助言
半分になったウォームレクスが目の前に崩れ落ちる。
それと同時に、ゆっくりに見えていた周りの景色が元に戻っていった。
「な、な、なんや今のは?
エイシ君がやったんやんな?」
マイコさんがやってきた。
僕を助けようとして来てくれたんだと思う。
「そう、みたい。
剣からなんか出たよ」
「スライムレクス倒した時と同じやつやんな?
使えるようになったん?」
僕は剣を振ってみる。
……。
何も出ない。
「もう使えないみたい。
さっきは自然とできる気がしたんだけど、今は使い方なんて全く分からないよ」
「なんか発動条件とかがあるんかな……。
それにしても、めちゃくちゃな威力やったな。
どっか体が痛かったりだるかったりせえへんか?」
「大丈夫だと思う。
特に違和感とかもないよ」
「ノーリスクであの威力なんか。
とんでもない技やな……」
マイコさんは驚いているみたいだ。
確かに、自分でやったこととはいえ驚きの威力だった。
「おい、大丈夫だったか?」
ワビスケだ。
ウォームレクスにかなり吹き飛ばされていたから、戻ってくるのに時間がかかったみたいだ。
「こっちは大丈夫だよ。
ワビスケたちこそ大丈夫なの?」
「ああ。
かなりぶっ飛ばされたけど、ダメージは大したことねえ。
それより、さっきの攻撃はエイシだろ?
また、すげえことしたな。
なんだよこれ……」
真っ二つのウォームレクスに気づいて唖然としている。
「僕がやったんじゃ……やったけど、ほとんど無意識だったからあんまり実感はないよ」
なんだか反射的に自分じゃないって言いかけてしまった。
いつもの癖だ。
でも、今回は間違いなく僕がやった。
「スライムレクスの時と同じ技だろ?」
「多分そうだけど、よく分からないよ」
「もう今は使えへんようになったらしいで。
体に異常はないみたいやから、なんかを代償にするタイプの技ではないみたいや。
そやけど、それでこの威力ってのはな。
なんか心当たりある?」
「いや、俺は聞いたこともないな。
まあ、今回のアップデートで実装された技かもしれないが、そうだとしたらプレイヤー以外で使えるようになることがあるのかな。
確かに一部のサポートキャラがプレイヤーの技を使うことはあるが、エイシはそんなんじゃないと思うんだよな」
「これが常に使えるようになったらめっちゃ心強いけど、どうなんやろ。
ウチはなんかしらの発動条件があるんちゃうかと思うんやけど」
「確かにな。
発動条件か。
それはあるかもしれないな。
それが分かれば使いたい時に使えるようになるかもな」
発動条件か。
「僕自身は全然思い当ることはないんだけどね。
さっきはなんだか普通に使える気がして使ったけど」
「今のところ使えたのはスライムレクスとウォームレクスの2体に対してだけだろ?
ボス限定で使えるとか。
それか身の危険を感じた時だけ使えるとか。
色々考えられるな。
ま、とりあえずその辺の条件は追々調べていくことにするか。
とにかく、強敵を倒したんだ。
喜ぼうぜ。
あ、喜ぶと言えば、気づいてたか?
ウォームレクスを倒した時、レベルが一気に3上がったんだぜ」
「え?
あ、ホンマや。
すごいな。
ウォームレクスってめっちゃ経験値もらえるんやな」
「普通にやって倒せる相手じゃないだろうからな」
「他のボスの時は上がらなかったの?」
「いや、一応ここに来るまでにちょっとは上がってたんだけどな。
特にボスを倒した時に上がるって感じではなかったな。
ちなみに今俺たちのレベルは108だ。
このダンジョンに入ってから5上がったことになる」
「それって早いの?」
「そうだな。
他のヤツらの状況が分からないから比べようはないが、俺の感覚的にはかなり早いな。
新ダンジョンの15階層まで進んで5しか上がらないって考えると微妙だが、ここは1階層あたりの密度が低いからな」
「けど、今の時点でウチらよりもレベルが高いプレイヤーなんてほとんどおらんのちゃう」
「まあな。
レベルアップアイテム使った上に独占的に新ダンジョンだからな。
不正をしたわけじゃないが、ちょっと卑怯なところはあるかもしれないな。
ま、それなりに苦労はしたんだから問題ないだろ。
せっかくだから上がったレベルを試しに、さっさと16階層に進むか。
このまま帰るってのも、もったいないだろ」
「そやな。
そうしよ。
次はどんな階層やろな。
もう砂漠はうんざりやで」
僕たちは先へと進むことにした。
「悪いけど、ちょっと待ってくれないかな」
後ろから声を掛けられた。
不意のことだったから、すごく驚いた。
すぐに振り返る。
そこには、穏やかな笑顔を浮かべたエスクロさんが立っていた。
「え?
エスクロさん?
どうしてここに?」
「やあ、エイシ。
久しぶり、でもないか。
驚かせて悪かったね」
エスクロさんが僕の方を見て笑顔で話しかけてくれた。
「コイツがエスクロ?」
横にいるワビスケが不審そうな表情で聞いてきた。
「うん。
この人が前に話したエスクロさん。
ポテンシャルナイフのこととか教えてくれた人だよ。
いつも助けてくれるんだ」
みんなにエスクロさんを紹介した。
でも、三人とも少し厳しい表情をしている。
「お前、どうしてこんな所にいるんだ?」
エスクロさんに話しかけるワビスケの態度が刺々しい。
「ここはまだ一般開放はされていないはずだ。
ラプトルのイベントでの報酬をもらったやつしか入れない。
お前もそれに該当するってのか?」
「いいや。
僕はそのイベントには参加していないよ」
「だったら、」
「僕がプレイヤーじゃないからだよ。
言ってみればエイシと似たようなものさ。
ここの立ち入り禁止はプレイヤーにしか適用されない」
エスクロさんがワビスケの言葉を遮って説明する。
「エイシと同じだと?
そんなはずはない。
俺はお前みたいなキャラは知らない。
下手な嘘言ってんじゃねえよ」
ワビスケは一層不審そうにエスクロさんを見ている。
「そうだね。
確かにワビスケ、君が知らないNPCなんてどうでもいいモブくらいだろうね。
そんなの間違いなくこんなところに来るようなキャラじゃない。
まあ、僕も自分がそんな意思もはっきりしないようなモブだなんて言わないよ。
ちゃんと意思は存在してるし、目的を持って行動している。
プレイヤー扱いじゃないってだけさ」
「だったら、もしかして管理者、か?」
「うーん。
どうだろうね。
厳密に言えば、それもちょっと違う。
まあ、似たようなものと思ってもらってもいいけどね」
「なんでいきなりそんなヤツが現れたんだ?
なんか用なのか?」
「いや、そんなに身構えなくていいよ。
どちらかと言えば、僕は君たちに対しては味方側のつもりさ。
僕がエイシの手助けをしていることからもそれは分かると思うんだけど。
特に、僕がエイシを手伝うのはワビスケと似たような理由だと思うけどね」
「俺はただ面白いから一緒にいるだけだぜ」
「僕もそんなような感じさ。
さて、あんまり時間を無駄にしてもつまらないから本題に入るよ。
今回君たちの前に出てきたのは、ちょっと頼みというか忠告というか。
とにかく、言いたいことがあったんだよ」
「なんだよ?」
ワビスケはまだ不審そうにしてるけど、話を聞くつもりはあるみたいだ。
「君たちはこれからこの下の階層に進むつもりだよね?」
「ああ」
「そこにエイシを連れて行かないでほしい」
「なぜだ?
エイシは俺たちにとって大切な仲間だ。
重要な戦力でもあるしな。
理由もなく置いていったりできない」
すごく嬉しい。
「それは分かってるよ。
でもこの先には、まさに君がさっき言った管理者が待っている。
ソイツらにエイシを会わせたくないんだよ。
理由は言わずとも分かるはずだ」
僕には全然分からない。
でも、ワビスケには分かったみたいだ。
「もし本当にこの先に管理者がいるなら、確かにエイシを連れて行くわけにはいかない。
でも、なぜお前がそれを知っていて、しかも俺たちにそんなことを言ってくるんだ?」
「まあ、僕が知っているのは単に管理者のことを常に監視しているからなんだけど。
君たちに言うのは、こんな所で管理者にくだらないことをされるわけにはいかないからさ」
エスクロさんは管理者のことを話すときには笑顔が少し歪んでいた。
嫌いなのかもしれない。
「色々怪しいお前にいきなりそんなことを言われて、すんなり信用するとでも思ってるのか?」
「ワビスケ、エスクロさんは信用できるよ」
「いいんだ、エイシ。
ワビスケの警戒はもっともだよ。
でも、僕を信用できなくても、リスクを考えたら連れて行けないはずだ。
もし僕の言うことが嘘で、エイシ一人にしてエイシの身に何か起きそうになったとしても、移動石を使えばすぐにワビスケたちと合流できるんだから、置いていくことはそんなに問題じゃないはずだ」
「どうして移動石のことを知っている?
管理者は俺たちの所持アイテムも全てお見通しってか?」
「まあ、プレイヤーの所持アイテムを調べる方法はあるよ。
僕はそんなつまらないことはしないけどね。
というか、エイシはプレイヤーじゃないから、そんな風に調べられはしないよ。
移動石を持っているのを知ったのは、手に入れる所を見てたからだね」
「ずっと俺たちのことを監視してたのか?」
「さすがに僕もそんなに暇じゃないよ。
このダンジョンで君たちが管理者と接触しないかを気にしていたから頻繁に見ていたのさ。
それでたまたま移動石を拾ったのも知ったんだよ。
……そんなに睨まないでくれよ。
そうやって見てたからこそ、今こうして君たちの前に現れることができたんだから」
「どうやって監視していた?」
「それはアイテムだよ。
新しく実装された、ね。
特定のキャラクターの行動を確認することができるんだ」
「管理者権限で監視したんじゃなくてか?」
「そんな悪趣味な権限なんてないよ。
あくまでこの世界はこの世界のルールで動いている。
そこは管理者でも逸脱できるものじゃない。
いや、逸脱するようなこともできないわけじゃないけど。
でも、僕はちゃんと存在するアイテムを使ったよ。
そうじゃないと面白くないからね」
ワビスケは何か考えている。
信じられるか迷っているのかもしれない。
「あんたが言ってることは分かったわ。
それに、本当にエイシ君に味方してるのもエイシ君の態度で分かる。
けど、分からへんのはあんたが管理者に対して敵対するようなスタンスでいる理由や。
身内なんやろ?」
「いや、ちょっとした知り合いではあるけど身内ではないよ」
「けど、知り合いのこと邪険にするのはなんでなん?
それが分からんかったら信用できひんし、言うことも聞きたないわ」
「それは、……そうだね。
君たちにだったら少しくらい話してもいいか。
本当に大した理由じゃないんだけど。
単に今の管理者が面白くないからさ。
そう、ヤツらは下らないんだ。
ああ、この世界のことを含めて言ってるんじゃないよ。
この世界は素晴らしい。
管理者のことだけを言ってるんだよ。
別に嫌いってほどじゃないけど、とにかく趣味が合わないんだ。
だから、アイツらの好きにさせたくないんだよ。
ただ、それだけのことさ」
「要は個人的な好みの話なん?」
「そうだね。
そう言われると、なんだか自分でも馬鹿らしいけど、そういうことになるのかもしれないね」
「うーん」
エスクロさんの物言いにマイコさんも迷い始めた。
ワビスケもまだ考え込んでいる。
「ちょっと考えてみてほしいんだけど。
このダンジョンを君たちは面白いと思ったのかい?
5階層ごとの大まかな構成。
何のヒントもない隠し部屋やアイテム配置。
単調で色だけを変えたような雑魚敵。
理不尽な能力を持ったボス。
君たちはエイシのおかげでそこそこ楽しめただろう。
でも、普通ならこんなの楽しめるはずがないんだ。
駄作もいいところだよ。
すぐに飽きられるか、諦められても仕方がないくらいだと思う。
このダンジョンは今の管理者と製作者が作ったものだけど、僕はこんなものは気に食わないんだ。
せっかくの新実装なのにね。
だから、もっと面白くしたいんだ。
とは言っても、僕にできることなんてたかが知れている。
色々手は尽くしているけどね。
エイシの存在もそうだ。
エイシはこの状況を変えるための布石になると思っている。
だから、こんなところで邪魔されたくないんだよ。
分かるだろ?」
「た、確かに……」
「ダンジョンに関しては反論の余地がない……」
ワビスケとマイコさんが唸っている。
そして、ワビスケがふっと息を吐いて力を抜いた。
「分かったよ。
お前の言うことは一理ある。
いや、一理どころかかなり納得できる。
仕方ない。
エイシはここで待っててくれ。
とりあえず、俺たちだけでちょっと16階層を見てくるよ。
様子を見たら戻ってくる。
お前もそれでいいだろ?」
僕はあんまり良くないけど、エスクロさんもワビスケもその方がいいって判断したんだったらその方がいいんだろう。
「ありがとう。
ああ、くれぐれも管理者に僕のことは……」
「言わねえよ。
今の話の流れで、敵対するヤツが上の階にいますよ、なんて管理者に言うわけないだろ。
大丈夫だよ。
エイシのことも含めて適当にごまかしとくよ」
「助かるよ。
君たちがエイシの仲間になってくれて良かったよ」
「へいへい、お褒めに預かり光栄だよ。
じゃあエイシ。
また後でな」
「うん。
気をつけてね」
僕はワビスケたちを見送った。




