接近
「って感じだったよ」
アリアと調べてきたことをみんなに説明した。
50階層が広い平野になっていて、全体にヨルムンガルドが横たわっている感じだったこと。
霧があるのはワビスケたちの周りだけだってこと。
ヨルムンガルドを倒すなら頭を狙うのがいいんじゃないかってこと。
話すことはそれほど多くなかったから、説明もすぐに終わった。
「なるほど。
確かに頭を潰すってのは有効だろうな。
別にどこを攻撃したってダメージさえ与えてりゃそのうち倒せるんだろうが大ダメージにはならないだろうからな。
その点、頭だったら潰せば一発で終わる可能性が高いと思うぜ。
これまでにもそういうやつはいたしな。
これだけ規格外なモンスターだったら、そういう攻略方法がないと理不尽にも程があるからな」
「そやな。
ほな狙いは頭を狙ってのワンショットワンキルってやつか」
「ああ。
問題はどうやって頭の位置に向かうか、なんだが。
歩いて近づけるような場所なのか?」
「それは無理ね。
私たちは真っ直ぐに飛んで戻ってきたけれど、それでもそれなりに時間がかかるような距離なんだもの。
歩いたら一日かけても着くかどうか分からないわ。
そこまで道があるかどうかも分からないしね」
途中でヨルムンガルドの胴体に阻まれて進めなくなる可能性は高いと思う。
「だよなあ。
俺たち全員をまとめて飛ばすことはできないのか?」
「残念ながら難しいわね。
他人を飛ばすのはけっこう大変なことなのよ。
エイシだけは一緒に飛びまわっても平気なんだけれど、他の人だとそうはいかないわ。
無理をすれば一人くらいならなんとかなるかもしれないけれど、とてもじゃないけど全員でなんて無理ね」
「まあ、大した制約もなく飛べるなんて反則的な力だしな。
いくらアリアの魔法がすごいとはいえ、そう都合よくなんでもできるわけねえよな。
となると、どうするかな」
「そのことなんだけど、考えがあるんだ」
「お、さすがエイシ。
なんだ?
教えてくれ」
「うん。
別に大した方法じゃないんだけどね。
とりあえず、もう一度僕とアリアが岩のところまで行ってくるよ。
どれくらいの時間で着くのかはもう分かってるから……」
「なんだよ?
結局二人で行くって話なのか?」
「違う違う。
僕だって、こんなやつと二人で戦えるとは思ってないよ。
先に向かうだけだよ。
それで、僕たちが頭の位置に着いたところで移動石を使って全員で来てほしいんだ」
「ああ、なるほど。
確かにそれなら全員で行けるな」
「うん。
正確に僕たちが着いた時間なんて分からないと思うけど、僕たちは向こうに着いたらヨルムンガルドに気づかれないように岩山の上で待っているから、適当に時間を見計らって来ればいいんじゃないかと思う。
そんなに危険はないと思うけど、アリアには怖い思いをさせちゃうかもしれないのが申し訳ないんだけどね――」
あのおっかない頭の至近距離でただ待つというのは、相手が寝ていても恐ろしいものだ。
「大丈夫よ。
それくらい問題ないわ」
「ありがとう。
そう言ってもらえると助かるよ。
それで、全員が向こうに着いたら戦うことになるんだけど、戦うときも岩山の上にいた方がいいと思うんだ。
あの岩なら十分に全員が乗れるし、地面で戦うよりも有利に戦えると思うしね。
だから、移動石で全員が岩山に移動するのはいい方法だと思うんだよ」
地面だったらいつ潰されるか分からないし、体当たりでもされようものなら避けようがない。
あの岩の上は集中して攻撃される可能性もあるけど、動き回って避けるくらいのスペースはあった。
まだ地面にいるよりはマシだと思う。
「なるほどな。
今の状況だと、それが最善っぽいな」
ワビスケが頷いてくれた。
他のみんなも同じだ。
「ただ、一つ問題もあるんだ。
そんな風に途中の道を飛ばして進んじゃうと何かあった時の逃げ道が確保できないんだよ。
移動石もあと一回使ったら使えなくなるはずだから、同じ方法で逃げることはできないし。
だから、戦い始めたのに倒せなかったりしたらどうしようもなくなるかもしれないんだ」
「まあ、それは仕方ねえよ。
別に俺たちはやられたって街に戻されるだけだし問題ねえ。
多少のペナルティはあるが、そんなこと言ってたら進めなくなるしな。
エイシとアリアがやられちまったらどうなるか分からねえから、二人は危なくなったら空から逃げてくれればいい」
「いや、僕たちだけ逃げるってのはさすがに気が引けるんだけど」
ファスタルでファフニールにやられそうになったとき、僕は街の居酒屋に移動した。
最初は僕もプレイヤーと同じようにモンスターにやられたら、街に戻されるのかと思った。
だけど、あの時はたまたま外出禁止日になったから強制的に移動しただけで、僕やアリアがやられたらどうなるのかはまだ分かっていない。
だから、ワビスケが言うように危なくなったら逃げたほうがいいのは確かだ。
でも、自分は逃げてみんながやられるのを見過ごすっていうのはすごく嫌な感じだ。
「気にする必要はあれへんて。
ウチらだってモンスターにやられたことくらい今までに何回もあるし、珍しいことでもないしな。
変に気を使われたら、こっちも逆にやりづらなるわ」
「そういうことだ。
小僧たちは気にせずに戦えばいいし、危なかったらさっさと逃げて構わん」
マイコさんと熊もどうということはないって風だ。
「そんなことよりも僕は移動石とやらが気になる。
早く行こう。
混沌たる僕の冒険の歴史に新たな一ページが追加されることになりそうだ」
混沌さんも気にしてはいないっぽい。
「というわけだ。
どっちかと言えば俺たちが着くまでのお前たち二人で待機してる間の方が心配だぜ。
ヨルムンガルドがずっと寝てるって確証はないからな」
「それはそうね。
だけど、私とエイシなら大丈夫よ。
二人でもすぐにやられたりはしないもの。
心配だからって焦って必要以上に早くアイテムを使わないでよね。
もしも向こうに着く前に移動してこられたら、全員上空に放り出されることになるんだから、そうなったら私でもどうしようもないわ」
そう。
それは一番避けてほしい事態だ。
「分かってるよ。
大丈夫だ。
お前たちのことは信頼してるから、そんな馬鹿みたいなことして足を引っ張るようなマネはしねえ。
ちゃんと待つよ」
「大丈夫やって。
ワビスケがあほみたいに急いでアイテム使おうとしてもウチが止めたるわ」
「はあ?
お前にだけは言われたかねえよ。
お前こそ向こうに移動してから考えなしに突っ込むんじゃねえぞ。
適当に戦って勝てるような相手じゃないんだからな」
「分かってるわ。
そやけど、勢いも大事なんやからな。
あんたみたいに頭で考えてばっかやと倒せるもんも倒せんようになるわ」
「何言ってんだよ。
誰かさんみたいに猪同然で突っ込む方が危ねえよ」
「誰が猪やねん。
ケンカ売ってんのか」
始まった。
まあ、いつも通りの光景だ。
二人とも強敵を前に気合が入ってきたんだろう。
気にしても仕方ないから放っておくことにする。
よし、移動石は熊に渡そう。
◇
「んじゃ頼むぜ」
一通りワビスケとマイコさんのじゃれあいが済んでから、細かい打ち合わせをしてようやく出発することになった。
「任せて。
エイシ、行くわよ」
「うん。
お願い」
アリアと僕が先行して出発した。
真っ直ぐヨルムンガルドの頭部に向かう。
「アリア、着いたらすぐに戦うことになると思うけど大丈夫?
疲れてない?」
なんだかんだでかなりの時間飛んでいる。
「大丈夫よ。
心配をしてくれるのは嬉しいけれど、敵に集中しないとあなたこそ危ないわよ。
私よりも接近して戦うことになるんだから」
おっしゃるとおり。
「そうだね。
うん、目の前に集中するよ」
「そうしなさい。
ほら、もうすぐ着くわよ」
奥に岩山が見えてきた。
まだヨルムンガルドは寝ているらしい。
さっきと全く同じ光景が広がっている。
そのまま岩山の上に降り立つ。
「予定通りかしら。
あんまり正確な時間が分からないけれど、もうしばらくしたらみんなが来るわよね」
「だね。
怖いけど、静かに待機しよう」
実際、目の前に巨大なモンスターがいる様子は恐ろしい。
プレッシャーも半端じゃない。
ていうか、じっと眺めていると今にも起きて動き出しそうな気がして余計に怖くなる。
見るのやめよう。
と、僕たちのすぐ横の景色が歪んだ。
「うおっ。
こりゃ半端ねえ」
ワビスケたちが現れた。
すぐに目の前のヨルムンガルドに見入っている。
移動石で来るときってこんな感じなんだ。
結構かっこいい。
とにかく、全員無事に到着できたようで何よりだ。
「おっそろしい光景やな。
しかも逃げ道なしってか」
「怖くなったか?」
「そんなわけあるか。
ワクワクするわ」
言葉の通り、マイコさんは不敵な笑みを浮かべている。
「まさしく混沌。
地下迷宮の最奥に眠る邪悪な大蛇。
さすがの僕も鬼胎を抱いてしまいそうだ。
だが神に愛されしこの身に宿りし聖なる――」
混沌さんはいつも通りだ。
彼を見てると、なんだかホッとするよね。
「打ち合わせ通り、一気にいくぜ。
初撃でどれだけダメージを与えられるかが鍵だからな。
加減はなしだ」
全員が武器を構えた。
「やるぜ!」
ワビスケの合図で攻撃を開始した。




