畔木 鴎とエバノ
守護者創造が終わり、自室に戻ってきたが直ぐにマーゲンから夕食の念話が届いて食堂へと向かう。
守護者が増えるに従って、広くなる部屋と机を何気に気に入っている。
俺が最後だったようで、皆は着席している。
「お務めご苦労様です」
「ああ、ありがとう」
席につくとレイが労いの言葉を掛けてくれた。
彼女もシュヴァルツヴァルトのダンジョンマスターとして重要な話し合いには参加させるようにしているのだが、最近は集まりが悪い気がする。
『五階層』、『六階層』に篭って何かをしているようだが、レイに見せる気がないのか、技能を使っても俺からは確認出来ない。ダンジョンも技能行使を拒むような感覚はあるが、感じるのは悪いものではないので何も言っていない。
彼女から言ってくれるのを待つことにしている。
今日の献立は、リアスたっての希望により白米と豚汁、大根おろしを乗せたサンマに玉子焼きとなっている。
朝食の献立だが彼が涙を流して食べ、マーゲンにお代わりを催促しているのが何故か嬉しく感じた。マーゲンも悪い気はしていないようで、笑いながら食堂と厨房を走り回っていた。
MP200(+2310)→ 2510 マナフライ二回分
□
翌朝、マーゲン率いる『大聖堂』の守護者達は、防衛戦力を残して『果てしない渓谷』へとアバビムのダンジョンを探しに向かった。
手持ち無沙汰になった俺は森の散策をする事にした。特に理由は無いが、理由を付けるとすれば、息抜き、だろうか。
ふと思えば、この星に来てからというもの働き詰めだった気がする。
ダンジョン内で休めない事もないが、どうしてもガブリエナが付いて来る。技能を使って彼女を撒くのも面倒臭いので、文句を言うと「非常時ですので」と返ってくる。そうだけどもさ・・・、1人になりたい時ってあるじゃん?
仕方なく、『人宮一体』と同じ要領でダンジョンの外へと移動する。
気分は家出息子だ。・・・探さないでください。みたいな。
移動先は砦の中だが、出現点はダンジョンの意識に任せてある。
出てきた先は川の近くだった。
水のせせらぎと小鳥の鳴き声、風が木の葉を撫でる音。
「ふぅ・・・」
やっぱり落ち着くなぁ。今、この瞬間、エバノではなく畔木 鴎に戻った気がする。
「ディア、降りていいぞ」
(え〜、でも私の役目は御主人を護る事なんだけど)
(父は私が御守りするので構わないぞ)
(じゃあ任した!!)
「・・・おー、元気だなー」
川原に向かいながらディアに声を掛ける。
何時ぞやの様に転がりながら森を突っ切る姿を見て、アイリードと笑い合う。
俺も走って追い掛ける。
靴と靴下を脱いでズボンの裾を捲って川の中に入る。
バシャバシャバシャ と軽快な音を立てて中程までやって来た。気持ちいいな。
(御主人!御主人!)
「どうした?」
川魚に餌をあげているとディアに呼ばれた。
声の方へ振り返ると、勢いよく水飛沫が飛んできた。
「ぶっ!!ちょ、おまっ!何やってるんだ!?」
(ふふふ、してやられましたね)
(御主人!ずぶ濡れですよ!?)
「お前がやったんだろうが!!」
顔に掛かった水を払い、水面を転がるディアを追い掛ける。
ふ、服が重い。あの野郎を追い掛けたいのに!
(はいドーン!)
「ブフォ!!」
ディアが急に反転し、上手く動けない俺の腹に突き刺さる。
背中から勢いよく水面に叩きつけられた。
小さめの水柱か立ち上り、魚が逃げ惑う。
フフフ、やりやがったな。この俺に対して牙を剥くとは!
「成敗してくれるわぁ!!」
(きゃ〜!!助けて〜!!王子様〜!)
「それは姫とかそこら辺の奴が言うセリフだ!お前は悪の組織がお似合いだろ!!」
俺が起き上がる頃にはディアは離れた位置にいたので、彼女の進行方向に技能で飛び、ガッツリと掴む。
川で洗濯するみたいに、彼女をもみくちゃにしながらディアと遊んだ。
アイリードは錆びてしまうので会話だけの参加だったが、彼女が笑ったのを初めて聞いたので楽しめていたのかな?
□
その頃、ダンジョン内では・・・
(ギフト様!主が逃げてしまいました!)
「心配しなくてもよいのでは?」
ギフトの元にガブリエナからの念話が届いていた。
慌てた様子のガブリエナの声を聞いても、ギフトの声のトーンは変わらない。それもそのはず、『人宮一体』で確認出来る彼女にとってガブリエナの心配は迷惑でしかなかった。
ギフトの『人宮一体』は鴎からの借り物で制限があるとはいえ、ダンジョンからの感情を受け取るにはそれで十分。そして、ダンジョンから感じるのは喜び。友の喜びを嬉しく思う様な暖かい感情。
それを邪魔しようとするガブリエナに対してギフトがとる行動は一つ。
「レイ様に聞いてみればどうでしょうか。ダンジョンマスターですので何か知っているかも知れません」
(ありがとうございます!)
時間を稼ぐ。それに尽きる。
ガブリエナに聞かれれば、レイも鴎を心配し、調べるだろう。だが、鴎の様子を見ればガブリエナを止めてくれるはずた。そもそもとして、ダンジョンが鴎を護るかもしれないが。
殆どの守護者達は、ダンジョンそのものを知覚している。例えば『四階層』のリェース。ダンジョン内の食糧を生産するこの階層では、雨を降らし、風が吹く。鴎の操作でも、魔法でもなく、ダンジョンそのものが適度に環境を変える。
その様な恩恵を感じる守護者はダンジョンという者を知っているが、ガブリエナはそうではなかった。鴎と行動することが多い彼女は、ダンジョンが鴎の為に整えた最適の環境しか享受していない。雨に濡れず、空っ風も浴びた事はない。彼女がそれを知るには鴎との距離が近すぎた。
ギフトに言われ、ガブリエナは『五階層』に降りた。そこで彼女が驚いたのは、僅かながらに怒りを感じ取ったからだ。周囲に視線を配るも、人の影どころか生き物すら居ない。
彼女が感じた怒り、それは先程述べたダンジョンによるものだ。一つの場所にあったとしても、マスターが違えばダンジョンも違う。奇しくも、レイの領域である『五階層』に初めて立ち入った鴎の守護者に対して、ダンジョンは警戒しているのだ。
構うものかと歩を進めるガブリエナに対してダンジョンがとった行動は、レイの守護者に警報を鳴らしたのだ。ダンジョンに入れば無差別に警報が鳴るのでは無い。鴎が寝ていた時には、彼以外の守護者にだけ警報が届いていた。それと同じ様に、レイには届かず、その守護者にだけ警報が行き渡ったのだ。
『五階層』は広大な川と灌木による階層。その中を5つの影が走る。
鴎からマナフライの存在を教えて貰ったレイがとった行動。それは、MPを貯める箱を創った事だ。技能に『MP回収』を付けることにより、守護者達からMPを貰う。戦う機会が少なかったレイや、その守護者だから出来たことだろう。そうして貯まったMPは、2万2千近くある。そこから創られた守護者達がガブリエナに向かっていた。
(『城壁』)
ガブリエナが魔法よる防御体制をとるのと、初撃がぶつかるのは同時だった。
鴎の技能ブーストにより熟練度がマックスな『土魔法』での防御。しかし、ガブリエナが余裕を持って対処したと思っていたソレは飛来した魔法と共に崩れ去った。
(魔法の熟練度がマックスの守護者がいる・・・)
その答えに行き着いた彼女の前に5体の守護者が現れる。
樹木が絡みあって出来た龍。
ガラスの角を持つ雄牛。
土の身体に氷の鎧を纏い、巨大な鎌を持つゴーレム。
金属のような光沢を持つ亀。
男と女、2つの身体を一つに纏めた、のっぺらぼうのような細身のマネキン。
彼等はレイが対アバビム用に創造した守護者達であり、戦闘能力も十分に兼ね備えている。
幾らガブリエナとはいえ、5体の守護者の相手をするのは分が悪い。どうしたものかと考える彼女に対して、樹木で出来た龍が話し掛けてきた。
(何用か)
(レイ様にお目通りしたく思い参りました)
互いに異なる声帯を持っているのは明らかであり、意思疎通が出来るかは心配であったが、問題なく念話は通った。
睨み合いを続ける中、やっとの事でレイがやって来た。
ガブリエナは内心腹がたっていたが、我慢して話しを切り出す。
(主を探しているのですが、ご存知ないでしょうか)
「旦那様が?少し待ってください・・・」
これで主の場所が分かる。役目を果たそうとするガブリエナの心。
だが、レイの口から出たのは望まぬ言葉であった。
「ふふ・・・」
(どうかしましたか?)
「あ、いえ、何でもないのです。そうですね私が迎えに行ってきます」
(・・・よろしくお願いします)
ガブリエナが望んでいたのは、自分自身で鴎を捕まえ、連れ戻すこと。相手が鴎の妻であるレイでなければ詳しい座標を聞いていたであろう。
レイは『映像情報』で鴎が楽しんでいるのを確認した。ダンジョンマスター、エバノ・シュヴァルツヴァルトでは無く、畔木 鴎として楽しんでいる彼の姿を見て邪魔すまいと考えての発言だった。リアスと名乗る男と鴎が話していた時の表情に近い、彼の表情は何よりも暖かった。
ゆっくりとダンジョンを上へと歩き、愛する旦那の元へと向かう。ガブリエナはピリピリしているが、それはアバビムに操られたフェイク達との戦闘で何も出来なかった事からくる怒りだと感じ取ったレイは、彼女に申し訳なく思いながらも少しずつ歩を進めた。
□
畔木 鴎side
ディアとひとしきり遊んだ後、『火魔法』で適当に服を乾かした。
アイリードを胸に抱え、ディアを枕代わりに日光浴を楽しんでいると、脇腹の辺りを ちょんちょん とつつかれた。
俺が何かと思って視線を向けると地面の一部が隆起して三角錐の様な形をしている。
「なんだ?何かあったのか」
こんな事をするのはダンジョンしか居ないからな。何時もは感じる生き物の反応すら今の俺には分からない。オフを楽しめと言うことだと勝手に納得している。
(マスター、レイ様が向かわれています)
「はぁ〜、思ったより早かったな」
(レイ様も時間を稼いでいましたが、ガブリエナが・・・)
頃合いを見計らった様にギフトからの念話。見てたんじゃないだろうな?
それにしてもガブリエナか、まぁ、仕方ないか。
(・・・見てませんよ?)
「いや、見てたんだろ?別に怒ったりはしないさ」
(見てないと言ってるんですが?)
「ヴェーデにヤキモチやいてた頃が懐かしいなー」
(・・・もうしりません)
拗ねられたか?念話が切れてしまった。
では、そろそろエバノに戻るとしよう。ダンジョンからの情報共有が再開され、レイの居場所を教えてくれる。
ん?見た事のない守護者だな。
レイもアバビム戦の準備は万端って所か。
神視点と言うものに挑戦してみましたが、ちょっとクドイですかね?