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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
48/86

報連相

 とりあえず一息ついた。

 危ないところだった。

 移動石を用意しておいて良かった。


「エイシ、どうしたんだ?」


 ワビスケは僕の様子から何かあったことを察してくれたみたいだ。


「それが、アリアと二人で昨日のダンジョンに行ったんだけど」


「は?

 昨日のダンジョン?

 あそこは今入れないだろ」


「うん。

 でも、立ち入り禁止はプレイヤーだけみたい。

 僕たちはプレイヤーじゃないから入れたんだ」


「そうなのか?

 いや、考えてみれば当たり前なのか。

 盲点だったな。

 それで、どうだったんだ?

 何か変わってたか?」


「いや、15階層までは同じだったよ。

 アリアの魔法が強力だったし、ウォームレクスのところまでスムーズに進めたんだ。

 ただ、ウォームレクスが最後に物凄い攻撃をしてきて、それだけは昨日と違ったよ」


「そうか。

 まったく……さすがというか、呆れるくらいの強さだな。

 二人であそこまですんなり行けるってか。

 まあ、意外ではないが。

 ウォームレクスの攻撃については、管理者も言ってたよ。

 倒される前に強力な一撃を放つってな。

 昨日はその攻撃の前にエイシが倒したから食らわなかったんだろう。

 どんな攻撃だった?」


「大きな竜巻なんだけど。

 とりあえず、それのことは今はいいんだ。

 なんとかなったし」


「ん?

 そうなのか?

 それから逃げるために移動石で帰ってきたんじゃ……ないってことだな。

 てことはその後か。

 何があった?」


 ワビスケは話が早くて助かる。


「ウォームレクスを倒した後、16階層に下りてみたんだ」


「何かあったのか?」


「最初は何もなかった。

 というか、何もいなかった。

 白い床がずっと続いてるだけだったよ。

 でも、帰ろうと思った時に、急にどこからか黒いヤツが現れたんだ」


「黒いヤツ?

 なんだそりゃ?」


「分からない。

 何というか、黒いヤツ。

 色が黒いとかそういうことじゃなくて、姿がはっきりしないんだ。

 何を言ってるか分からないかもしれないけど、とにかくそんな感じなんだよ。

 それで、ソイツがいきなり攻撃してきたんだ。

 ……すごい攻撃だった。

 僕たちは何とか避けられたけど、その攻撃に触れた床はなくなってたよ」


「床がなくなる?

 あの白い床がか?」


「うん。

 そこだけ削り取ったみたいになくなってた」


「そりゃやべえな。

 普通はあの白い床にダメージを与えることなんてできないはずなんだが。

 ソイツはプレイヤーだったのか?」


「違う、と思う。

 プレイヤーにはいろんな人がいるし、ちょっと変わった雰囲気の人もいるけど、あの黒いヤツはちょっと変わってるとかそんなもんじゃなかった。

 まあ、普通の街の人とかよりはプレイヤーに近い雰囲気だったけど。

 でも、プレイヤーは今あのダンジョンには入れないはずだし、多分違うよ。

 雰囲気が一番近いのはエスクロさんだと思う」


 そうだ。

 自分で言って気づいた。

 アイツの気配はエスクロさんにそっくりだったんだ。

 プレイヤーに近いんだけど、明らかに違いがあるような。

 あの黒いヤツはエスクロさんに強烈な禍々しさを追加したような雰囲気だった。


「エスクロ?

 ってことは管理者側の存在か?」


「分からない。

 だけど、僕がイベントの後に見た管理者とは違う雰囲気だったと思う。

 強さもそれ以上だったし」


「なに?

 管理者以上の強さ?」


「あくまで、キリアラプトルを倒した時の管理者だけど。

 それよりもどうしようもない強さを感じたよ。

 まあ、強さと言うよりも怖さって言ったほうがしっくりくるんだけど。

 とにかくアイツは戦っちゃいけないと思った。

 もちろん、僕が思っただけだから、実際にどうかは分からないけど」


「いや、お前がそこまで言うならそうだと思っといた方がいいな。

 本来なら管理者に連絡して調べさせた方がいいんだが――」


 ワビスケは迷うような素振りを見せた。

 理由は分かる。


「うん。

 連絡するなら、僕たちがダンジョンに入ったことは言わないといけないと思う」


 そうだ。

 ダンジョンに入ってないのに、そこで変なヤツを見たなんて言えるはずもない。


「ちっ。

 それは、言えない。

 言ったら色々と面倒なことになる」


「面倒?

 どうなるのよ?」


「お前らにはあんまりこういうことは言いたくないんだが、お前たちみたいに管理者の意図しない行動を取っているプレイヤー以外のキャラがいたら、消される可能性が高い」


「消される?

 ってどういうこと?」


「アリアにはその記憶はないかもしれないが、お前が最初に大森林に現れてから、最近また復活するまでには何年も経ってるんだよ。

 つまり、その間は消されてたってことだ。

 管理者に都合が悪いと判断されたら“いなかったこと”にされる。

 そんなことは絶対にさせない。

 だから、このことは管理者には言えない」


 ワビスケが僕たちのことを考えてくれてるのがよく分かる言葉だった。


「じゃあ、どうしよう。

 追いかけてきそうな感じじゃなかったけど、アイツはなぜか僕たちのことを知っていたみたいなんだ。

 感動の再会とか言ってた。

 そのすぐ後に攻撃してきたから、適当なことを言ってただけかもしれないんだけど。

 でも、もし本当に知っていたなら次に出くわしたらすぐに気づかれると思うんだ」


「知っていた?

 いや、エイシはプレイヤーの間ではある意味有名だし、テスターだったらアリアのことも知ってるからな。

 ただ、プレイヤーじゃないとなると、なぜ知っていたのかは分からないな。

 心当たりはないのか?」


「全然。

 全く記憶にないよ」


「私も。

 あんなヤツ知らないわ」


「そうか。

 ただ、そんなことがあったとなると、どう考えてもこのままゴミ屋敷に残るってのは得策じゃないな。

 すぐにでも離れた方がいいだろう。

 ソイツが何者なのかも何をしていたのかも全く検討もつかないが、また会ったら攻撃される可能性が高いと考えた方がいいだろう。

 どっちにしても明日には違う街に行こうかと思ってたから、都合は悪くない。

 もう、すぐに出ちまおう。

 熊とマイコに連絡するからちょっと待ってろ」


 そう言って、ワビスケは何かし始めた。

 多分、プレイヤー同士の通信で熊とマイコさんに連絡してくれているんだと思う。


「エイシ、あの、さっきはありがとう」


 突然アリアにお礼を言われた。


「え?

 何のこと?」


「あの変な奴の攻撃から守ってくれたじゃない。

 助かったわ」


「ああ。

 いいんだよ。

 ギリギリだったけど、避けられて良かったよ」


「あれ、なんだったんでしょうね」


「分からないけど、できたらもう会いたくないな」


 心底そう思った。

 強い敵とか、そういうのとは違う。

 なんていうか、どうしようもない力を感じた。

 あれに比べたらキリアラプトルが可愛く思える。

 いや、キリアラプトルとも戦いたくはないけど。

 ただ、キリアラプトルにはいつか勝てるようになる気がする。

 でも、アイツからはそんな感じはしなかった。

 あくまで短時間のやり取りで思ったことだから、本当はどうなのか分からないけど。


「よし、連絡がついたぞ。

 とりあえず工房に行こう。

 俺たちが着くまでに出発の準備を整えておいてくれるらしい。

 ミナミには俺が連絡しとくから、掃除屋の方は気にしないでこのまま出ても大丈夫だ」


 僕たちは工房に向かった。

 さっきのヤツがひょっこりゴミの山の裏から現れないかビクビクしていたけど、そんなこともなく無事に着いた。


「おう、来たな」


「お疲れさん。

 なんか大変な目に遭ったんやって?」


 僕はさっきワビスケに話したことを熊とマイコさんにも説明した。


「なんなんやろ、ソイツ。

 エイシ君の話からすると、ちょっと普通やないと思うんやけど。

 ワビスケ、心当たりないん?」


「ああ、全くないな。

 実際に見たわけじゃないから、判断のしようもないが。

 プレイヤーでも管理者でもない、それ以外のキャラってことになるとNPCしかいない。

 だが、正直それも考えにくいだろう。

 エイシも違うって言ってるしな。

 エスクロに似てるらしいから、今度アイツが現れたら聞いてみよう。

 何か分かるかもしれない」


「せやな。

 で、すぐゴミ屋敷を出るってことでええんか?」


「ああ。

 その方がいいと思ってる。

 それで、次にどこに行くかを決めないといけない。

 色々調べたが、何か希望はあるか?」


 ワビスケがみんなに聞いた。


「おもろいとこがええな」


「ワシはいい素材が取れるとこなら文句はない」


「僕はどこでもいいよ」


「私はエイシがいるところ」


 最後のアリアの発言にマイコさんが反応する。


「うん?

 何なんそれ?

 ちょっと離れてるうちになんなん?

 いきなりデレてへん?

 なんかあったん?」


「ふふふ。

 いいことがあったの」


「えー、めっちゃ気になるわ。

 教えてほしいんやけど。

 仲間に隠し事はなしやで」

「おい、ちょっと。

 話を逸らすな。

 そんなのあとで話せ。

 今はさっさとここを出ないといけないんだって。

 とりあえず、面白くて素材があればどこでもいいんだな?」


 誰も異論はない。


「候補はいくつかある。

 素材に関して言えば、トライファークのダンジョンに出現した新モンスターから取れるやつが熱いらしい。

 難易度的にはファスタルとニグートの間の所がちょっと話題になっている。

 あと、無難にダンジョンらしいダンジョンがあって、新モンスターも新アイテムも出てきてるのがエクトス近郊だ」


 ワビスケが三つ候補を挙げてくれた。

 どこも面白そうなんだろう。

 ワビスケが色々調べた上で挙げたんだろうから、三つとも外れってことはないのは間違いないと思う。

 でも、今の曖昧な情報だけじゃどこがいいってことは言えない。


「あと、もう一つ選択肢がある」


「なんなん、もったいぶって。

 最後に言うってことはそこが一番気になってるんやろ?」


「まあな。

 それは、ファスタルだ」


 ファスタル。

 元々僕がいた街だ。

 それなりに発展していて大きい街だけど、僕には大量のプレイヤーに追い掛け回されたトラウマがある。

 そして、戻ったらまた追いかけられる可能性があるらしい。


「……どうしてファスタルなの?」


 自分でもちょっと怪訝な顔になっていると思う。

 僕のトラウマはワビスケも分かっているはずだからだ。


「エイシがプレイヤーのことを心配してるのは分かる。

 だが、アップデート直後の今なら、お前の件の印象は薄くなってるから大丈夫だと思う。

 プレイヤーたちは新しい情報が出たらそっちに飛びつくから、今ならお前がファスタルの街で普通にしてれば、多分誰も気づかないはずだ。

 最悪、何かありそうだったらすぐにファスタルを出ればいいからな。

 まあ、全く心配がないとは言えないんだが、そのことがあったとしても行く価値があるくらい面白そうな場所がファスタルにあるんだよ」


 ワビスケがその場所にめちゃくちゃ行きたがってるのは明らかだ。

 そこまで言われると僕だって気になってくる。

 ワビスケが大丈夫だって言うんなら、僕がファスタルに行っても問題ないとは思うし。


「うーん。

 でも、ファスタルは攻略されきってるって言ってなかったっけ?」


「ああ。

 ほとんどはな。

 だが、手つかずの場所もないわけじゃないんだ。

 ファスタルには、存在は確認されていたのに、今まではちゃんと入れなかった場所があるんだ」


「え?

 もしかしてあそこが入れるようになったん?」


 マイコさんも知っているらしい。


「ああ、俺が今一番気になってる場所。

 それは、ファスタル地下遺跡だ」


 聞いたことがない場所だった。






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