ニグートの地下
僕たちは全員でニグートの地下を進んだ。
と言っても、途中までは何もないことが確認できているので、特別に何かを警戒しているわけじゃない。
「ところで、気になることがあるんだが」
ワビスケがエスクロさんに話しかけた。
「何だい?
答えられることには答えるよ」
「どうしてここには他のプレイヤーが集まっていないんだ?
セグンタがいるならメインストーリーの一角を担ってるわけだろ?
その割には探索に来てるヤツもいなければ、情報も出てきてない。
確かに何かヒントがあるわけじゃなかったが、ニグートにいるプレイヤーの数を考えれば誰かが気づいててもおかしくなさそうなもんだが」
「それについては事情があるんだよ。
事情っていうか、陰謀っていうか……。
君たちはニグートに入ってから、どこにも寄らずにここに来ただろ?
だから知らないんだろうけれど、今ニグートの街では他のドラゴンに関する情報がけっこう簡単に手に入るんだよ」
「どういうことだ?」
「君たちはファスタルからニグートに入ったよね?
だったら、国境付近にあるダンジョンに人が群がっているのを見なかったかい?」
「ああ、見たぜ。
本当はそっちに寄ってからニグートに来るつもりだったんだが、あまりにも人が多かったから避けたんだ」
「だろうね。
実はあそこにも四龍のうちの一体がいるんだけど、その情報がニグートでは簡単に手に入るんだよ」
「いや、待て。
あそこに関する情報はかなりの数があったし俺もそれなりに調べたが、どれもメインストーリー関連じゃなかったぞ」
「そりゃそうだよ。
その情報は口止めされてるからね。
他のプレイヤーに口外しないという条件で情報をばら撒いてるヤツがいるのさ」
「なんでだ?
そんなことする必要あるか?
強力なドラゴンだったらそれなりの数のプレイヤーで挑んだ方がいいだろう。
それに、確かに情報を隠したがる輩はいるが、普通隠してもどこかから漏れるだろう」
「まあね。
実際、全く漏れていないわけじゃないよ。
だけど、元の情報の数が多すぎて、少しくらい漏れたってすぐ埋もれるんだよ。
それと、その情報を流しているヤツのやり方のせいで、本当にごくわずかしか漏れていないのさ」
「やり方?」
「まず、情報を流しているのはニグートの運営に携わっているプレイヤーだ。
セグンタの協力者だね。
ソイツらがセグンタから聞いたトライファークのドラゴンとファスタル国境付近のドラゴンの情報を流してるんだよ。
ただし、口外したら二度とニグートでは自由に行動できなくするって脅し付きでね。
そんなことができるものなのか真偽のほどは分からなくても、運営に携わっている者の言葉だからね。
迂闊に情報を漏らそうとは思う人は少ないらしいんだよ」
「どうしてそんなことをしてるんだ?」
「セグンタの存在を知られないためさ。
今、大半のプレイヤーたちの注目はメインストーリーに向いてる。
だから君が言った通り、放っておいても誰かがそのうちセグンタの存在に気づく。
そうなれば、いつかはセグンタは倒されることになるだろう。
立ち入り禁止エリアを設定してプレイヤーが入れないようにしても、突破する方法が全くないわけじゃないし、それに、あまりにも目につけば管理者によって解除されるかもしれない。
協力関係にあるプレイヤーにとっても、セグンタ自身にとっても、それは避けたい事態なんだよ。
今までの好き放題な状態を維持したいってことだろうね。
だから自分の存在に気づかれないために注意を他に逸らそうとして、自分以外の四龍の情報を流しているのさ」
「仲間を売ったのか?」
「そういうことになるかもね」
「マジでいけ好かないヤツだな。
そのせいで国境付近があんだけ人で溢れかえってたのか」
「元々ニグートには大勢のプレイヤーがいたからね。
その大半が情報を手に入れたから、そんな状態になったんだよ。
ちなみにトライファークも同じようなことになってると思うよ」
「だが、それだけ大勢のプレイヤーが集まったら、トライファークと国境のドラゴンはすぐに倒されちまうんじゃないのか。
そうなったら、そのうちセグンタの所にプレイヤーが来ることになるだろ。
多少の時間稼ぎにはなるかもしれないが、それじゃ意味がないだろう」
「それがね、そうはならないんだよ。
……うーん。
楽しんでほしいから、あんまりネタバレはしたくないんだけどな」
「何のことだよ」
「まあ、仕方ないか。
実はね、ファスタルの国境付近のダンジョンはかなり奥の方にドラゴンがいるんだけど、そこに続く道に扉があるんだよ」
「扉?
ファスタルの地下遺跡みたいなのか?」
「そうだね。
それで、その扉が開く条件って言うのが、他の四龍全てを攻略することなんだよ」
「攻略?
倒すことじゃなくて?」
「そう。
オリジンは倒す必要がないんだよ。
彼は人間と敵対していないからね。
だから、オリジンは会って話をするだけで攻略したってことになるのさ。
まあ、製作者がそういう設定にしたってことなんだけど。
ただ、セグンタとトライファークのドラゴンは倒さなくちゃならない。
オリジンと話した上で、他の二体を倒した時、初めて国境のダンジョンの扉が開くんだ。
つまり、セグンタを倒さずに国境のダンジョンに向かっても奥には進めない。
扉の所で足止めを食らうんだ。
口止めされている以外に、情報が出てこないもう一つの理由さ。
奥に進めないから、本当にドラゴンがいるのかどうか分からないんだよ」
「なるほど。
セグンタもそれを分かっているから、積極的に国境の情報を流してるのか」
「その通り。
狡猾なヤツなのさ。
そんなわけで、ここには他のプレイヤーがいないんだよ。
君たちもエイシがいなかったら来てなかったと思うよ」
「確かに。
俺もニグートは好きじゃないから、すぐに出ていくつもりだったしな。
多分、情報収集してトライファークの情報を手に入れて、すぐにそっちに向かっただろうな」
「だろうね。
そういう事情のプレイヤーは大勢いるから、君の言う通りトライファークの方の四龍はもうすぐ倒されると思うよ」
「やっぱりそうなのか。
全部俺たちが倒せるとは思ってなかったが、全く知らない所でってのは少し残念だな」
「仕方ないよ。
トライファークの方にもかなりのプレイヤーが集まってるからね。
ちなみに、あそこにいるのは聖龍【トライシオン】って言ってかなり強力なヤツなんだけど、数は力だからね。
間違いなく数日とかからずに倒されると思うよ。
まあ、戦いたければ日を改めれば再戦はできるけど、初攻略は他の人がすることになるだろうね」
「それは構わないけどな。
じゃあ、どちらかと言えば問題は俺たちの方か。
こんな人数でセグンタはどうにかなるのか?」
「正直、難しいね。
倒せたとしても、ギリギリだと思うよ」
「可能性がないわけじゃない、ってとこか。
だったら、もっと他のプレイヤーを集めてもいいんだぜ。
その方が確実だろ」
「あんまり大勢で動くとセグンタが立ち入り禁止エリアを増やす可能性があるからね。
今もこっちには気づいてるはずだけど、人数が少ないから様子を見てるんだと思う」
「別に増やされてもお前が解除すればいいんじゃないのか?」
「そうなんだけど、僕が派手に動くと管理者の目を引くからね。
今はトライファークとファスタル国境を気にしてるけれど、人を集めた上で僕が動くとなると、こっちに管理者の注意が向くのは間違いないだろうね。
それは色んな意味で避けたいんだ」
そう言ってエスクロさんは僕とアリアを見た。
「確かにな。
まあ、可能性があるならこのまま行けばいいか」
「もう少し進めばセグンタの配下のドラゴンが現れると思うから、ソイツらを倒せば君たちのレベルも上がるだろうし、もしかしたら意外と普通に倒せるかもしれない」
「分かった。
状況次第だが、上手く立ち回ればなんとかなりそうだと思っとこう」
「あ、もうすぐ二人のプレイヤーがいる場所だよ」
先頭を歩いているワビスケとエスクロさんに報告する。
「了解だ。
ソイツらは倒してしまってもいいのか?」
「いや、セグンタの協力者と言ってもあんまりプレイヤーと戦いたくはないね。
ちょっと道を変えよう。
遠回りになるけど、セグンタの所までは辿り着けると思う」
そこから、エスクロさんの先導で進んだ。
エスクロさんは迷うような素振りもなく、スイスイ道を選んで歩いて行く。
「エスクロさんはここに来たことがあるんですか?」
「昔、ちょっとね。
どうやらその時と道は変わってないみたいだ。
良かったよ」
しばらく進むと、普通の建物の通路だった道が、洞窟のような整備されていない道に変わった。
「ここからはモンスターが現れるよ。
それなりに強いヤツばかりだから注意してね」
エスクロさんは僕たちに注意を促す。
確かに。
セグンタの気配ほどじゃないけど、奥の方に強そうな気配をいくつも感じる。
「ようやく戦えるんか。
ここまで小難しい話ばっかりやったから、うんざりしてたところやわ」
「ホントね。
もっとシンプルな方がいいのに」
女性陣はワビスケたちの話に退屈していたらしい。
モンスターが出てくると聞いて目を輝かせている。
その反応はどうかと思うけど、指摘はしない。
ちなみに混沌さんもずっと付いてきているんだけど、最初のエスクロさんの話を聞いてから、
「邪龍、ふふふ、混沌の勇者たる僕に相応しい敵だ。
今こそ、真・絶対最凶剣と共に新たな伝説の一ページを刻む時が来たみたいだ。
それにしても、邪龍、か。
いい響きだな――」
とか、一人の世界に入ってブツブツ言っているから、触れないようにしている。
「来たよ!」
奥から、羽ばたきの音と共に小型のドラゴンが姿を現した。




