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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
38/86

探索強制終了

― ワビスケ視点 ―

 エイシには15階層で待ってもらって、三人で16階層に降りてきた。

 さっきのエスクロというヤツはかなり怪しかったが、言ってることはもっともだった。

 俺も最近の方向性については疑問を感じることが多々あったし、エイシの存在によってそんな中でも楽しみを見出していたことは確かだからだ。


「なんやこれ?」


 マイコが呟いた。

 16階層は一面何もないフロアだった。

 ずっと真っ白い床が続いている。

 かなり広そうだが、正確な広さは分からない。


 少し先に二人の男が立っているのが見えた。

 おそらく、あれが管理者だろう。


 俺たちはその二人に近づいた。


「やあ、こんにちは」


 片方が話しかけてきた。


「どうも」


 俺は一言だけ返す。

 ここに現われた真意が分からないから、どう対応すべきかまだ分からない。


「うん?

 あんまり驚いていないみたいですね。

 さすが優秀なプレイヤーってとこですかね。

 その冷静さは我々も見習わないといけませんね」


 わざとらしくもう一人の男の方を見ながら言う。


「はっ。

 うるせえよ」


 もう一人はその視線に鼻を鳴らして返した。

 このやり取りだけでコイツらの関係性はなんとなく分かった。

 俺はいつもの癖でできるだけの情報を収集しようとする。

 観察は情報屋の命だ。

 特に今みたいな先が読めない状況では少しの挙動も見逃さないようにしなくてはならない。

 とりあえず、俺たちに対応するのは最初に話しかけてきた男がメインなのだろう。


「いえ、どう反応していいか分からないだけで、この状況に驚いてはいますよ」


 俺は無難に返事をする。

 まさか、15階層で管理者がいると聞いてたから驚かないんですよ、なんて言えるわけがない。


「そうですか?

 そうは見えませんけどね。

 ま、いいでしょう。

 初めまして。

 私たちはこのゲ、いや、この世界の管理者です」


 やはり、エスクロの言ったことは正しいようだった。


「管理者?

 そんな人が突然、何の用ですか?

 俺の記憶が正しければ、管理者がプレイヤーの前に現われることなんてなかったはずですけど」


「そうですね。

 私たちも管理者として直接プレイヤーの人と会うのは初めてですよ。

 だから、実はちょっと緊張しています。

 ああ、そちらは敬語なんて不要ですよ。

 普段の口調で結構です。

 それで私たちの用件なんですが、言わないといけないことと聞かないといけないことがあります。

 とりあえず、最初に言っておかないといけことから始めましょう。

 本当に、突然で申し訳ないんですけどイベントの報酬期間は終了とさせて頂きます。

 このダンジョンをあなた方が探索できるのはまもなく終了です」


 マジでいきなりだな。


「は?

 何の冗談やねん。

 まだ二日しか経ってへんねんで。

 期間の通知は確かになかったけど。

 さすがに早すぎやろ」


 マイコはいきなりタメ口だ。

 いや、俺もその方が話しやすいからそうするけど。


「そうですね。

 それは本当に申し訳ありませんとしか言えません。

 ただ、こちらとしても色々予想と違う事態になってましてね。

 だから、わざわざこうして出向いてきたんですよ。

 お詫びもかねてね」


 口調は丁寧だが、決して態度は柔らかくはない。


「予想と違う事態?」


「ええ。

 まさかここまであっさりとこの階層まで来られるとは思ってなかったんですよ。

 あなた方が非常に優秀なプレイヤーであることはイベントの結果で分かっていたつもりなんですけどね。

 はるかに我々の想定を超えていたようです。

 それで、色々聞かせて頂きたいことができまして」


 管理者の目は笑っていない。

 やっぱりそう来たか。

 アイツらにとっちゃ、俺たちの攻略スピードは不可解だろうからな。


「まず、この新ダンジョン【王が集いし迷宮】はどうでしたか?

 あなた方のご意見を元に最終調整をするつもりですが」


 思っていた通り、俺たちをテスト代わりに使っていたんだな。


「王が集いし?」


「ええ。

 このダンジョンの中ボスにはレクスという名前が付いています。

 お気付きでしょう?」


 トロールレクス、スライムレクス、ウォームレクスだからな。


「ああ」


「レクスというのは王という意味なんですよ。

 各種族の王がボスとして君臨しているダンジョンです」


「なるほど。

 で、俺たちの意見を元に調整ってのは本当なのか?」


「それはもちろん。

 内容にもよりますけど、実際にプレイして頂いた方の意見はとても貴重ですからね」


「じゃあ、言わせてもらおう。

 このダンジョンはちょっとめちゃくちゃだ。

 色々作り直したほうがいい」


「何だとっ?」


 もう一人の方が苛立たしげな声で反応した。

 短気すぎるだろ。


「まあまあ」


 丁寧な方になだめられている。


「良かったら理由をお聞きしてもよろしいですか?」


「色々手抜きが目立つんだよ。

 ボスがいない階層は階層ごとの差がほとんどない。

 アイテムや隠し部屋は奇跡でもない限り見つけられない。

 ボスは能力だけがめちゃくちゃ強力で理不尽。

 ちゃんとバランスを考えて作りこんだとは言いがたいんだよ」


 自分で言って気づいたが、ほとんどエスクロと同じ意見だ。

 もしかしたらさっき感じていた不快感は同族嫌悪なのか。


「ははっ。

 手厳しいですね」


「率直な感想だよ」


「まあ、バランスに関する意見は参考にさせてもらいましょう。

 ところで、私たちが聞きたいことってのはちょうどあなたが今言ったようなことに関係しています。

 このダンジョンのアイテムはそう簡単に見つかるようなものじゃない。

 ボスだって、現状のあなた方の能力では倒すことは容易じゃないはずだ。

 それこそ理不尽と感じるほどに。

 それなのに、あなた方はアイテムをあっさりと見つけて、ボスも難なく倒してきましたよね。

 どうやったんですか?」


 ちっ、そう来たか。

 いらんこと言わなけりゃ良かったか。


「アイテムは熊が作った装置で見つけたよ。

 アイテムサーチャーってやつだ。

 元々ゴミ屋敷でアイテム探しをするために作ったんだが、それが役に立った」


 エイシのことは伏せる。

 隠し事をしている雰囲気は微塵も出さない。


「そんなものがあるんですか?」


「ああ。

 熊」


「おう。

 これだ」


 熊がアイテムサーチャーを取り出して見せる。

 見た目は変な眼鏡だ。


「へえ。

 さすがはアイテムクリエイトの達人と言われるだけのことはあるな」


「渡さねえぞ。

 取り上げられたら困るからな」


「構いませんよ。

 そうやって独自に発展していくのも、この世界の魅力ですしね。

 その程度なら許容範囲でしょう」


 許容範囲?

 言い方が気になるが、まあいい。


「で、アイテムはそれで見つけたとして、ボスはどうやって倒したんですか?

 そう簡単に倒せるはずはないのですが。

 トロールレクスはともかく、スライムレクスとウォームレクスは特にね」


「そりゃ簡単じゃなかったよ。

 苦労したさ。

 どうにか倒して進んできたんだよ」


「へえ、その苦労話を聞かせてほしいんですよ。

 どうにかってどうしたんですか?」


 聞き流してはくれないか。


「熊が作った兵器を使ったんだよ」


「なるほど。

 スライムレクスはそうなのかもしれませんが、ウォームレクスもそうなんですか?

 あれを倒すのはなかなか難しいはずなんですが」


「いや、難しいどころじゃないだろ。

 俺たちはなんとかなったが、あれは普通のプレイヤーには倒せないぜ」


「そうですよ。

 アップデート前の能力だけでは倒せないようになっているはずです」


「倒せないように?

 なんだそりゃ。

 バランス悪いどころの話じゃないだろ。

 なんでそんなボスを作ったんだよ。

 そんな敵が出てくるんじゃダンジョンとして破綻してるだろうが」


「そんなことはありませんよ。

 私はアップデート前の能力だけでは、と言ったんですよ。

 これから実装される能力を使えば倒せます」


「それはどんな能力だ?」


「魔法です」


「魔法は前からあっただろ?」


「アップデート後に、より強力な魔法を追加しました。

 といっても、まだいくつかしか使えるようになっていません。

 全てが使えるようになるのはもう少し先です」


「そうなのか?」


 確かにスライムレクスの物理無効を見たときにその可能性は考えたな。


「まあ、ウォームレクスを倒せる魔法はまだ実装していない。

 徐々に増やしていくつもりだ」


 荒い方が言ってきた。


「いや、このダンジョンを実装してんならその魔法も実装しなきゃダメだろ」


「まあ、バランス調整にてこずってまして」


「いやいや、それじゃまずいだろ。

 クリア不可能なダンジョンになる。

 今はまだ公開前だからいいかもしれないが。

 一般公開には間に合うのか?」


「微妙なところですね。

 その調整が終わるまで一般公開を伸ばしてもいいですし」


 なんていい加減な。


「でも、ウォームレクスは攻撃無効なんだろ?

 魔法も無効じゃないのか?」


「いえ、新魔法だけは有効にしようかと。

 それをウォームレクスを倒せる唯一の手段にするんですよ」


「なんだそりゃ。

 どんな仕様だよ。

 特定の魔法だけ優遇ってことか?」


「私の好みなんですけどね。

 魔法が好きなんですよ。

 現状の魔法の不遇っぷりが不満でして。

 ちょっとくらい魔法だけが活躍する場面があってもいいんじゃないかと思ったんですが」


 コイツ、馬鹿じゃないのか。

 エスクロが合わないって言ってたのも納得できる。


「何言ってんだよ。

 それはおかしいだろ。

 そんなことしなくても、もっと魔法の使い道は見出せるはずだ。

 例えば土系の魔法を今より強化したらいいだろう。

 それでウォームレクスを埋めることができるようにすれば、無敵状態じゃなくなって攻撃が通るようになったりするだろ。

 そういう使い方なら、まだ戦略の範囲としてアリだし面白みもある」


「ああ、なるほど。

 それはいい案ですね。

 私の案は不評みたいですし、そうしましょう。

 その方が調整も楽でしょうし」


 おいおい、ちょっとプレイヤーに言われただけでコロコロ方針変えるとか、大丈夫なのかよ。


「まあ、その辺りはこれからの私たちの仕事だからいいんですけどね。

 問題はどうやって今の状態のあなた方がウォームレクスを倒したか、ですよ。

 この間のメールでははぐらかされましたが、ラプトルのイベントの時のポテンシャルナイフも不可解ですし。

 もう少し細かく教えて欲しいんですよね」


 それを聞くまでは放さないってか。

 仕方ない。

 とりあえず、目でマイコと熊に合図する。

 俺が言うことに口裏を合わせてもらうためだ。

 二人とも心得ている顔をしている。

 よし、適当にポテンシャルナイフの話題から遠ざけてごまかすとするか。


「別に不正はやってねえぞ」


「ええ。

 確かに不正らしき痕跡は認められませんでした。

 ですから、事情を聞きに来たんですよ」


「さっきも言ったが、熊が作った兵器を使った。

 それで地面に大穴を開けてウォームレクスを埋めたんだ。

 地中で無敵じゃなくなったところを倒した」


 ここまではほとんど事実だ。


「なるほどね。

 確かにそれなら攻撃は通ると思います。

 ですが、ウォームレクスは倒される直前に周囲の全てを吹き飛ばすような攻撃をしてくるはずです。

 あなた方のレベルではそれを防げずに全滅するはずなのですが」


 なに?

 そんな攻撃があったのか。

 エイシが一気に倒したから食らわずに済んだってことか。

 マジでエイシ様様だぜ。


「俺たちは最後は一気に倒したからな。

 それで食らわずに済んだんじゃないか」


「一気に?

 それこそ不可能なはずです。

 地中にいるウォームレクスにそれほどのダメージを与える方法などありません」


「そう言われてもな。

 バグじゃないのか?

 ある程度弱らせたらアメノムラクモの攻撃で大ダメージが入ったぜ。

 地面から少しだけ体を出しているところを攻撃したんだが、いきなり切り裂くことができたから俺も驚いたんだ。

 改心の一撃か何かかと思ったが、確かにあの状況は不自然だったな」


 バグというのは、当然俺の嘘だ。

 だが、この嘘は非常に否定しにくい嘘なんだ。

 バグってのはプログラムが大規模になればなるほど、どこかに潜んでるもんだ。

 分野は違うが俺も多少ソフトウェアの心得があるから分かる。

 開発者の心理として、絶対バグがないと言い切るのはとても難しい。

 その心理を利用させてもらう。

 もしウォームレクスとの戦いのログを調べられたとしても、アメノムラクモから放たれた一撃で倒したのは事実だからな。

 余計に嘘とは断定しにくいだろう。

 嘘をつくときはできるだけ真実を織り交ぜた方がばれにくいもんだからな。


「バグ、ですか?」


「おいおいおいおい。

 まだそんなこと言ってんのかよ。

 さすがにもうバグなんてねえだろ?」


 荒い方がつっこんでいる。

 その言動がコイツがプログラム作成に携わっていないことを如実に物語っている。


「ない、と言いたいところですが、なかなかそうとも言い切れません」


 やっぱりな。

 思ったとおりだ。


「……いいでしょう。

 今回はそういうことにしておきましょう。

 私ももう少し確認してみます」


「で、ダンジョン探索がこれで終わりってのは?

 ウォームレクスは倒したが、それでダンジョンが終わりってわけじゃないだろ。

 別に探索を続けても問題はないはずだ」


「見ての通りですよ。

 まだこれ以降の階層は完成してないんです。

 15階層を突破された以上、そこで探索は終了です」


「なんだと。

 そんな状態でダンジョンを実装したのかよ」


「ええ。

 今も製作は鋭意進めていますよ。

 あなた方にテストしてもらっている間に完成させる予定だったのですけどね。

 まさかスライムレクスだけでなくウォームレクスまであっさり倒されるとは思ってなかったんですよ。

 さっきも言いましたけど、現状ウォームレクスを倒すことは不可能なはずでしたからね。

 それがこんな事態になったので、あなた方の前に現われたわけです。

 直接会いに来たのは、こちらの不備ですから誠意を示したつもりです」


「誠意ねえ。

 最初にもお詫びとか言ってたが、謝られている気にはなってないけどな」


「そうですね。

 じゃあ、こうしましょう。

 あなた方は今後、このダンジョンのこの階層まですぐに来られるような処置を取りましょう。

 入り口で選択すればこの階層まで飛べるようにしておきます。

 それをイベントの報酬の代わりとさせて頂きます」


「ふむ」


 それは悪くない。

 エイシが自由にあの技を使えない現状を考えると、またウォームレクスを倒せるかどうかは微妙なところだ。

 管理者も俺たちがバグでウォームレクスを倒した以上、またこの階層に来るのが困難だと考えての処置のつもりだろう。

 多少認識に間違いはあるがその意図は概ね正しいし、落とし所としては上々かもしれないな。


「じゃあ、それでいいか。

 ちなみにこのダンジョンのバランス調整はちゃんと進めてくれるんだろうな」


「ええ、それはもちろん。

 あなた方の攻略データを元にね」


「分かった。

 じゃあ、ここの一般公開を心待ちにしてるぜ」


 この管理者じゃ期待薄かもしれないがな。

 頭が悪いとまでは言わないが、ちょっと製作者としては思慮が足りないと思う。


「では。

 私たちはこれで失礼します。

 このダンジョンは30分後に全階層を立ち入り禁止指定しますので、それまでには外に出てください。

 出ていなければ強制的に排除されますので」


「ああ。

 すぐに出て行くよ」


 そこで管理者たちの姿が消えた。

 プレイヤーにはあんな真似はできない。

 管理者ってのは間違いないらしい。

 今さら疑ってもないけどな。


 俺たちはエイシの待つ15階層に戻ることにした。







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