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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
動く世界
70/86

ドラゴン種

 奥からモンスターが現われた。

 ドラゴンだ。

 腕が翼になっていて、人より少し大きいくらいのサイズだ。

 ファフニールやオリジンと比べると小さくてプレッシャーも強くはない。

 だけど、雑魚でもなさそうだ。


「あれはワイバーンだ。

 ドラゴンの中では中の下ってところだね。

 単体なら君たちが手こずるような相手じゃない。

 単体なら、ね」


 エスクロさんが言いたいことはすぐに分かった。

 最初のヤツに続いて、奥から続々と出てきたからだ。

 10体は超えている。

 これだけの数なら注意しないといけないってことだろう。


「よし、準備運動がてら一体ずつきっちり仕留めて行くぜ」


 ワビスケがアメノムラクモを構えた。


「遂に僕の真・絶対最凶剣がその秘められた力を解放させる時が――」

「ここまでずっと我慢してたんだから、そんなにのんびりやってらんないわよ」


 剣を持ってワイバーンの方に進もうとした混沌さんの言葉にアリアが言葉をかぶせた。

 直後、混沌さんのすぐ横を大きな黒炎が通り過ぎて行く。

 アリアの魔法だ。

 それは奥から迫ってきたワイバーンたちを焼き尽くしていった。



 圧倒的だった。

 魔法が通り過ぎた後には一体のモンスターも残っていなかった。


「あー、すっきりした。

 さ、行きましょ」


 アリアはそう言ってスタスタと歩き出す。

 ワビスケと混沌さんは剣を構えた体勢のまま固まっている。


 その場に微妙な空気が流れたけど、みんなすぐに立ち直ってアリアの後を進み出した。


「ふふふ、さすがだね」


 エスクロさんはなぜかすごく嬉しそうに微笑んでいた。



 最初にワイバーンと戦ってから、何度もモンスターが現われた。

 一番多かったのはワイバーンだけど、それ以外のヤツも出てきた。

 ただ、全部ドラゴンだった。


「ここはドラゴンしか出てこないのか?」


「まあ、全てセグンタの配下だからね」


「配下ったってファスタルの地下はドラゴンなんて出てこなかったぜ」


「それはオリジンが自分の配下を使わなかったからだね。

 普通は四龍がいるダンジョンで出てくるのはドラゴン種だよ」


「やりがいがあってええやん。

 ここもそこそこ歯ごたえがあるしな」


 マイコさんが言うとおり、ここまで順調に進んでいるものの楽勝というほどでもない。

 最初の一群こそアリアの魔法で一撃だったけど、その後はそういうわけにはいかなかった。

 アリアが魔法を使うと、敵が避けるようになったからだ。

 全て避けられるわけでもないけど、それだけで全部倒したりすることはできなくなった。

 かと言って、全く苦戦してるわけじゃないんだけどね。


「でも、なんでドラゴンたちはすぐに魔法を避けるようになったんだ?

 最初のワイバーンたちはそんな反応をしなかったのに」


「それこそ、ここのドラゴンたちがセグンタの配下であるってことの証だよ。

 ここに入ってからもセグンタの気配はずっと感じるだろ?

 感じるというか、むしろ強くなってるだろ?

 セグンタはずっとこっちを見てるのさ。

 そして、最初のヤツらが魔法であっさりやられたのを見て、他の配下たちにそれを伝えたんだよ」


「なるほど。

 だからドラゴンたちの動きがどんどん良くなってるのか」


「そういうこと。

 セグンタの監視のおかげでヤツらは学習することができるんだよ。

 だから、これから出てくるヤツはこれまでのヤツより手ごわくなっていくはずだ。

 油断しないようにしてね」


「そうだな。

 こんだけ余裕だと、ちょっとくらいなら気を抜いてもいいかって気分になるが、ドラゴン相手にそんなのは言語道断だったな。

 注意して進もうぜ」


「ふっ。

 僕に油断なんてありえない。

 僕と真・絶対最凶剣のコンビには一分の隙もないのさ」


 混沌さんはそんなことを言ってるけど、まだあんまり活躍していない。

 彼が何かする前にワビスケやマイコさんが倒してしまうからだ。


 そうやって話しながら進んでいると、少し開けた場所に出た。

 道の途中が広場のようになっていたようだ。


「お、中ボスか」


 その広場の奥には、今まで見たのよりも大きなドラゴンがいた。

 獣のような体と鋏のような尻尾を持っている。

 強そうな気配だ。

 ワビスケはいつものようにレンズで調べている。


「けっこう強そうだよね」


「ああ。

 ファフニールより二段階くらい下って感じのステータスか。

 ヤマタノオロチなんかよりは全然強いな。

 普通ならこんな少人数で戦うのはかなりキツイんだろうが、俺たちなら問題ないと思うぜ」


「アイツはムシュフシュだ。

 本来なら強敵と言っていい相手なんだけど、ワビスケが言うようにこのメンツなら大丈夫だよ。

 ただ、アイツの攻撃で一つ厄介なのがある。

 毒のブレスだ。

 かなり広範囲の攻撃で、食らったら毒状態になって動きづらくなる上にしばらく放っておくと戦闘不能状態になる。

 だから、もしやられたらすぐに毒消しを使ってね」


 エスクロさんが説明してくれた。

 毒消しはたくさん持っているから問題ない。


「んじゃ、それに気をつけていくぜ!」


 ワビスケの言葉に全員武器を構えた。

 

「最初の一撃は私がもらうわ」


 アリアが特大の黒炎を放つ。

 いつものことながら、すごい魔法だ。

 ワイバーンを倒した時よりも大きい。

 その魔法は一直線にムシュフシュに飛んでいった。

 そのままムシュフシュを飲み込みそうな勢いだ。



 向かってくる魔法を見て、ムシュフシュは口から紫がかった息を吐き出した。

 その息はアリアの黒炎と同じくらいの大きさに広がる。


 黒炎がその息の領域に達した瞬間、触れた箇所から炎が燃え移った。

 そしてその場に留まっていた息が大きく燃え上がる。


「うわっ。

 なにあれ」


 そのあまりの凄まじさにたじろぐ。


「あれはさっき話した毒のブレスだよ」


「どういうつもりなんや。

 いきなり燃え移ってビックリしたけど、おかげで炎が大きくなってるやん。

 あんなん自殺行為やろ」


「いや、待て。

 そうじゃない」


 よく見ると、大きく燃え上がってはいるけど魔法の勢いは削がれているみたいだ。

 炎の色が元の黒い色から紫っぽくなって、息と触れたところで止まっている。



 しばらく激しく燃え盛った後、ムシュフシュに届くことなく炎は消えてしまった。


「なっ。

 あんな防ぎ方があるなんて」


 アリアの魔法がここまで完璧に防がれたのは初めて見た。


「なんだよ。

 アイツ、あんなナリして相当切れるじゃねえか。

 瞬時に黒炎の対処法を思いつくなんてな」


「いや、多分違う。

 あれはセグンタの指示だ。

 ここまでに見たアリアの魔法は既に対処法を考えてあるんだろう。

 ムシュフシュはそれを実行しただけだよ」


「なるほど。

 想像以上に厄介だな。

 楽には勝たせてもらえないってことか」


「上等や。

 こっちかてまだ手の内全部晒したわけやないで」


「その通りね。

 まだまだこれからよ」


「よし、その意気だ。

 でも、セグンタが常に見てるって忘れないようにね。

 一度見せた攻撃は次の敵には通じなくなる可能性が高いんだ」


「それも大丈夫や!」


 そう言うとマイコさんはすごいスピードでムシュフシュに近づいた。

 そして、その勢いのまま手に持ったハンマーを大きく横薙ぎに振るう。

 その攻撃はムシュフシュの胴体を完璧に捕らえたようだ。

 その巨体を大きく吹き飛ばした。

 ムシュフシュはそのまま壁に激突する。


「こんくらいの相手やったら、こんな攻撃で十分や。

 これなら対策の立てようもないやろ」


 マイコさんがそう言ってハンマーを地面に立てるのと同時に、ムシュフシュが地面に倒れる。


「確かにな。

 単純な打撃に対策なんてできないよな。

 よし、今回はマイコを見習うか」


 ワビスケはそう言ってアメノムラクモを手にムシュフシュに突っ込んで行った。

 そして、起き上がろうとしているところに切りかかる。

 熊と僕もそれに続いた。


 そこから、僕たちは四人で攻撃を続けた。

 混沌さんはタイミングを逃して攻撃に加われずにいるみたいだ。

 僕たちの方を見ながら入ろうかどうしようか迷っているみたいな動きをしている。

 エスクロさんも同じように手を出していないけど、加わろうという素振りもない。

 多分僕たちに任せるつもりなんだと思う。

 アリアは様子を見ている。

 ムシュフシュのすぐ近くに僕たちがいるから、魔法を使いにくいのかもしれない。

 僕はこうやって周りのことを気にするくらいには余裕がある。

 ムシュフシュは確かに力強い攻撃をしてくるし動きも速いけど、四人がかりなら得に問題はない。


「それにしてもしぶといな。

 さすがはドラゴンってか」


 ワビスケが愚痴っている。

 ずっと攻撃を続けているのに中々倒れないせいだ。


「そやな。

 このタフさだけでも強敵って言えると思うわ」


「だが、そろそろ終わりだろう。

 ワシらの攻撃は確実に効いているようだからな」


 三人は話しながらも攻撃の手は緩めていない。

 僕も余裕があるとはいえ、話せるほどじゃない。

 やっぱり、この人たちはすごいと思う。


 ムシュフシュが大きく揺れた。

 一瞬倒せたのかと思ったけど、違った。

 口から紫色の息が出てくるのが見える。


 さっきの毒の息だ。

 避けないと。

 ……いや、ダメだ。

 近すぎてにそんな時間がない。

 僕はそれを食らうことを覚悟した。

 その僕の目の前を小さめの黒炎がすごい速度で通り過ぎて行った。

 そして、ムシュフシュの息に触れる。

 その瞬間、顔面ごとムシュフシュが燃え上がった。

 口の中の息にも燃え移ったんだろう。

 かなり苦しんでいる。


「馬鹿ね。

 さっき見せられて、こっちも対策は分かってるのよ。

 私の黒炎が防がれるってことは、アンタのそれも防げるに決まってるじゃない。

 ま、防ぐだけの効果じゃ済まなかったけれどね」


 アリアが魔法を放った体勢で不敵に笑っている。

 最初の一撃を防がれた時に、こうすることを考えついていたのかもしれない。

 転んでもただでは起き上がらないってやつかな。

 さすがだ。


 僕たちは顔が燃えて動けなくなっているムシュフシュを一気に攻めた。

 そのまま倒しきる。


「ま、こんなとこだろ」


「そやな。

 ぼちぼちかな」


 ワビスケとマイコさんは頷き合っている。


「このクラスの相手をこんなに簡単に倒せるとはね。

 想像以上だよ。

 これは嬉しい誤算だ。

 ところで、レベルはどうだい?」


「ああ。

 上がったな。

 お前の言うとおり、ここで戦っていけばもう少し上げられそうだ」


「良かったよ。

 これなら、本当にセグンタもなんとかなりそうだ」


「そうなるといいがな。

 よし、進もうぜ」


 僕たちは奥に進んだ。





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