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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
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武器

 セグンタに強烈な稲妻の一撃が走った。


『ほう。

 悪くない。

 いささか威力に欠けておるが、人間にしてはマシと言えるだろう』


 正面から食らったはずなのにセグンタは平然としている。


「まったく、癇に障る言い方ね。

 どんだけ上から目線なのよ」


「アイツは魔法耐性も持ってるから、普通より効果が薄いんだ。

 だが、最初の黒炎は掻き消してたからな。

 何発も食らっていい攻撃じゃないってことのはずだ。

 今の雷もダメージは入ってるから、アイツの言葉は気にするな」


「分かってるわよ」


 そう言ってアリアが再び構えた。


『返礼してやろう』


 セグンタが無造作に口から炎を吐き出した。

 アリアと同じ黒い炎だ。

 ファフニールも使っていたから、ドラゴン種は使えるものなのかもしれない。

 アリアが放ったのと同じくらいの大きさだ。

 多分、わざと大きさを合わせたんだろう。


 僕たちは冷静にそれを避ける。

 かなりの大きさだったけど、距離もあったし不意打ちとかでもないから普通に避けられた。

 セグンタも手を抜いてるんだろうけど、大したスピードでもなかった。


「分かってると思うけど、アイツが本気じゃない今のうちにできるだけダメージを与えておいた方がいい。

 相手は紛れもなく最強クラスの敵だからね。

 出し惜しみせずに全力で攻めた方がいいよ」


 エスクロさんはそう言って懐から武器を取り出した。

 二本の短剣だ。

 それを両手に持つ。

 今までは大体素手で戦っていた。

 そういうスタイルなのかと思ってたけど、温存していたみたいだ。

 ただ、構えてはいない。

 武器を出しただけだ。


 僕たちも武器を構えなおす。


「行くぜ!」


 ワビスケがセグンタの威圧感にも怯まずに真っ直ぐ突っ込んで行った。

 胴体を切りつける。

 セグンタは避けようともしていない。


 金属同士がぶつかり合うような甲高い音が周囲に響いた。

 そして、ワビスケのアメノムラクモが折れた。


 それは混沌さんの絶対最凶剣が折れたときとよく似た光景だった。

 だけど、絶対最凶剣とアメノムラクモは全然レベルが違う武器だ。

 それの意味するところはまったく違う。


「チッ、このクラスの武器でもこれなのかよ。

 ドラゴン種の頂点ってのは伊達じゃないな」


 ワビスケは大きな舌打ちをしながら、アメノムラクモを投げ捨てた。

 そして、すぐにかばんを探り出す。

 代わりの武器を出そうとしているんだと思う。

 だけど、アメノムラクモ以上の武器なんてそんなに多くはない。

 どれを使えばいいのか迷っているみたいだ。

 もたついている。


「次はウチや!」


 そのワビスケの横をマイコさんが駆け抜けた。

 セグンタに肉薄してハンマーを振りぬく。

 ムシュフシュを吹き飛ばした一撃だ。

 ワビスケの攻撃とは違って鈍い音が響く……。


「なんでやねんんんんん」 


 変なツッコミの声を上げながら、なぜか攻撃したマイコさんの方が吹っ飛んでいった。


「単純に防御力が高いだけじゃないんだ。

 他のドラゴン種とは比較にならないくらい鱗が強靭で、半端な攻撃は通らない上に弾かれ――」

「今度こそ、僕の真・絶対最凶剣の出番だあ!」


 せっかくエスクロさんが説明してくれているのに、混沌さんがそれを聞かないでセグンタに突っ込んで行った。

 ……ダメだ。

 あの人は一度くらい吹っ飛ばされた方がいいかもしれない。


「てやああああ!」


 混沌さんが手に持った剣を大きく振りかぶる。

 かなり隙だらけだけど、セグンタは混沌さんのことを歯牙にもかけていない様子で特に何もしていない。


 そのまま真・絶対最凶剣がセグンタを捉えた。

 てっきりその攻撃もあっさり弾かれると思っていた。

 ワビスケやマイコさんの攻撃よりも強いとは思えなかったからだ。


 だけど、予想外なことに混沌さんの一撃は弾かれることなくセグンタの鱗に傷を付けた。

 それはセグンタの巨体からすれば、かすり傷とも言えないような小さな小さな傷だ。

 でも、それは確かに弾かれずに傷を付けることができたんだ。


「なんで?」


 混沌さんには申し訳ないけど、意外すぎて思わず呟いてしまった。

 セグンタは痛くもかゆくもないのか大して気にしていないようだけど、こちらからすれば今の一撃には大きな意味がある。

 突破口が見えかけた気がした。


「彼の剣。

 あれはどんな武器なんだい?

 今のはあの武器のおかげだよ」


「武器?

 あれは熊がファフニールの素材から作ったものです」


「なるほど。

 さすがは熊だね。

 セグンタよりも序列が下のファフニールからあれほどの武器を作るなんてね」


「とにかく、あの武器なら攻撃が通るってことだな?」


 僕たちの話を聞いていたワビスケが割り込んでくる。


「そうだね。

 あのクラスの武器ならいけると思うよ」


「熊。

 あの剣、何本か作ったって言ってたな。

 貸してくれ」


「おう。

 これを使え」


 熊はすぐにかばんから剣を取り出すとワビスケに渡した。

 それは混沌さんのものとは少し形が違った。


「これは……刀か」


「アメノムラクモをイメージして作ったものだから、使い心地も近いはずだ。

 そのうちお前に渡すつもりだった。

 心置きなく使ってくれ」


「恩に着るぜ!」


 ワビスケは新しい武器を握ってセグンタに向かって行った。


 このやり取りをしている間、セグンタは一切動かなかった。


「それにしても、ヤツはどうして攻撃してこないんだ?

 ワシらを舐めているのは分かるが」


「それは多分、今は僕だけを警戒しているからだと思う。

 熊の言うとおり、まだ君たちのことを大した敵と思っていないんだろうね。

 だから、僕に注意が向いてるうちに攻撃を重ねてほしいんだ。

 できたら、君たちだけで倒してくれた方がいいからね」


 エスクロさんがセグンタを真っ直ぐに見て言った。

 言われて気づいたけど、セグンタもエスクロさんを見ている。


「なるほどな。

 分かった。

 ワシも積極的にいこう。

 小僧、お前もこれを使え。

 お前のアメノムラクモは色々改良してあるが、こっちの方が強いはずだ」


 熊がワビスケのよりも一回り小振りな剣を渡してくれた。

 強そうな雰囲気がある。

 それを受け取って、持っていたアメノムラクモを熊に返した。

 元々熊のものだからだ。


「マイコ!

 お前もこれを使え!」


 壁付近まで飛ばされていたマイコさんの方に熊が武器を投げた。

 ハンマーだ。

 いつも使っているのと似ている。

 多分あれもファフニールの素材から作ったものだろう。

 雰囲気で分かる。


「ありがたい、けどこんなもん投げんなや!

 危ないやろ!」


 文句を言いながらも、飛んでくるハンマーをジャンプして空中で受け取る。


「よし。

 もうさっきみたいにはならへんで!」


 マイコさんもすぐにセグンタに向かった。

 僕もぼんやりとはしていられない。

 熊と一緒にセグンタを攻撃し始めた。




 武器を変えた効果は確かにあった。

 全員の攻撃がさっきみたいに弾かれなくなっている。

 いかに武器が重要かということがよく分かる。


 それでも、まだセグンタに大きなダメージを与えられてはいない。

 傷をつけることはできるようになった。

 だけど、多少傷をつけてもすぐに塞がってしまう。

 セグンタは防御力だけじゃなく、治癒力もすごいらしい。

 傷をつけるそばから治っていって、大した効果があるようには見えない。

 そのせいか、セグンタはまだ僕たちに大した注意を払ってはいない。

 たまに鬱陶しそうに爪や尻尾で攻撃してくるくらいで、それ以外はエスクロさんと睨み合っている。

 エスクロさんもセグンタを見たまま、まだ攻撃に参加してはいない。

 僕たちは突破口を探りながら攻撃を続けた。





 しばらく攻撃しているけど、状況に変化はない。


『そろそろ配下だけにやらせるのではなく、貴様自身がきたらどうだ?

 こんなことを続けても意味はないぞ』


「彼らは配下じゃないよ。

 あくまで協力してもらってるだけさ。

 いや、今は僕が協力しているとも言えるけどね。

 それに意味がないわけないよ。

 お前は効いていないフリをしているけど、そんなわけないよね。

 やせ我慢?」


『……愚か者め。

 貴様の戯言には虫唾が走るわ』


 セグンタが答えるのに少し間があった。

 エスクロさんの言ったことは図星みたいだ。

 ということは、ちゃんと効いてるんだ。


「お前の常套手段だよね。

 見た目は効いてないように振舞うことでこっちの攻め気を削ごうとしてるんだろ?

 相変わらずやることがセコイ」


『貴様は早く死にたいらしいな。

 よかろう。

 皆殺しにしてやる。

 挑発したことを後悔するがいい』


 セグンタの雰囲気が変わった。

 そして、今までほとんど無視していた僕らの方を見た。

 その瞬間、今まで以上の強烈なプレッシャーを感じる。


「なんでわざわざやる気を煽ってんだよ」


 ワビスケがエスクロさんに文句を言った。


「このままじゃ埒が明かないからだよ。

 アイツは体の回復に専念して、君たちに無力感を与えようとしてたんだ。

 君たちはそれくらいで諦めないだろうけど、あの状態では致命的なダメージを与えにくいのも事実だ。

 だから、アイツからも攻撃させる。

 その方が早く倒せるはずだからね」


「チッ、しょうがねえな。

 挑発したからにはお前もちゃんと戦えよ」


「分かってるよ。

 だけど、僕があんまり直接的に参加するのはまずいんだ。

 援護はするから、君たちが倒してくれ。

 アイツもさっきまでの治癒力はなくなるから、しっかり攻撃を続ければ倒せる」


「勝手なことを、うおっと、のんびり話してられる状況でもないか。

 やるしかねえ。

 みんな、気をつけて戦ってくれ!」


 セグンタが連続して黒炎を吐いてきた。

 ワビスケは避けながらみんなに注意を促す。

 僕も避けながら剣を握りなおした。


「アリア、危なそうな攻撃が来たら弾いてほしいんだ。

 直接攻撃は僕たちに任せて!」


 アリアに援護を頼む。

 現状、黒炎を使われたら避けるしかない。

 だけど、アリアが弾いてくれるならそれを気にせずに攻めることができる。


「任せて。

 エイシたちは攻撃に専念していいわ」


 よし。

 ファフニールと戦ったときと同じ要領でやる。

 セグンタはファフニールよりも強いけど、こっちも前よりは強くなってるからなんとかなるかもしれない。


 僕たちは激しくなりつつあるセグンタの攻撃を掻い潜りながら戦い続けた。





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