苦戦
「ぐっ!」
セグンタの尻尾による一撃を受けて熊が吹っ飛んでいった。
「熊!
大丈夫か?」
マイコさんが心配そうに声をかける。
「大丈夫だ。
これくらいなんともない」
熊は回復薬を使いながらすぐに答えた。
問題なさそうだ。
セグンタの攻撃はますます激しくなっていた。
なんとかそれを躱しながら、隙を見て全員で攻撃している。
混沌さんは全然攻撃できていないけど、この状況じゃ仕方ない。
一応セグンタの攻撃は避けられているし、混沌さんは意外と動きはいいから心配はないと思う。
さすがに今は変なことを口走る余裕もないみたいだ。
まあ、余裕がないのは混沌さんに限ったことじゃない。
みんなギリギリだ。
ほとんどの攻撃は躱しているけど、たまにさっきの熊のように、誰かが一撃を食らうことがある。
今のところは回復薬を使ってなんとかなっているけど、回復薬も無限に持っているわけじゃないから、あんまりのんびり戦ってはいられない。
もちろん、そんなことはみんな分かっていて、できる限り懸命に攻めている。
セグンタの黒炎はアリアが防いでくれているから、僕たちは接近戦に集中することができた。
エスクロさんも一応戦いには参加しているけど、積極的に攻めたりはしていない。
セグンタの攻撃を両手の短剣でいなしながら、僕たちのために隙を作ってくれている感じだ。
確かにそのおかげで攻撃がスムーズにいくことが多い。
ただ、やっているのは援護ばかりで、倒すのはあくまで僕たちだと言わんばかりの動きだった。
そうやって、ある程度の均衡を保ちながら一応はこちらが押しているような形で戦いが進んでいる。
『ちょろちょろと目障りな連中だ。
一気に消してくれる』
セグンタはそう言うと、翼で空中に飛び上がった。
押されている状況に苛立ったのかもしれない。
僕たちの攻撃が届かない高さで滞空しながら、こちらを向いた。
そして、少し息を吸い込むような仕草をする。
「まずい。
みんな下がって!」
エスクロさんが少し焦った様子で言った。
僕たちも危なそうな気配は感じていたから、すぐに距離を取ろうとする。
だけど、遅かった。
セグンタは空中から僕たちの方へ巨大な黒炎を吐いてきた。
今までの攻撃が手抜きだと証明しているような、全員を一気に包み込めるくらいの大きさだ。
「そう来ると思ったわよ。
やらせないわ!」
アリアが同じくらいの大きさの黒炎を放った。
セグンタの行動を予想して準備してくれてたらしい。
アリアの魔法が空中でセグンタの攻撃に衝突した。
一瞬拮抗した後、二つの黒炎は一つになって大きく横に逸れていく。
壁にぶつかってそこで派手に爆発した。
『やるではないか。
では、これならどうだ?』
セグンタは余裕そうな表情でさっきよりもさらに一回り大きな黒炎を放ってきた。
「めんどくさいヤツね。
やるなら最初から全力でやれってのよ」
アリアもそれに合わせてさっきより大きな魔法を放つ。
強力な魔法を連発しても、アリアは息切れもしていない。
ファスタルの地下の時よりも強くなっているのがよく分かる。
二つの黒炎がぶつかり、さっきと同じような光景が目の前に広がった。
『人の身でここまで魔法を操るか。
貴様のような者は初めて見る。
よし、我が貴様を試してやろう』
そう言ってさらに大きな黒炎を放ってきた。
「いちいち上から目線で鬱陶しいのよ。
その余裕の表情を消してやるわ」
再度同じ光景が繰り返される。
ただ、今回はそれだけで終わらなかった。
黒炎の衝突と同時にセグンタの上空に巨大な岩が発生した。
アリアの魔法だ。
黒炎の直後に別の魔法を放っていたらしい。
「潰れなさい!」
その岩がすごい勢いで落ちてきた。
『何?』
セグンタは自分より上には注意を払ってなかったみたいだ。
岩はセグンタの無防備な背中に直撃した。
そして、そのまま地面に叩きつける。
魔法耐性があるらしいから魔法自体のダメージは大きくないんだろうけど、地面にぶつかった衝撃は別らしい。
セグンタの動きが鈍くなった。
「チャンスだ。
一気に攻めるぜ!」
ワビスケが地面に這いつくばったセグンタに突っ込む。
僕たちもそれに続いた。
「おらっ!」
ワビスケがセグンタの翼を切り裂いた。
「これでもう飛べねえ。
このまま片を付けてやるぜ」
セグンタはまだ動かない。
僕たちは勢いを増して攻め続けた。
セグンタの体に傷が増えていく。
致命傷とは言えないけど、さっきまでと違って明らかにセグンタのダメージが蓄積していくのが見て分かる。
「見たか。
これが僕の真・絶対最凶剣だ。
混沌を呼ぶ最強の剣だ」
さっきまで全く攻撃に参加できなかった混沌さんも今はノリノリで剣を振るっている。
セグンタはまだ沈黙している。
アリアの一撃を受けてから不気味なほど静かなセグンタに違和感を感じた。
攻撃の合間に表情を伺う。
すると、こちらを見るセグンタと目が合った。
瞬間、体中に鳥肌が立つ。
何かまずい予感がした。
「みんな、なんかおかしいよ。
気をつけて」
理由は分からなくても、みんなに注意するように言う。
「おかしい?
って言うても、このまま倒せそうやで」
当然、僕の言葉だけじゃ伝わるわけがない。
マイコさんが疑問の言葉を返してきた。
ピシッ!
その時、何か亀裂が入る様な音が周囲に響いた。
「なんや?」
ビシビシッ!
バキバキバキッ!
連続しておかしな音が響いた。
『グオオオオオオオオオオオオオッ』
セグンタが大きな雄叫びを上げる。
直後、その体が光を発し始めた。
同時に、セグンタを中心として強烈な風が巻き起こった。
すぐ近くにいた僕たちはその突風をモロに浴びて吹き飛ばされた。
突然のことで全く反応できずに地面に叩きつけられる。
「ごほっごほっ」
衝撃に咳き込む。
打ちつけた体も痛む。
だけど、我慢してすぐに起き上がった。
敵の前でのんびり寝ていられない。
みんなもダメージはあるみたいだけど、それぞれ起き上がっている。
さすがにこれくらいでやられたりはしない。
セグンタの体はまだ光っている。
それどころか、その光はどんどん強まっている。
僕はこの光景に覚えがあった。
忘れるはずがない。
キリアラプトルの時と同じだ。
あの時も今と同じように突然キリアラプトルから光と突風が発生したんだ。
僕は手で光を遮りながらセグンタの様子を観察する。
その光は一瞬大きくなってから、すぐに収まった。
そして、そこには無傷な状態のセグンタがたたずんでいた。
「チッ、コイツもかよ」
ワビスケが忌々しそうに舌打ちする。
僕も同じ気分だ。
「まさかセグンタが使えるなんてね。
いや、四龍なら当然か。
これは困ったね。
みんな、今のは限られたボスだけが使える技だ。
残念ながら使われたら完全に回復されてしまうんだ」
エスクロさんは苦々しい顔で説明してくれた。
「ああ。
知ってるよ。
キリアラプトルの時もそうだった。
だが、こんなのが使えるんじゃ倒しようがねえぜ」
「大丈夫。
これは一度の戦闘では一回しか使えないんだ。
だからもう使われないし、今使ったってことはこっちが押していたのは間違いないよ」
「なら、今度こそ倒せば終わりってことだな。
……仕方ねえ。
仕切り直しだ」
ワビスケが気合を入れ直して剣を構えた。
『……侮っていたとはいえ、ここまで追い詰められるとは。
我が封印されているうちに、ここまで人は強くなっていたのか。
業腹だが、認めざるをえまい。
貴様らは全力を持って相手をする必要があるようだ』
なんとなくセグンタの様子がさっきまでと違う。
荒々しい感じが薄れて静かになった。
だけど、強大な雰囲気は残っている。
少し、オリジンに似ている。
「回復したって同じことよ。
また這いつくばらせてやるわ」
アリアが再びセグンタの上に岩を出現させた。
『どうやら貴様は普通の人間とは異なる存在らしいな。
思い起こせば、古にそのような者がいたという記憶がわずかながら残っておる』
アリアの方を見ながらセグンタが何か言っている。
その間も岩はセグンタに向かって落ちてきている。
『だが、この程度の魔法で我を打倒しようとは、やはり笑止千万』
突然、セグンタの周りに突風が発生した。
それによって、岩が逸らされてしまった。
『もはや我に油断はない。
貴様らも早々に消えたくなければ片時も気を抜かぬことだ』
「……回復しただけならまだしも、さっきよりも厄介になってんじゃねえか。
全く、メインストーリーってのは楽じゃないぜ」
ワビスケが悪態を吐きながらセグンタに突っ込む。
『貴様らの持っている武器、我と同じ龍種の力を感じる。
どおりで我の鱗をも貫くわけだ。
であれば、近づかせぬのが上策か』
セグンタはそう言うと、近づくワビスケに向かって翼を羽ばたかせた。
「うおっ!」
突風が発生して、ワビスケが押し戻される。
「ならばこっちだ」
ワビスケが正面から攻めている間に熊がそれとは逆側、セグンタの背後に回り込んでいた。
隙だらけに見えるそこから攻撃を仕掛ける。
『愚かな』
セグンタは振り返りもせずに尻尾を振った。
それは正確に熊を捉えた。
『今の我に死角などない。
後ろに回ったくらいで無防備に突っ込んでくるとは、愚の骨頂よ』
熊は広間の奥の方まで吹き飛ばされてしまった。
「そんなら上はどうや!」
いつの間にかセグンタの上に飛んでいたマイコさんがハンマーを手に落下してきた。
いつもながらすごいジャンプ力だ。
全体重をかけてハンマーで叩くつもりだろう。
『どこから来ようが無駄だ』
セグンタは上を向くと、その攻撃に気づいていたと言わんばかりのスムーズさで黒炎を吐き出した。
「アリア!」
マイコさんがアリアに呼びかける。
「任せて!」
アリアがすぐにセグンタの黒炎に向かって同じ魔法を放った。
そして、マイコさんに向かう軌道からずらした。
「ナイスや!」
いい援護だ。
マイコさんはハンマーを振り下ろす体勢に入る。
『なかなかの連携だ。
だが、我を相手にするには物足りぬ』
セグンタが尻尾でマイコさんを迎撃しようと動く。
「そうそう好きにはさせないよ」
エスクロさんがその尻尾を短剣で受け止めた。
巨大なドラゴンの尻尾を細い腕と短剣だけで受け止める様は異様以外の何物でもないけど、とにかくセグンタの攻撃は止まっている。
『貴様はいつも我の邪魔をしおって。
だが、それでも無駄だ』
そう言うと、今度は首を少ししならせてから目前に迫るマイコさんに対して頭突きをした。
攻撃態勢に入っているマイコさんは避けようがなかった。
セグンタの大きな頭での一撃をもろに食らったマイコさんは物凄い勢いで壁まで飛ばされていった。
「隙ができてるぜ!」
マイコさんに攻撃する時にセグンタの突風が止まっていた。
ワビスケはそのチャンスを逃さずに接近している。
『隙?
なんのことだ?』
セグンタは焦った様子も見せずに、近づいてきたワビスケに向かって翼を振るった。
それは本当に無造作に翼を振っただけの攻撃だ。
でも、速さがめちゃくちゃだった。
目で追うのがやっとだった。
ワビスケもセグンタの動きは警戒してたと思うけど、あまりの速さに避けることができなかった。
ものすごいスピードで弾き飛ばされていった。
セグンタの動きは圧倒的だった。
あっという間に三人がやられてしまった。




