりも立場が下だと言っているようなものだ。ダンジョンと王国との関係は、あくまでも平等でなければいけない。
「『鑑定』持ちに何言ってるんですか?」
「疲れてるからいい加減話せ・・・、マジで」
「・・・というわけで兵糧を分けてもらいたい」
話しを逸らしやがった。
さぞかし恥ずかしいだろうな。ねぇ、今どんな気持ち?ねぇ。
「今現在、兵を養えるだけの兵糧はあるのか?」
「砦の補給も兼ねているので問題は無い」
「そうか。じゃあ俺から渡す分は無い」
なんだよ、あるんじゃないか。
風呂入ってこよう。
「は?ちょっと待てって」
「ルーチェ様、私はお風呂に入って寝るのでよろしくお願いします」
「分かりました。今日はお疲れ様でした。あ、私もお風呂入れますか?」
「もちろん。では、案内を出しますので」
「おい!話しを聞けよ」
クローフィに案内を頼み、脱衣場に移動する。
王子さん、すまんな。ココでは初参加の王族の扱いはこんなもんだ。