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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
49/86

ファスタルへ

「地下遺跡?

 ファスタルにそんな所があるの?」


「ああ。

 存在はかなり前から確認されている遺跡だ。

 ちなみに街の中にあるんだが――」

「え?

 でも、誰もそんな話はしてなかったよ」


 伊達にずっとファスタルの入り口にいたわけじゃない。

 ほとんど動いたことはなくても、街に何があるかくらいは大体知っている。

 大体としか言えないのが悲しいけど、それにしたってそんなに古くからあった場所なら聞いたことくらいあってもいいはずだ。


「まあ、場所が場所だからな。

 普段ファスタルにいる人間でも知っているヤツなんてほとんどいないだろうな」


「場所が場所?」


「裏通りのかなり奥の方なんだ」


「げっ。

 あの奥?」


 変な声を出してしまった。

 裏通りは僕が迷った場所だからだ。


「そうだ。

 ただでさえ迷いやすい裏通りのかなり奥の方にあるんだ。

 それなりに道を分かった上で目指さないとたどり着けないような場所だ。

 どういうわけか、迷っているうちに偶然そこに着くってことはないらしい。

 そういう設定なんだろう。

 最初はファスタルの裏通りの詳細マップを作ろうとした酔狂な輩に発見されたんだ。

 と言っても、発見されたのは入り口だけだが。

 そこは厳重に封鎖されてたんだ。

 当然、発見したヤツはすぐに入ろうとした。

 だが、何をしても開けられなかった。

 それから何人ものプレイヤーが入ろうと色々試した。

 結局、誰も入れなかったけどな。

 で、どうやらあの遺跡はまだ入れるようになっていないらしいという結論になった。

 そういう設定なら何をしたって開くはずがないってな。

 かなり前だが、プレイヤーたちがこの話題で盛り上がった時期があったんだ。

 だから、古参プレイヤーなら場所は知らなくても存在は知っているヤツが多い。

 でも、入れない遺跡の話題なんてすぐに飽きられるし、今じゃ一部を除いてほとんどのヤツが口にもしないような話だ。

 だから、普通の住人やファスタルをうろついてるような初心者はほとんど知らないのさ」


 なるほど。

 それで僕も聞いたことがなかったのか。


「それが、アップデート後に封鎖が解けているのが見つかったんだ。

 いまだにそこを開けようと挑戦するヤツは少数ながらいたからな。

 そういうヤツが発見したらしい」


「で、どんな感じなん?

 中の情報もあるんやろ?」


「ああ。

 今までの推測では、その遺跡は大したところじゃないんじゃないかってのが定説だったんだ。

 ファスタルにあるってことからも、初心者用ダンジョンの可能性が高いからな」


「でも違った。

 そうやないと、あんたが気にするはずないしな」


「そうだ。

 俺が調べた情報によると、レベル100のヤツでも入ってすぐのところで行き詰ったらしい。

 それくらいのモンスターが出て来るんだと。

 で、その話を聞いて俺も色々思うところがあったんだ。

 俺たちも真剣にレベルを上げる必要があるんじゃないかってな。

 ウォームレクスもそうだったが、今のレベルで新ダンジョンなんかに行ってもすぐに進めなくなる可能性がある。

 ただ、俺たちにはエイシがいるしアリアも仲間になったから、しばらくはそんなことにはならないだろうとは思う。

 もしかしたら、騙し騙しでずっとなんとかなるかもしれない。

 だが、エイシの特殊な攻撃やアリアの魔法だけに頼るんじゃ完全に俺たちは足手まといってことだ。

 俺はそんなのはごめんだ。

 だから、早いうちにレベルを上げて強くならないといけない。

 それに、エイシがダンジョンで出会ったヤツのこともある。

 そんだけ圧倒的なヤツがいると分かった今、強くなっといて損をすることはないだろう。

 ま、そんなレベルの高いダンジョンならとんでもないレアアイテムがあるだろうって期待もあるけどな。

 そういう諸々を含めて面白そうってわけだよ」


「そういうことか。

 そやな。

 言うとおりやわ。

 ウチらだけやったらスライムレクスでさえ、てこずってたからな。

 そんなんじゃ古参プレイヤーの名が泣くわ」


「というわけなんだが、エイシ、お前が嫌がるなら別のとこでもいい。

 ここから比較的近いのがファスタルってだけで、もう少し足を延ばせば他にもレベル上げできそうなところはある。

 まあ、ダンジョンで会ったヤツから離れることを考えるなら遠くの方がいいって言えなくもない。

 そんなレベルのヤツ相手に多少離れても無意味かもしれないが」


 これだけ説明しておいて判断は僕に任せると言われても。

 僕だってファスタルにそんな所があるなら行ってみたいと思う。

 自分がずっといた街だし、余計に気になる。


「うん。

 大丈夫。

 確かにファスタルには戻りたくないと思ってたけど、その遺跡は気になるし行ってみたいよ。

 それに、ワビスケたちに必要なことができるんだったら、ためらう意味なんてないよ。

 行こう」


「よし、よく言ったぜ。

 行くか」



 僕たちはすぐにファスタルに向かった。





 ファスタルに着いたときには朝になっていた。 


「とりあえず、宿を取ってひと眠りしよう。

 地下遺跡がヤバイところなら万全の態勢で向かったほうがいいからな」


「そやな。

 昨日から動き回ってるしな。

 さすがに集中力続かんわ。

 エイシ君たちはダンジョンにも行ってるんやから尚更やな」


 まあ、僕はそんなに疲れてる感じじゃないんだけど、アリアはちょっと休んだ方がいいと思う。

 なにせ、移動中ずっとマイコさんと話しまくってて、ちょっと話し疲れてるっぽい。

 その割りにマイコさんは疲れてない感じだけど。

 アリアはこんなに人と話し続けたのは初めてだろうから無理もないか。

 すごく楽しそうだったからいいと思う。

 話しながらチラチラこっちを見てきたのは気になったけど。



 ワビスケの案内でファスタルの宿に入った。

 何年もファスタルにいたくせに、この街で宿、というか屋根の下で寝るのは初めてだ。

 今思えば異常なことだけど、ここを出るまでそんな風に考えたこともなかった。

 我ながら情けないけど、そう思えるようになっただけ成長したってことかな。


 宿に着くまでに何人かのプレイヤーの人とすれ違った。

 だけど、誰も僕には気づかなかった。

 ワビスケから借りたフード付きの服のおかげなんだろうけど、それでもひそかにホッとしていた。


「んじゃ落ちるわ。

 昼に起きて遺跡探索だぜ」


「うん。

 おやすみ」


 もう朝だから外は明るいんだけど、疲れのせいかすぐにみんな眠りについた。





「おい、エイシ起きろ」


「うん?

 ああ、おはよう」


 ワビスケの声で目が覚めた。


「もうお昼なの?」


「ああ。

 疲れてたせいか、予定より寝過ごしちまったぜ」


 みんなかなりぐっすり眠っていたみたいだ。

 おかげで体の調子はいい。


「今から遺跡に行くんでしょ?」


「ああ、とりあえず全員起こしてからな。

 エイシはアリアを起こしてくれ」


「分かった」


 寝ているアリアを起こす。


「起きて、アリア」


 アリアはすごく気持ちよさそうな顔で寝ている。

 昨日少し話したんだけど、アリアは今まで眠ったことはなかったらしい。

 大森林でずっと役割をこなしていたからなんだとか。

 ファスタルにいた頃の僕と同じだ。

 それでも問題はなかったんだろう。

 だけど、僕は毎日眠るようになってから体の調子が良くなった気がしている。

 アリアもそうだといいと思う。


「んん?

 え、あなたは――。

 ――ああ、エイシ。

 あれ?

 ここはどこ?」


 アリアは少し寝ぼけているみたいだ。

 ぼんやりしている。


「おはよう、アリア。

 ファスタルの宿屋だよ」


「ファスタル?

 ああ、エイシがいた街ね。

 あ、そうか。

 うーんっ」


 アリアが大きく伸びをした。


「おはよう、エイシ。

 寝たのなんて初めてだから、状況がよく分からなくなってたわ」


「そうみたいだね。

 もうお昼過ぎだって。

 みんな起きたら遺跡に行こう」


「分かった。

 うん。

 なんだか体調がいい気がするわ。

 これなら探索もばっちりよ」


「よかった。

 ワビスケ。

 アリアは起きたよ。

 熊とマイコさんは?」


「おう、小僧。

 ワシは最初から起きてるぞ」


 熊は横になってただけで起きていたみたいだ。


「おはよう、熊。

 マイコさんは?」


「ダメだ。

 コイツ、起きやしねえ」


 ワビスケが愚痴っている。


「まあ、マイコはいつもそんな感じだ。

 そのうち起きるだろうが」


「起きるまで待つ?」


「いや、いいだろう。

 置いていこう。

 いないならいないで、静かでいい」


 なんだか前にもこんなやり取りがあったような。

 イベントの日だったっけ。


「おし、行くか」


 ワビスケは本当にそのまま出ようとする。


「待てや。

 ウチをほってく気か?」


 タイミングよくマイコさんが起きた。


「ちっ。

 起きたのかよ。

 そのまま寝とけよ。

 なんなら、ずっと寝とけよ」

「はあ?

 ウチがおらんかったら遺跡探索で困るやろ」

「困らねえよ。

 アリアも加わって戦力は充実してるからな。

 別にお前がいなくても問題ない」

「またそんなこと言うて。

 いざとなったら頼るくせに」

「頼らねえよ。

 頼ったこともねえよ」

「何言うてんねん。

 今までウチ頼られまくりやったで。

 あんたはいっつも危ないときマイコ助けてって――」

「誰が――」


 いつものケンカが始まった。

 熊曰く戦闘前の儀式だ。


「エイシ、あれ止めた方がいいんじゃ」


 アリアが心配している。

 ああ、二人のこういうところ見るの初めてだっけ。


「大丈夫みたいだよ。

 あれは準備運動みたいなものなんだって」


「準備運動?

 あれが?」


 掴み合いを始めている。

 かなり激しい。


「えーと、うん。

 準備運動、だよね?」


 熊の方を見る。

 あ、目をそらされた。


「……準備運動、だよ」


 そういうことにしておこう。




 宿屋でちょっとバタバタしたものの、その後は順調に裏通りまで来た。

 ワビスケとマイコさんは相変わらず言い争いをしているけど、ちゃんと道案内もしてくれているから問題ない。

 裏通りはやっぱりすごく道が入り組んでいる。

 明るい時間帯でもほとんどの人は迷ってしまうと思う。

 まあ、ワビスケについて行けば大丈夫みたいだけど。

 一人では入らないようにしよう。


「もうすぐ遺跡だ。

 入ってみないと確かなことは分からないんだが、絶対に油断はするなよ。

 常に大森林のゴリラクラスかそれ以上のヤツが出てくる可能性があると思っとけ」


「そやな。

 レベル上げせなあかんねんから、すぐにやられるわけにもいかんしな」


「あと、アリア」


「何?」


「あんまり考えなしに魔法を撃つなよ。

 お前の魔法の威力だと遺跡が崩落する可能性もある。

 今回の遺跡は地下にあるから生き埋めになるかもしれない」


 そう言われて気づいたけど、ゴミ屋敷のダンジョンでもその可能性はあったんだよね。

 気にしてなかった。

 危ない危ない。


「大丈夫よ。

 ちゃんと威力を調節するもの」


「ホントかよ。

 とりあえず今日のところは様子見と俺たちのレベル上げが目的だからできるだけ手を出さないでくれ」


「分かったわ。

 だけど、エイシが危なかったら思い切りやるわよ」


「ああ。

 それはそれでいい」


 なんだか守られてる感があって悲しい。

 実際、この中で今一番弱いのは僕だし。

 もっとがんばらないとな。


「あれだ」


 裏通りをかなり進んだ所のちょっとした空き地の奥に、その階段があった。


「階段?」


「ああ、あれを下りたところが遺跡だ。

 前まではあの階段が封鎖されてたんだ。

 今は見ての通り、塞がれたりはしていない。

 よし、行くぜ」


 こうして、僕たちのファスタル地下遺跡探索が始まった。






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