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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
83/86

ボス【ヨルムンガルド】

 50階層にやってきた。

 ワビスケ曰く、ここが最後の階層で、ラスボスがいる可能性が高いとのことだ。

 確かに、それを証明するかのように階層全体に強烈な気配が広がっている。

 多分、これがラスボスなんだろう。

 ただ、霧のようなものが立ち込めているせいで、先の方は何も見えず姿は確認できない。

 数メートル先も見えないような視界の悪さだ。

 だけど、そんな状態なのにも関わらず、すぐ目の前に強力なモンスターが立ち塞がっているかのような威圧感を感じている。

 正直、一人でこの階層に来ていたら一旦49階層に戻っていたと思う。

 それくらい、嫌な感覚がある。


「これは、かなり手ごわそうだね」


 僕はちょっとビビりながら言った。


「ん?

 なんかいるのか?」


 ワビスケに聞かれた。

 他のみんなも僕の方を見た。

 どうやら、今のところ僕しかこの気配に気づいていないらしい。


「うん。

 多分すごいのがいるよ。

 ちょっとやそっとの強さじゃないと思う。

 ていうか、ワビスケはスキルで分からないの?」


 僕よりもワビスケのスキルの方が正確に判断できると思うんだけど。


「ああ、残念ながら俺のスキルは対象が見えなければ情報は読み取れないらしい。

 この霧のせいでどこにモンスターがいるのか見当もつかないからな。

 どのあたりにいるんだ?

 場所が分かれば、少しくらいは読み取れるかもしれねえ」


「どのあたりっていうか、この階層全体に気配が広がってる感じなんだよ。

 すぐそこにいてもおかしくないような、そんな雰囲気なんだ」


 目の前を指さしながら言った。

 別に適当に言ったわけじゃなくて、本当にその辺りにモンスターがいるような気配がある。

 それくらい、濃密な気配が充満している。


「そうなのか?

 さすがにすぐにラスボスが現れるなんてことはないと思うんだけどな。

 だが、気をつけて進まないとどっかでいきなり出くわすって可能性があるかもな」


 ワビスケは少し緊張した顔で言った。

 僕がビビっているのが伝わったのかもしれない。


「そやけど、こんなんじゃ気をつけようがないで。

 どっちに進んだらええんかも分からんし」


 マイコさんの言葉通り、どの方向に道があるのかもほとんど見えない。

 いつもなら、なんとなく気配で先に何があるのか分かったりするんだけど、この階層はモンスターの気配が強すぎて他のことが全然分からない。


「うーん。

 どうしたもんかな。

 エイシの様子からして、適当に進んでいい感じじゃないんだよな」


 ワビスケが顎に手を添えて悩みだした。

 実際、何も考えずに進むには、この気配は怖すぎると思う。


「もう。

 じれったいわね。

 だったら、こんな霧吹き飛ばしちゃえばいいのよ」


 僕たちの様子に痺れを切らしたのか、アリアが先頭に進み出た。

 両手を前にかざす。

 次の瞬間、アリアの手から突風が巻き起こった。

 風の魔法だ。

 かなりの勢いを持ったその魔法は、アリアの言葉通り、周囲に立ち込めていた霧を吹き飛ばした。


「これで良し。

 ……ん?」


 そして、僕たちの目の前にソレが姿を現した。


「キ、キモッ。

 なんやねん、これ?」


 マイコさんがげんなりとした様子で言った。

 それもそのはず、目の前に広がっていたのは、予想外にグロテスクな光景だった。


 一見すると、そこは行き止まりになっているように見えた。

 僕たちがいる位置から少し先、ちょうどさっき僕が指さしたくらいの距離で数メートルの高さの壁のようなものが道を塞いでいたせいだ。

 だけど、すぐにそれが壁ではなさそうだということは分かった。

 それは天井には届いていなかったし、どう見てもここまでのダンジョンの壁とは違う感じだったからだ。

 その壁のようなものは鱗みたいなもので覆われていて、堅そうな外見とは裏腹にうっすらと湿っているように見える。

 目の前に広がる鱗でできた壁……マイコさんの反応はもっともだと思う。

 見える範囲ではその壁がずっと続いているけど、奥の方はまだ霧が広がっているせいでよく見えない。

 その光景に対して僕が抱いた印象は、めちゃくちゃ巨大な蛇が目の前に横たわっているような感じ、だ。

 ……いや、まさかね。

 自分の馬鹿げた想像があまりにも現状にしっくりと合った気がして、戦慄する。


「おいおい。

 嘘だろ……」


 僕が頭の中の想像を振り払っていると、隣にいたワビスケが信じられないというような表情で呟いた。


「なんなん、ワビスケ。

 これが何か分かるんか?」


「ああ。

 いや、にわかには信じがたいんだがな。

 この鱗、モンスターの一部らしい」


「モンスター?

 どういうことや?

 壁のモンスターってことなん?」


「いや、そうじゃない。

 これは壁じゃない。

 そういう風に見えてるだけだ。

 これは、超巨大なモンスターの体の一部なんだ」


 どうやら僕の想像は当たっていたらしい。

 当たってほしくないことに限って、よく当たるんだよね。


「コイツはこのダンジョンのラスボスだ。

 コイツのせいでエレファンテレクスは上層に追いやられたんだろう。

 確かに、こんなヤツが現れたんじゃエレファンテレクスも上層に行かざるを得なかったんだろう。

 まだ全容は掴めないが、相当なデカさだろうからな」


「っていうか、これがモンスターなんやったら、こんなに悠長にしゃべっててええんか?

 こんな近くにおったら危ないんちゃうんか?

 コイツがちょっと動くだけでも、ウチらなんか潰されてしまいそうやで」


「多分大丈夫だ。

 なんか今は寝てるみたいなんだ。

 睡眠状態ってなってる」


「なんやそれ。

 寝てるって……。

 よく分からんけど、そんなら起きひんうちに倒せばええってことなん?」


「どうだろうな。

 寝てたとしても、簡単に倒せるとは思えねえんだが。

 エイシ、コイツがさっき言ってたすごいやつで合ってるんだよな?」


「うん。

 モンスターの気配がこの階層全体に広がってるように感じるんだけど、間違いじゃなかったみたい。

 コイツがすごく大きいから、そんな風に感じるんだと思う。

 もしかしたら、この階層自体の広さとコイツの大きさがそんなに変わらないのかもしれない」


「ったく、管理者も最後にめちゃくちゃなモンスターを用意したもんだぜ。

 コイツの名前は【ヨルムンガルド】だ。

 ユルング系の最上位種にあたる存在らしい」


「んん?

 ボスなんやったら、なんとかレクスちゃうん?

 ユルングレクスとか」


「ああ。

 どうやら、ユルングとコイツは元々このダンジョンのモンスターじゃないらしいんだ。

 レクスって付くのは、元からこのダンジョンにいたやつなんだろう。

 元のラスボスであったエレファンテレクスを追いやって、このダンジョンを支配した新しいボスモンスター、ってことなんだろうな」


「そんなこともスキルで分かるんか?」


「いや、これは半分くらい俺の推測だ。

 スキルで読み取れる情報にそんなことは載ってねえ。

 ただ、色々とその考えにつながる情報はある。

 例えば、コイツの称号は暴龍の配下ってなってるんだ」


「暴龍?

 なんやそれ?」


「多分、最後の四龍のことだと思う。

 ファスタルの国境付近にいるっていうな。

 コイツはその手下なんだろう。

 こないだエスクロから聞いた話も合わせると、コイツみたいな手先に各地のダンジョンを支配させることで勢力範囲を広げていって、最終的に世界の覇権を狙うってのが暴龍の狙い、つまりメインストーリーの流れなんじゃないかと思うんだ」


 そういえば、エスクロさんがなんとなくそんなようなことを言っていた覚えがある。


「ほな、メインストーリーのためにもコイツは倒さなあかんってことなんやな?」


「そうだと思うぜ。

 俺たちだけで倒せるかどうかは微妙なところだが」


「案外見かけ倒しで実は弱いってことは――」

「ねえな」


 マイコさんの言葉に、すぐにワビスケが否定の言葉を被せた。


「ステータスで言えば、セグンタと変わらないレベルだ。

 攻撃力、防御力、素早さ、どれをとっても隙はねえ。

 物理耐性系と魔法耐性系の能力はないが、常時回復なんていう能力も持ってやがる。

 効果については詳しいことは分からないが、まあ名前からして推して知るべしだな」


「そっか。

 ま、普通に考えて強いのは当たり前やんな。

 レベル上限解放後にできたダンジョンのラスボスを押しのけるようなヤツなんやから。

 そうやないと張合いもないし、ちょうどええわ」


 マイコさんは前向きだ。


「で、どうやって倒す?

 いっぺん試しにどついてみる?

 ホンマにどうしようもないか、やってみな分からんし。

 いや、下手に攻撃して起こしてしまうんはまずいんやろか?」


「大丈夫だ。

 僕の真・絶対最凶剣で切り刻めば、こんなやつすぐに倒せる!」


 ワビスケとマイコさんが相談する横で、混沌さんが騒ぎ出した。

 混沌さんは敵が強そうだと元気になる。

 いつも強敵の前で騒ぎ出しているし。

 大体は空回りするだけで、大して活躍はできてないけど。


「今こそ、僕の真の力で暗黒の大地に約束された幸福の福音を――」

「アンタは黙ってなさい」


 アリアがスパッと混沌さんの言葉を遮った。

 ちょっとかわいそうな気もしないでもないけど、意味不明なことを言い出していたから自業自得だ。


「私が魔法を撃ち込んでみましょうか?

 これだけ近い場所からだと、さっきみたいに全員で攻撃するわけにはいかないでしょ?」


 確かに。

 エレファンテレクスを倒した時の攻撃だったら大きな敵でも有効だと思うけど、今は近すぎて絶対に巻き添えを食ってしまう。


「それもありだけど、情報が少なすぎるからな。

 攻撃するのは少し様子を見てからの方がいい。

 とりあえずはもう少しこの階層を調べてみよう。

 何か倒すヒントが見つかるかもしれない」


「そやな。

 絶対に倒せへんなんてことはありえへんしな。

 弱点とか見つかるかもしれへんで」


 こうして、僕たちはヨルムンガルドを起こさないように、50階層を調べることにした。





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