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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
六章 隔岸観火
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可能性の宮

 脱衣場に着いたが、『支配域掌握』を持っているので別に服を脱がなくても構わない。服が勝手に消えると言うか、原子単位に分解されていると言うか、取り敢えず脱がなくてもいい。

 左手に巻いてある布とアイリード、ディアを連れて浴槽へと続く扉を開ける。


 ルーチェの様子を確認してみれば、ちゃんとクローフィが案内をしていた。

 王子はどうしているのかと言うと、クレイドルに連れられて地上に向かっている。滞在するのはいいが、兵糧をねだるなら(あらかじ)め連絡を入れて貰わなくては困る。


 体を洗って湯船に入る。

 わざと力を抜いて身体を浮かせると、ふと、疲れているんだなと感じた。節々にジンジンと痺れるような感覚があっからだが、コレは単に運動不足かもしれない。


 「そもそもが今までの行動がダンジョンマスターのソレじゃないよな・・・」


 他国と外交を結ぶのはいいとしても、まさかここまで事態が大事になるとは思わなかった。

 ダンジョンマスターと言えば、ダンジョンの地下深くに籠ってダンジョンを運営させる職業じゃないのか。

 アル・・・なんて言ったっけか、最初の冒険者とそのパーティー以外とはろくに戦闘をしていない気がする。ゴブリンは数こそ脅威だったが、分断出来たのでそこまで苦戦もしなかった。それでも戦闘を経験していない守護者が少ないのは良いことだが、森を壁で囲って制圧してしまったから戦闘をする機会も少なくなってしまうだろう。


 「どうしたもんかなぁ・・・戦争にでも参加するか?いや、でも損害が・・・」


 今後の方針について考えていると、ダンジョンから話しかけられるような感覚がやって来た。意識をそちらに割くと、目の前にはどこかで見たことのあるような表示が現れた。文字が空中からウインドウと共に浮いて現れたのだ。

 しかし、目を凝らせばそれがただの文字では無いのが分かる。


・ノーマリー王国     2,508人

・グラキエス教国       32人

・レクタングル王国       1人

・トハン帝国          3人


・シュヴァルツヴァルト   2人+1,298体

『バーチャル大森林防護壁』 148体

『大聖堂』         152体

『二階層』         188体

『三階層』         249体

『四階層』          27体

『五階層』          20体

『失われし楽園』      512体


 これは防壁の内に居る人間と守護者の数なのだろう。人種で表記されると俺が分からなくなるので簡単に表示してくれているのかもしれない。


 「というか、これ。絶対にスパイだよな・・・」


 目に留まったのは、トハン帝国の文字。帝国、帝国と聞きはするが、国の名前を聞くのは初めてだ。まさかこんな形で知るとは思わなかった。

 スパイの件は後でクレイドルにでも話しておこう。


 人数以外にも色々とウインドウに表示させることが出来るようで、思ったよりも楽しい。

 各階層の温度や湿度、空気の流れ方も弄れるようだ。


 「ん?・・・なんだこれ」


 その中で俺が見つけたのは、ダンジョンに関する設定。

 そこには幾つかの文が書いてあった。


・ダンジョンマスターが不在の際のダンジョン管理について.

 ダンジョン内に魔力の供給及び、魔力の収集を停止.


・領域内における法律.

 犯罪を犯したモノは死刑とする.


 なるほど。これのせいで俺が外に出るとダンジョンの機能が停止するのか。

 法律に関しても記録されているようだ。


 書かれてあるのはダンジョンと俺との共通の決め事のようだった。一瞬、機械みたいだ。と、思ったらダンジョン側から速攻で否定の意が返って来た。すまんな。


 「『ダンジョンマスターが不在の際のダンジョン管理について』を変更・・・・・・『魔力の供給を停止しない』、『魔力の収集を外部から』に」


 ・・・うーん。変更は出来るようなのだが、俺が居ないとどうしてもダンジョン内の働きが鈍くなってしまうようだ。サブダンジョンマスターでも決めるか?それならば効率は落ちないだろう。


 「守護者ギフトを『サブダンジョンマスター』に認定する。私、畔木 鴎が不在の際には、彼女を五等爵ごとうしゃくの枠組みから外し、全てにおいて最高指揮権を有するものとする」


 コレで俺も外に出ることが出来る様になったわけだ。外に出る機会があればいいけどな。

 ダンジョンマスターだし、やっぱり地下に籠っているのが一番かな。


 □


 クレイドル殿にスパイの件を話すと、しばらくは流しておくと言われた。ココで殺してくれた方が俺としては嬉しかったが、仕方ないだろう。


 王国軍は領域内で一晩を過ごし、次の日には出て行った。

 野営の跡を手早く片付けた俺はアバビムのダンジョンに向かっていた。王国兵が居なくなったことで、ある程度のスペースが確保できたので街ごと移動させようかと思ったのである。

 『失われた楽園』の『三階層』に到着した。高級住宅街がある階層だ。

 すぐに代表がやって来たので、俺が移動させる準備が出来たと伝えると、住民に教えるから待って欲しいと言われた。

 魔法を唱えているのだろう。男はゴニョニョと口を動かすとこちらへ向き直った。


 「私どもも準備は整っています。よろしくお願いします」

 「分った」


 呼吸を必要とする生命体は『人宮一体』で移動させられなかったのだが、『支配域掌握』は一味違う。

 ダンジョン内は異空間なので出来るのだろうが、ダンジョンからダンジョンへの移動を行えるようになったのだ。ワープ床の原理だと勝手に思っている。因みに、ダンジョンから外の領域には飛べない。逆もまた叱り。


 建物や家具を『大聖堂』に移動させ、街の住人は『四階層』に移動させる。高級住宅街を『大聖堂』の近くに並べ、アバビムのダンジョンの『二階層』にある住宅街はその周りに置いて行く。南には砦があるので、街は北に伸びるような配置になっている。

 住民の方は多少の混乱はあったものの、順次地上に上がって行った。


 噴水や庭園を俺なりに造ってみたのだが、美的センスが少々足りてないような気がする・・・。

 まぁ、少しずつでも増やしていければいいだろう。


 「食事はどうしてるんだ?」


 気になった事があったので地上に上がっていた代表クンを捕まえて質問してみた。

 いきなり数が増えたので、『四階層』の食糧生産量を超えてしまっているのだ。


 「食料をは神から頂いて、それを料理していました」

 「そうか・・・」


 農地でも作らせるか?土地は余るほどあるし、地質も変えられる。文句は出てくるだろうが、覚えてもらわなければ俺が困る。


 「アバビムの所ではどうだったか知らんが、ココでは働いたもらうからな」

 「働くと言うのは兵役と同じ様なものなのでしょうか」


 そこからか・・・、先が思いやられるな。


 「お前たちが食うものを作るんだよ。出来るまでに時間が掛かるからしばらくは俺が食事面での面倒を見るが、最終的には自給自足を目指してもらう」

 「分かりました」


 休みたいのに休めないのは自分で仕事を増やしてるからかもしれないと一瞬思ってしまったが、そんな事は無いぞ。・・・多分。

 森を切り開いて、水路を引いて、耕して、飯の配給もある。ダメだ考えただけで頭が痛くなってくる。とりあえずどうしたらいいかリェースにでも聞きに行こう。


 『四階層』にやって来た。苗から育てた木々も今では随分と大きく育ったものだ。

 しばらく歩いていると、妖精達が俺のお出迎えをしてくれた。肩や頭に腰を下ろしては笑い声をあげている。10体も居れば、あぶれる妖精も出て来るので腕を広げてスペースを作ってあげる。

 麒麟きりんも近づいて来たので頭部を撫でながら進んでいると、直ぐにリェースを見つけることが出来た。


 「・・・成長速度を改造させた作物をご主人が創れば解決」

 「ソレだ!さっすがリェース!!」


 俺の話しを聞いて考えを教えてくれるリェース。

 彼女の余りにも天才的な発想に感激して思いっきり抱きしめると、「・・・クギュウ」と潰れた声を出したので慌てて距離を開ける。


 「すまん、いきなり悪かったな」

 「一部の人にはご褒美。例えば、ギf・・・っ!?」


 リェースが途中で発音を止めると周囲を警戒し始めた。

 おそらくギフトが何か言ったんじゃないだろうか。『人宮一体』に階層制限なんてなかった。いいね?


 本題に戻るとしてだ。

 作物の成長速度を上げるにはどうしたらいいかだが。多分思ってるより簡単に出来る。 

 さっき見せた、領域内の設定。ココに書き込めばいいんじゃないだろうか。


 「『地上部における作物の成長速度を任意に変更できる』」


・領域内における作物の成長速度.

 『地上部』 一倍

 『四階層』 一倍


 ダンジョンによって修正が入っているが、コレを変更すれば食糧問題は解決だ。

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